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20.貪り喰うもの

20. The Gleipnir


「聞こえなかった…?」


聞こえないよ。

Teusの声は、こんなに冷たい、闇人形だっただろうか。


俺の耳は、おかしくなってしまったのか?

返事をしてくれ、確かにそう願った。


でもお前から、そんな言葉を贈られるなんて。


「俺はお前が嫌いだった。」


「……?」


冗談でも、そんな。




「俺は、分かっていたよ。」


「君が、狼にも、人間にもなれない理由を。」





「いやだ……」



「嫌だあああああああーーーーーーーーー……」





そんな言葉で、

俺を壊さないで。




「一緒に帰るんだ!俺達は!そうだろ?」



「最後まで嘘ついてまで一人になりたくなんか無いんだぁっ…」


「お前と進む先は、こうして見通せなかったけれど…」


「どこに辿り着いたって!…辿り着かなかったとしても…!」


「どんな時も、お前と一緒にさえいれば、だいたい幸せだった!」


「お前のことが、大好きだったからぁっ!!」




「……!?」


Teusが、何かを口に書こうとしているのが分かった。


「うぅっ……!?うぁあ゛あ゛っ!!」」


でも怖くなって、それ以上、Teusの本心を嗅ぎ取りたく無くて、俺は舌を奥へと引っ込めてしまう。





俺は脅しのつもりで、Teusの柔らかで、あの頃から変わらない肌に牙を触れさせてみたりなどする。


「ほ、ほんとに……やってしまうぞ…?」


「痛いんだぞ……?」


沢山、血が吹き出るだろう。

俺の牙は鋭いが、噛み砕くような断面だ、縫合は出来まい。


お前は、ちゃんと助けてくれる人がいるのか?

ひょっとしたら、失血で、死んでしまうかも知れない。


それなのに、Teusは腕にちっとも力を込めてくれない。




この数年の人生を振り返る時だ。

自分の中に閉じこるのを止めて、

今こそ抜け出さなくては、ならないのに。


枯れ果てた声じゃ届かないだろうか。

周囲の歓声にかき消された音を切り開いて

この場から立ち去る事は出来そうにない俺は、

伸ばされたお前の手に縋り


ただ救済を求めていたのに。




「だすけてぇっ…!」



「たすけてよぉっ……!」




「どうじでぇっ……てぃうぅぅぅっ……!!」




もうとっくに限界なんて超えて

お前の名を呼んで叫んでいた。




「ティゥウウウゥゥゥゥッ!!」




“グルルルルゥゥゥゥ……”


「……!?」


“ヴゥゥゥゥッ……ウゥゥゥゥゥッ……”


「ば、ばかな……!?」



泣きじゃくりながら、必死で叫んだ。

最後の力を振り絞って、優しいお前へ、最後の一歩を踏み出す。




「ギョルよっ!!」


俺が倒れている地盤が、沈下し始めているのを感じた。

グレイプニルから生えた鎖が、そいつが網状となって、根を張り始めている。


「スヴィティ…!!」


巨大な岩盤が、網を剥がせぬように、深く、深く打ち付ける。





時間がない。


なあ、Teus、

いったいどこが嘘泣きに見えるんだ?

こんなに苦しくて、痛いから、泣いているのに。



「うぁ゛っ…えぅっ…わあ゛あ゛あ゛あ゛ん…。」


こんなに、泣き叫んでいるのに。



どうして、助けてくれないんだ?

それはやはり、当然ではなかったのか?




「もう……」




そうか、笑っていないからだ。


お前は、俺の泣き顔が、大嫌いなのだ。


涙で、前が見えなくても、


顔中を、縄で縛り上げられても、


せめて、お前が見てくれるような


顔で




Teusが、右腕を、すこし深くまで入れたのが分かった。




彼の人差し指と中指が、

舌先に触れる。



「もう……」



そして、


ほら、にっこり笑って。



「終わらせて……?」



彼は、それを、押し込むように動かしたのだ。





ズドンッ……



ずちゃ、



「……?」





感覚が無かった。

眉間を凝視すると、

刀身に映る、自分は、自分の姿は、醜いとしか言いようがなかった。



ああ、こんな風に、笑うのだな、俺は。




お前が、直視したくない理由が、分かった気がする。




「ぎゃああああああああああああああああああっっっっーーーーーーーーーーー!!!!」




涎を垂れ流しながら、自分でもぞっとするような声で吠えた。






「……。」





そして、口を閉じたのだ。




俺は、この瞬間を、忘れない。




遠ざかる景色



倒れるお前の姿



吹き出る灰色の鮮血



それを介抱しようと駆け寄る皆



お前の血肉



お前が振り返った顔







決して、終わることは無いだろう。



毎秒、毎分、毎時間、毎日













決して。




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