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24. 真昼の決闘

24. High Noon


“…戻って来たのは、Lukaのためか。”


後ろを着いて歩くと、その巨体がより一層際立って映った。

歩幅が詰まらない。俺と同じ図体をしていなければ、そうはならなかった。


彼は、尾を揺らしながら、俺に問いかける。


“それとも、人間の住処で、例の用事を終えたからか。”


“用事…?”


“お前が、そう言っていた。”


“人間の街で、お前よりもずっと、助けてやりたい奴に会えた、と。“


”あれは、どういう意味だ。”


“…お前は、人間の味方をするのか。”


耳の表が、半分だけ見えるぐらいに振り返って、俺の答えを聞く前に、再び歩き出す。


“彼女の為に、お前はこの群れに留まっているのだと思っていたぞ。”


“人間の味方…それは、見当違いの物言いだ。”


“俺は、俺の代わりに人間を支配してくれる駒を、探していただけだよ。”




“そして、それが見つかったのか…?”


“ああ、用事は済んだ。一応、それらしいのに、出会えた。”


“本当に、そいつは、5人の人間の命を、奪ったのか…?”


“見ものだったぞ?如何にも手際が悪くて、はらはらさせられた。何処まで演技だか知らないが…”


二匹の言葉に容易く動揺させられた後では、俺の弾んだ口調も長くは続かなかった。


“…まあ、やり遂げてくれた。”


“やめろ、楽しそうに言うな。吐き気がする。”


俺の虚勢など、彼はちっとも楽しく思ってはくれないのだ。


“だが、本当に、やったんだ。嘘じゃない。”


“同じ、人間を…?”


“それも、何の罪も無い友人を、だ。”




“Fenrir。お前は、俺に、何を期待していたんだ?”


“自分から、野望を吐露しておいて、なんだ、それは?”



“俺が、人間を殺すことに取りつかれた、獣以下の存在に成り下がることを、期待していたのか。”


“…俺に、悪になれというのか?”



“そんな風に、対称性を求めようとするな。同類を殺せなんて、一言も言っていない。”


“それともお前は、殺したいと冀う人間の善悪が、分かるとでも言うのか?”




“お前の願いの、力になれるかなと思っていただけだ。”


“お前は、実行に移そうとすら、しなかっただろう。”


“Voja、お前のニンゲンへの、ちっぽけな復讐心より、あいつのそれが、勝ったというだけの話だ。”



“……。”


“そうだな。”


“お前のような一匹狼になることよりも、群れを導くことの方が、俺には大事なことのように思えたから。”



“……。”



もう、Vojaの冷淡な物言いを、笑って受け流すだけの余裕は、無いと思った。


彼が怒り狂うことをしないのなら、俺はお道化て、薄っぺらい上位者の言葉を嘯くことさえ、馬鹿らしく思えたのだ。


最悪の気分だった。

俺は、あいつの仔であったと、気付かされた。これ以上、胸糞の悪いことは無い。


周囲の目が、俺を奇異に思うことを楽しむことに飽き足らず、

煽情者として、相手の目に怒りが灯ることに躍起になるような、そんな奴だったなんて。


道化師(Trickstar)




こいつは、俺の正体を見破っている。

どれくらいの明度でかは、知る由も無かったが、そうとしか考えられなかった。


二匹は、白樺林を抜け、見晴らしの良い崖に出た。

俺が、Lukaと初めての狩りに参加した際に、鹿の群れを追い立てた魁の様子を観察していた場所だった。此処は、群れにとっても頻繁に訪れる物見山であるらしい。

それほどの高さは無い。此処から傾斜を降り、雪解けでだいぶ広がった河川を隠す窪地が、獲物を仕留めた狩場だった。


城壁から、群衆の行き交う街並みを見降ろす国王のように、Vojaは(こうべ)を垂れている。


“俺が、間違いだった。”


見降ろした景色には、誰もいないだろう。


“だが俺は、本気でお前の力に頼る選択を、しかけていたのだ。”


仮に、いたとしても。

誰も、上にいる俺たちに気付きやしない。


“…これ以上、ずるずると、お前を野放しにして、その決断を引き延ばすのは、群れにとって危険だと判断した。”


観客など、いらないのだ。


“ならばどうする?”


“此処で、俺を、殺すのか?”


“…あんた、やっぱり、狼じゃないな。”


“少なくとも、俺の知っている狼じゃない。”


“ああ…お前が元居た群れは、此処とはだいぶ違うようだと、そう言う意味だ。”


“別に、否定はもうしない。Lukaにも、ああ言われたしな。お前を異質だなどと言って、済まなかった。”



“出来ることなら、もっとお前のことを知りたかった。

お前がいた群れは、きっと人間に酷い扱いを受けて来たのだろうな。“


“しかし、同時に、人間の住処を行き来し、彼らと渡り合う方法を、良く知っている。”


“やめろ…”


“嘗て、彼らとの繋がりがあったから。違うか。”


“そして、今のお前を動かしているのは、彼らのうちの誰かに、裏切られたから。”


“やめろと言ったのが、聞こえなかったか?”


“Lukaが、お前のことを好いている理由が、何となく分かった気がする。”


“だが、それも、あいつにお前が、本当の目的を伝えていないからだ。”


“…どうか彼女にこれ以上、変な期待を持たせないでくれ。”


いいや、俺は、実は、本当のことを、少しの嘘を混ぜて、漏らしているよ。

そう言おうと思ったが、黙っていた。


こんな風に、俺の心を見透かす奴が、この世界にもいたのだ。

そう思っただけで、自分の心が、まだ降りてきていないのだという気がしてきて、俺は今までの威勢の良い言葉を選べない。




“俺の群れに入る以上は、勝手な真似は慎んでもらいたい、そう言っているだけだ。”


“…俺は、仲間を守るためなら、どんなことでもしてきた。”


“けれど、どれだけ群れを守ろうと必死になっても──お前のような奴が一声吠えるだけで、皆の目が…そっちに向く。


“これでは、俺は、お前の思う壺だ。”


“お前の思った通りに、人間へ、介入していく。”


“これ以上は、耐えられない。”


“どうか俺に、どうして欲しいか、決めてくれ。”




“Voja…”


“選択権は、お前にあるようだよ。”


“神様を頼ってでも、狼として、異質な存在を排除したいのか…”


“それとも、彼女と幸せな群れ仲間の生活を送るのか。”


“どちらなんだ?”


“…お前の選択は、どうなんだ?”



“低く、構えるんだ。”


Vojaは、朗々と吠えると、俺に向き直った。


“お前の喉を、すぐに狙うことが出来ないように。”



“俺一匹の問題だ。”


“全力で、相手をしてくれ。”


“俺がお前に出会えたことを、後悔しないために。”







“ここで、答えを出す。俺たちの昼は、長すぎた。”





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