第19話 怖の巨匠 エリシーside~
19話です。
「あっ、君もしかして・・・この言葉知らないのかな・・・?」
仮面を着けた男が首を軽く傾けながら私に問うてきた。
「なんなの!い、いきなり!」
「それに、あなたこの国の人じゃないわよね!あなたの来た方向は国境しかないわ!」
「僕は・・・ただこの森で本を書いてた住人だよ・・・」
その言葉を間に受けず、私は戦闘体制を取る。
全身黒色の布で包まれており、顔には白く不気味の顔が彫られている仮面。
少なくとも、この国に住んでいる人々はこんな格好をしない。
「ど、どんな内容の本を書いていたのよ。」
そう尋ねると同時に私は指先にプクッと水を纏わせる。
「これから世に出すんだよ・・・秘匿性は守らなきゃダメでしょう・・・?」
「まあ、ジャンルを伝えるなら・・・“グロテスク”なものかなぁ・・・」
その発言を聞いた瞬間、私は恐怖のあまりウォーターガンを男に打った。
「ーさっき僕が言ったセリフなんだけど・・・あの言葉ね、かつての人間が書いた怖い意味がある言葉なんだよ・・・」
「まあ・・・その意味はこれから分かるだろうね・・・!」
私はフエンテ様から教わった技を使おうと思ったが、男が一気に間合いを詰めてきたことで恐怖のあまり木々の中に逃げ隠れてしまった。
頭から出る汗と心臓の鼓動が増し、かくれんぼをしてる様に身を潜める。
俯瞰してみると私はとてもみっともない姿をしているだろう。
「はぁ・・・はぁ・・・何よあいつ!?なんか本を書いてたって言ってたし、一体何者よ。」
「周りにあいつは・・・いないわね。よし、今のうちに!」
私は身を潜めながら、仮面の男が来た方向へ進みだす。
暫く経つとそこには、たくさんの植物と動物が悲惨な状態になっている光景が目に入った。
池の魚はぷかぷかと浮き、植物は実の部分が切断され、動物は身体や首が切られた状態で放置されていた。
この衝撃的な光景を目の当たりにして私は絶句し、体内から来る吐き気を抑制させる事で精一杯だ。
胸が苦しい・・・あの人を早く止めないと・・・。でも・・・怖いよ・・・
私は恐怖に支配されてしまった。身体を蹲る様に体勢を取り頭を抱えた。
次の刹那、別の方角から男の悲鳴が聞こえた。
私は、その声の方へ瞬時に振り向く。
このままじゃ被害が・・・。でも・・・もしあいつに攻撃されて死んだら・・・。どうしよう・・・どうしよう!!
先ほどよりも息は乱れ、視界が眩む。
混乱している状態で何もできない私の耳に何かの声が聞こえた。
「キュッ・・・キュッ・・・」
私はハッと思いその鳴き声のする方へ振り向いた。
その鳴き声の正体は、お腹から血を出して倒れていたリスだった。
「リスちゃん・・・ごめんね・・・痛かったわよね・・・」
私の目に映っているリスはまるで、仇を討ってくれといわんばかりの振る舞い肩をしていた。
私は回復させる技を習得していない。だけど、幸い絆創膏を持っていたので傷口は塞ぐことはできる。
手当も完了し、リスの近くにそこら辺に落ちていた木の実を置き、私の情緒は落ち着いた。
「リスちゃん少し待っててね。私、戦ってくる。」
たとえ私が傷ついても最悪死ぬとしても、それでみんなを守れるなら私は騎士団員として、シバの勝負に勝つためにも、私は戦うべきなんだ!!
「く、くそぉ!!」
なんつー戦闘力だ。視界不良をいいことに動き回りやがって!あいつの攻撃はおそらく筆だな。
そして、その筆のインクは毒でできている。現に黒く塗りつぶされた左腕はもう感覚すらない。半袖なんかで来るんじゃなかったなこりゃ。
「君はそろそろ鬼籍に入る頃合いだよ・・・」
「まさか、お前があの顔出しNGの有名作家さんだったなんてな・・・」
「へぇ・・・大丈夫だよ。君も僕の作品の一部として世に書き出してあげるからさぁ・・・」
「実際君の体は・・・僕の筆のインクで染められてるでしょ。もう助からないと思うけどなぁ・・・」
「こちとら騎士団員なんでね。なんとしてでも部外者は排除するのが仕事なんだよ!!」
「著者だろうとなんだろうと、害を与える者は俺が許さねぇぞ!」
「そういう悪あがきをする人間を殺した時ってぇ・・・すっごい気持ちいいんだよねぇ」
「殺し甲斐があるよ・・・!もっともっと足掻け・・・!叫べ・・・!」
こっちから声が聞こえる・・・
私はこっそり顔を出して様子を伺う。
その声の正体は先ほどの人物と・・・同じ騎士団のマントをつけてる!しかもなんか黒まみれになっている。
そして仮面の男が、布の内側から先が万年筆状になっているツタで攻撃しようとしているのを理解した瞬間、私は瞬時にウォーターガンを仮面の男に撃った。
男の攻撃対象が完全に私になったのを察知し、私は必死に男の攻撃を避けまくった。
それと同時に私は男に向かって特大のウォーターガンを放った。
「ゲホ・・・ゲホ・・・何すんだ!・・・ってあれ?インクが・・・」
良かった!水でなら相手のインクを落とせる!
「インクで落とせるからなんだい・・・?この暗闇の中で僕のこの筆のムチの攻撃を避け切ることは可能だと言えるのかい?」
「筆脈・才筆の葬り!」
すると仮面の男が布を捲り数十本のムチが勢いよく飛び出してきた。
「何突っ立ってんだ!タダじゃ済まねぇぞ!」
私は・・・私には・・・大切なきょうだいとの・・・負けられない勝負があるのよ!
こんなところで、こんなやつなんかに負ける訳にはいかないのよ!!!
「水脈・止水の構え!」