6話 「救世主─瑠璃」
「弁明しに来ました。この事故は自分の責任です。彼女は悪くありません」
そう言って俺は高橋先生と天ノ川の間に立つ。助けに来たヒーローみたいにな!!
「な、なんだね君、急に…」
「ですから、この事故は僕が提案したものです。彼女には手伝ってもらった。ただそれだけです。なので叱るなら僕を叱ってください」
どうだ?結構イケメンな事言ったんじゃないか?
俺は自信満々の表情で高橋先生との対話を続ける。
「本当かね、天ノ川君」
「えっ、あっ、えっ?いや、違うわ。私が提案して彼に手伝ってもらったのよ」
なにィィ!?おいおい、天然さんかな?エリスさん。
しまったな、俺が庇って天ノ川を助けようっていう作戦が今消えたよ。まさに水泡に帰すだよ。
「?どういうつもりだね新宮君」
高橋先生はやや混乱した様子で俺に話しかける。
こうなったら第2プラン─かっこいいからプランBと呼ぶか。プランBでいく。
本当の事を話そう。無実は無理でも減刑は行けるはずだ。敏腕弁護士でも同じ判断を下すだろう。
「すみません、嘘つきました。ですが、この事故に僕も関与している点は事実です」
「と言うと?」
嘘をつかれたことについては納得いっていない様子だったが、話を進めてくれるらしい。しかし俺は今の状況を理解してない。状況っていうのはさっきまで天ノ川はどんなことで怒られていたってことだ。それを確認ついでにこっちの事情を話そう。
「そもそも、僕と天ノ川さんには悪意はありませんでした。スピーカーと時計が落ちるような仕掛けはしませんでしたし、動機もちょっとしたドッキリのつもりです。なので…そのあんまり怒らないでください」
結局落とし所が分からず適当な事を言ってしまった。これだからコミ障は…。だが、悪気は無い。天ノ川は悪者じゃない。これが伝われだOKだ。もっとも既に天ノ川の方から伝わっていたかもしれないが。
よく良く考えればそっちの可能性の方が高いか。失敗したか?
「なんだと?あれを落としたのはわざとでは無いと?」
おっと、そこから知らなかったのか。もしくは、俺が来るまで信じていなかったのか。どちらにせよこの場面では故意では無いという事を全面に出そう。
「はい」
「だとしてもだ、お前たちが仕掛けとやらを仕掛けたから、あれらは落ちたのだろう?ならば許されん」
「いえ、僕たちがやったのはスピーカーの上にその手に持っている小型を置いて、時計の裏に御札を貼っただけです」
この際時計が回転する仕掛けは黙っておこう。にしても高橋先生は天ノ川がスピーカーを落としたと思ってたのか。一体どんな会話をしたらそんな事に…
「つまり、お前たちはスピーカーの上に物を置き、時計に触れた。という訳だな?」
「はい」
「はぁ、スピーカーの上に物を置き、時計に触れた。だから、落ちたのだろう?」
「─?」
「こんな物をスピーカーに置いたら、スピーカーが支えられず落ちるのも道理だ。時計に無闇に触れれば落ちてしまうことがあるのも道理だ」
「は?」
あまりにもトンデモ理論だった為強い口調で返してしまったが、何に言ってんだ、コイツ。こじつけだろ。
横の奥羽先生も呆れた顔してるよ?
お前片手で例のスピーカー持ってんじゃん。それの重さで教室のスピーカーが落ちると思ってんの?
「君たちが共犯という事は君も霊媒師ごっこをやってるのかね?」
「えっ、なんですかそれ?」
聞き覚えの無い単語が出てきたが、ふと後ろに目をやると天ノ川が目線を下に送り恥ずかしそうにしていた。どういうことだ?
「君はドッキリ、天ノ川君は霊媒師ごっこ…そういう遊びをするからこういうトラブルが起きる…」
これは話を締めくくろうとしてるな、よしよし。
「今回はこれで済んだが今後は気おつけるように」
とか言ってくれるだろう。
そう思った次の瞬間、天ノ川が口を挟む。
「だから、遊びじゃないわ!!」
なんだ天ノ川、「暇だから七不思議造らない?」みたいなテンションだったじゃん。それ遊びじゃんなんでそんな事…いや理由があるのか。
最初は霊媒師ごっこをバカにされて怒ってるのかと思った。それは趣味だからな。俺だって殺人妄想性癖をバカにされたり、ヲタク趣味バカにされたら怒るからな。でもこれは違うな、まさか本当に…
「遊びだ!!ちゃんとした理由も無しに物を壊し、人を怪我させようとし、訳も分からん言い訳で謝罪も無しにだ!!これは犯罪だ、人でなしだ、この学校の生徒にふさわしくない!!下らん趣味でこんな事をして恥を知れ!!」
カチンときた。
前半部分はさっき否定したし後半部分に関しては悪口だろう。腹立つな…ここはこっちも喧嘩売るか。
「謝罪しなかったことは、謝ります」
最初はいい気分にさせる。
「ですが、何度も言うように物を壊そうとしたわけではなく、それを置いただけ落ちたのは経年劣化です。」
「はぁ!?」
高橋先生は今にも反論してきそうな勢いで悪態をついてきたが、それを遮るように俺は続ける。
「それに、犯罪なんて…これは事故ですよ?そんな小さなスピーカーであのデカいやつが落ちる訳無いでしょう?証拠はあるんですか?特に人でなしだの、この学校の生徒にふさわしくないだの、趣味を否定したりって、ただの人格否定ですよね?そういうことら教師が言っていいのですか?
───もしかして、髪の毛と一緒に脳みそまで禿げて分からなくなったんですか?」
俺は皆が触れてはいけないと理解していた先生の禿をバカに喧嘩売った。俺だって正直犯罪って言われた時はたしかにとも思ったが、後半の言葉を聞いて完全に頭に血が上った。
高橋先生は血相を変えた顔をしたが、奥羽先生は口に手を添え肩を震わせていた。天ノ川は後ろにいて見えないがきっと笑って─いや、嬉しそうな表情かな。
「き、君ねぇ!!」
「お分かりいただけましたか?自分がどれだけおかしな事を言っていたのか」
やばいブーメランかもしれない。しかし高橋先生はまんまと釣られた。
「新宮ァァァ!」
高橋先生は1歩前に出で俺に掴みかかろうとした。
そんな激昂する彼を後ろから肩をトントンと叩き宥めようとする姿が現れる。奥羽先生だ。
「落ち着いてください」
「お、奥羽君」
「瑠璃く……新宮君の言う通りです。これは確かに事故でしょう─」
奥羽先生は俺たちの味方のようだ。どうやら先生の方からも説得があるらしい。
「それに、聞いていて思ったのですがあなたの証拠と言うのもあやふや過ぎやしませんか?彼女があれを落としていないという証拠はない。…しかし落としたという証拠もないのです。」
コイツ、証拠すらあやふやだったのか聞いてれば指摘できたかもな。
「教師として有るまじき人格否定に関しても謝罪すべきです。ご冷静になって考えてください」
あーあ、上司が後輩に言われてやんの。にしてもなんで高橋先生はこんな無理矢理、天ノ川を悪者にしようとしたんだ。
「もう授業も終わります。ここは私情なんて関係なしに負けを認めてください」
そう言われ数秒考えるように顔を伏せた高橋先生は再び話始めた。比較的穏やかな表情で。
「た、確かにそうだ…な。これは言いがかりだった。申し訳ない」
そこで俺はフッと微笑み勝利を確信したドヤ顔で、
「分かってもらえれば結構です」
と言った。振り返えって考えると恥ずいことしな。
こういう形で事なきを得たが、気になることがあるな
高橋先生の私情とか、霊媒師のこととか。