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ソルスストーリー  作者: シフルキー
序章
7/16

暗躍の侵入者と守りの盾 ②交戦前夜

夜の帳が降り、連日のオロディア軍本陣の喧騒とは反対に、

離れた場所にある犯罪奴隷たちが配属された前線部隊の簡素なテントでは

荒廃した雰囲気が漂い、疲弊した兵はわずかな休息を求めて身を横たえていた。



その一角に影のように紛れ込んだコードは、何食わぬ顔で周囲を観察していた。

彼は最初からこの場にいるかのような自然な振る舞いで溶け込んでいたのだが

疲労困憊の兵は無言で横たわっているだけなので、潜入自体は容易であり、

顔を上げるものなど一人もおらず、みな目を伏せ、誰も他人に興味などはないようだ。


「さて、ここからどうするか…。とりあえず初日は様子見だな…」

自分に言い聞かせるように呟きながら、テント内のわずかなスぺースで眠りについた。




―― 後日、ギルドにて コードの武勇伝『前線指揮官と故郷の新妻』より ――


首尾よく忍び込んだ次の日、夜明けとともに部隊に集合がかかりやがった。


話を聞くに、部隊の指揮官様が決まっただの、手柄を立てれば恩赦があるだの

中身のねぇ精神論聞かされながら朝メシどうするか考えてたら。

指揮官様のご挨拶が始まりやがった。

勘弁してくれよ…こっちゃあ忙しいってのによ?

ただその指揮官様がよ、若くて身なりもいいクセに暗すぎたんだ。

どうせ話なんか誰も聞いちゃいねぇが、

心ここにあらずで何言ってるか本人もわかってねぇって顔してやがった。

ピンときたねぇ。俺のカンがよ。ウラがあるんじゃねぇかってな。


そのまま本陣で情報収集よ。

軍紀の乱れた陣中ってのは俺たちみてぇのには天国だぜ?

飲みながらバカ騒ぎしてる連中のところで、宴会芸で盛り上げてやりゃあ

あっちこっちに引っ張りだこさ。

小一時間もすりゃ、お偉いさんの取り巻きからこっちで芸をやれってお呼びがかかる。

ここまで来りゃあ後はやりたい放題さ。

こっから先どうしたかは言えねぇが、知りたいことは大体分かった。


前線の指揮官様の名前はピエール。

本国から目付の為に本陣に入ったはいいが、優秀だったんだなあ

将軍の目的に気付いちまった。

ただ真面目過ぎたんだなあ。

ちゃちゃっと本国に報告すりゃあいいのに、将軍を問い詰めやがった。

“バレちゃあしょうがねぇ。こっちも手前の動きが怪しいと探ってたんだ。”

汚ねぇ将軍に新妻をタテにされちまって、前線に飛ばされてきたらしい。

そこまで分かりゃあもう十分だ。


前線の指揮官様のテントに潜り込むなり言ってやったのさ

“あんたの嫁さん、俺が助けてやろうか?”


どう見てもヒーローのご登場だろ?

なのにピエールは聞かなかった。

当たり前と言えば当たり前だわな。

どこの馬の骨とも知れねぇヤツがいきなり目の前に現れてそんな事言ってもよ、

だがヤツには他に手段がないことも分かってたんだ。


渋々こう言ったのさ

“俺に何をさせようというんだ?”

ここから先はトントン拍子よ。


先陣には手を出さねぇ手筈になってるから、

あんたたちはそのまま砦を通過してくれりゃあ、後はウチのギルドに任せろってな。


細けぇ部分は省くがそれで解決さ。

俺はこのままアンタの嫁さんを連れてきてやるから、後は頼むぜって言い残して

オロディアに残してきたお姫様を助けに行ってきたのさ。


あん?話が長ぇって?

何言ってやがる。こっから残された指揮官様の新妻をどうやって…

何しやがる!それは俺の最後の手羽先!……


―――――――――――――――



守備軍の陣営では、ギルドの依頼を受けたドワーフたちが持ち前の技術を駆使し

短期間で砦を完成させようとしていた。


「ノエルちゃんよ、あとはここら辺に防壁作ってくれねぇか。」

ドワーフ達から指示を受けたノエルが手をかざすと

地面が震え、岩と土が持ち上がり、即席の防壁が形成されていく。


「あのノエルって人、まるで玩具みたいに地面を動かすわね。」

周囲のハンターたちが感嘆の声を上げる中、ソファ達も呆気にとられて呟く。


「セレナ!!遅かったわね、新米ちゃんたちも連れて来たの?」

セレナに連れられてやってきた3人に視線を向けると

「そっちの女の子貸して!僕ちゃんたち2人はいらない!ガキに興味ないのよ」

そう言ってアタフタしているソファの手を取り引き寄せた。


「あ、あの…私は治癒専門で土魔法とかは…」

「大丈夫、ダイジョーブ!簡単だから!」

有無を言わせずソファが連れていかれるのをセレナは止めもせずに

「あの子は相変わらずねぇ、ソファちゃん頑張れぇ~」


他人事とばかりそう言うと、呆然と立ち尽くしたままのマウロとデイルに向き合い

2人の間に入り耳元でこう囁く。

「キミたちねぇ、アソコにあるぅ、固くて太いの、いっぱい欲しいなぁ」

言われたマウロとデイルは同時に視線を下に向けた。

「何みてるのかなぁ?アソコよ」


…視線の先には積み上げられた丸太が目に入った。

「オトナの仲間入りしてきてね。頑張ればご褒美あげちゃう」

そう言って彼らに踵を返し、ノエルとソファの元に去って行った。

場違いなフラワーモチーフのパレオスカートをヒラヒラさせて…


「アンちゃんたち、いつまで見てんだ。」

言われて振り向くと、斧を持った小柄なドワーフに現実に引き戻される。

「時間なんてねぇんだ。ここにいんなら働け働け」

促されるまま、あっちこっちに丸太を移動するよう指示された。



マウロとデイルがドワーフたちに怒鳴られながら必死に働いているのを

ソファは出来上がりつつある砦の見張り台で見ていた。

「じゃあソファちゃん?言った通りやってみよっか?」

そう、向こうは肉体労働、こっちは初めての魔法労働だ。


ノエル曰く、魔法とはイメージが全てであり、どんな魔法もイメージさえ出来れば

属性に関係なく魔力量に応じて実現できるらしい。

ソファが指示されたのは、縦横が人の身長程の土の壁を建てる事だ。


「治すのが得意なんでしょ?必要な分の土を“その形に治す”イメージね」

よく分からないが、地面にある土はそもそも壁の形が自然であると思えという事か?


「やってみます。」

ソファは指示された場所に手をかざし、周辺の地面に壁をイメージしながら魔力を込めた。

僅かながら大地が震え、少し小柄ながらも壁が出来た。


「やるじゃない!初めてでそれなら上出来よ」


イメージ通りの魔法が出来たことも嬉しかったが、ソファ以上にノエルが嬉しそうだ。

「ありがとうございます!治癒魔法以外はずっと出来なかったのに…」

「イメージね。ソファちゃんは治すって事ばっかりイメージしちゃってるのよ

だったら、あるもの全部イメージした形が本来の姿だって思えば

竜巻くらいなら楽勝ね!丁度いいからオロディア軍が来たら試してみて!」


とんでもない事を言い出すノエルに若干引きながらもソファは頷いた。


「あらあら、壁出来ちゃったじゃない?ソファちゃん急成長中ね」

振り返ると、セレナもこちらへ登ってきたようだ。


「セレナさん、出来ちゃいました」

笑顔でそう言うと、セレナも満面の笑みで応えた。


「この調子でここら辺にドンドン壁作ってみてね。」

ノエルが示す範囲は中々に広大だ。


「ノエルさん?私の魔力が持つかどうか…」

戸惑いながらそう言うソファに

「ソファちゃん、自分の魔力がどれくらいか知ってるの?」

「戦うのも癒すのも、自分がどれくらい使えるかは大事よ?」

ノエルとセレナは当然だと言わんばかりに壁の建築を命じた。


そう、向こうは肉体労働、こっちは魔法労働だ。

言われるがまま、体力、魔力が尽きるまで新人パーティーは砦の建築に尽力した。


翌日、出来上がった砦にハンターも続々と集まり、

オロディア軍を迎え撃つ前に、宴を催した。決起集会のようなものだ。

簡単な作戦の打ち合わせの後、砦の広場でギルド内と変わらぬ喧騒が訪れる。


「こんな緊張感もない状態で防衛なんて、大丈夫なんですか?」

自分たちを連れてきてから、ずっと側にいるセレナに問いかける。


「大丈夫よ。まだ戦いは起きてないけど

今のところ全部出来たでしょ?砦もそうだし、戦える人だって500人ほどはいるのよ。」

…気付かなかった。言われてみればギルドより広いこの場所に所狭しと

戦支度を整えたハンターが集まっているのだ。


「遠征中だったりで間に合わない連中もいるみたいだけど

これだけ集まれば十分よ」


「それでも、500対3000じゃあ…」

なおも不安がるソファに対し、セレナは優しく告げた。

「逆に考えてごらん。

この国は、建国から今まで、こんな戦力で負けたことがないから“ここにある”のよ」

言われてみればそうなのだ。

自分たちの生まれ育った村でも、物語以外で戦争の話など聞いたことがない。


「見てれば分かるわよ。

あなたたちが憧れたハンターがどういう人たちかね。」

優しい笑みでそう語りかけるセレナを信じ、

今日はもう見慣れてきたこの騒ぎに参加するとしよう…と

ソファもエールを一息に飲み干した。


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