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第四話:戦争と栄光

 ――初めまして、だな。俺はK04067。えと、本名は――

 最初は、嬉しかった。

 ――……こんにちは。……んと……G68300……です。あ、でもこれは記号で、本名は――

 次第に、疑問が生まれた。

 ――H43307だ。本名? 言ってどうする? じゃあな――

 やっと、確信を持てた。

 でも既に、手遅れだった。

 ……僕はまるで、死神だ。

 知った者が次々と死んでいくから。

 頭痛。幻聴。嘔吐。倦怠。幻覚。目眩。

 全てが僕を苦しめる。

 そして、僕を救い出したあの人も。

 あああああああああああああああああああああああああ。

 結局は僕の前で、僕のせいで。

 あああああああああああああああああああああああああ。

 死んだ。






「あああああぁぁああぁあああぁあぁぁぁあああぁ!!」


 声が喉から外へと突き抜ける。

 眠っていた意識を起こしたそれは痛みを伴わせ、やがて声は嗄れ始める。

 それでも声は止まない。

 耳に残り始めても。

 頭に響き始めても。

 僕は叫ぶのを止めない。


「ああああぁああぁぁあああああぁぁあああぁあぁ!!」


 ここは何処だ。

 僕は誰だ。

 これは何だ。

 今意識あるこの身体は何だ。

 邪魔だ。

 壊れちまえ。

 まずは目だ。

 指を添えろ。

 同時に爪を立て――


「――っ!?」


 身体を、誰かに抱かれた。

 長く細い腕が、僕の身体に巻き付くようにして締めてくる。

 少し痛いけど……なんだろう。

 見れば、女の子。

 暗闇でも見える笑みを浮かべている、女の子。

 ……あぁ、花奈か。

 愛おしい花奈が、ここに居る。


「大丈夫……私は生きているから。鏡華の側に居ても……生きているから」


 優しい声がする。

 その瞬間、我が帰って来た。

 周囲は暗闇。

 しかし、月の光が大窓に掛かったカーテンの隙間から、僕らを照らしている。

 あぁ、だから花奈の笑みが見えたのか。

 そんな僕らは同じベッドの上に居て、身体を起こしている僕に花奈が抱きついている。

 以上、現状報告終了っと。


「あ……ごめ、ごめん……また。また……」


 掠れた声で謝罪する。

 すると彼女は、笑顔で首を振った。


「謝る事無いよ。もう慣れっこだから。大丈夫、大丈夫」


 言いながら、花奈は僕の頭を胸元で浅く抱いた。

 そのままゆっくりとベッドに、枕に倒れ込む。

 額が彼女の首元に当たり、肌と肌が触れ合う。

 温かい。暖かい。あたたかい。

 心が落ち着く。

 優しさが僕を包む。

 あぁ、感謝しなくっちゃ。

 思いながら、想いながら眠りに入る。

 今度は悪夢を見ないよう、花奈を浅く抱き返しながら。










 彼女は隣に立っていた。

 凛とした姿を、国民に見せながら、腕を組んで立っている。

 僕達は今、広場でまた国民の軍勢を目の前にしていた。

 三日前に行った朝礼とはまた違う、緊張感のある空気を漂わせて。

 当然の事と言えば、当然なのだが。

 だからこそ、皆は緊張する。

 今日が全ての始まりであり、今までが終わる日だからだ。

 故に服装もつなぎでは無く、正装。

 言い換えれば、制服だね。

 白をベースに、黒と赤のラインが走っている、この国の制服。

 胸元には国旗のバッジ。

 肩には階級を示すバッジが付けられている。

 さて、状況確認はここまでだ。

 腕時計を見れば、午前十時。

 始まりの時刻だ。


「……この声を、皆はちゃんと聞けているわね? ――本日、私達は全ての始まりを迎える。世界征服という名の下に、武力制圧を完遂させるわ。そして最初の標的は、日本よ」


 決意の篭った力強い声は、胸元の襟に付けられている小型マイクによって、島全体に伝えられる。

 キーンっという、独特の音が響かないか心配だ。

 花奈の美声が途切れちゃうもんね。


「決行は一時間後、午前十一時。その時間をもって、私達は国会議事堂に向かうわ。先陣を切って航行するのは旗艦のクリミナル一隻。よって、地上部隊はクリミナルからの降下から作戦開始となる。対して、日本の自衛隊は隠し持っていたアサルトを導入してくるでしょうね。その際には、悪く行けば大きな損害が出るかもしれない」


 それでも、

「それでも、貴方達には全力で戦って貰いたいの。……これは、私の我侭に聞こえるかもしれないわ。仕方の無いことよ。けれど、私達はやり遂げなくてはいけないの。全ては世界征服の為に! 来るべき、その向こうにある野望の為に!!」


 人望ある者の決意は、士気を向上させる事が出来ると、彼女の祖父は言っていた。


「私の為にと、かの有名なジャンヌ・ダルクは言った。でも私は違う。敢えて言うならば、この国の民のために、そして野望の為に!」


 ならば彼女は、彼らの士気を上げられるのか。

 問われれば、答えは三日前に出ている。


「私達は今、立ち上がるのよ! 高貴なる者の義務を振り翳し、バラバラになった国々を一つに纏め上げる為に!」


 不意に、花奈は腕を振り上げた。

 それに呼応するかのように、皆も上げる。

 握り拳を作り、高々と掲げられ、木々のようになる。

 この光景が、人望のある証だ。

 やがて下げられた拳は、次の言葉を生む。


「それでは皆、勝ちに行こう!」


 歓喜が上がる。

 またしても、何が来た。

 その声を聞きながら、微笑を漏らした花奈は身体を翻す。

 僕もそれに合わせて身体を翻し、歩き出した彼女について行く。

 途中、彼女はこちらを向かずに声を掛けてきた。


「……ねぇ、鏡華。勝てると思う? なんて聞いてもいいかしら」

「駄目ですよ、その言葉は。禁句と言っても過言ではありません」

「そう、よね。一国の代表が、さっき言ったばかりの事を無駄にするような事、言っちゃ駄目よね」


 ……うん、なんだろう。

 今の花奈を見て、意見にしようとするとA4ノートが埋まりそうなので、敢えて一言で言うならば、らしくないなぁ。

 珍しく弱気だ。

 まぁ、まだ十八歳だから仕方無い、と言えば仕方無い。

 でも、一国を背負う彼女にとっては、仕方無いなんて言葉は甘えになる。


「花奈は勝つと言いました。だから勝ちます。花奈について来た者は皆、有言実行の出来る人達ですから」


 彼らは信頼出来るから、心配なんて何処にも無い。

 だって、一年半も国を任せていて、何とも無かったんだから。


「そうね、その通りだわ。……良き者達ね」

「えぇ、良き者達です」


 本当に、良き者達だ。

 だからこそ僕らは、その者達と共に向かうのだ。

 世界に名を知らしめる為の一戦を行いに。

 さて、国際的犯罪劇の始まりだ。






 同日、十一時十分。

 ついでに天気は晴れ。

 雲がフロントガラスから見える光景の下方に少しあるけども、良い天気だ。

 その空を、僕達が乗る航空艦が航行する。

 もちろん、ステルス機能なんて便利な物は無い為、船体は丸見えである。

 当たり前だよ、バーロー。

 まぁその分、日本の皆さんに戦慄を与える事に成功しているだろうけど。

 一応、隣に居る操縦士に聞いてみましょうそうしましょう。


「クリミナルって、傍から見たらどんな感想が生まれるんでしょうかね?」


 問いに、自動航行中というデジタル表示がハンドル奥の液晶に出ているのにも関わらず、しっかりとハンドルを握っている優衣は、こちらを向かずに返事をした。

 緊張だな、うん。


「そうですねぇ……。空飛ぶシャーペンでも見たって感じでしょうか?」

「はは、優衣はご冗談がお上手ですね。もしや、自動航行中と表示されているのにハンドルを握っているそれも、ご冗談の一環ですか?」

「え? あ、おわぁ! ……じょ、冗談でした!」


 うむ、さり気無く注意出来た。はなまるだねっ。

 ハンドルから慌てて手を放した彼女は、次にコンピュータの操作を始めた。

 何かやっていないと落ち着かないのかね。

 まぁ、何というか初々しい光景だなぁ。

 どんな兵士でも、初陣はこんな感じだろうか。

 とりあえず、前方の大窓を見やる。

 う~む、現在地が全く持って不詳。


「オペレーター、クリミナルの現在地は?」

『現在、埼玉県上空を航行中。もう間も無く目的地ですので、次第に降下、国会議事堂を目下に特定する事となります』


 右斜め後ろから聞こえる女声は、良く聞こえる完璧な声だ。

 オペレーターとして、必要不可欠な声である。

 とまぁ、賞賛は二行までにしておいて。

 もうすぐだ。

 それに備えて、僕は目の前にあるパネルを操作して、目的地周辺の地図を用意した。

 もちろん、3Dである。

 とは言っても、国会議事堂前は道路が一直線にある為、さほど問題は無い。

 そこに軍を敷き詰められたら困るけど。

 思った刹那、不安は現実となったかもしれへん。


『艦長! クリミナルの下部、周囲に複数の熱源を感知! 自衛隊が展開しています!』

『準備万端のようね。宣戦布告をした甲斐があったわ。……鏡華、交渉をお願い』

「了解です。オペレーター、モニターをお偉いさんに繋げて下さい」


 言ったのとほぼ同時に、それが来た。

 フロントガラスの上部にある大型モニターに、忙しい光景を背景とした、丸々と肥えた男が映し出された。

 自衛隊員が多数走り回り、その奥には大型トレーラーが目立って見える。

 ちなみに彼が居る場所は、周辺に機器が置かれている作戦本部という所だろう。


「えと、どうもこんにちは。お初にお目にかかりますね。僕はノーブレス・オブリージュの国王、神無月 花奈の側近で本艦の副艦長、鏡華と申します。以後、お見知りおきを」


 形だけの挨拶と言うものは、実に形だけである。

 現にモニターに映る彼は、困惑している。

 しょうがない、こちらから放し掛けてあげよう。僕はいつも、上から目線なのだ。


「貴方は確か、総理大臣の……吉田さん?」

『違う、上城(かみしろ)だ! そんな事より、これは一体どういう事だ!?』

「どういう事だと言われましても、そのままの意味です。世界征服の第一歩として、この日本国を侵略しに参りました。ですが、唐突で一方的過ぎるのは不味いと思い、交渉の為にこうして連絡させていただきました」

『交渉だと!? 特殊中立国である日本に侵攻した時点で、お前らは世界の犯罪者だ!』


 おやおや、大分気が立っているご様子。

 画面に唾まで飛ばして、下品な姿を最大限に晒しているなぁ、この首相は。

 貴方の立場など、所詮は飾りだというのに。

 日本は貴方が居なくても、特殊中立国の肩書きに守られているのだから。

 でも人質にすれば、重要視される。

 何とも中途半端な立場のぅ。

 まぁ、もちろん敢えて言わないけどね。


「交渉の余地無し、と。貴方がたはそう仰りたいのですね?」


 武力の差は明確だと言うのに。

 それでもなお、吼える事の出来る彼は役職に溺れているね。

 もし負けても、総理大臣だから生かされると。


『当然だ! 我が日本は中立だからな!』


 そう、国民を踏み台にして肥えた口が、吼える。

 だったら、仕方無いね。


「わかりました。それでは予定通り、武力制圧を開始します。――左右舷電磁投射砲起動。照準合わせ、目標国会議事堂!」

『了解! 電磁投射砲、三十度回頭、照準に目ひょ――右舷電磁投射砲、被弾! 先制攻撃、先制攻撃です! 右舷電磁投射砲、回避の為に緊急収納します!』


 おや、思ったより早い攻撃だなぁ。

 なんて、暢気な感想を浮かべている暇は無いんだけどね。

 警報は続く。


『緊急! 後方、及び左右から大多数の熱源! 戦闘機の編隊だと思われます! また、巨大輸送機の接近も確認!』

「アサルトですね。やっぱり、情報通り隠し持っていましたか。でも、この緊急事態には使用も止むを得ない、と。――対空砲門、全システム起動。ひとつ残らず撃墜して下さい! 巨大輸送機を最優先にお願いします!」


 言いながら、いつの間にか通信が切れているモニターを見て、微笑。

 どうやらあちらも、初めからやる気だったようだ。


「優衣、本艦の現状図の3D表示をお願いします」

「りょ、了解しました! 表示します!」


 返事をする優衣は、僕の目前にあるパネルを代わりに操作した。

 すると前方にある立体映像装置に、シャープペン――もとい、クリミナルの立体図が浮かび上がり、時々船体の一部分を赤くしていた。

 ちなみに時々赤くなる部分は、被弾箇所らしい。

 おぉう、先程から下部が赤連発のお祭り状態だ。


「対地砲撃はやっていないのですか!? 下部の被害が後を絶たないようですが!」

『対地砲撃は先程から決行中です! しかし、自衛隊は数で押して来ている為に、弾幕が薄れず悪戦苦闘中! また、対空砲も確認されておりますが、ジャマーにより二・三機しか補足出来ず、です!』

「さすがは嘘吐き大国……他国に隠して大量の武力導入ですか」


 おっと、つい心の声が出てしまった。

 ともあれ、思った以上に対抗を続けるねぇ、日本。

 こっちは諸事情で、国会議事堂から大分離れた空域から移動は出来ない。

 そして、国会議事堂への砲撃も、これまた諸事情で不可能。

 ちなみに最初の電磁投射砲は、脅しだ。当てるつもりなど全く無かった、と言い分けさせて欲しい。

 つまりは、一点に留まって自衛隊の鎮圧しか、僕達にはやる事が無い。

 だったら、そろそろ出るかな。


「本艦を守り切る為、三連式砲門も前門起動しておいて下さい。ついでに、再度電磁投射砲の準備を。僕はこれより、アサルトにて地上戦を開始します。地上部隊に、降下の準備をお願いして下さい。電磁投射砲の発射と同時に降下を開始しますので」

『了解しました。……鏡華様、ご武運をお祈りします』

「ありがとうございます。――それでは花奈、次会う時は良い結果の下で」

『えぇ、そうなる事を祈ってるわ。……力を見せ付けてきなさい』


 僕は無言で手を一振りするのを返事として、エレベーターへと向かった。

 もっとも、既に僕の手など見えていなかっただろうけどね。

 ……ってか、今更ながらに思うけど、揺れが酷い。

 いくらAD搭載でも、それは船体と地上との間で適応するのであって、艦内に適応されないのだ。

 歩くのがやっとである。

 先程までこの揺れを感じなかった事を思うと、どうやら各席には耐震設計がばっちり成されているようだ。

 とりあえず、やっとの思いで到着したエレベーターに乗り込み、艦橋を後にした。






「よう、やっと来たか」

「えぇ、やっと来ました」


 へっと笑う理貴は、火気厳禁であるここ格納庫にて煙草を蒸かしながら、さも偉そうな表情でパイプ椅子に座っていた。

 踏ん反り返っていた、というのは+α扱いとしよう。面倒だし。

 ともあれ、そんな状態のおっさんは、僕が来るなり煙草を投げ捨てて(二度言うが、火気厳禁である)立ち上がった。

 ってか、このおっさんは本当、何者だ?

 この、未だに揺れている艦内で、何事も無くパイプ椅子に座っているとは。

 僕でさえ、手摺を掴んでやっと耐えているというのに。

 マッシーンで出来てるのだろうか。OG-3型なのか。

 ちなみに、僕らが立っている場所は可動式の渡り橋で、僕のアサルトのコックピットへと伸びている。

 それと少し遅れたけど、周囲を見渡せば艦内と思える程広い。

 クリミナルの内部、数ブロック分を使用しているらしいから当たり前か。

 奥を見れば、平行降下用のブースターが付いた〝コンテナ〟が敷き詰められている。

 どうやら地上部隊は準備万端のようだ。


「皆さんせっかちなんですね。もう殻に篭るなんて」

「お前さんが暢気なだけだ。もう少し遅く来ていたら、先に降下しておったわ」

「あれ? そんな事をしたら、電磁投射砲の餌食ですよ? まさか、三十路にもなって命令ミスで職を失うつもりだったんですか!?」

「何でレールガンの発射をお前さんに合わせにゃならんのだ。発射と同時に降下開始なら、餌食にはならん」

「あ、珍しくまともですね。いつもなら怒り出して発狂し――」

『あぁ! いつまでおっさんと話してるんだよ鏡華さん! こちとらいつもと違う糞暑い操縦席でずっと待機してるんだ、早く始めさせてくれ!』


 おぉう、起こられた。

 怒りを露にして、手摺にセットされているモニター越しに声を荒げているのは地上部隊の総隊長さん……だったかな。

 名前は多分、ジョニー・イマイ。

 ハーフか。

 怒り易い理由は、幼少期にハーフだと苛められたからかな。

 だからといって、独立国である我が国に亡命されてもなぁ。

 ちなみに今は、アメリカの血が影響して、Mr.ユーモアマンとして大人気である。

 そんな彼を真っ先に受け入れたのが、現在の妻、ジェニファー・イトウだ。

 なんだ、貴女もハーフか。

 良い夫婦だね、まる。

 以上(異常)、脳内設定の内心音読でした。

 実際の所、どんな人物なのかは全く持って不明である。

 ともあれ、そんな彼が怒ってるのだ。僕も早めに乗り込もう。


「それでは煙草臭い三十路じい、出来ればもう顔を見合わせる事は無いよう祈ります」

「せいぜい無様に被弾しやがれ、小便臭い青二才。次に顔合わせやら、問答無用で殴り合いだ。……ジョッキ同士をな」


 上手い事言ったつもりなのだろうか。臭い台詞だ。

 そんな事を思っているとは知らぬ理貴は、片手を上げて去って行き、対する僕はアサルトの、人間で言う肩甲骨と肩甲骨の間辺りにある搭乗口へと向かった。






 相変わらず真っ暗な操縦席で、僕は目を瞑る。

 音は無い。光も無い。匂いも臭いも無い。何も無い。

 だが不意に光が来た。

 それは、意識が電脳へと向いて仮想空間に入った瞬間の出来事だ。

 視界がクリアになり、機体の各情報がクリアウィンドウになって周囲に展開される。

 今更ながらに簡単な例えを上げると、パソコンの画面である。

 インターネットをしている時に表示されるウィンドウが、半透明状態で周りに浮かび上がっている感じ。

 シュミレーションの時よりも、少し見やすい。


「お気に召して頂けたようで、幸いです」


 不意に、声が来た。

 しかも僕の声。

 はっきりいって、僕の意思以外で聞こえる自分の声ってもんは、良い感じがしないな。気持ち悪い。


「すみませんが、声を変えてくれませんか? 気分が悪くなるので」

「それはそれは、申し訳ありませんでした。それでは変更――させて頂きます。どうでしょうか?」


 今度は女性の声。

 良かった、僕の声を変換した声じゃなくて。

 もしそうだったら、問答無用で自爆ボタンを押してたね。無いけど。


「ありがとう。さてさて、それでは質問タイムといきましょうか。……貴女は誰ですか?」

「ド直球ですね。ヒットが打ち易いです。……私は貴方。いえ、貴方の人格を参考に成長したAIです」

「何で会話のキャッチボールで、いきなりバッドを持ち出すんですか。まぁ一応、ノーバンキャッチでアウトにさせて頂きます」

「残念、実はそれテニスボールです。キャッチャーが軽く投げたのをバッターが打ったのです。ちなみに私はキャッチャーですよ? キャッチボールは継続中で――」

「いつの間に僕の人格を参考にしたんですか。――あ、すみません。テニスボールを頂いたので、貴女が答え終わる前にもう一度投げさせて頂きました。テニスボールもボールですから、キャッチボールはもちろん可能ですよね? あ、ボールが二つ手元にありますね。必然的に回答は二回、意願いします」

「そうなると会話の回数が割に合わない気が……。まぁいいです。テニスボールは捨てて、一回に纏めます。――先日のシュミレーションの際、貴方の電脳を覗かせて頂きました。そして記憶も見、貴方がどういう人かを確認し、私の人格形成の参考にしたのです」


 あ、プライバシーの侵害って奴だ。

 それはさておき、つまりはもう一人の僕という訳か。

 戦闘時における、相棒って奴だね、うん。


「ちなみに、私の人格の存在を理貴さんは知りません。知れません。ですので、私を知る者は貴方だけ。次いで、貴方の全てを知る者は私だけとなります」

「トップシークレットクラスの情報を知る者同士、ですか」


 さすがは僕の人格を参考にしただけあるな。

 考えが嫌らしいのなんのって。


「というわけで、えと……バトルアシスタントシステムだと思って下さい」

「BASですか? ……バス、よろしくです」

「失礼ですがマスター、女性の名にバスは相応しく無いと思いますが?」

「女性らしさを求めますか……。僕のネーミングセンスは最悪ですよ?」


 注文の多い女性だ。

 本当、上手く僕の性格を参考にしていらっしゃる。

 だからこそ、憎めないなぁ。


「ではよろしく――キャナル」

「ヤー、マイマスター」

「ではさっそく、オペレーターとの回線を繋いで下さい」


 言うと、ヤーという言葉と共に、左上にウィンドウが展開し、オペレーターの顔が映った。

 ……あっちには、僕がどんな風に映っているんだろう。

 ちなみにヤーとは、ドイツ語の〝Ja〟の発音であり、意味は〝はい〟などの肯定・了解・承知だ。

 〝いいえ〟などの否定は〝Nein〟ナインね。

 って、こいつドイツ製?


「オペレーター、準備完了です。降下開始のカウントをお願いします」

「了解しました。対地砲門を降下ハッチ下部に集中。次いでハッチ解放後、カウント5で電磁投射砲の発射と共に降下開始となります」


 そう言っている間にも、格納庫の一部の床、降下ハッチが開放を始め、アサルトを固定しているカタパルトによって、機体が横に垂直となる形にされる。

 正面を見れば、真下を見ている感じへと。

 それでも違和感が、身体が下に落ちるような感覚が無いのは、ADの凄さか。

 おっと、降下ハッチが全開した。


「カウント開始――5、4、3、2……降下!」


 刹那、電磁投射砲の轟音と共にカタパルトが外れ、機体が落ちる。

 降下開始だ。

 大地は、まだ遠い。


「それでは、降下中に武装の説明を簡単に説明させて頂きます。ちなみに操作は簡単、マスターは現在アサルトの神経回路と一心同体ですので、身体を動かす感覚だけで結構です。小型ブースターもイメージするだけで起動します」


 シュミレーションの際に、理貴が似たような事を言ってたな。

 本当、便利になったもんだ。


「右手には手と共に格納可能な短機関銃(サブマシンガン)と、現在格納状態にある鉤爪(クロー)を装着。展開は手首を軸に半円を描きながら起き上がり、手の甲で固定される仕組みです。尚、オリハルコン製の刀身は高速振動を起こしてあり、あらゆる物質の高速切断が可能となっております」


 僕よりも少し先に降下した〝コンテナ〟は、ブースターを上部に向けており、高速降下をしているようだ。

 まぁ、早く降りないとただの的だからね。


「左手には突撃銃(アサルトライフル)。ちなみに左右のリロードにつきましては、簡易リロードを可能にする為、腰にマガジンが装着されています」


 〝コンテナ〟は無事に降下を完了したようだ。

 ちなみに僕は、ブースターを下部に噴出させている為に落下を遅らせている。

 戦場を見渡す為に。


「両肩には今回、弾薬庫をセットさせて頂きました。よって、弾薬の不足は当分ありませんのでご安心を。――以上、武装の説明を終了させて頂きます。それでは、AD機関による高速機動、超回避、空中乱舞をお楽しみ下さい。――グーテ ライゼ」


 〝Gute Reise〟良いご旅行を、か。

 説明終了と共に、警告音が来た。

 その警告音は視界の一部をズームさせ、危険を目視させる。

 戦車六台分の砲塔が、こちらを狙っていた。










 大地に激震が起こって暫くすると、それは来ていた。

 人型の機体が降下して来ていたのだ。

 地上は既に、敵の部隊によって埋まりそうなのにも関わらず、まだ援軍を投下して来ていた。

 もちろんの事、一斉攻撃が開始される。

 しかしその機体は、空中でのあり得ない回避運動を見せつけ、兵士に戦慄を与える。

 そしていよいよ、それは大地に降り立った。

 轟音を立て、大地を揺らし、ブースターによる風圧を周囲に与える。

 恐怖は、遅れて到達する。


「……わざわざ三人称風のナレーション、お疲れ様です」

「ニヒツ、ツー ダンケン。またのご利用をお待ちしております」


 本当、人間っぽいなぁ。

 それに、名前を与えてからだろうか、ドイツ語が目立つ。

 はいはい、訳ね訳。

 〝Nichts zu danken〟お礼には、及びませんっとな。

 まぁ、そんなこたぁどうでも良いんでさ。

 さてさて、とうとう降り立った。

 戦場……かなり喧しいな。

 銃弾などが絶え間無く飛び交っている。

 などと考えている僕自身も、現在ヒット&アウェイ(比率は3:7)に専念中だ。

 遠くには先に降下してすでに交戦中の地上部隊が見える。

 戦車と改造を加えてある偵察用小型アサルトが、戦場を走り回っている。

 でも、自衛隊の戦力は殆ど僕に向いているんだよなぁ。

 警報音鳴りっぱなしで、迷惑極まりない現状である。


「マスター、前に出てみては如何ですか? せっかくの高機動が台無しです」

「無理だぎゃ! な現状ですよ……なんて弱音、吐いてる場合じゃないんですね」


 当然です、とキャナルちゃん。

 当然ですか、と僕くん。

 あれ? 一人称に君付けすると、まるで他人だな。

 どーでも良いさー。


「それじゃ、前に出てみます――よっ!?」


 素早く前に出る事をイメージした瞬間、後部の全ブースターが起動したのか、視界の流れ方が変わった。

 高速って奴かな。

 ADが無かったら、Gが凄いだろうなぁ。

 などと考えている間に、敵戦車が目前に迫った。

 故に、構えるは左の突撃銃。

 銃弾はアサルト用である為に、装甲を穿つには十分な威力を発揮してくれる。

 だからそうした。

 引き金を引いた瞬間に銃弾は放たれ、三つの穴を戦車の上部に開ける。

 次いで、爆発する前に右足で戦車を踏み、跳躍。

 前方に群がる装甲車に短機関銃の銃弾をばら撒きながら、左腕・脚のブースターを起動して右へ。

 狙うは、視界に入った対空砲。


「キャナル、周囲を索敵して、他の対空砲を探して下さい。同時に、位置を視認可能に!」

「ヤー、マイマスター。……対空砲、他四台確認。次いで、パトリオットミサイルも確認しました。今時こんな物を使うとは」

「焦っていたのでしょう。っと、それでは地上部隊に電文お願いします。各個、対空砲を破壊、と」

「ヤー、マイマスター」


 うん、これで大丈夫。

 そう安心しながら、右手の鉤爪を展開させ、対空砲を切断する。

 地上は順調だ。

 だが、すぐにその順調をぶち壊す奴が来るだろう。

 思い、周囲を見渡せば、案の定奴らが来ていた。

 アサルトだ。


「……四脚型の重装備が四に、ホバークラフトの高機動型が三かな、肉眼で捉えられるのは」

「別エリアでもアサルトの目撃報告。地上部隊が各自交戦中です。しかし、各エリアに一機ずつしか確認出来ないところを見ると、やはり大量導入は不可能だったようですね」

「まず、量産自体無理な高コスト兵器だからね。まぁ、巨大輸送機を早めに落としたのも理由に入るだろうけど」


 とりえずは、戦車では不利なこの現状では、対応出来るのは僕しか居ない、と。

 そう思った矢先に、遠くで連続した爆発が起きた。

 ……不味いなあlあ。

 内心でそう呟きながら、四脚アサルトが装備しているミニガン(別名は電動式ガトリングガンだったかな)の掃射を回避しつつ、高機動アサルトに接近を開始する。

 対してホバークラフトで移動するそれは、僕の接近に合わせて距離を取ろうとする。

 けど、遅いよっと。

 出力を上げたブースターは、容易に接近を許す。

 まずはホバークラフトを突撃銃で破壊。

 次いで、速度を失った本体の中央に鉤爪を刺し込む。

 そして、再利用。資源は大切に使わないとね。

 内心で呟きながら、鉤爪を刺し込んだ資源を、後方に投擲した。

 すると、それはミニガンを掃射していた四脚アサルトの一機に直撃し、姿勢を崩させる。

 また、その倒れた仲間を気にしてか、周囲の四脚アサルトの頭部がそれの方へと向き、僕を視界から外す。


「駄目駄目ですね。訓練不足でしょうか」

「ですよねぇ。交戦中に余所見だなんて、死亡フラグ直結ですよ」


 言って、僕は両手の銃を構える。

 命中率は先程、さり気無く試した。良い結果だった。

 だとしたら、静止した状態で狙えばどうなるか。

 百発百中だね、うん。

 だから狙う、四脚部分を。

 そして結果は、全四脚アサルトが姿勢を崩し、その場で倒れた。

 大成功~。

 喜ぶのも束の間、四脚アサルトは倒れながらもミニガンの掃射を開始する。

 命中率は皆無だが。


「一気に行きましょうかっと」


 言葉と同時に、僕は行く。

 鉤爪を構えつつ、回り込むようにして、無様な姿を晒す四脚アサルトへと。

 そして、真っ二つにした。してやった。

 操縦士はもちろん、死んじゃっただろうな。

 あ、今更ながら……人殺し、だねぇ。

 どうでも良いけど。






 戦況は、優勢と言えば優勢だ。

 こちらの被害もかなりのものだけど。

 そんな戦場で、僕は休憩という形で停止していた。


「……どうしたのですか? かなりテンションが下がっているようですが」

「いやいや、僕は元からテンションを上げても下げてもいませんよ。ただ、ね……」


 ただ、ただ。


「懐かしいって、思っただけですよ。殺意と復讐と憤怒が入り混じって、結果に死を生む場所が、です」


 それは戦場ではなかったけど。

 十分に戦場と呼んで良い場所で。

 最初に死んだのは赤の他人だった。

 次に死んだのは友達だった。

 どんどん死んでいった。

 それらが続いて終わった後の移動先は、またしても死の連鎖場で。

 けれども僕は、殺し続けて。


「……ごめんなさい……と……」

「? どうしたのですか?」

「いいえ、何でもありませんよ。……それでは、再開しましょうか。そろそろ終いです」


 貴方達の屍を越えて、僕はまた屍を増やしている。

 謝って許される行為では無いけれど、僕の心は少しだけ、ほんの少しだけ、救われる気がするから。

 だから、ごめんなさい。

 生き続けていて、ごめんなさい。










 確認出来るアサルトが、あと一機。

 それは目の前に居て、意外と手強い。

 四脚アサルトなのに動きが良いのだ。

 いや、自分の装備を把握しきっている、かなりの熟練者だからだろうか。

 と、その時だ。

 突然、声が響く。

 前方に居る四客アサルトから、だ。


『アンノウンアサルトのパイロットに一つ聞きたい! お前達は何故、これ程の被害を生んでまで侵略しようとするんだ!?』

「……性別、男性。声帯照合……二十歳前後です」

「あ、二十歳丁度なら同い年になりますね」


 二十歳前後でアサルトを乗りこなす、かぁ。

 流石の流石という、訳の分からん言葉が脳内で生まれたが、気にしないでおこう。

 とりあえず、返答はするべき、なのかな。

 でも、彼は正義の塊かもしれないしなぁ。

 ま、いっか。


「何故、と問いますか、それは後程、国王である神無月 花奈が演説されます。その時にお答えをお聞き下さい」

『ふざけるな! 特殊中立国の、平和だった日本を武力で滅茶苦茶にされたのに、後から聞けと言う言葉にはいそうですかと了承出来る訳が無いだろう!』


 おぉ、怖い怖い。

 最近の若者は、キレるのが早いなぁ。

 ま、若者に限った事じゃないんだけどね。

 だいたい、大人もキレやすい人はキレやすいのに、何でわ――おっと。

 閑話休題。

 そんな事よりも、だ。

 平和ねぇ。


「そこまで言うのでしたら、こちらも何故、と問わせて頂きます。――何故、平和を掲げる特殊中立国は、アサルトという武力をお持ちで? 確か、特殊中立国の条件は、過剰な武力を持たない、でしたよね?」

『な! そ、それは――』

「まぁ、貴方に問うても仕方の無い事でしたね。……ところで、僕達はその条約違反も纏めて解決して、あわよくば戦争を終わらす為に、世界平和の為に侵略を行っているのですが……どうですか? 貴方もお仲間に入りません?」

『断る! 俺は、お前達を許せないんでね!!』


 腹の底からの叫び。

 それは拡声器によって、周囲に響き渡った。

 心からの拒絶、だね。

 だったら、仕方無いよね。

 壊しちゃっても。

 決意と同時、後部のブースターを全開にして、僕は行く。

 真正面から一気に。

 すると、相手は両手に装備されたミニガンを掃射して、僕の接近を防ごうとする。

 僕はそれを、右側のブースターを使って左へ跳び、回避する。

 刹那、警報。


「マスター、ミサイルが先読みで回避先に飛来」


 視認したよっ!

 回避、出来るかな。

 起動するは、脚部裏のブースターと胸元のブースター。

 出力は全開。

 すると、まるでバナナの皮で転んだかのように、機体が回る。

 綺麗に、美しく……は冗談だけど。

 そして、ミサイルは回避出来た。

 だがしかし、まだミサイルは来る。

 僕はそれを、回転し終えて元の姿勢に戻った瞬間に、両手の銃で撃ち落とす。

 瞬間、広がる爆発と爆煙。

 発煙弾要らずだねっなどと内心でウィンクしながら、好機と見て一気に爆煙へと突っ込む。

 さり気無く右側のブースターで左に行きながら。

 そして抜ければ、相手は目前だ。

 ……青年Aで良いかな。

 すると、相手改め青年Aは、僕に両手のミニガンを構える。

 でも遅い~。

 瞬間で十分な時間の間に、構えた鉤爪を振り、ミニガンを真っ二つにする。

 そのまま、鉤爪を振った右手の勢いを利用して、左回転。

 あ、もちろんブースターは使っているよ。

 ともあれ、回転した理由は、たった今青年Aにぶちかました回し蹴りを行う為だ。

 それにより、四脚アサルトの前脚二本は破損し、姿勢が崩れる。

 でも、まだだ。

 ついでという便利な言葉を利用して、鉤爪を使い両肩のミサイルポットを破壊し、機体の中央、操縦席部分に鉤爪を構える。


「これでチェッチュッ! ……」


 何で噛んだよ僕。

 気を取り直して、テイク2。


「これでチェックメ――」

『鏡華さん、全自衛隊鎮圧完了しやしたぜ! 繰り返す、全自衛隊鎮圧完了!』


 ジョニー(仮)の通信に邪魔された。


「何ですか貴方。僕の邪魔をするなんて、良い度胸してるじゃないですか」

『え!? な、なんで怒ってんの!? 俺、何かしました!?』

「……いえ、もう良いです。クリミナル下部にて待機と伝えて下さい。それと、クリミナルの被害は?」


 問うと、暫く間が生まれた。

 ちなみに、この間にテイク3を始めるつもりは無い。


『報告きました! えと、被害はかなりの物で、各ブロックが大破。火災も多発している為、戦闘続行は危ういとの事!』


 ……うむ、危ないな。

 自衛隊を鎮圧出来た時は、ギリギリセーフだった訳か。

 危ない危ない。


「とにかく、お疲れ様でした。後は、花奈が演説を終えるだ――」


 刹那、それは爆音と共に起きた。

 音のする方を見れば、クリミナルが真っ二つになり、爆炎と爆風を生んでいた。

 そして、浮遊が出来なくなったクリミナルは、地上に落下する。

 轟音や地響きを立て、下部に居た見方の地上部隊を巻き込んで。

 次いでほぼ同時、周囲に何かが多数落下して来た。

 見れば、それはアサルトだ。

 型は超重装甲車。

 アメリカ軍奇襲降下部隊のオリジナル機体だ。

 ……完全に囲まれたなぁ。


「えと、キャナル。上城総理大臣に通信回線を開いて下さい。映像付きでね」

「ヤー、マイマスター。……映像出ます」


 言葉と共に、新たなウィンドウが展開して上城の顔が映し出された。

 その表情は満面の笑み。


「良く出来ました、です上城総理大臣。嬉しそうですね、自衛隊は全滅したというのに」

『それでもだ。お前達の旗艦を落とし、地上部隊を壊滅状態に追いやれたのは嬉しい事だよ。これで、お前達の侵略劇は幕引きだ!』

「確かにそうですねぇ。援軍が来ちゃった訳ですし」


 空を見る。青空だ。

 そして、その向こうには宇宙が……っと、行き過ぎた。

 青空の一箇所に、光が見えた。

 うん、問題無し。


「あ、一つ貴方の勘違いを正しますよ? 援軍は貴方側では無い、僕ら側に来たんです」

『んなに? 馬鹿を言う――っ!?』


 上城の言葉が止まった。

 っという事は見えたかな。

 さて、僕も見ようかな。

 もう一度、空を。

 そこにはクリミナルと同じ型の航空艦が五隻、降下をして来ていた。






「茶番だったんですよ、寸劇と言う名のね。このアメリカ降下部隊は、僕らの艦から降下して来たものだんです。あ、もちろん僕らの艦を一隻撃沈されたのもわざとです。一瞬だけでも、勝利に油断した貴方の面白い顔が見てみたかったものでつい」


 おっと、言ってる間に事が始まった。

 上城の後方、大型トレーラーの扉が開いた瞬間、銃を持った歩兵数十人と、花奈が出て来た。

 実は僕達、仕掛け人なのだ。

 世界が丸見えているらしい番組のドッキリ風に、各自僕の台詞を脳内再生して頂きたい。

 ちなみにターゲットはもちろん、日本の国民とお偉いさん達だ。

 ちなみにちなみに、ここで起きた事は全て、上空の航空艦が日本中の地デジ電波をジャックして、日本国民に駄々漏れである。

 ついでに世界中の回線もジャック済みだ。

 これで日本は、自国の違法な武力を世界中の人々に見せる事が出来たよっ。

 やったねっ!

 っと、そんな事を考えている間に、花奈が上城との会話を終えて、私兵にカメラを用意させた。


「キャナルキャナル! 地デジを受信して、一般放送を開いて!」

「ヤー、マイマスター。……素に戻ってますよ?」

「良いんだよ良いんだよっ。愛しの花奈が、世界同時生放送をするんだからねっ!」


 うわぁ~、テンション上がってきたぁ!

 などと脳内がお祭り騒ぎとなっている内に、花奈が一般回線に映った。

 表情には凛って文字が似合うね、うん。


『日本国民の皆! 願わくば、私の言葉を最後まで聞いて欲しいの』


 いつも通りの、(僕の)心に響く声が聞こえる。


『私達は、独立国ノーブレス・オブリージュ。今日(こんにち)にこの日本を制圧し、そこから世界征服をする者達よ。でもそれは、戦争を終わらせる為の一時的な支配。そして、私達の野望を叶える為の下準備なの。それを、無理に理解して欲しいとは言わないわ。でも!』


 でも、という言葉と同時に、画面の右下に映像が流れた。

 小さな枠で映し出されているそれは、先程の戦闘だ。

 あ、一瞬僕が映った。


『特殊中立国と名乗って、皆に平和を与えると言ったこの国は、何を持っていたか分かる!? 中立国の条約違反である過剰な兵器、アサルトを導入していたのよ!? これは、発覚すれば特殊中立国から除外されて、一気に国民全員を危険に晒す行為なの! これを、貴方達は許せると言える!?』


 ちなみに、今演説を行っている花奈が、何故あの場所に居るのか、という疑問があるだろう。

 簡単だ。クリミナルには乗っていなかったのだ。

 だから、上城は僕が副艦長と名乗ったのにも関わらず会話をした。

 艦長の姿が無いんだもの、仕方無い事だよ。

 オペレーター達も同様。

 だって、声しか聞こえてなかったもんね。

 しかも通信機越しの声。

 唯一乗っていたのは、僕と優衣と理貴だけだったのだ。

 もちろん優衣と理貴は、僕が降下した後にちゃんと脱出している。


『しかし、私は違うわ! 圧倒的な武力がある、技術がある! 私達はこの力を、制圧した国全ての完璧な防衛に回す事を誓うわ! 軍は、民を守る為にあるのだから!!』


 そして、この戦場に降り立ったのも、僕一人だけ。

 戦車や偵察アサルトは全部、遠隔操作。

 ジョニー(仮)やその他諸々の地上部隊は、その遠隔操作を今上空に居る航空艦内で行っていた、と。

 まぁ、つまりはこちら側に被害は無かったという事だねっ。

 完全勝利~。


『そして、喜ばしい事にアメリカ合衆国がこの考えに賛同してくれたわ! 故に私は、進んで交渉を持ちかけて来る国には、完全防衛を保障する。けれども、制圧に反対する国には、武力で侵略させて貰うわよ!』


 んで、アメリカがいつの間に味方になっていたかっていうと……って、まぁ分かるか。

 交渉を行ったのはスパイさん。

 アメリカに行っていたいいてのは、味方に付ける為だったんだよっと。

 正直、アメリカが味方になったのは嬉しい。

 世界地図で言えば、右側から攻められる心配は無いからねぇ~。


『ともあれ、ここ日本は今この瞬間から、ノーブレス・オブリージュの支配下に置かれ、絶対的な安全をここに宣言する!!』


 高々と上げられた花奈の手。

 その姿はまるで、某独裁者のようだけど。

 けれども、彼女は国民第一主義者であって。

 だからこそ、この世界征服は成功させるべきものなのだ。

 ……さて、青年Aは他に任せて、と。

 上空で待つ航空艦に戻りましょー。

 こうして僕達は、国際的犯罪を一つ完遂させて、晴れて前科持ちとなりましたとさ。

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