表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
改新奇譚カリバン~封じられし魔王~  作者: 北原偶司
樹海之篇
60/67

五六ノ業 いつまでも、当たり前の友達で…

 ディアナはその決意表明を静かに聴いた。

 ノサティスの言葉も眼差しも、全て覚悟と確信に裏付けられている。


 しかし、彼女はすぐ、悲しげに首を振った。


「…多分、無理だと思う」


「確かに、私では頼りないかもしれぬ。だが、――」


「そうじゃないのよ。…だって、ルナはただ操られているってだけじゃないもの」


 ノサティスは、よく分からないと首を傾げて視線で問い掛けた。

 ディアナは俯いたまま、眠っているヴィスを視界の端に入れて続ける。


「ぬらりひょんの洗脳術というのは、その一瞬だけ感情を送り込むというものだという推測でしょう? きっとそれは間違っていない。…でも、それなら、その感情に理由付けを行っているのは本人に違いないじゃない。ヴィスは元々、『敗けを許さない』『自分が最強』っていうプライドがあって、ぬらりひょんはそこにタイミングを合わせて『殺意』の感情を送っていただけ。プライドと殺意を繋げて考えて暴走したのはヴィス自身。……今のルナがあたしに敵意を抱いているのは、…ぬらりひょんに憎しみを植えつけられているからってだけじゃない。あの子は元々、あたしを憎むに十分すぎる程の理由を持っていた。…ずっと前から恨まれていたのよ、あたしは……」


 ディアナとルナとの間に何があるのか、ノサティスは詳しくは知らなかった。

 そのことの説明を受けた訳ではないし、彼が知っている二人はいつだって仲良くしていた。

 だからこそ、彼は、ルナがディアナを嫌っているだなんて思わなかった。


「仮に、ルナがお前を恨む理由が有ったとしよう。しかし、それでもお前を師と仰いで、仲間だと言って笑っていたルナが、本気でお前を捨てるような真似をしているのは異常ではないのか? …お前を憎んでいたというのなら尚更、それでもお前を大切にしたいと思っていたその心こそ、奴の本心なのではないのか?」


 ディアナは何も言えなかった。

 反発するような気力も無く、それでいて同調できるほど気楽でもなかった。

 ノサティスは、後ろ髪を引かれる思いで彼女の傍を後にする。

 遠くなっていく彼女の姿を振り返りながら、彼は自分にも言い聞かせるように、


「…大丈夫だ、ディアナ。……私は今も覚えている。まだ非力だったかつてのルナは、泣きながらも必死に私からお前を庇っていた。…あの強き意志が、失われてなどいるものか…!」


 そうして拠点を目指して走っていると、ルナは自ずから仙攻丹を使って走ってきていた。

 両者は鉢合わせると向かい合ったまま立ち止まる。


 やはりヴィスとディアナが心配で戻ってきたのだな、とノサティスは喜びかけた。

 しかしそれも束の間、すぐに彼の表情は曇る。


 ルナの眼は、そんなことを考えていると推察するには無理があるほど、冷たく鋭くなっていた。


「…どうしたんでい、ノサティス。ヴィスを送ってやるんじゃなかったか?」


「…いや…」


 ノサティスは、それに大きく首を振り、訴え掛けるような強い眼を向けて切り出した。


「お前を、救い出しに来た」


「…救う? そりゃまたよく分かんねぇな。おめえがディアナを殺してくれるってのか?」


 ルナの言葉に、ノサティスの決意が少し揺れる。

 ルナがディアナを憎んでいるのは明らかだったが、殺そうとまではしていなかったはずだった。

 『ディアナなんかどうなっても良い』と云った発言も、ディアナなら自力でどうにかするという想定ありきのことで、死ねばいいというようなつもりとは思わなかった。


「…どういうことだ。…何故、ディアナを殺すなどと…」


「ディアナが全ての元凶だ。あいつさえいなけりゃにぃちゃんは独りで苦しむようなことは無かった。…あいつさえ死ねば、にぃちゃんももう復讐なんかしないでくれるって言うんだ。だから何としてもオレの手で殺す」


「……聞け、ルナ。お前は操られているだけだ。ぬらりひょんの術で憎しみを煽られて、それしか見えぬようになっているだけなのだ」


 ルナはノサティスの説得に、然程驚きもせず「ふぅん」と返す。

 そしてゆっくりと右手をノサティスの眼前に翳す。


「…その術ってなぁ、こんなやつか?」


 直後、ノサティスは思考がぼやけてクタリと後ろに倒れかける。

 身体の揺れにハッと気を取り直し、両足で地面を踏み締めて体勢を戻す。


 その場を凌いでからノサティスは漸く理解する。

 ノサティスは今、ルナの術で眠らされかけたのだ。


「…ル、ルナ…お前、それは…!」


「…『ぬらり』ってのは、術にすりゃあ単純で、相手にテレパシーの発動を強制する命令を送り込むってだけのもんだ。いくらか術の習得に幅が利く奴なら、理屈が分かっただけで真似できる。そしてオレは、犬神に『ぬらり』を使った。右手を槍にして犬神を貫いた時だよ。丁度あいつも色々考えてた時だったから色々知ることができた。ぬらりひょんが使う『司念波(しねんは)』って術のこと、地下に隠されたサイクロプス達のストック場所、九尾を解き放つ段取りもな…」


 ノサティスはルナの才能に恐怖した。

 彼ではとても追いつけない程の学習速度と思考力。

 そんな相手に、彼は今から説得を試みなくてはならないのだ。

 しかし、そんな弱音を吐いてもいられなかった。


「…ならば、その情報を基に全員で戦うべきだ。ヴィスドミナトルとディアナも連れて…」


「いや、そんなことする必要はねぇよ。オレがディアナを殺せば、そもそも怪霊衆と戦う理由が無くなる。手っ取り早く全部が解決するんだぜ」


「さ、さっきも言っただろう! お前はぬらりひょんに操られているだけだ! その司念波とか言う術の仕業で、お前はディアナへの憎しみを増幅させられている! お前がディアナを殺すなどと馬鹿げたことを考えるのはそのせいなのだ!! 分かったなら早く目を覚ますのだ、ルナ!!」


 ノサティスの必死の呼び掛けに、ルナは「ハッ」と鼻で笑った。

 しかし、そんなことでは彼も折れたりはしない。


「ぬらりひょんには感謝してるぜ。…前までのオレは、…辛かった。ディアナのせいで、オレやにぃちゃんが、って……そう考えること自体、最低なことだと思ってたんだ。ディアナは良い奴なのに、友達なのに、ってさ…自分に歯止めをかけて生きてた。…けど、今は違う。そんなこと気にするのも馬鹿らしいと思えるくらいにディアナが嫌いだ。殺してやりたいと思ってる。余計な葛藤に苛まれずあいつを殺すことができる。…これは、ぬらりひょんがオレに与えてくれた機会なんだ。だからこの憎しみが消えない内に、オレはディアナを叩き殺してやると決めたんだ」


「…ディアナはもう、センコウタンを多用した副作用で身体がボロボロだ! ろくに戦える身体ではない! そんなディアナを、お前は手に掛けることができるか…!?」


「……それは初耳だな。………でも、自業自得じゃねぇか、それ。にぃちゃんの話じゃ、ペール・ルナール達を虐殺したのも仙攻丹だったとかな。罰が当たったんだよ。当然だ。どちらにしてもオレがやることは変わらねぇ。却って殺しやすくなった」


 ノサティスは、どうすれば彼女を説き伏せられるかばかり考えた。

 彼女が仲間を手に掛けることを、間違っていると気付かせられるだけの理屈を探した。


 …そんなもの、無い。

 ルナにとってその言い分は、全てに筋の通った完璧な論理だ。

 それを覆す程の頭脳を持っている自信など、ノサティスには無かった。


「…っ……! ………っ、…!」


 言葉は飛び出す前に呑み込んでしまう。


 …理屈ではないのだ、今必要なのは理屈ではない。

 今のルナはそんなものでは動かない。

 スティリウスを救うためなら、ルナは今ある論理だって脱ぎ捨てて、何でもやってみせるに決まっているのだ。


 しかし、彼にだってそんなルナの気持ちにも負けない覚悟の自負がある。

 ならば、彼に出来ることは、たった一つ。


 自分の気持ちを素直に伝えることだけだ。


「…私は、お前がディアナと殺し合う様など見たくない…!」


 飾らない真っ直ぐな言葉にルナはポカンとしていた。


「お前達は今日まで友だったはずだ! 憎しみを差し置いてでも、お前は今日まで奴と手を繋いできたのではないか…! 私はその姿に感銘を受けたのだ! 今まで私には、友も親も無かった! だが、人間であるディアナと怪霊王のヴィスドミナトル、そして半怪霊獣のお前が……お前達が隣り合う姿を見て、私は、羨ましく思ったのだっ…!」


「……な、に……言ってんでぇ……」


「その絆は、絶対に失ってはならない! 絶対に壊したくなどないっ…! …行かせぬぞ、絶対に! どうしてもお前がディアナを殺すと言うのなら、私は命懸けでお前を止めてみせるッ!!」


 ルナは暫し、虚を突かれたような顔をしてノサティスの顔を見ていた。

 しかし、その熱意が本物であると知れば知るほどに、彼女の表情は次第に忌々しそうに歪んでいった。


「…やめろ、ノサティス。…てめえがオレに勝てると思ってんのか…」


「勝てずとも止める…!」


「…ガキの癇癪みてぇに…! 黙れってんだよッ…!」


「私が初めて出会ったルナは、ディアナを助けるため恐怖に挑んだ強い女だったぞ…!!」


 ルナはギリッと奥歯を噛み締め、仙攻丹を発動した。

 高速でノサティスの懐へ忍び入ると勢いを乗せた拳で彼の腹部を抉る。


「…うぐっ…! ル、ルナ…!」


「るせぇ…寝てろッ…!」


 続けて真下から顎を打ち上げ、胸を打ち下ろし、馬乗りになって何度も殴り付ける。

 仙攻丹を何度も掛け直し、息を切らしても、彼が気絶するまでルナは拳を止めなかった。


 そして、とうとうノサティスの顔が腫れ上がり、ピクリとも動かなくなると、ルナは肩で息をしながら立ち上がり、見下ろした。


「…ハァ……ハァ…………っ、…ハァ…」


 ルナは震える右腕を左手で押さえながらノサティスの横に退き、跪いて彼の脈を取る。

 気を失っているだけだと分かると溜め息と共に胸を撫で下ろす。

 そして小さく、「…殴って、ごめんな」と呟くと、ズルズルと引き摺りながらノサティスを背負い、空を飛んで進んでいった。



※※※※※※※※※※※



「……あたしは、どうすべきなのかしらね…」


 手持ちの仙活湯を全てヴィスの口に注ぎ、彼の頭に膝を貸してやっていたディアナは、途方に暮れて独り言ちた。

 ここに至ってなお失われない『生きたい』という心が、自らの罪を償う手段から『死』を取り除こうとする。


 …それでもやはり、死ぬべきなのだろうか。

 生きていいと思えたのは、一重に被害者であるルナの許しを得たからだった。

 それが撤回されたなら、やはり自分は生きてはいけないのだろう、とディアナは瞳を伏せていた。


「…あ」


 伏せた視界に服の胸元の隙間が入り、その中に隠してあったネックレスの輝きに吐息が漏れる。

 …そこで結論が出た。


「―――よぉ、ディアナ」


 呼ばれた彼女はゆっくりと顔を上げた。

 見るとそこには、ルナがノサティスを横に抱いて宙から降りてきていた。

 その表情には親しみなど無く、獲物を狩る寸前のジッと相手を洞察する感じが漂うだけだった。


「…ルナ…ノサティスを……」


「気絶させてるだけだ、オレはてめえみたいに無闇に殺したりしねぇからな。…ヴィスも気ぃ失ってんのか…。何でか知らねぇけど、どうせディアナがやったんだろ。いつだったかもそうやってヴィスを殴って気絶させてたもんなぁ」


 ルナからの直接的な悪意を真正面から浴びてディアナは力むように唇を噛んだ。

 ヴィスの頭を地面に移し、その場に立ち上がる。

 真っ直ぐ、躊躇しない足取りで近づいてくるルナに、ディアナは僅かながら身を強張らせた。


「まだ何もしねぇでやるからヴィスから十歩分離れろ、ディアナ。ノサティスを隣に寝かすから」


 ディアナは意外に思い目を丸くし、ルナへの警戒は解かないまま言われた通りに横歩きで離れていく。

 ルナも彼女の動向を監視しつつヴィスの傍に膝をついた。


「…今攻撃したらヴィスを殺す。そこで待ってろ」


 ルナが厳しくディアナを睨み付けて牽制した。


「そんなこと…する訳無いじゃない…」


「そうだな。オレもヴィスを傷つけたくねぇ。だから黙ってそこにいろよ」


 悲しく告げたディアナの言葉はまるでルナに届かず、そうして更なる警戒が返った。

 ルナはいつでも反撃に出られるように注意深くディアナを見ながら、ゆっくりとノサティスを地面に横たえる。


 ルナは一瞬だけディアナから眼を離し、ヴィスとノサティスの額をそれぞれ優しく撫でると、祈るように目を瞑って「…すぐ戻るから、待っててくれな」と呟く。

 そして漸く立ち上がると、ルナはクイッと顎を振って告げた。


「ヴィス達を巻き添えにしたくねぇ。向こうでやるぞ、ついてこい」


「…やる、って……何を…」


「てめえを殺すんだよ。理由なんかてめえの胸の中にいくらでも転がってんだろ」


 ディアナは返す言葉を失う。

 暫く見つめ合ってからルナが歩き出すと、彼女もそれについて歩く。

 ヴィス達の姿がある程度遠く見えるようになるまで進むと、「ここにする」とルナは制止を掛けた。


「…で、オレはてめえを殺すけど、てめえはどうする? 罪滅ぼしとか適当言って大人しく命を差し出すのか? それともクレドが恋しくて命に執着するのか?」


 ディアナは試すような視線を向けられて、固く両拳を握り締めた。

 …しかし、そうして悩んだのは一瞬だった。

 彼女は強い意思で対抗するようにルナを真っ直ぐに見ると、左手に長剣を構える。


「…あぁ、そう来ねぇとな。そうじゃなきゃオレの気も済まねぇ…」


 ルナもまた、右腕を細く長い刃に変えて姿勢を低く構えた。

 しかし、戦いが始まるその直前、ディアナは大きく首を振って訴え掛けた。


「一つ勘違いを正させて。あたしが今戦おうとしているのは、クレドのためじゃない。まして、自分のためでもない」


「…?」


「…あたしは、あなたがあたしを殺すのを止めるために戦う」


 ルナは目をパチクリと大きく瞬いた。

 暫しの間頭が真っ白になっていた彼女だったが、ディアナが冗談で言っていないと知ると、呆れ返って失笑を返す。


「そいつぁまた思ってもみなかったな。…誰が誰の何を止めるって? ふざけてんのかよ、てめえが生きてる限りオレは幸せを掴むことは永遠にできねぇんだぞ。てめえにはオレに殺されるだけの理由が確実にあるんだ、真っ当な恨みなんだよ。それを止める? 間違ってるからとでも言うのか? 元凶のてめえがか? 素直に殺されたくないって言った方がまだ可愛げがあ――」


「約束したから。何があっても、あたし達、友達だって」


 ルナはその一言に発言を両断された。

 それは、以前にもディアナが交わしてくれた約束。


「あたしは、あたしを許してくれたかつてのあなたを…友達としてのあなたを信じる。あたしも、胸を張ってあなたの友達でいたいから」


 ルナの胸中には様々な想いが、記憶が渦巻いて、咄嗟に何も言葉にできなかった。

 苦しみを捨てるように領域最大の仙攻丹を放ち、ルナは右腕の刃で斬り掛かる。

 ディアナはそれを瞬仙攻と最低限の動きで躱すと、続いた薙ぎ払いを飛び退いて避けた。


 着地時に右足が踏ん張らず、ヨタヨタと身体を泳がせたディアナに、ルナは構わず大声を上げて飛び掛かった。


「胸糞悪ぃ話を蒸し返してんじゃねぇッ! てめえなんかもう友達でも何でもねぇんだよォオッ!!」


 ディアナはそれでも瞳の奥に燃える強い心を決して絶やさなかった。

 そして、瞬仙攻では長期的に対応できないと悟り、領域の三分の二の怪霊力で仙攻丹を発動して追撃の回避に専念する。


「あたしも、もう何度もあなたに殺される夢を見た…。あなたになら殺されても文句は言えない、今もそう思ってる」


「あぁ今がその時だ…! だったらさっさと死んじまえ!」


「ここで死ぬ運命ならあたしは受け入れる…! けれど、そのためにあなたの手を汚させたくはない…!」


 ルナは仙攻丹を重ね掛けしようと領域一杯に怪霊力を溜める。

 その機微に感づいたディアナは遠心力に振り回された右手をルナの脚に触れさせ、その一瞬に吸霊を用いて怪霊力を奪う。


 ルナは顔をしかめ、低姿勢のディアナの顔に蹴りを入れようとする。

 しかし寸前にディアナが支点とする脚の膝がガクンと折れ、それまでの動きの流れから逸脱した方向への回避を成した。


 ルナは膠着したその一瞬を見逃さず、解けてしまった仙攻丹を掛け直して一旦間を開く。

 ディアナは倒れていく身体を左手で地面を突き飛ばして起こし、足が調子を取り戻すと仙攻丹を掛け直して走り出した。


「オレだって命を無駄にすることは今でも大嫌いさ…! でもそりゃてめえを除いての話だ! てめえを殺してにぃちゃんを復讐から解放する以上に大事なことなんか他にあるもんかよッ!!」


 ルナの右腕は全て事前の動作で避けられ、術を使おうとすれば素早く吸霊で防がれてしまう。

 それでも上手く隙をつき、その刃をディアナの首へと振り掛かるに至ると思いきや、ディアナは突然に体勢をガクンと崩し、その不安定な姿勢から身体を回転させて予測不能のカウンターを仕掛けてくる。


 ルナは間一髪でそれを躱すが、どうしても無理のある回避に終始してしまい次の動作へ移る頃にはディアナも体勢を整えてしまっていた。

 …ノサティスから伝えられていたディアナの不調だったが、ディアナは既にその身体を逆利用するまでに自分のものとしていた。


「…それだけの才能があってッ、何で殺しにしか使えなかったんだッ!? てめえが剣士になんかならなきゃッ、死ななくて済んだ奴らは大勢いたんじゃねぇかッ!! てめえさえいなきゃ、ペール・ルナール達は死ななかったんだ…!!」


 激情に駆られ、僅かに注意が散漫となったルナの隙をディアナは見逃さなかった。

 素早く脚を引っ掻けて四肢を絡め、背後から組み伏せる。


 ルナは恨みに血走った目で振り向き、歯を食い縛って仙攻丹を重ねようとするが必ずディアナが先回りして吸霊を使うため術での対抗はできなくなる。

 そしてお互いの仙攻丹が同時に制限時間を過ぎると、ディアナは顔を寄せて胸の内を吐き出した。


「…それがあなたの本心でも、あたしは友達であり続ける! あの日あなたが友達だと言ってくれた…! あの日のあなたの気持ちを嘘にしないために、あたしだけはそれを曲げる訳にはいかない!!」


 その声には、詭弁と詰るには些か真っ直ぐ過ぎる強さがあった。

 それをルナははっきりと耳元で告げられ、僅かにズキリと胸が痛む。


 ――お前達は今日まで友だったはずだ――


 脳裏にノサティスの言葉が過る。


 ――憎しみを差し置いてでも、お前は今日まで奴と手を繋いできたのではないか――


 その必死な叫び声が、今まさに耳に届いた肉声のように鮮明に蘇る。


「――だ、まれッ!!」


 ルナは怪霊術を使わず、押さえつけてくる手を腕力で振り払った。

 人間とルナールでは、素の筋力に大きな差がある。

 そこに仙攻丹の後遺症も重なって、ディアナの手は軽々と押し退けられた。


 ルナの刃がディアナの服の胸元を切っ先で裂いた。

 致命傷は避けたものの、ディアナの胸には確かな切り傷が開き、開けた胸元から微かに血が飛び散る。


 振り払ったその刃で再度突きを仕掛け、今度こそトドメとしようとしていた。

 しかしルナは、宙を舞う血の玉の先に、ふわりと踊っている銀の輝きを見つける。


 後頭部を鈍器か何かで打ち砕かれたかと思う程の衝撃と、血の巡りを通して全身を悪寒が走るような激しい後悔を、その一瞬に覚える。


 ディアナの首から提げられたネックレス、その先には、…誕生日プレゼントのアメジストの指輪が煌めいていた。


「――ッ…!」


 ルナの右手の突きに飛ばされ、ディアナは背中を地面に打ち付けて噎せ返った。

 …ルナの右手はいつの間にか刃からただの拳に戻っていた。


 ――…ルナ、あのね、…あたし、あなたとは友達になれないと思ってた――


 いつか交わしたディアナとの会話が、頭の中に響く。


 ――…ペール・ルナールを殺したあたしには、その資格なんて無いから、って…――


 ルナはそれを振り払うように早足にディアナへと歩み寄っていく。

 右手を刃に変えて…。


 ――……でも、だけどね、…あたしはあなたと友達になりたいの――


 抵抗も、逃げ出しもせず、見つめてくるディアナへと。


 ――…義務感でも贖罪でもない……ただ可愛らしくて明るいあなたと、友達になれたら嬉しいと思う…それだけの気持ち――


 その彼女の上に股がり、覆い被さって。


 ――……もし、そんな気持ちを許してもらえるなら…――


 右腕の刃を高く振り上げ、ディアナの顔を見つめる。

 彼女は受け入れるような優しく、穏やかな笑顔でいた。


 ――オレっち達三人で三之明(みのさや)だろ――


 ――とっくに友達だって、胸張って言えらぁ――


「…ルナ、大好き」


 ディアナの囁く声の上で、ルナは小さな拳をストンと降ろして涙を溢していた。

・ルナ

握力2.7t

パンチ力5.75t

キック力17.2t

耐久度3798

走力162m/s

霊力8,223,379/8,224,380

怪霊領域16,384

術: 我霊閃、我霊射、霊玉操、読霊、吸霊、与霊、具象変化、洗脳変化、幻弄、操霊、発霊、司念波

回復力:9


・ディアナ

握力90kg

パンチ力220kg

キック力550kg

耐久度132

走力9m/s

霊力300/8,210

怪霊領域16,384

術: 仙攻丹、我霊閃、我霊射、読霊、収霊、吸霊、発霊、操霊

回復力:1

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ