プロローグ
今回は以前から考えていたミステリーを書いてみることにしました。
なるべく今回は話を短く切って、毎日更新することを目標としております。
――キメラ――
ギリシャ神話に登場する伝説上の怪物である。
複数の動物が組み合わさった面妖なその姿には様々な説があるが、その一説によると、頭がライオンで、胴体がヤギ、尻尾が蛇だという。
その怪物は口からは火を吹き、人里に来ては、人を襲っていた。
大暴れするキメラに人々は成すすべもない。
しかし、困った人々の前に現れたのが、英雄ベレロフォンである。
彼はリュキアの王、イオバステの命を受け、キメラ退治へと向かったのだ。
キメラとはまともに戦っても勝ち目はないと考えた彼は、ペガサスに乗って、鉛を塗った槍をキメラの口に突き刺した。
それにより、キメラは窒息し、彼は怪物を倒すことに成功した。
英雄の果敢な戦いによって、人々には平和が戻ったのだ。
それが、神話に登場するキメラの話である。
時は流れて、現代。
そんな伝説上の怪物の話をする人間など、道行く人々の中に、まず、いないと言っていいだろう。
テレビゲームや、ファンタジー小説の中で登場することはあるぐらいで、人々の生活の中でそうお目見えするものではないのだ。
紀元前に作られ、語られた物語など、科学技術の発達したこの時代の前では見る影もない。
しかし、ここに例外が一つ。
この世界にまだその怪物が確かに呼吸をしている証拠がある。
最近、とある高校で、囁かれている噂である。
「ねえねえ、知ってる?」
「何が?」
「怪物が学校の中に入り込んだ話よ」
「怪物って?」
「キメラよ、キメラ。確か、頭がライオンで、体がヤギ、尻尾が蛇っていう……」
「馬鹿じゃないの? そんなものが学校に、そもそもこの世にいるはずがないじゃない」
「本当なんだってば。どうにもその怪物、人を襲うらしいよ」
「そりゃ、怪物だから、そういうものなんでしょ?」
「ああ、信じてない顔だ」
「信じると思って話をしてるんだとしたら、おめでたいことね」
「むう、そんなこと言ってると……」
「言ってると?」
「キメラに襲われちゃうんだから!」