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ペンキ屋ハニー

作者: ぱんちゅう

挿絵(By みてみん)

ここは、お菓子作りで有名なシュガータウン。

ケーキ、クッキー、クレープ、パフェにキャンディ、チョコレート。

いろんなお菓子が作られている町です。

シュガータウンの中には、一軒のペンキ屋があります。

「ペンキ屋ハニー」と呼ばれ、ミツバチの5兄弟が働いていました。


ペンキ屋と言っても、普通のペンキ屋ではありません。

お菓子にハチミツを塗るのがお仕事。

毎朝、シュガータウンの外れにある菜の花畑で、ハチミツを集めて来るのです。


挿絵(By みてみん)

「さあ、朝だ。みんな仕事の時間だぞ」


一番、早起きなのが長男のにっち。

しっかり者で兄弟のまとめ役です。

挿絵(By みてみん)

「まずは、顔洗いと歯磨きだ。それから……」


洗面所に駆け込むのは次男のさっち。

とてもせっかちで何でも早くやらないと気がすまないのです。

挿絵(By みてみん)

「そんなに慌てなくても、仕事は逃げないよ」


ベットからのっそり起きて来たのは三男ののっち。

のんびり屋で一番の食いしん坊。

朝からお菓子のフルコースを食べてしまいます。

挿絵(By みてみん)

「どけよのっち、邪魔だ」


のっちを押しのけてやって来たのは四男のこっち。

やんちゃで何かと突っかかって来る問題児です。

挿絵(By みてみん)

「ケンカは終わった?」


ドアからこっそり様子を伺っているのは五男のあっち。

とても臆病で怖がり屋さん。

いつもこっちからバカにされています。


挿絵(By みてみん)

朝のお仕事はみんなでハチミツ集め。

バケツを持って街外れにある菜の花畑に出掛けます。


ハチミツは一つの花に一滴しか搾り取れません。

なので兄弟で分担してハチミツを集めます。

それでもバケツをいっぱいに溜めるには半日もかかってしまうのです。


午後はようくペンキ塗りのお仕事をはじめます。

今日は大きなパンケーキにハチミツを塗るお仕事です。

挿絵(By みてみん)

にっち、さっち、のっち、こっち、あっちと一列に横に並んで、いっせいに塗りはじめます。


「ボクが一番だ」


せっかちなさっちは一人で黙々と先に進んでしまいます。

それに対抗するのがこっち。


「負けるもんか」


さっちに負けじと素早く塗って行きますが、仕上がりは雑。


「そんなに慌てるとすぐに息があがっちゃうよ」


そんな二人を気にせずのっちはのんびり。

自分のペースで端から端まで塗って行きます。


「待ってよ」


一番、遅いのがあっち。

こっちの塗り残しも、いっしょに塗って行くため、一番遅くなるのです。

そんなあっちをフォローするのがにっちの仕事。


「二人でやればすぐに終わるよ」


あっちといっしょにこっちの塗り残しを塗ります。

それだけではなく、さっちやこっちに注意するのも仕事です。



春が過ぎると日照りが続く日が多くなりました。

まったく雨が降らず、花畑の菜の花はシュンとしおれてしまいました。


「これじゃあダメだ。菜の花が枯れていてもう、ハチミツが採れない」

挿絵(By みてみん)

にっちはしなびた菜の花畑を見て、ガックリと肩を落としました。

ハチミツが採れなければ、ペンキ塗りの仕事もできません。

ペンキ屋ハニーの一大事です。


「どうするの?」


ミツバチの兄弟は腕を組み、お互いの顔を見合わせます。

すると、にっちが口を開きました。


「あの山の向こうに花畑がある。けれど、そこに行くまで3日もかかる」

「仕方がないよ。その花畑へ行こう!」


さっちが身を乗り出して言いました。

しかし、あっちは急に不安になってしまいます。

挿絵(By みてみん)

「でも、3日もかかるんだよ。ボクたちだけで辿り着けるかな」


続けて3日も空は飛べません。

歩いて山を越えるのは、もっと大変です。

その先にどんな困難が待ち構えているのか、あっちは考えるだけで不安になってしまうのです。


「行きたいヤツだけで行けばいいんだよ。臆病者はほっておいて」


こっちがイラついてあっちを睨みました。

怖がりのあっちにしびれを切らせたのです。

すると、にっちはあっちに優しく言いました。


「休み休み行くから大丈夫だ、あっち。心配はいらないよ」


あっちはホッと腕を撫で下ろしました。


「じゃあ決まりだ。明日の朝、出発するからそれまでに準備をすませておくんだぞ」


にっちはみんなに伝えると、さっそく旅の準備をはじめました。



次の日の朝。

ミツバチの兄弟は荷物をまとめて山の向こうにある花畑を目指して飛び立ちました。

持って行くものはハチミツを集めるバケツと、3日分の食料だけ。

あまり荷物を持って行くと返って邪魔になるので軽装にしたのです。

挿絵(By みてみん)

「今日はこの野原を越えるぞ」


広い野原を越え、大きな川を渡った先に山の入口があります。

その山を越えれば目的地の花畑。

休み休み飛んで行けば、なんなく辿り着ける距離です。


「ちょっと待ってよー」


一番後ろに飛んでいたのっちが助けを呼ぶように叫びました。

自分の体よりも大きな荷物を背負い、今にもつぶれてしまいそう。

挿絵(By みてみん)

「その大きな荷物は何だ?」


にっちが尋ねると横にいたあっちが言いました。


「それ全部食料だよ。昨日の夜、冷蔵庫からリュックに詰めているところを見たもん」


にっちは呆れ顔で言いました。


「持って行くのは3日分だけだ。残りの物は置いていくんだ」


のっちはしぶしぶ食料を減らすと軽くなったリュックを背負って空へ飛び立ちました。

広い野原は昆虫たちのアイランド。

カマキリ、バッタ、テントウムシにモンシロチョウ。

野原を駆け回りながら楽しそうに遊んでいました。

挿絵(By みてみん)

「ミツバチくん、お出かけかい?」


草の上で昼寝をしていたキリギリスの兄さんが声をかけて来ました。


「ちょっと、あの山の向こうまで」

「それは大変だ。山は険しいから気を付けるんだよ」


にっちが答えると、キリギリスの兄さんは優しくアドバイスをくれました。


広い野原の端まで来るとようやく大きな川に辿り着きました。

日もだいぶ傾いて来たので、川を越えるのは明日にします。

兄弟は、草の上に腰を下ろし、羽を休めました。

挿絵(By みてみん)

「これが楽しみなんだよな……モグモグ」


のっちはさっそくお弁当を食べはじめます。

他の兄弟より一回り大きいお弁当箱の中には、いろんなお菓子の詰め合わせ。

満面の笑みを浮かべながら、お腹が膨れるまで食べました。

一方、さっちとこっちは早食い対決。

どこでも張り合わないと気がすまないのです。


「さあ、明日は川を越えるぞ。みんなゆっくり休むんだ」


食事を終えたにっちは一足先に休みました。



二日目の朝。

挿絵(By みてみん)

「今日はこの大きな川を越えるぞ。途中、羽を休める所がないから、一気に飛ぶんだ」

「一気になんて飛べないよ」


あっちが急に弱音を吐きます。

その言葉を茶化してこっちが言いました。


「あっちには無理だ。一番、鈍くさいしな。しかし、ボクなら平気。こんなの朝飯前だ」

「お前だって似たようなもんだろ」


さっちがこっちをバカにして言いました。

二人の熱い視線がバチバチと火花を上げます。

それを制するかのようににっちが言いました。


「高く飛べば大丈夫だ。うまく風に乗れば、ひとっ飛びで川を越えられる」


すると、岩の上で羽を休めていたトンボのジイさんが言いました。

挿絵(By みてみん)

「お主ら、この川を越えるつもりかい?」

「そのつもりだけれど」


にっちが答えると、トンボのジイさんは急に不安げな表情をして言いました。


「空の上は風が強いから気を付けるんじゃぞ」


さっそく、ミツバチの兄弟は荷物をまとめ、空へ飛び立ちました。

しかし、トンボのジイさんの言っていた通り、空の上は風が強く、今にも吹き飛ばされてしまいそう。


「みんな、列になって飛ぶんだ」

「そんなのんびりしてたら、日が暮れちまうよ」


にっちの提案を無視して、さっちが前に進み出ます。

挿絵(By みてみん)

すると、突風がミツバチの兄弟を襲いました。

その衝撃で一番後ろのあっちが飛ばされてしまいます。

すかさず、こっちが手を伸ばしあっちの手を掴みました。


「何をやっているんだよ!」

「……ごめん」


あっちは申し訳なさそうに謝りました。

いつもはバカにしてくるこっちだけれど、いざという時には頼りになる。

そんなこっちの姿にあっちは少しだけ見直しました。


「二人とも大丈夫か?」


一番先頭に飛んでいたにっちが二人を心配します。

すると、こっちとあっちは手を振り返し答えました。



三日目の朝はあいにくの雨。

空を飛んで山を越えることはできません。

仕方ないので兄弟は歩いて山を越えることにしました。

挿絵(By みてみん)

「後、どれくらい登るの?もう、疲れちゃったよ」


のっちが気怠そうに呟きました。


「まだ、1/3も登っていないぞ、頑張るんだ」


にっちは先頭に立って、みんなを励まします。

すると、山の上から何か丸いものがコロコロと転がって来ました。

挿絵(By みてみん)

「おや、こんな雨の中、登山かい?」


気さくに声をかけて来たのはダンゴムシの母さん。

体を起こし、どっこいしょと腰を伸ばしました。


「山の向こうにある花畑に行かないといけないんだ」

「この先は土砂崩れが起きやすいから、気を付けるんだよ」


ダンゴムシの母さんは優しく伝えると、丸くなってコロコロと山を下りて行きました。


ミツバチの兄弟の前には険し山道が立ち塞がっていました。

しかも雨でぬかるんで歩きづらいうえ、羽が雨で濡れて体を冷やします。

余計にみんなの体力を奪って行きました。


「あの岩陰でひと休みしよう」


ちょうど5人がすっぽり入れるぐらい抉れた崖がありました。

さっそく、兄弟は荷物を降ろし、羽を震わせて水滴を払います。


「冷て。水を飛ばすなよ」


こっちがさっちに注意しました。


「ああ、ごめんごめん。そんな所にいるとは思わなかったよ」


さっちはわざとらしく周りに水滴を飛ばします。

すると、カチンと来たこっちがさっちに掴みかかりました。

挿絵(By みてみん)

「このやろー!」

「何を!」


さっちとこっちは取っ組み合いのケンカをはじめます。

こうなってしまったら誰も手に負えません。

飽きるまでやらせておくのが手ですが、まだ、旅の途中です。


にっちが二人を引き離すと、語気を荒げて言いました。


「こんな所で体力を使ってどうするんだ!まだまだ、先があるんだぞ!」


にっちの剣幕に押されて二人はケンカを止めました。


「さあ、出発だ。花畑まであと少しだぞ」


にっちが号令をかけると、ひとり居眠りしていたのっちを叩き起こして出発しました。



雨宿りしている間に雨も上がり、空は青く晴れ渡っていました。

ミツバチの兄弟は一列に並び、山道を登って行きます。

すると、大きな岩が道を塞いでいました。

挿絵(By みてみん)

「にっち、どうする?」


さっちは大きな岩を見上げて言いました。


「こんな岩、ボクが動かしてやる」


こっちが一歩前に出ると、力いっぱい岩を押しました。

けれどピクリとも動きません。


「みんなで押せば動くんじゃない?」


あっちの提案でみんなで岩を押すことにしました。

しかし、ウンともスンとも言いません。

ミツバチの兄弟は腕を組み考え込みました。

何か良いアイデアがないかと頭をひねります。

すると、のっちが落ちていた木を指さして言いました。

挿絵(By みてみん)

「あの木をつっかえ棒にして片側を押せば、てこの原理で動くんじゃない」

「なるほど、のっちにしては冴えてるな。ようし、みんなで木をつっかえ棒にして押すんだ」


兄弟たちはさっそく木を岩と岩の間に挟みます。

そして木の端を持つと力いっぱい押しました。

しかし、息が合っていないので全くビクともしません。

挿絵(By みてみん)

「みんなバラバラじゃダメだ。ボクたちは五人でひとつなんだぞ。みんなで息を合わせて押すんだ。せーの!」


にっちの掛け声に乗せてミツバチの兄弟が力を込めます。

すると、岩がぐわっと持ち上がりました。


「もう一息だ。せーの!」


そして、もうひと踏ん張りすると岩が大きく持ちあがり、ゴロンと転がって崖下へ落ちて行きました。


「やったー!!」


ミツバチの兄弟はお互いに抱き合って喜びます。

はじめて力を合わせて困難を乗り越えたので、喜びはひときわ。

バラバラだった5兄弟は、ようやく一つになれたのです。


挿絵(By みてみん)

山を越えると目の前が黄色一色で染まりました。

咲いていたのはアカシアの花。

そこはアカシア木が集まったアカシアの森でした。


アカシアの花から採れるハチミツはとても貴重なもの。

クセがなく、さっぱりとした味で何度でも食べられる上質なハチミツなのです。


「みんな、ハチミツ集め開始だ」


にっちが掛け声をかけると、ミツバチの兄弟はバケツを持ち出し、それぞれアカシアの花に向かいました。

そして、一つの花から大事な一滴を搾り取りバケツに入れます。

5人で分担して、ようやく半日かけてバケツ一杯集めました。



「さあ、みんな。あとは街に戻るだけだ。」


にっちが荷物をまとめているとのっちがボソリと呟きました。


「ちょっと味見してみようよ」


普段なら注意しているにっちですが、この時はのっちのアイデアに乗っかりました。

大変な冒険をして来た自分たちへのご褒美です。

挿絵(By みてみん)

「あま~い」


みんなでハチミツをひと舐めすると甘い香りが口いっぱいに広がりました。

それはこの上ない味で、とても幸せな気分。

一仕事した後だから余計に体の隅々まで染み渡りました。


その後、ミツバチの5兄弟だちが街に戻ってペンキ塗りをすると、大評判になりました。

アカシアのハチミツもそうですが、何より息の合った仕事ぶりに街の人たちが感動したのです。


それからペンキ屋ハニーは街一番のペンキ屋になりました。


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― 新着の感想 ―
兄弟いつまでも仲良くしてほしいですねー。ふふふ╰(*´︶`*)╯♡
2025/02/03 07:30 退会済み
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