地域研究学者は、決してたまごを温めない
欲深い人々は科学技術の発展した事で、それがなんで封印されていたのかも考えずに扉を開いてしまう。目に見えるようになったおかげで、見えない存在を無視しがちになる。
わかりやすい例は細菌だろう。死滅した文明遺物から歴史を探りたい気持ちはわかる。しかし、どうして滅亡に至ったのか考えを巡らせていたはずなのに、目の前の成果に我を忘れてしまう。
ニュースなどで聞いた方もおられるのではないだろか。ファラオの呪い、火山灰に埋もれた人々、氷漬けのマンモスなど。信憑性はわからないけれど、閉ざされた空間の中に残された過去のウイルスによる新たな疫病の話しなど。
医療の進化ですでに克服されたものや、自然に閉ざされたものならば害は少ないのかも知れない。
しかし隔離してあるものに関して意味がわからなくても、残されたものの状態から理由を推測は可能だ。
何が言いたいかというと、危険だと知らされているのに、わざわざ近づくなと言う事だ。猛吹雪の雪山へ登山に行けば遭難する。台風の日に田んぼの心配しても、どうにもならない。パンドラの箱は開けてはならない。
開けるのを分かったうえで、ガバガバなセキュリティ皆無の箱を渡した神の性根も、正直どうかと思わざるを得ない。希望なんてものは厳しい現実を前に、縋って何とかなるものではないのはわかっていたのだろうに。
だいたい縋る希望は災厄をもたらした神なのだ。マッチポンプのために利用されたパンドラよりも、騙した神の偉大さを崇め敬うなど正気を疑う。しかし、この話しは創作なのだな。
さて長い前置きをしたのには理由がある。私は金魚人と名乗る連中から怪しいたまごを手に入れたのだ。わざわざ奇妙さを装う人物が扱う品に、興味をひかれたのだ。
冬の間、冷やしておけば金になる。ただし、決して温めるなと言われた。ダチョウのたまごくらいの大きさ、金になれば大儲けさ。私は本当にダチョウのたまごなら困るなぁと思いながらたまごを受け取った。
毎年雪の積もるこの町は寒い。だから忠告を守るのは容易なはずだった。しかし異常気象は雪の降った翌日に、初夏を思わせる暖かな天候をもたらした。
不可抗力と言いたい所だ。だが忠告は受けていた。異常気象も知っていた。冷蔵庫なり、雪の中に埋めるなり対処は出来たはずだ。だから私には言い訳は許されない。
私は生まれたばかりの、赤い産毛を持つ金魚人の子を前に、金魚人は魚寄りの繁殖なのだと知ることが出来た。
お読みいただき、ありがとうございました。この物語は、なろうラジオ大賞5の投稿34作品目となります。
未知との遭遇を前にした研究者の取り返しがつかないことへの述懐がメインの話しです。
石橋を叩いて渡るくらい慎重でも土台まで見ていない、灯台もと暗し、今後どうすればいいのか頭の中が真っ白になった瞬間でもあります。
大人の関係には例えませんよ?
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