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タイムスリップすると、童話の主人公に出くわした

タイムスリップすると、赤ずきんちゃんが森の小道をやって来た

作者: 端縫 径
掲載日:2022/08/16

 オレは、自転車で転倒した衝撃でタイムスリップして、何処かの森の中に瞬間移動してしまった。


タイムスリップは二度目だ。

元の時代に帰れるかと思ったが、そんな甘くはないらしい。

一度目は、浦島太郎に出会って、お爺さんになるのを救った。

そして、スマホとこの玉手箱を交換した。


オレの名前は、藁稭長一わらしべちょういち

コンビニへ行こうとして、いま森の中にいる二十五歳の会社員だ。


玉手箱を持って、あてもなく森の中を彷徨さまよっていると、小道に出た。

ちょうど向こうから人がやって来た。小さな女の子だ。

大きなバスケットを抱えて赤い頭巾ずきんをかぶっている。


たぶん、赤ずきんちゃんだろう。

オレは、浦島太郎に会った時ほど驚かなかった。

きっと、そういった時空のループにまぎれ込んでしまったのだ。

もう、運命なのだとオレは覚悟を決めた。


「こんにちは。いい天気ですね」オレは明るく挨拶した。

「こんにちは!」女の子はオレの十倍は明るく元気に挨拶を返してきた。


「ちょっと、道に迷っちゃってね。お嬢ちゃんは何処に行くの?」

「お使いでお婆ちゃんの家に行くとこよ。赤ずきん、お婆ちゃんが大好きなの!」

やっぱり、赤ずきんちゃんだ。

聞かれた事を疑いもせず話してしまう純粋無垢な幼女だった。

「この森を出たいんだけど、一緒に行っていいかな?」

「もちろん、良いわよ! お話しなが行きましょう」


「オジサンは何処から来たの?」

「お兄さんはね、ずっと東の方、極東から来たんだよ」

「その黒い眼と黒い髪、素敵ね! 赤ずきんと全然違うわ!」

「キミの青い目も可愛いよ」


素直で可愛い女の子だ。

バスケットには、ワインとケーキが入っている。

それにんだばかりの花束があった。

お使いの途中で出会ったオオカミに何の疑いも持たず、お婆さんの家を教えてしまい、そそのかされて道草して花を摘んでいたのだろう。

その間に、もうオオカミは先回りしてお婆さんを食べてしまっているだろう。

そして、お婆さんに化けて、赤ずきんちゃんを待っているのだ。

赤ずきんちゃんだけでも何とか助けなければ。


オレはつらかったが、さっき会ったオオカミは人食いオオカミであること、そして、お婆さんは残念だがもうオオカミに食べられてしまっている事を話して聞かせた。

赤ずきんは泣きながら聞いていたが、急に泣きやむと、青い目を氷のように冷たく光らせ、大好きだったお婆ちゃんのかたきつと言って聞かなかった。


このまま母親の家へ引き返すのが一番安全だったが、赤ずきんの意志も固く、オレも残忍なオオカミを許すことができなかった。


オレは、玉手箱を赤ずきんに見せた。

そして、玉手箱の説明をして、これを使って一緒にオオカミをやっつけようと提案した。

赤ずきんは、小さな手で玉手箱をでると、ぶっ殺す、とつぶやいた。


しばらく歩くとお婆さんの家に着いた。入口のドアは開いたままだった。

オレと赤ずきんは、気づかれないように家の壁際まで行った。

さっき話した計画を、もう一度ゆっくりと赤ずきんに確認するように小声で話した。


バスケットの代わりに玉手箱を持っていくこと。

フタがしてあれば、玉手箱は安全なこと。

中にワインとケーキが入っていると言って、フタを開けさせること。

白い煙が出たら、急いで逃げ出すこと。

そのため、ドアは開けたままにしておくこと。


赤ずきんは緊張して聞いていたが、お婆ちゃんに会うのだから笑ってと言うと、パッと花が咲くように明るく笑った。

この子なら、きっと上手くやれる……


オレは玉手箱を赤ずきんに渡した。

「フタを開けなければ、安全だから」オレは安心させるようにもう一度言った。


赤ずきんは慎重に傾けないように玉手箱を両手で持ち、入口に向かった。

オレは壁に耳をつけて中の気配をうかがった。



「おはよう!お婆ちゃん。体の具合はどう?」


「おお、赤ずきんかい? 遅かったね、もう腹ペコだよ」

お婆さんに化けたオオカミはベットに寝ていた。

赤ずきんは、玉手箱をベッドのそばのテーブルに置いた。


「お婆ちゃん、ほら、きれいな箱でしょ? 

今日は、この中にワインとケーキを入れてきたの。

フタを開けて食べてちょうだい」


「ほう、きれいな箱だね。ありがとうよ。

その前にドアを閉めておいで、まだ寒いからね」


「そう? 新鮮な空気を入れた方がいいんじゃない?」


「ずっと開けていたんだ、寒いから閉めてちょうだいな」

赤ずきんは、仕方なくドアを閉めた。


「ほら、このフタ、きれいな波の模様でしょ? 貝殻で描いてあるのよ! 開けて良く見てみたら」


「ホントにきれいだね。ここからでもよく見えるよ」


「まあ、お婆ちゃん、今日はとても目が大きいわね」


「可愛いお前を良く見たいからだよ。

それに、暗い夜でもよく見えるのさ、私の目は」


「耳もいつもより大きいわ」


「耳が大きいのは、お前の声をよく聞きたいからだよ。

それに、家の外でひそひそ話しているのを聞くためだよ。

お前は嘘をついているね、赤ずきん!

外にいったい誰がいるんだい!」

オオカミは帽子を脱いで、大きな口を開け牙をむきだした。


赤ずきんは、驚いて床に尻もちをついてしまった。


「このフタを開けると、白い毒の煙が出るんだろう? 全部聞こえたんだよ。

フタさえ開けなければ、怖くも何ともないさ。

だいたい森で会った時、お前はそんな箱、持って無かったじゃないか。オオカミをなめるんじゃ無いよ」

オオカミは大きく両手を広げて、にじり寄ってきた。


「あなたは弱虫ね! 女子供ばかり狙うなんて。意気地無しだわ。怖くてその箱だって持てないでしょ!」

赤ずきんは身の危険を感じながらも、オオカミをにらみ返して言った。


「馬鹿を言うな! こんな箱、フタがしてあれが怖いもんか!」

そう言うと、オオカミはフタを押さえたまま玉手箱を持ち上げた。

玉手箱が傾いた。すると、玉手箱の底から煙がもくもく立ち上がってオオカミの顔が見えなくなった。


「うわあ! どうした事だ! フタを開けていないのに。

なんだ? 底が無いぞ! ちくしょう、だましたな!」


オレは入り口のドアを急いで開けた。

赤ずきんが這うように跳び出してきた。

オレはまたドアを閉め、押さえつけた。


オオカミが後を追って、ドアに体当たりしてきた。

オレはどうにか押しとどめた。

二度三度と体当たりしてきたが、オレは全力で押さえ続けた。

屋根の上の煙突から白い煙が立ちのぼり、青い空に吸い込まれてゆく。

オオカミの力がだんだん弱くなってきた。

やがて煙突から煙が出なくなり、家の中が静かになった。


オレと赤ずきんは、用心しながらドアを開けた。

ドアの内側にヨボヨボのオオカミが一匹倒れていた。

耳は折れ、目は白く濁っていて光が無かった。

全身の毛が白っぽくなり、所々皮膚病のように抜けていた。


赤ずきんは、その鼻っぱしらを思いっきり蹴飛ばした。

オオカミは、キャインと鳴いてヨロつきながら森へ逃げていった。

赤ずきんは追いかけて石を投げつけたが、もう当たりはしなかった。

それでも、赤ずきんは泣きながら森に石を投げ続けた。

「キミは本当に良くやったよ。お婆さんのかたきは立派に取れた」

オレは、しゃがんで赤ずきんを抱きしめ慰めた。


家に戻ると、暖炉にべてあった石炭が煙を浴びたせいか水晶みたいに透明になっていた。

ダイヤモンドになったのかも知れない。

オレは空になった玉手箱にそれを詰めた。玉手箱が一杯になった。

玉手箱には、煙より宝石の方がよく似合っていた。


オレの計画は、まんまと上手くいった。

オオカミが森で赤ずきんに会った時、赤ずきんは玉手箱を持っていなかった。

用心深いオオカミは、何を言ったって急に出て来た玉手箱を開けるはずが無い。


オレは、わざわざ家のそばで確認するふりをして計画を話した、オオカミに聞こえるように。

フタさえ開けなければ、安全と思わせるために。


そして、玉手箱に細工した。

オレは玉手箱を逆さにしてフタを取った。煙は上に滞留して、フタを外しても大丈夫だと思った。

案の定、上手くいった。そして、外したフタを上にかぶせてひもを結べば、元の玉手箱と同じに見える。それを赤ずきんに持たせたのだ。彼女は箱を傾けずに上手くオオカミの側まで持っていった。

あとは、オオカミを挑発すればいい。

大成功だった。


しばらくすると、帰りの遅い赤ずきんを心配して母親がやって来た。

赤ずきんは、母の胸の中で泣いた。お婆ちゃんが死んでしまったと、オイオイ泣いた。


外に出ると家の壁にオレの自転車が立て掛けてあった。さっき迄は無かったはずなのに。

そろそろ、ここを離れる時間のようだ。


オレは二人に暇乞いとまごいを告げた。

赤ずきんには、ダイヤの入った玉手箱を上げることにした。

赤ずきんは、自分の赤い頭巾ずきんとバスケットに入ったワインとケーキを代わりにくれた。


オレは自転車に乗り、出発した。

赤ずきんはオレが見えなくなるまで手を振ってくれた。


しばらく行くと、森からダッダーンと銃声が聞こえた。

猟師がオオカミを撃ったのだろうか。

そんなことを考えていると、木の根に車輪を取られて、またまた転倒してしまった。

もうお約束のようだ。


オレは地面に叩きつけられたが、衝撃は思ったより弱かった。


起き上がると、雪の中だった。

どこか北欧の都市だろうか。

中世を思わせる石畳の路地だ。

夜も遅く、人通りはなかった。

家々のドアには、クリスマスの飾りが掛かっていた。

Tシャツ姿のオレには、厳しい寒さだ。


オレは雪の上に置かれていた赤い頭巾ずきんとバスケットを手に取った。

そして道の向こう側で、マッチをって暖を取っている少女のもとへ歩いていった。

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