12.事情聴取
魔王様の後ろをおそるおそるついて行くと、天幕の中にはククル村の長老であるおばあさんや、カルブ村の村長である老兵士の姿があった。
それに数体、包帯などで傷の治療を終えたコボルト兵も。
地図の置かれた円卓に、みんなが集合している。
魔王様は、冒険者によって被害を受けたカルブ村の事情聴取を行っていたらしい。
しかしそれでなぜ魔王様はこんなにもご機嫌なのだろう。
「おにぎり小僧、中々の活躍をしたようだな」
相変わらず無表情だが声に温かみがある。皮肉ではなく、褒められているようだ。
そしてその内容をこの状況から察するに、ダンジョン内で起きた冒険者との争いについておっしゃっているのだろうか?
「と、おっしゃいますと」
「まだ三日とたっておらぬぞ? 余の考えでは五日は必要と考えていたが…随分急いで動いてくれたようだな」
どうやら歩く速さを褒められたようだ。この程度のことで褒められるということはむしろ期待されていなかったことへの裏返しだろう。
今後はこのようなことで褒められないようにしなければ…。
「ですが……多くのコボルトを死なせてしまいました」
駆け付けたのが父上ならばもっとうまくやってのけたのかも知れない。現状それはあり得ないことだし、そう考えるだけ不毛なのはわかっているけれども。
そんなことが、小骨のように喉に突っかかってしまう。
「おにぎり小僧、卿は優しいな。本来であれば卿もコボルトも前線で戦う能力ではないのだ。だが、自らの土地を守るため死力を尽くし、こうして守り切ってみせた。今一度、卿らを誇りに思うぞ」
魔王様は、海苔の部分を撫でられながらそう仰られた。
それを聞いた僕はもちろん、コボルト達全員が涙を溜めて敬礼する。
この御方は、僕のような魔族の苦しみも理解し、寄り添ってくださる。
そして誇りだとも。
……名君の元にお仕えできること以上の幸福が他にあるだろうか。出来ることなら一生お仕えしたい。
その気持ちを大きくさせる、魔王様からのお言葉だ。
「はい。魔王様」
今回の件で触れれば勝ち、ということに拘って戦った結果、触れるまでが難しいことに気づかされた。
たまたま前衛の剣士が前に出てきたために好機が生まれたが、もし剣士がもっと慎重に立ち回っていたら…。
戦いに『たられば』を持ち込むつもりはないけれど、十分にありえる未来だった。
「そうだ、卿からも冒険者達の印象を聞いておくべきだな。侵入してきた冒険者についてどう感じた? 」
そう聞かれ、自分は相対した剣士や弓使い、そしてあの魔法使いの顔を思いだす。
全員手練れだったことは言うまでもないが、一番記憶に焼き付いて離れないのは氷の魔法使いだった。
彼女について仔細に報告すると、魔王様は静かにメモを取りながら、真剣な表情でこちらの話に耳を傾けていた。
「…氷の魔法を使い、回復の魔法を掛けつつ身体の蘇生まで行うか…レアモノだな」
人間の冒険者についてまだ浅学の身ということもあってか、未だにあの魔法使いがどのくらいの強さなのかは分からない。
ただ一つ言えることは、小手先の技術でどうにか出来る相手ではないということ。
攻防の面で見ても明らかで、正面戦闘を仕掛ける相手ではないだろう。
姿を、地形を、仲間を、その場の状況全てを一瞬の内にして変え、そしてありとあらゆる事象が彼女の想定を越えなければ、きっと倒すどころか触れることすら叶わない。
そんな化物に彼女は見えた。
到底敵う相手とは思えないが、次に会うようなことがあれば、倒せるよう何かしらの策は考えておくべきだろう。
塩と氷で、相性最悪もいいところだが、それを逆手に取ることだって出来るはずだ。
きっと勝機はそこにある。
「次こそは、必ず」
後ろで組んだ腕が自然と握り拳になる。
「父親に似て戦闘好きだのぉ。おにぎり小僧」
それを言ったのはククル村のおばあさんだった。どうやら父上との面識もあるようだが、似ていると言われるのはあまり喜べる話じゃない。
「…そうでしょうか」
「時には逃げねばならぬことがある」
おばあちゃんコボルトは少し強く、警告するかのように言ってきた。
その歳になると色々経験してきたのだろう。
「肝に銘じておきます」
そう言って可愛く笑って見せた。
亀の甲より年の功ともいうし。邪見にするのは忍びない。
それに父上は逃げなかったから死んだと、誰かが言っていた。
大勢の魔族が父上の死を嘆き、悔やんだと。
だから僕は、逃げて逃げて、「二世魔族なんて結局こんなもん」だと鼻で笑われるぐらいでありたいものだ。
♢♢♢
「次におにぎり小僧にやって貰いたい仕事についてだが―――」
その後、現状確認や今後の計画についての話が行われ、その夜はふけていった。
それとクロックドムッシュからは何度か、魔王様に帰還を促すよう連絡してきたが、『直接お伝えしてください』と言って、魔王様にコチラから何かお伝えするということはしなかった。




