番外ノ二
――今は怪霊王国と俗称されるメリカナキダ大陸。
怪霊王ヴィスドミナトルの主導する下、怪霊獣達は大自然に点在する文明人達の住処の悉くを荒野へと変えた。
人々の多くはそれを、神が人類に与えた罰だとさえ考えたが、勿論神も怪霊獣もそんな大層な関心など人間相手に持ち合わせてはいない。
その日も南西の大きな湖へと、次々に潰れた遺体が投げ込まれていた。
…新兵も将校も、破落戸も、女子供も年寄りも、皆平等に原形を留めず破壊され、その亡骸を、便槽に汚物を捨てるような具合にボトンボトンと沈めさせていった。
それを主導するのも王たるヴィスドミナトル。
しかし、指示を下した彼は臭いものから目を背けるような顔のしかめ方をしていて、その隣で同じ光景を眺めながら岩に腰掛けているリーラハールスの方は、下に落ちる花火でも観ているような物珍しい余興の楽しさを顔に出していた。
「…貴様がそうも楽しげにしているのは初めて見るな」
「そうでしたか? 私はいつも楽しく過ごしていますよ、我が王。存外にもあなたは不愉快そうにしておられますが」
「フン…、ゴミ掃除が楽しくてなるものか。俺様は死んだ敵がどうなろうと興味が無い。こんな茶番、貴様の立案でなければ一笑に付していたところだ」
「それはそれは…。では早く済ませるように伝えておきましょう」
リーラは涼しく笑い、手の平からのっぺらぼうの黒蛇を生やして、作業中のサイクロプスの一体へと向かわせた。
その黒蛇はグロテスクな歯茎を剥き出しにして地面を削るように這い、サイクロプスの肩までよじ登ると「王の命令です。すぐに終わらせなさい」と囁いて戻ってくる。
サイクロプス達は雄叫びを上げて作業のペースを上げた。
遠慮の無い腕力により宙でバラバラになって湖に捩じ込まれる人間達への哀れみなど誰も持ち合わせてはいない。
ヴィスなど、湖には見向きもせずリーラの妙技ばかりを面白がっている。
リーラは戻ってきた蛇が再び自分の手に潜り込んで元通りになると、またゆったりと血の花火を観覧した。
「貴様は相変わらず特異な術を用いるな。どんな原理だ? 瞬間移動より効率が良いものか?」
「そう簡単に手の内は明かしません。しかし、あなたには必要の無い技ですよ。瞬間移動と比べても効率はかなり悪いですし」
「ふむ、効率が悪くて何故使う?」
「たまには変わり種の方が面白いでしょう」
「…貴様は合理主義者なのか酔狂なのか分からん時があって困る」
ヴィスは苦笑して彼と同じように湖を見る。
しかしやはり彼の肌には合わず、「…下らんな」と背を向けた。
そして、僅かに振り返って呟く。
「リーラ、俺様にも貴様の妙技を幾つか寄越せ。そうすれば俺様の亡き後に貴様が怪霊王となるよう進言してやろう」
「ハハッ…それはありがたきこと。…しかし、『あなたが亡き後』など果たして訪れるか否か」
「クハハッ! あぁ、来んだろうな」
「でしたら、私ももう暫し秘密としておきましょう」
「ハッ、まぁいいさ。いずれ俺様自らが貴様以上の術を編み出してみせよう。暇潰しになぁ」
ヴィスは笑いながら次の戦いへと去っていった。
作業を終えたサイクロプス達は湖を凍り付かせて遺体を封じ込め、リーラの傍まで集まってくる。
サイクロプスの軍団を任せて一人去ったヴィスの背には信頼の色が濃く窺え、リーラはフッと楽しげに笑った。




