8話 「何度目かの霊退治」
----10月3日 金曜日
点滅する街灯。月下の月明かり。
車が1台も通らないくらい人気の無い道。
そこに二人の男女の足音だけが響く。
静寂な空間に男の声が落ちる。
「今日は月が綺麗ですね」
「…なによ、それ告白?」
「へっ?あーいや、すみません。違いますよ。ただ今日の月の感想を言っただけですよ。」
「あら、そう」
「知ってます?『今夜は月が綺麗ですね』の意味が告白として使われている理由」
「知らないわ」
「実はですね、福沢諭吉が授業で『I love you』を『月が綺麗ですね』って訳したのが始まりらしいですよ」
「へー、そうなの。…そんなこと知ってるのに月の感想をいきなり言ったの?紛らわしい…」
「あはは。ちょっとからかいました。すみません」
「えっ!?許さないわ!…っていうかこれから除霊しに行くのよ?緊張しないの?」
「してますよ。だから、こうやってどうでもいい会話でほぐしてるんじゃないんですか。それに今まで退治した霊は見回りでたまたま発見したやつだけすよ。今回みたいな霊怪探知機に引っかかる程の霊力の持ち主なんて初めてですからね」
「ふーん、緊張してなら言いなさいよ。でも安心しない瑠璃、先輩である私がついてるからね!!守ってあげるわ!!」
それは死亡フラグなんだか。
黄色い0号機に乗る少女のようなセリフを吐いてきたこの女は俺と歳は同じだけど霊退治歴がちょっと長いだけで無駄に先輩面してくる。その名を天ノ川エリス。いきなり自分が霊媒師であることを告白し、「知ったんなら手伝いなさいよ!!」と言わんばかりのテンションで迫られ、今に至る。
俺たちは毎週金曜日にパトロールをしている。しかし今回はエリスの家にある霊探知機が霊力を探知したとかでそれを対処しに行くところだ。緊急事態ってこと。
今俺たちはかなりのスピードで走ってるが、全然疲れない。それには今俺たちが着てるこの白装束の服に理由がある。このBLE〇CHのク〇ンシーが着てそうなこの服。
なんと、この服は天ノ川家の秘密道具らしい。普段はチョーカーの形で解号を唱えると霊力で出来たこの服が出てくるっていう仕組みだ。コスプレみたいな服だが霊力で出来ているので一般人からは見えない。名前は『対霊怪礼装』と言うらしい。
もう1つ武器として日本刀みたいなやつも持っている。こっちは霊力を通しやすい石で出来ているらしいから一般人にも見える。
職質されたら一発アウトだ…思ったが素材が金属じゃないし、霊力を込めないと鞘から抜けないから大丈夫とのことだ。
それでも、能力はあって霊力も込めると刀身に入っている溝に流れていき火力が上がったり振りやすくなるようだ。
こっちの名前は聞いてないな…じゃあ『霊斬刀』とでも呼んでおくか。
そんなこんなで目的地に着いた。
「この公園ですか?」
「ええ、そうよ。ほらあそこ見える?」
そう言ってエリスは公園の中央、遊具は何にも無い広場を指さした。何にも見えないが…
「なによ、見えないの?ふんっ、まだまだね。しょうがないから特徴言ってあげるわ。」
「すみません。ありがとうございます」
エリスはやや嬉しそうだ。俺が未熟だからだろうか。Sなのか。彼女は普段よりやや高い声色で説明を始める。
「ちゃんと聞きなさいよ。…えーっと、頭でっかちで体操座り髪の毛が長いブサイクな人型の奴ね。色は暗くて分かんないけど暗めよ」
霊を目視するには自身の目に霊力を集める必要があるのだが、俺はまだそれが上手くいかない。霊力の強いやつほど隠れるのが上手いのだ。
しかし、それでもいくつか見る方法はある。それがその存在を見る以外で認知することだ。
その方法の1つが特徴から姿を想像することだ。
そこに見えない物ををあると思って見ると、想像した姿と実際の姿がシンクロして見えてくるというカラクリだ。にわかには信じ難いがね。
すると、ピントが合わない虫眼鏡を覗いているかのようにぼんやりと何かが見えてきた。言われた特徴を参考に姿をもっとハッキリと想像する。すると…
「あっ、見えました。結構キモイッスね」
「あら、案外早いのね…」
エリスは俺が簡単にやってのけたので不服そうなのか、腕を組みそっぽを向いて言った。
ちなみに一度ハッキリ霊を認識したらずっと見えたままだ。
「私も準備出来たわ」
「なんのですか?」
「結界術よ」
「なんですかそれ!?」
「あっ、言ってなかったわね。あいつは強そうだから戦闘が長引くハズよ。たがら他の人に見られないように結界を貼るのよ」
そんなんあったんか。俺が知ってるのは除霊術と降霊術と霊縛術だけだったのに。大事な事は早めにいってくれ。
「じゃあいくわ」
エリスは右手を突き出し、いつになく真剣な表情で詠唱を始める。
「我が力をもってこの場を光に包み彼の者を滅ぼす場を整えん─『視認不可領域』展開!!」
その言葉と同時に公園の4点の端から光が登る。それが箱の形を成し、俺たちを包む。
「戦闘開始よ!!」