11.??様が来た
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闇より出でるモノ、魔王ルチフェル・シジスモン、その御身が顕現なされた。
そこにいる全ての者が平服して魔王様の到着に敬意を示す。
全にして個と言われるそのお姿は、例え光無き暗黒の中でさえも美しくあられる。
「暗いな」
魔王様はそうおっしゃると、掌に光源を作り上げ、それでダンジョンを照らされた。所作一つ一つが優雅で、凛々しくあらせられる。
「ウギャ」
一体のコボルト兵が小さく鳴き声を上げ、眩しそうに目を伏せた。
他のコボルト兵も心なしか目を細めている。
文句を言うようならばおにぎりにして食ってしまうぞ……とは思う反面、僕も眩しかった。
「魔王様、少し眩し過ぎるかと」
「そうか。すまない」
そう言って、魔王様はダンジョンを照らす光量を減らして下さった。
下っ端の諫言に耳を傾けて下さる魔王様大好きです……一生お仕えしたい。
そしてその気持ちはコボルト達も同じようで、深く地面にめり込むほど頭を下げていた。
「ふむ。問題なくポータルは稼働しているようだな」
魔王様はそう言うと背後を振り返りポータルに腕を突っ込む。
するとそれが合図だったのか、ポータルの中から続々と支援物資を持った兵たちがやってきた。
普段は魔王様の身辺警護などをしている近衛部隊や、補給部隊の皆さんだ。
どうやらゲート前でスタンバイしていたようだ(お待たせして申しわけない)。
「医療班は怪我をしたコボルトの治療を急げ。補給部隊は近衛と共に、調査と物資の配給に迎え」
魔王様が陣頭指揮を取られた結果、迅速にことは進み、怪我の治療が行われていった。
そしてそれもある程度落ち着きを見せると、
ククル村の最も豪華な扉の穴(おそらくは村長の家)を、魔王様は作戦本部に指定され、そこで話し合いが行われる運びとなった。
コボルト達が形成する住居としては、ダンジョンの入り口から最奥までを貫く階段と、そこに堀った横穴に扉をつけただけという簡素な構造となっている。
ダンジョンという大きな家に、扉とネームプレートで部屋の所有権を主張するような感覚らしく、自分達で『家』というものを一から作ることはしないらしい(イメージは兄妹の部屋それぞれにネームプレートがあるような感覚だろうか)。
壁や天井から冷気が伝わってきて寒くないのかとも思ったが、コボルトの体毛は本来フサフサのため寒くないとのこと。
もしかすると、ダンジョン型の住まいというのも、こういった寒冷地ならではの生存戦略なのかもしれない。
『トゥートゥートゥートゥトゥン♪』
デボットリングから通信が入った。
誰からの通信かと思い、扉を出て中央階段前に出る。
人通りも少ないし、短い時間に話をするぐらいなら問題ないだろう。
「こちらおにぎり小僧 」
「クロックドムッシュだ」
…おじさんか。
暇になってまたかけてきたのだろうか。
「おにぎり小僧、すぐに魔王様にはお帰りになるよう進言してくれ。まだやって頂かなければならない政務が沢山あるんでな」
おじさんはカリカリとペンを走らせる音をわざとらしく鳴らしつつ、そんな無茶なお願いをしてくる。
「言えるわけないでしょう。初任務中の少年にどんな期待をされているんですか」
この狼男が自分をどのように評価しているのか定かではないが、コチラの立場も理解して貰いたいものだ。
先ほど『眩しい』と言ったばかりなのに、今度は『帰って仕事をしなさい』と、言わねばならないなんて絶対に嫌だ。
「…たぶん大丈夫だ。お前さんならやれる。魔王様は可愛いものが好きだからな」
そう言っておじさんからの通信は切れた…ずいぶん勝手なことをおっしゃる。
僕だって魔王様に嫌われるぐらいなら、国家の機能停止ぐらいどうってことないぞ。
「おじさんめ……」
「ここにいたのか」
突然魔王様に声を掛けられ、心臓が爆発した。
「魔王様、なぜこのような場所に」
ひょっこりと顔を出した魔王様は僕の顔の海苔を指して、
「姿が見えないようだったのでな。磯の香りを辿って見つけたのだ」とおっしゃられた。
どうやら魔王様は嗅覚にも優れていらっしゃるようだ。
正直ビックリし過ぎて、中身が飛び出るかと思いましたよ。おにぎりだけにね。
「どのような…ご用件でしょうか」
「うむ。先ほどは忙しく中々時間を取らなかったからな。さぁ、こんな場所ではなく、拠点に戻ろう」
魔王様は何やら喜んでいらっしゃるが、なにがそれほどまでに喜ばしいのか皆目見当もつかない。




