3話 「七不思議創造─始まり」
----翌日 3限目 日本史 開始から20分後
作戦決行
「はい、それでは復習です。
1881年自由党を結成したのは誰でしょう。
今日は9月2日なので足して名簿番号11番の人、答えてください」
「あっ、はい、えーと、伊藤、博文?」
「あっ、残念、違います。正解は板垣退助です。
板垣退助と言えば『板垣死すとも自由は死せず』という言葉が有名です。それとセットで覚えると覚えやすいと思いま────」
「─--─/--──--─--─--/--──--」
突然スピーカーから不協和音が鳴り響いた。
その数秒後。
「パリン!!!」 「バシャン!!!」
時計が落ちて割れ、スピーカーが教卓に落ちて共に粉砕した。
「えっ……」
「「「うわぁぁぁ!!」」」
「「「きゃぁぁぁ!!」」」
突如起こった不可解な事態にある生徒2人を除いた全員が悲鳴を上げた。
何が起こったのか、その場でそれを理解しているのは2人の生徒だけだった。
これは──失敗だ。
〖以下回想〗
----9月1日 放課後
「ねぇ瑠璃、ちゃんとやれてる?」
「あ、うん」
いきなり呼び捨てで呼んでくるこいつは天ノ川エリスだ。
俺は今日初めてこいつと話す。
なのに何で下の名前、しかも呼び捨てで呼ぶんだ。
あーでも、そういえば、太志の奴も呼び捨てにされてたな。
馴れ馴れしいとは思わないけど、距離感がよく分からないな。
俺と天ノ川は二人っきりで教室にいる。
太志と弥山はそれぞれ、バレー部とバスケ部なので、放課後は部活で忙しいらしい。
という訳で、俺たち2人はは今、七不思議の1つ目を創るため、教室で仕掛けを施している。教卓を黒板まで動かしてその上に乗ってね。
その七不思議とは…
『突如スピーカーから鳴り出すピアノの音+ポルターガイスト!!』らしい。
しょぼくない?
いや、ね?
実際自分たちで創るとなると難しいし、授業中にいきなり、そんなこと起きたらびびるけど。
それもこれも、どんな仕掛けかによるんだけど。
そんな仕掛けとは…
天ノ川から変な模様の入った小型スピーカーを渡され、それを教室のスピーカーの上に乗せるだけ。席から見えないように。
しょぼくない?
ちなみに、スピーカーの位置は黒板の上の真ん中。
教卓の上。
一方、天ノ川の方は掛け時計の裏によく分からない仕掛けをしてる。
どうやら、スピーカーの音に合わせた仕掛けらしい。
掛け時計が3時の部分を支点にして45度回転して、その後ろに貼っておいた御札が顕になるらしい。
こっちは凝ってるなぁ。
時計の位置は黒板上でスピーカーの右横。
あっ、右っていうのは席から見てね。
それと、天ノ川は今俺と同じ教卓の上で作業している。
ちょっと動くと当たりそうだ。怖い。
御札っていうのは、霊を退けるためのものだけど、単体で見ると正にホラーグッズだからな。てゆうか、御札の模様と小型スピーカーの模様にてるなぁ。
そんなのが時計の裏からいきなり出てきたらびびるよな。
うん、しょぼくない。
それより、気になることがある。
「あのー、天ノ川さん」
「なによ?」
「このスピーカーってどうしたんですか?」
「??」
俺は渡された小型スピーカーを指さしながら聞いたが、
「どうしたって、どういうこと?」と言っているような表情でこっちを見てきた。
おいおい、なんで伝わんないんだよ。
いや、俺の言葉が足りなかったのか。
うん、そうだな、人のせいにするのは良くない。
「いや、このスピーカーって天ノ川さんが買ったんですか?」
「ええ、そうよ」
「高かったんじゃないんですか?」
「知らないわ、でも普通でしょ」
何!?知らない?
自分で買ったんじゃないのか。
それとも、お嬢様なのか、コイツ。
まぁいっか、俺からお金を取るわけではなさそうだ。
「それと、これっていつやるんですか?」
「明日の3限目よ。具体的な時間は…そうね、開始20分ってところかしら」
「なんで3限目なんですか、確か日本史ですよね?」
「…そんなの、3限目が1番暇だからに決まってるじなゃない」
なるほど、納得だ。確かに3限目は暇だ。
1、2限目は寝起きでボーっとしてるし、
4限目はお腹すいてるし、
それ以降はもうすぐ学校が終わるっていう高揚感があるからな。
でも、個人的には5限目が1番眠いんだが。
お腹いっぱいになったら眠くなるよな。
「では、どうやって仕掛けを発動するんですか?」
「私がやるわ、やり方…は秘密よ」
「あっはい、わかりました。
えーと、仕掛け終わりました。これでいいですか?」
「んっ、多分いいわ」
多分!?確認とかテストしないの!?
やり方は秘密といい、確認をしないといい、なんか不安になること多いなぁ。
まぁ大丈夫か。
「それじゃあ、終わったわね。帰りましょうか」
「あっ、はい」
天ノ川は直立不動のままこっちを見ていた。
今「帰りましょう」って言ったよな。
なんで動かないんだ?
「早く行きなさいよ」
「えっ?」
「一緒に帰ったら、変な目で見られるでしょ!!
だから、先に帰りなさいよ!!」
確かにな、一緒に歩いてるだけで
「お前ら付き合ってんのかよ!?」とか言ってくる奴いるからな。
高校に入ってからはそんな奴見たことないけど。
「あっ、はい、じゃあ、また明日」
「……ええ、じゃあね。ありがと!!」
「えっ、あっ、はいっす」
お礼言われたー。
ビックリしたけど、なんか、嬉しいな。
感謝されるのって。
「どういたしまして」って言うべきだったかな。
でも、「どういたしまして」って言いづらくない?
長いし、どういたしましての、しまし辺りが噛みそうになる。
だから、俺は「はい」ってこたえたんだけど。
やっぱ「どういたしまして」って言えば良かったかな。
いや、もう遅いか。
そんな事を考えながら俺は教卓を元の位置に戻し、カバンを持って踵を返す。
「明日か…楽しみだな。
みんなどんなリアクションするんだろ」
〖回想終わり〗
----9月2日 3限目 同刻
「えっ……」
「「「うわぁぁぁ!!」」」
「「「きゃぁぁぁ!!」」」
周りは悲鳴を上げてる中、疑問と絶望の声を上げたのは俺。
──では無い。
隣の席の天ノ川だ。
俺はというと、想定外の出来事に唖然としていた。
これは──失敗だ
落ちるはずのない、スピーカーと時計が落ちた。
表情的に天ノ川にとっても予想外のことだったんだろう。
テストはしなかったけど、スピーカーが落ちるわけがないからな。時計は…天ノ川のミスだろう。
幸いパッと見、怪我人は居ないな。
教卓とスピーカーがぶっ壊れてたから、
1番危なかったのは先生だが、たまたま教卓から離れた教室左側に居たからな。
あっ左っていうのは席から見てね。
「何があった!!!」
隣の教室から男がやって来た。
俺たちのよく知る男。
一年五組の担任教師兼生徒指導員…
「高橋先生…」
「大丈夫かね!!奥羽君!!」
「は、はい。たまたま当たりませんでしたので。生徒たちにも怪我人はいないと思います」
「そうか、それはよかった。…んっ?」
高橋先生は壊れた教卓の残骸、
否、スピーカーの残骸の近くにあるものを発見した。
それは──天ノ川が用意した小型スピーカーだった。
おいおい、無駄に頑丈かよ!!
「まさか、天ノ川君…か?」
嘘だろ?なんでそれが天ノ川のだって分かるんだよ。
その直後だった高橋先生は憤怒と失望の入り交じった、声で言ったのは。
「天ノ川…エリスこちらに来なさい」