13.情報収集
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復興作業が続く中、魔王様より与えられた仕事は魔物の狩猟と、森の偵察任務だった。
自給自足すらできない状況らしく、全てのコボルトに餓死者が出ているという。
その根本原因をククル村のおばあさんは、「魔物が狩場を荒らしておるのだ、そうに決まっておる」と、ため息交じりに呟いていた。
だけど情報の出所を聴くと口を噤んだので、確証はないらしい。
魔王城からの支援も今はそれほど長くは続かないし、早いところ解決して、食糧難を解決したいところだ。
「予はこの場の指揮のため残るが……狩場の清掃、任せられそうか? 」
「お任せください」
魔王様はククル村以外に存在するコボルトの村で、どれだけの餓死者が出ているのか調べるとおっしゃった。
その時の魔王様はイキイキとしており、精力的に働いているように見えた。
「兵をいくらか連れて行くことを許可する。どれほどあれば魔物の群れを片付けることが可能か」
そう魔王様に聞かれたが、どう返事をするべきか悩んだ。
コボルト達の先入観が入った情報を当てにするのは、正直後々大きな間違いを生みそうな予感がする。
初任務とあって僕も不安症になっているのかも知れないけれど、自分でいくつか情報を集めた後に、改めて報告の機会を頂きたいと魔王様に伝えることにした。
すると「長くは待てぬ。だが、卿のことだ。心配あるまい」と、謎の信頼をされたので、コレはもう張り切るしかなくなった。
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始めに情報を求めて、僕は救護テントを周った。
すると父上と知り合いという老いたコボルトの一人が、詳しく周辺の地理や現状についての話を聞かせてくれることになった。
身なりにあまり気を配らない男のようで、煤で青い毛並みの所々が黒い。
煙突の中から出てきたようだ。
「…最後に、最近のことで何か変わったことはありましたか」
「人間が憎い…いつも通りカ……」
コボルトは横になったまま、痰の絡んだ低い声で小さく笑った。
「人間が来てから森のバランスは変っちまっタ…。大型の魔物が次々と狩られてヨォ、そのせいでネオプロンが大量にやってきたんダ」
コボルトは体を起こして、咳き込んだ。
ネオプロンというのは、森の清掃屋の名で親しまれている小型の魔物のことだ。
頭頂部がハゲピンクな事と、まだら模様の翼が特徴的なその怪鳥は、集団で死体の多い地域に移動する習性がある。
話を聞くに、どうやら冒険者が森で狩を続けた結果、森に死体が増え、ネオプロンを呼び寄せる結果に繋がったらしい。
「アイツらはコロニーの近くによる奴ヲ、執念深く襲ってクル。 おかげで俺達は森で狩りが出来なくナッタ。もっと力があれば、冒険者みたいに、襲われても返り討ちに出来るのにナ…」
老いたコボルトは自嘲気味に笑う。
村にはもはや老人や女子供しかいないようで、冒険者との力の差にもはや笑みも乾ききっていた。
しかし、なんだろう……暗いな。
疲れているのかも知れないが、それとは別に心の在り方が凄く後ろ向きのように見える。
柄でもないけど慰めてみる…か?
「話は代わりますが、かつてこのコボルトの村々は、それぞれ特産品を持っていたそうですね。鎧鍛冶に刀鍛冶、はては鏃を専門にする鍛冶師もいたとか」
「…アァ、それがなんダ」
「そしてそのどれもが質のよい装備だったとか。初代魔王はそれを讃えて、軍需工場の基盤と魔王城に最も近い土地に住む権利を与えられましたよね。それでいつしか僕達は、北で軍需製品の基盤を担う貴方達を、尊敬と親愛を込めてコボルト族と呼ぶようになった」
慰めることなんて普段しないから、なんだか難しいな。
「なにが……イイタイ? 」
なるべく端的に…伝えたいことを正直に伝えるんだ…!
「―――貴方達の誇りは、剣を持つことではないはずです。我々が来たのなら猶更」
そう言った後、読めていなかったワケではないけれど、男の全身の体毛が逆立ち、頭には血が上っているのが見て取れた。
「オマエに何がワカル? 」
傷ついたコボルトの腕が、僕の胸倉を掴んだ。
しかしまだ理性的なのか、殴ったりはしてこない。
やはり、お互い前線で戦うタイプではないということがよく分かる。
「貴方達には貴方達の力の使い道があると言っているんです。武器は鍛冶屋、おにぎりはおにぎり屋と言いますよね。…だからコボルトの敵を排除するなんて面倒な仕事は、他の誰かに譲って、貴方達は自分達の得意分野で戦えばいいじゃないですか。自らの在り方を損なう必要が、一体どこにあるというんですか」
先ほどの言いようでは、自分達のことは自分達で何とかしようという風に聞こえた。
今までそうだったのかも知れないが、今はもう違う。
我々がこの村にきて、魔王城とコボルト村はデポットリングで繋がった。
これからは、僕達も力になれる。
そう言うことを言いたかったのだけれど、言い方があまりよくなくて、結局怒らせるだけになってしまった…。
「若造ガ……クソッ」
スタスタとどこかに歩いて行く老いコボルト。もっと色々聞きたいことはあるけれど、関係が悪化してしまった今、新たな情報を取得することは流石に難しいだろうか。
「どこに―――」
「溶鉱炉の掃除ダ。息子が死んでからろくに使ってなかったからナ…」
後ろから去っていくコボルトの顔は見えなかったけれど、ちょっと元気になったようだった。
仕事の前に情報提供して欲しいんだけど、やる気を出した相手の出鼻を挫くような真似はし辛いな…。
「おい、おにぎり元帥の息子ヨ」
鍛冶師のコボルトは振り返らず、僕を呼んだ。
「我々は救われるのカ」
「全力は尽くすつもりです」
ここで下手に「絶対に大丈夫です! 」と言うのは、返ってこのコボルトの心配を煽りそうだったので、手堅い回答をすることにした。
もし相手が魔王様だったら、
「いえ、このままだと滅びます」と、ありのまま丁寧に話すだけでいいから楽なんだけど。
しかしそんなことを言ったら今度は本当に乱闘になるかも知れないから、ココはコレで良いはず。
コボルトの老人は、渋い顔をして戻って行った。
僕はその老人がダンジョンの下層階段に消えるまで、その背を目で追っていたけれど、いなくなると同時に肩をすくめた。
柄にもないことをして恥ずかしかったのが、ようやく解放された気分だ。
「あー恥ずかしい」
父上なら『救ってみせる』ぐらい、カッコいいことを真顔で言えたのかも知れないな。
そんな無意味なことを考えるぐらいには、僕はまいっていた。
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