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 それからエヴァは黒い魔物を抱えたまま森を散策し、かろうじて雨風が凌そうな洞窟を発見した。

 元々そこには他の魔物が住んでいたけれど、黒い魔物が全部片付けてくれたのだ。魔物はやはり人とは違う血の色をしているらしく、緑の血や紫の血を流す魔物の死体を、エヴァは黒い魔物と一緒になって引っ張って外に出した。黒い魔物は他の魔物と比べても強い力を持っているらしく、森を散策する時も、エヴァに抱えれたま触手を伸ばし遭遇した魔物を倒してくれる程だった。


「クロは食べないの?」


 最果ての森は、けれど幸いにして魔物が蔓延る以外は殆ど普通の森と同じようだった。実りが悪いところはあるけれど、探せば果物も木の実も見つけられる。見つけた細々とした木の実は王都で手に入れられるものよりは少し苦くて酸っぱかったけれど、食べられないほどではない。それを口元に運びながら、エヴァはクロと名付けた黒い魔物にそう尋ねた。


 試しに木の実を差し出してみるけれど、クロはどこかキョトンとしたように不思議な様子で、やはり口らしき器官がないからだろう。木の実を食べる様子はなかった。


「あなたって本当に不思議。他の魔物みたいに私を食べようとはしないし、それどころか守ってくれるなんて」


 大きな葉っぱの上に乗せた木の実を少し横に退けながら手を伸ばせば、クロはすっかり慣れた様子でエヴァの腕の中に収まった。こうしていると、何だか可愛げさえあるような気がする。エヴァの身体やドレスには、魔物の死体を運んだ時の緑や紫の血がところどころ付着して滲んでいるし、暫く獄中に入れられていたから髪も肌もボロボロだ。だけど、クロは魔物だからなのだろうけれど、そんなことを気にせず側に寄り添ってくれた。


 それからエヴァはクロと一緒に、見つけた洞窟で暮らし始めた。食事は基本的に木の実か果物ばかりではあるが、いつからかエヴァが見つけるばかりではなく、クロも自分から見つけてとってくれるようになったので充分な量を得ることができた。

 火をつけることはできなかったから、暗い洞窟の奥はまだ散策できていないけれど、洞窟の近くには幸いにして川が流れていることが確認できた。人の手が入っていないからだろう。最果ての森の川は水が澄んでいて、とても綺麗だった。


 木の実を集め、川で身体や服の汚れを落とし、それ以外の時間は森を散策して暮らしていた。聖書でも忌み嫌われる土地として描かれたこの場所に人が住んでいるとは思えなかったけれど、エヴァがここに放り込まれたのと同じように、出口は必ずあるはずだと考えたのだ。

 別に、今更王都に戻りたいなどとは考えていない。どうせもう、誰もエヴァのことなんて覚えていないだろう。ただ、安心して暮らせる場所が欲しいのだ。灯りがあって、パンの食べられる暮らし。どこか外れの場所に住処を構えて、そこでひっそりとクロと暮らしていけたらいいと思っていた。


「ねえ、クロ。そうなったらきっと素敵よね」


 エヴァがそう言うと、クロはやっぱり分からないみたいにただエヴァの腕に甘えるように触手を絡めてた。






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