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第三話:国王と国民

 そういえば、量子コンピュータを利用したAIは、成長を行う過程で人間がそれなりの育て方をすれば、問題は起きない筈。

 量子は考える能力、つまり自我を持ったAIは人間そのもの。

 尚且つ、それらの過程で作られたばかりのAIは、生まれたての赤ん坊と変わらない。

 知識が無い。だから、知識を与えてあげなくちゃいけない。

 それが、育てるという事。

 また、それによって人間と触れ合い、まともな人格が形成されれば、肉体なんぞ要らんわーって考えは不成立……あれ?

 どちらにせよ、自分を人と認識するんだよね?

 だったら、肉体の無い自分から見た人間は、不自由極まりない存在と認識して……。

 でもでも、それでもAIがそれでも良いという考えに到達すれば、何も起きないんじゃ……。

 堂々巡りするな、これ。

 よくよく考えたら、その結果の例が昔遭ったな、と数年前の事件を思い出す僕は今現在、居住区内でジープを乗り回している。

 いや別に、迷惑行為をしてる訳じゃないよ?

 まぁ、理由は簡単、花奈に会いに行く為だ。

 その為、今までの思考には休暇を与え、彼女を探す事に専念する。


「にしても、一段と居住区らしくなりましたなぁ」


 少し前まで、事務業に追われていたから、暫く見に来れなかったせいで忘れているだけかもしれないけれど。

 呟きながら、徐行運転に切り替えて、ゆっくりと流れる周囲の景色に目をやる。

 それらは地上の、日本の町並みと何ら変わりは無かった。

 団地の如く並ぶマンションやコンビニエンスストア、書店や飲食店、娯楽施設などなど、これといって不自由の無い施設の数々。

 唯一ある住民の不満としては、天井が殺風景だという事だけだったな。

 けれども、対処策は既に打ってある訳で。

 液晶ポスターを一面に貼り付けて、外の空を映し出すという計画の提案で、不満は減った。

 後は実行するだけだね、うん。

 ところで、閑話休題って言葉は便利だなぁ。

 それはさておきって言葉の方が自然で良いけど。

 二つとも同じ意味だしね。

 それはさておき、閑話休題。


「話が進みませんよ……。使い方が滅茶苦茶ですし」


 とりあえず、声に出して自分に突っ込み。

 まぁ、話を進めるも何も、目的は果たされたけどね。

 花奈を見つけた。

 彼女は噴水のある広場で、民衆に囲まれていた。

 あ、悪い意味じゃ無いよ?

 取り囲んでいる民衆というのは、近所の子供達だ。


「次はこの前のお話してよー」「だめだよ、おねーちゃんはおにごっこするのっ」「こんどぼくにぶじゅつってやつおしえて?」「ねーちゃんおっぱいでけー」「けっこんしてください!」


 最後の二人は聞き捨てならない。

 とりあえず、ジープのエンジンを止めてから降り、Cカップ少女の下へと歩み寄った。

 その瞬間、

「あぁ、鏡華か。おつか――」「あー! おにーちゃんだ!」「ひさしぶりだひさしぶりだぁ!」「おにーちゃん、こんどぼくにぶじゅつってやつおしえてー」


 子供達は、花奈の言葉を遮って、数人が僕の方へと流れて来た。

 そして、あっという間に花奈と僕は子供達に包囲されてしまった。

 ってか、武術の君、金髪君。

 君はさっきからなんなのだ。

 おかげで先程の二人が誰なのか分からなくなったじゃないか。

 まぁ、良いけど。

 とりあえず子供達には、適当に相手をしておく。

 ちなみに何故、花奈が子供達に囲まれているのか。

 答えは簡単だ。

 彼女は人気者なのだ、単純に。

 そりゃもう、ヤキモチを焼きたくなる位に。

 きー。

 優しさの基準値が高めの彼女は、人間関係に階級を、身分を持ち込んだりせず、しょっちゅう居住区に顔を出している。

 そのせいで、僕は事務業に追われていたんだけどね。

 でも、花奈の為だから文句は言わないよ。

 文句なんてないからねっ。

 ともあれ、だから彼女は国民から人望が厚いのだ。

 ジャンヌ・ダルクのようにはなって欲しくないが。

 守ろうとした民衆に殺されるだなんて、あってほしく無いしね。


「本日も楽しそうですね。保護者の方々が感謝する理由を、改めて知りました」

「私に感謝? それは嬉しい事ね。でも、どういう形でかしら? 直接言われた事はあまり無いのだけれども」

「毎日、お手紙が届いており、デスクに置かせて頂いております。それを花奈は、読まずに引き出しへと入れていた筈です」

「……もしかして、あの山のような手紙が、全部保護者から……?」


 唖然としている花奈の表情、頂き!

 記憶のフォトアルバムに、また一枚追加っと。

 ……ってか、今時手紙だなんて。

 メールで送れば良いと思うが、そういえば花奈のアドレスは公開してなかったなと気付く。

 今度、専用のメールサーバーを開設しなきゃな。


「もちろんです。あ、大丈夫ですよ。全部、僕が読んでお返事も出していますので」

「そうなの!? あ、ありがとう」

「おにーちゃんはまめなのだー!」「だー!」


 双子でも無いのに、息の合った褒め言葉をありがとう。

 そう内心で感謝しつつ、二人の子供の頭を撫でる。

 すると二人は、嬉しそうな笑顔を僕に見せてくれた。

 まるで天使だねぇ。

 あ、ちなみに花奈は女神ね。

 神々しい組み合わせである。

 だったら僕は、神父と言った所かな。

 でもそうなると、過去に〝変態神父〟なる言葉を考え出した人は鬼畜だねぇ。

 僕イコール変態という事になって、一気に立場が危うくなる。


「ところで鏡華。今から皆でかくれんぼをしようという提案があるのだけれども、貴方も参加しない? もちろん貴方が最初の鬼で」


 僕の妄想を無意識に遮った花奈は、労働を提案して来た。

 それも、子供達の事を考慮して、かくれんぼだとさ。


「分かりました。ですが、ダンボールでも使わない限りは、僕の目から逃れる事は出来ませんよ?」

「子供達をなめちゃいけないわよ。何せ、彼らはここら一体を知り尽くしているのだから。……それじゃあ、三分数えなさい。もういいかい、なんて問いは要らないわ」

「にーちゃんふぁいとー!」

「そういんしゅつげきー!」


 元気一杯の声を合図に、子供達は四方へと散って行った。

 ……範囲が広いなぁ~。

 全員捕獲したら、缶蹴りに変更してもらおう。

 そう内心で決意し、腕時計を見る。

 時刻は昼前の十一時。

 どうやら、缶蹴りよりも先に朝食の摂取が必要なようだ。

 とりあえず、三分間待ってやろう。


「相変わらず素敵ライフを送っているね、キョウ」


 横から突然、声が来た。

 それは女の、透き通ったような美声。

 振り向けば、見知った顔の女が立っていた。


「おや、いつの間に帰って来ていたんですか? スパイさん」

「ついさっきだよ。お迎えが無かったから寂しかったなぁ」

「定期連絡も帰還報告もしないスパイさんには、当然の事だとは思いますが? 毎回女を作る事を除けば、ジェームズ・ボンドの方が余程優秀ですよ」

「酷い! 私をあんな女ったらしと一緒にするの!?」

「一緒にしてませんよ、日本語が通じないんですか? 語尾に何か付けないと通じないんですね」

「にゃって付けないと通じないんだにゃ」

「ちゃんと通じてるじゃないですか。何を今更、追加設定してるんですか」

「にゃにを言ってるのか分からにゃいんだにゃー」

「……とりあえず、普通に戻って下さいにゃ」

「にゃに!? まさか本当に言うなんて! ――はっ! 本当は言ってみたかったから、良い機会だと思ってたり!? キョウ、恐ろしい子!」


 溜息。

 深い溜息。

 吐息。

 深呼吸。


「とりあえず、任務ご苦労様です」

「はいは~い! お褒めいただきありがとー」


 言いながら、彼女はミント一色の短髪を人差し指で掻いた。

 っと、良く見れば彼女はライダースーツという、外着のままだった。

 ぴっちり締まったその黒いスーツが、彼女のボディーラインを包み隠さず表している。

 一言で言えば、無い乳だ。

 何故、貧乳なのに女スパイとして活動出来ているのかは謎である。

 本人曰く、無い方が動き易いとな。

 どうでも良いけどね。

 つまりは、閑話休題。


「で、どうでしたか? あちらの国は」

「う~ん、見事にスッカスカだったよ。最近、前任だった大統領が行方不明になっちゃって、急遽人が変わったじゃん? だから、交渉は楽だったんだ。でもね、問題点もあったんだよ」

「問題点、ですか。もしかして、それを解決せずに戻って来たのですか?」

「待った待った、もちろん解決して来たよう。いやね、現任の大統領のボディーガードさんが問題だったんだけどね。まぁ、あまり話しに関わろうとすると減給するっていう条件を縛り付けといたけど」


 ふむ、舌を出すというお茶目な表情とは裏腹に、恐ろしい事を言う女性だ。

 しかし、問題のあるボディーガード、か。

 誰かと問う事は許されるだろか。

 まぁ、彼女の事だから無理だろうな。


「ちなみにそのボ――」

「それじゃ、そろそろ諜報部に行くね。任務報告をしてこないと。じゃねっ!」


 無理だった。

 彼女は、すちゃっという効果音が聞こえそうな程素早く、揃えた人差し指と中指を蟀谷(こめかみ)付近に構え、ウィンク一つ。

 そして、エレベーターのある方へそそくさと走って行った。

 全く、毎回忙しい女性だ。

 とりあえず、さてっと呟いておき、スーツの内ポケットに手を突っ込む。

 そこからGPS追跡装置を取り出し、電源を入れた。

 するとモニターに光が宿り、周辺の地図と赤いポインターが表示された。


「最初は、花奈が鬼になってもらおうかな」


 僕は鬼だね、こりゃ。二つの意味で。

 それじゃあま、始めますか。

 既にかくれんぼじゃなく、鬼ごっこになっているのは秘密だ。

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