サンタクロースになりたくて
「サンタクロースになりたいです!」
転生希望を聞いた神様は困惑を隠せない様子だった。
「そう言われても、架空の存在では…」
「なんでダメなんですか。いいじゃないですか。聞いた話じゃ漫画やゲームの登場人物に生まれ変わる人も多いらしいじゃないですか」
「それはたまたま酷似した世界があったり、その世界のほうが創作物のモデルであったりと、不自然にならない程度の理由があるんです。あなたが行く異世界にはサンタクロースという概念はないのですよ? 剣と魔法の世界にサンタクロースがいたら、不自然でしょう? 世界の理に反しますよ。あなたがサンタクロースになったせいで世界の均衡が崩れたらどうするんですか。世界滅亡の引き金になったらどうするんですか」
「大げさですよ。サンタクロースの一人や二人で世界滅亡とか」
「あり得ないと言い切れますか?」
神様の目が鋭くなった。
「だって…サンタクロースですよ?」
「ええ、サンタクロースです。世界中の子供たちの願い事を察知する諜報能力を持ち、良い子か悪い子かを識別する鑑定能力を持ち、何百万個何千万個というプレゼントを製造する能力を持ち、それら膨大な物資を輸送する能力を持ち、更には一夜のうちに全てを世界中に届ける超音速移動力を持つ超人です」
「…」
「そんな超人が誕生すれば世界の均衡は崩れます。サンタクロースが世界を憎んだら、世界の敵に回ったら、どうなると思いますか?」
「ちょっと、ちょっと待ってください」
熱くなってる神様を鎮めて。
「俺はそこまで凄いものになりたいわけじゃないんです。ただちょっと子どもたちの夢を叶えてあげたいだけで」
「裕福な篤志家になってお金で買ったプレゼントを配れば良いのでは?」
「そこにロマンが欲しいんですよ! ちょっとソリに乗って飛べたりとか、戸締まりされて入れないはずの家に入れたりとか」
「…怪盗サンタクロース」
「変な事言わないでください! 俺は純粋に子どもの夢を叶える存在になりたいんです!」
押し問答の末、俺は神様説得に成功した。
但し、細かい制限は設けられた。
飛行中の高度制限に速度制限、作れるプレゼントの性能制限、持ち運べる亜空間収納の容量にも制限が付けられたし、その他色々。
俺が譲らなかったのは、ソリを引くトナカイの性能だ。
飛べて、会話もできる優秀なトナカイでなくてはならない。
もちろん鼻の色は赤だ。
使える魔法も制限付きだが、どうにかサンタクロースと呼べるスキル編成が出来上がった。
「ではこのキャラクターで転生を許可します。くれぐれも特殊能力を悪い事に使わないように。子どもの夢を叶えるだけにしてくださいね」
「まかせてください! 良い子の夢を叶えて叶えて、叶えまくります!」
こうして俺は転生した
※
えーと、何々?
公爵令嬢エカテリーナちゃん8歳。
『妹がほしい』
あー、そういうのは両親にお願いしないと。
でもこの子は良い子だから代わりにクマさんのぬいぐるみをあげよう。
次は王太子レナードくん10歳。
その歳でもう王太子か、重たいもの背負ってるね。
『昆虫図鑑』
昆虫好きなんだ。
王城では虫とか気軽に飼えないよね、女官とかに嫌がられそうだし。
図鑑ならセーフか。
よし、あげよう、昆虫図鑑。
昆虫好きな国王になって、昆虫博物館でも作ってちょうだい。
次は…勇者のたまごくん?
『魔剣ください』
却下。
そういうのは大きくなってから自分で勝ち取りなさい。
変な近道しちゃいけません。
君には魔剣っぽく見える玩具の剣をあげます。
柄に仕込んだ石が光るやつな。
ピカピカ〜って。
最後は…魔王のたまごくんか。
『ともだち』
うーん、難しいの来ちゃったな〜、どうしようかな〜。
これはクマさんのぬいぐるみじゃダメだろうな。
勇者のたまごくん紹介しちゃおっかな?
それも無謀か。
しょうがねえ、俺がともだちになってやっか!
「よし、行くぜ、トナカイ1号!」
俺は赤と白のコスチュームに身を包み、ソリで真冬の夜空に飛び出していく。
メリークリスマス!