第3話 育ち
三作目です。
とうとう来てしまった、この家から旅立つ時が。
私の部屋も片付けるとこんなにも広く感じちゃうもんなのね。
いくらなんでも今まで掃除しなさすぎたのが原因なんだけど・・・
さっきまで賑やかだった雰囲気が急に静まり返った時みたいな感覚。そして、しばらくこの家から離れてしまうという悲しさ。私の目には今にも垂れ落ちそうな涙が出ていた。
「おい。エリシー早くしてくれ。名残惜しく感じるのは分かるが時間がかかりすぎだ。」
「シバ。いつまでもたもたしてるんじゃ!はやく来んか!」
溢れ出そうだった涙が一瞬にして引っ込んでしまった・・・
「はぁ。」そう深いため息を吐きながら自分の部屋に笑みを浮かべながら退室する。
玄関から出て高度の高い太陽の日が私を強く差し、同時に暖かい温風が吹き渡るのを感じた。
「おまたせ」
「遅すぎるぞ。シバを待たせてはダメじゃろう。」
「ごめ〜ん」
「この何気ない会話も、この村の風景も暫くは見れなくなるのね・・・みたいな事でも考えているのか?」図星だ。
一言一句私が思ってたのが一致している。正直言って一瞬だけ気持ち悪いと思ったが冷静に考えれば数十年間ずっと一緒に暮らしてきてるんだから普通の事よね。
その後じいじと色々話して、私たちはじいじに手を振りながら道を歩き始めた。
〜〜〜〜〜〜〜
数時間歩き続けてようやく山の麓に到着した。日も徐々に沈んでいっている。
私はシバにここで一泊するように伝えた。私たちはじいじが持たせてくれたキャンプキットを使って順調に準備を進めている。
しかしここで一つ問題があった。薪がない。
薪が無ければ暖を取ることはもちろん、調理や明かりを灯せられない。
シバにその事を伝えると「一緒に薪を集めるぞ。」と言ってきた。
めんどくさいと思ったが、仕方ないと自分に言い聞かせて二手に別れて探すことになった。
薪を集め始めて数分後・・・
木々の隙間から顔を出していた太陽の光が無くなっていく。光が少なくなっていくことで視野も徐々に悪化している。こうなっては仕方ない。
神脈を使って明るさを確保する。私は手のひらに集中し言葉を唱える。
「水脈・照水」やっとの力で出すことができた。
この水玉は通常は電球並みの明るさを放つが太陽光や強い光を受けると約2倍の明るさを放つことができる。私の習得した技の1つだ。
「よし!これで足元は大丈夫ね。」
私は両手に大量の薪を抱き抱えながら来た道を辿ってテントに戻り始めようとした次の瞬間背中の方から「ハッ」と声が聞こえた。
自然の音にしては音が低く、動物にしては違和感がある声。私はそれを瞬時に理解した。
そして一つ、その音の正体がなんなのかが分かった。
人の声だ。
薄々感じてはいた。薪を集めている最中私の後を追うように草木は揺れ、音は鳴るの繰り返しだった。
私は今までの出来事の辻褄が1つ1つ結び付くごとに恐怖を覚えていった。
「急いで戻らなきゃ!」私は来た道を全力で走り出す。
するとやはりというべきか音も私の後を追うように来る。しかも速いスピードで。
数秒後、木々の隙間からテントが見え始めた。「あそこに行けば・・・!」林から抜け出せたと思って草木の方へ目を向けた瞬間。
猛スピードで岩みたいな何かが飛んでくるのが見えた。
私は反射的に抱き抱えていた薪を盾にした。威力は凄まじく、薪越しでも十分過ぎるほどの衝撃が体に響いた。
「ガハッ・・・」私は身体のバランスを崩し、大きく吹っ飛んで倒れてしまった。意識を保ちながら、顔を上げる。
「アハハ。すごいね〜まさか瞬時に薪を盾にするとはね。流石彼の妹なだけあるね」
「・・・ッ!貴方は・・・」
「生憎、僕の目的は君じゃなくてシバ君なんだ。彼のせいで僕は街に行けなくなってしまったんだよ。」
「なんで私を・・・?」
「そりゃ、君を人質にすれば僕が有利になるからね。彼を誘き出す事もできるし、その後も展開としては有利になる一石二鳥だね。」
意味が分からない。シバがこの人に何をしたっていうの?それに人質って・・・。
今起きてる状況からするに相当ヤバいことは理解していた。吹っ飛ばされたせいで身体に力が入らない。
相手が徐々に近づいてくる。脳が身体に逃げるように信号を出しているのに、身体が思うように動かない。この絶望的な状況にどうしようもできない。
「それじゃあ拘束させてもr・・・」自分の不甲斐なさを痛感していた瞬間。今度は目の前の男が吹っ飛んでいった。
「ん?あんたは、不正行為常習犯の“ソル”じゃないか。」目の前に立つのは紛れもないシバだった。
「クッ・・・一体何をするんだ!」
「それはこっちのセリフだ。何故エリシーを傷つけた?」
「そういった優等生みたいな振る舞いが昔から気に入らないんだよ・・・!」
すると男は背中に隠していた砂でできたナイフを何本も飛ばしてきた。今度は私ではなくシバに向かって。
私はシバの運動神経が凄いことを知っている。動体視力も脚力も村1番に優れているシバは男の攻撃を容易く避けきった。
「もう終わりか?」
「や・・・やめた方が・・・いいよ。シバ・・・」
私はシバにあまり挑発しないように言った。がシバの表情は滅多に見せない怒りで溢れている顔をしていた。
「クソったれがぁぁぁぁ!!!」
男は雄叫びをあげながら散らかっていた薪を手に取ってシバへ走りだした。シバも応戦するように落ちている薪を手に取る・・・と思っていた。
しかし私が瞬きをするのと同時にシバが手から木の剣、木の槍、木の斧を同時に出したのだ。
頭が混乱するな中、シバはまず真っ先に剣を全力で上へ投げ飛ばした。そして槍と斧を両手に持って男の攻撃を躱しながら器用に立ち回る。
「チクショウ!当たれ!!当たれぇぇぇぇぇ!!」力任せに薪を振っている。
そしてシバが槍で薪を薙ぎ払い、男の薪が手から離れる隙をシバは見逃さなかった。
「隙を見せたな。」
シバは斧で敵を大きく上へ打ち上げた。シバは追いかけるかのように全力でジャンプをした。
更に、打ち上げたはずの剣がここぞと言わんばかりのタイミングでシバの真上に落ちてきてシバは剣をキャッチする。そしてシバはこう言い放つ。
「これが俺とあんたの実力、いや育ちの差だ。」
シバは剣をバットの様に空中で振り抜いて男を遠くへ吹っ飛ばした。シバは着地した後私の所へ駆け寄り、手当をしてくれた。
「ねえ。シバ」
「ん?」
「シバの神脈ってなんなの?」
「・・・木だ」
「へぇー。もう一つ質問、なんで私達に言わなかったの?」
「学校の授業で習ったがこの世界は主に四大属性 火 水 風 土 そして稀に存在する 雷 氷 木がある。俺は稀な存在。村に誰一人として似たような属性はいない。だからこそみんなに知られたら俺だけじゃなくお前や爺さんにも面倒をかけることになる。そう思って誰にも言わなかったんだ。」
シバにも理由はあったらしい。その後の話によると、今まで神脈を使う時は絶対に人に見られない場所で神脈を使えるように特訓していたらしい。それに比べて私は・・・
「とりあえず、今日は寝ろ。体力を回復させる事が最優先だ。片付けは俺がやっておく。」
「うん。ありがとう。」
一日のうちにいろんな事がありすぎたせいで身体だけじゃなく脳の疲労がすごい・・・
私は一日を振り返る間もなく横になり深い眠りへとついた。