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改新奇譚カリバン~封じられし魔王~  作者: 北原偶司
遺恨之篇
44/67

四一ノ業 剣聖ディアナの真価!挑めアノロクの最終決戦!

40話のとき二話分になるとか言ったけどそんなもんじゃなかった。

42話でラストです。

 彼女の素早い剣捌きに、格闘戦術を心得ない動きで満足に対処できる隙など在りはしない。


 左剣が右腕を叩き折り、唐竹に振られた右剣が僅かに逸れて右肩を打ち崩す。

 ディアナの攻撃は当然精密さに欠けるが、流れを征し読みを尖らせた彼女の太刀筋は確信を持って敵を打つ。


 右半身に集中的に攻撃を受ければ、自然左後方へ逃げたくなる。

 それを読めてしまえばディアナは大きく間合いを詰めに行けばいい。

 ディアナの右剣の薙ぎは再び右肩に命中する。


「…う、ぐぅ…! な、何故、人間がこれ程動けて…!」


 …行ける。

 この調子で畳み掛けて態勢を崩し、延髄を断つ…!


 ――右の腱板は死んだ、敵は左手で自らを庇うべく此方の左へ回り込む――

 ――ならば左剣の右薙ぎを大振りにして避けさせ、屈んだ所を左足で蹴り倒す――

 ――地面に背をついた音――

 ――仰向けの所へ右剣を上段に振り上げ、透かさず気道ごと首を――


「――打ち、潰すッ!!」


 豪傑の剣が地を砕き割る。

 突風が吹き荒れ、岩屑が飛び交い、深い震動が波立つ。


 ――しかし、そこには生き物を破壊したような衝撃の鈍さが無い。


 …この局面で外す…?

 あり得ない。

 蹴り倒すまでの流れは淀み無く掴み取っていた。

 動きを読み違えたはずもなく、倒れた相手があの位置関係から攻撃を避けられるはずも無い。


 だが考えている暇は無い。

 ディアナは今、一度たりとも怪霊術を使えない。

 読霊を使えない。

 相手の状況を読めなくなった今、…敗北は必至なのだ。


「…勝った…!」


 その声は足元からした。

 舞い上がる砂塵、止まない轟音、塞がれた瞼――しかしディアナは直感する。


 …敵は下じゃない…前でも、背後でもない…。


「――左後方…!」


 ディアナの左剣は振り返り際、高速で迫っていた我霊射を斬り裂いた。

 光は消えたが、剣は砕け、肉体を駆け巡っていた仙攻丹の放電も…今、消えた。


 そう、これはディアナにとって最大の危機のはずだった。

 もう術は使えない、武器も長剣一つだけ、そして目も見えない。

 万に一つの勝機も無いのだ。


 …しかし、その敵は恐怖していた。

 ……今、有り得るはずのないことが目の前で起きたのだから。


「…う、嘘でしょう……が、我霊射を斬るなんて化け物染みた芸当を……それも、目も開けずに、…そんなただの鉄切れで…!? あ、あの盲目の坊や…スティリウスとかいう子も何故か動けていたけど、だからって、こんな精密な動きができるはず…!」


 怯えたように叫ぶその声に、ディアナは答えない。

 彼女自身も驚いていた。

 …今、敵が八メートル先に立って左腕を此方に向けていること…その腕が皮が向けて血塗れであることも…先程の敵の回避が具象変化の応用によるものだったらしいことも……全て、理解できた。


 動揺して下がりつつあった左腕を敵が構え直すと、ディアナはその直前からスッ…と半身になって横に退いた。


「…み、見えているの…!? 何故、どうして…!!」


 敵は更に動揺した。

 洞窟は未だ先程の轟音が反響し続けている…彼女が音で察知できたはずがない。


 ディアナは、自嘲するようにフッと笑った。

 そして左手にぶら下げていたガラクタの柄を、力無く地面に放り投げる。


「これが、ルキウス様が言っていたあたしの才能。あたしの強味。目や耳と云った五感を捨てさえも空間を把握する直感力…殺意を敏感に受け取る異常な精神的感知能力。……今、理解した。あたしに読霊は必要無い。あたしにはあなたの呼吸が見えている。あなたの身体が呼吸に追い付くより早く、あたしの意識はその呼吸の一歩先へと回り込む。…身体さえあなたについていけられれば、あなたは決してあたしを殺すことはできない」


「…そ、そんな…馬鹿なことが……。…た、ただの人間が…何故…!」


「…ただの人間じゃない。…あたしはレイ・テッカイとルキウス・タビラスの弟子。…そして、怪霊王ヴィスドミナトルを封印したアモル・テネリタスの妹……剣聖ディアナ…!」


 辺りはシンと静まり返る。

 蛇髪の女は強張った左腕の照準を必死にディアナに合わせ、固唾を呑んで弱々しく睨んだ。


 それに対しディアナは安らかだ。

 自分にできることを、胸を張れる程に全力でやり通したのだ。


 一切の後悔が無いとは言わないが、少なくとも、気分良く死ねるだけのことはしたという自負があった。


「…この勝負、どのみちあなたの勝ちよ。あたしにはもう怪霊力がまるで残されていない。術が使えない限り肉体は脆弱な人間のまま。この身体ではあなたの動きにはついていけない。…あたし達の完全敗北よ。さぁ、その我霊射であたしを殺してみせなさい」


 両腕を広げる彼女の姿は神々しくすらあった。

 女は戸惑いがちにその手を彼女の胸へと向け、その腕に赤い光を宿していく。



「――勝手に死ぬな、馬鹿が!」



 低く厳つい大声が響き、ディアナがハッと振り返る。


 そんな彼女の横を閃光が通り過ぎた。

 彼女を避けるように弧を描いた我霊射が、蛇髪の女を目指して更に急な曲線を描いていく。


 その光は紙一重で避けようと僅かに下がった蛇髪の女へと引き寄せられたように進路をずらし、女の左肩へ命中する。

 …轟音の中に鈍い音が混じり、光が去った後には女の肩が後ろへぐにゃりと折れ曲がっていた。


「ギィィァァアアアアアッ!! ァァアアッ!! ァァアアアッ!! グウゥゥゥ……ゥゥ…!!」


「フハハッ…! よく吠える雑魚だな…」


「グゥウアゥゥ…! …ま、曲がる我霊射なんて、き…聞いたこともない…!」


 両腕を封じられた女は、息を切らして苦痛に呻く。

 その声を、我霊射の主が「ハッ!」と笑い飛ばした。


「曲がるだけだったか? ならもっと見せてやってもいいぜ。…おいディアナ、貴様は邪魔だ! 真っ直ぐ此方に走れ!」


「…ヴィス…!」


 ディアナは涙ぐんで歓喜の声を上げた。

 そして彼女は言われた通りヴィスの方へと走り出し、そうはさせるかと追い掛けてきた蛇髪の女は、再び左右から曲線を描く我霊射に見舞われた。


 避けようとした蛇髪の女だが我霊射はそれに合わせて進路を変える。

 八発の細い我霊射が全て彼女を殴り付け、彼女はその場に膝をついて初めてその技を理解する。


 ディアナは無事にヴィスの背後に回り込み、安堵の息をついていた。


「…来てくれたのね、ありがとう…! それに良かった…元に戻ってくれて…。ねぇ教えて、どうやって石化を解いたの?」


「フン…、経緯は貴様の後ろの奴に聞け。俺様はメデューサ退治で忙しいのでな」


「…後ろ?」


 未だ目を開けられないディアナは、予期せぬもう一人の存在に首を傾げた。

 そこへポンポンと小さな手が肩を叩き、「よっ」と明るい声がする。


「…ルナ? ルナなのね!」


「おう! 間に合って良かったぜ、ディアナ!」


 互い、安らかに笑い合う。


「ねぇ、ヴィスはどうやって…?」


「具象変化をオレっちじゃなくてヴィスに使ったんでぇ。ステンノー達の石化能力ってなぁ、顔を見た相手を石に変身させる洗脳術だった。…オレっちはステンノーの顔を見たのに無事だった。それは、具象変化を習得してるオレっちは自分の姿をきちんと自分で制御できてたからなんだ。…つまりオレっちが無事な限り、もう石化能力を不安がる必要なんかねぇんでい!」


 蛇髪の女は舌を打ち、再び立ち上がって睨み付けていた。

 その視線にルナは真っ向から見つめ返してニッと笑ってみせる。


 灰色の蛇の髪に白い瞳をし、黒のストールだけが腰に巻かれた美女…それがこの女の姿だった。

 女は姿を見られた屈辱で獣のような怒りの形相を向けた。


 そしてヴィスが目を瞑ったまま不敵な笑みを浮かべて両腕を突き出すと、彼女の怒りは彼へと移った。


「ヴィ、…ヴィスドミナトル…!」


「よお、メデューサ。…こいつが初めましてってことになるのか? この俺様を騙し続けてきた報い、受けてもらおうか」


 彼の言葉を聞いていたディアナは、「…メデューサ…!?」と声を上げる。

 確かに不死の法の拠り代となる人物がメデューサである可能性は大きかったが、彼の言い方にはもうそれで確定したような響きがある。


 それに答えたのは、ヴィスではなくルナであった。


「オレっちには見えてるからな、あいつの刺青にはメデューサって書いてあんでぇ。…そんでそれだけじゃねぇ。ステンノーを倒した後、オレっちはヴィスを復活させて二人で手分けして歴史資料館を漁ったんでぇ。そんで『アノロクの被害者』について纏めた資料を見つけた。そしたら、処刑が決まったアノロクの囚人達には全員侮蔑を込めて胸や額に烙印が押されてたってのが分かった。…その烙印は波みてぇな円の中に罵り言葉が綴られたようなもので、その真ん中に本人の名前がナイフで付けられたって話だ。…ステンノーの胸にあったのは右に先端を向けた扇形の刺青、…んで、そこで腐っちまってる遺体にはどうだった?」


「…エウリュアレね、…確か、左向きの扇よ」


「やっぱな。…メデューサは下向きの扇だ。全部の刺青を合わせると綺麗に円になる。…つまり、ステンノーとエウリュアレ、メデューサを合わせて一つの存在ってこった。だからもう仲間はいねぇ…メデューサを倒せば、全部終わりだ!」


 メデューサは忌々しげに舌打ちを奏でた。


 ヴィスの両手から我霊射が放たれる。

 一撃を大きく跳んで避けた彼女だが、その我霊射が予想以上に進路を曲げて自分に迫ってきたために二擊目を避ける余裕は失った。


 結果一撃の命中を許してしまい、骨盤を粉々に砕かれてしまう。

 腰を両手で押さえて倒れたメデューサの悲鳴が痛烈に響き渡る。


「ぎゃぁああッ! …ぐぅぅ…ぁぁ…!」


「フハハハハッ!! 愚鈍め、一瞬でも立ち止まればこの技は避けられん! …もう貴様でも分かるだろう…この『誘導我霊射(ゆうどうがれいしゃ)』は、貴様の霊力波長を追い掛けて軌道を変化させる技だ…! 生半可な回避で対処しきれる代物ではない!!」


「…ぐ、…ガアァッ!!」


 メデューサは形振り構わず右脚を伸ばして、その腕を消し飛ばす程の特大の我霊射を放つ。

 しかしヴィスは「フン」と嘲笑うと我霊射外しを頭上に放つ。


 二つの光に打たれた天井がバラバラと崩れ、光が去った後には地上までの穴が開く。

 それをきっかけに洞窟は崩壊を始めた。


「ディアナ、ルナ、腕に掴まれ! 俺様の勘が正しければここから先は狭所での戦闘は不利だ! 地上で迎え撃つ!」


 ヴィスはそう告げると振り向きもせず手を伸ばし、ディアナの襟首を引っ掴んで肩に担いだ。

 当のディアナは「えっ、えっ?」と困惑が抜けないでいるが、彼は無視してルナにも手を伸ばす。


「…おい、ルナ! 何してる、来いッ!」


「あ、さ、先に行っててくれっ!」


「あぁ!? 馬鹿を言うな、さっさと来んと生き埋めになるぞ!」


 ルナは怒鳴る彼に「すぐ済むからっ!」と背を向けて駆けていく。

 ヴィスも彼女を置いては行けず、すぐ傍に落ちてきた大きな岩の風圧を感じて「早くしろ…!」と急かした。

 メデューサは片脚を失った痛みに呻きながら操霊で岩のドームを作り、怪霊力を惜しまず使ってその凝縮率を上げることで難を逃れていた。


「ほら、起きろノサティス!」


 走った先でルナは石像をペチッと叩きながら呼び掛ける。

 その手から怪霊力が伝わり、具象変化で元の姿に戻されたノサティスは、突然開けた視界の中にルナが飛び込んできたので驚いて辺りを見回した。


「…や、やはり私は石化させられたのか…。……まさか、お前が石化を解いたなどとは、言うまいな…?」


「オレっちだけど、そんなの後で良いんでい! もうすぐメデューサ基地が崩れる! 脱出して、外でメデューサと戦うんでい!」


「メデューサ…!? ど、どこだ!? どこにメデューサが――」


 今一状況を掴めず混乱しているノサティスに、ルナが「いいから! 逃げんぞ!」と繰り返し呼び掛ける。


 その会話を聞いていたヴィスは、「ヴィス、上から岩!」とディアナに叩かれてハッとし、反射的に拳を振り上げた。

 間一髪岩を砕き、それから彼はもう悠長にはしていられないと悟る。


「もう時間が無い、先に行くぞ! 貴様らもさっさと来い!!」


 そうして彼はディアナを連れて地上に続く大穴へと跳び上がった。

 ノサティスはそれを見上げ、ヴィスの復活を認めると再度ルナを見つめた。


 目の前で洞窟の崩壊にワタワタしているこの少女が、自分を救ったようだというのを認める。

 …その少女は憎きスティリウスの妹、感謝などできるはずはない。


 しかし、『助けられた』…その事実に変わりはない。


「お、おい! 早く逃げようって! なあ!」


「……恩とは思わんからな」


「え? うわっ――」


 ノサティスは聞き返したルナを千切れた両腕に抱いて高く跳び上がる。

 そうして二人が穴を通過していくと、衝撃に耐えかねた洞窟は突如として雪崩のように崩れて潰れていく。


 ルナはノサティスの腕から下を覗き見た。

 眼下ではメデューサが、自身を護る半球体の砦ごと岩の激流に呑まれていく。


 先に着地していたヴィスはしっかりと目を開けてディアナを担ぎ直し、地面の崩壊に巻き込まれぬように安全圏へと駆け抜けていった。

 対し、遅れて直上に跳んだノサティスには撤退の暇が無い。


「お、おい、ノサティス! こ、このまま落ちたらやべぇぞっ! ヴィス達んとこまで飛んでけるか!?」


「私にはもうまともな霊力は残っていない! …ルナ…と言ったか、お前がやれ!」


「オ、オレっちか? …よ、よし!」


 ルナはノサティスに命じられると自らを操霊でふわりと浮かせて移動を始めた。

 その速度は人間や動物に比べれば圧倒的に高いが、ノサティス達怪霊獣にしてみればのろまなものだった。


「…お前、それで本当にスティリウスの妹なのか? ペール・ルナールの完成体という話だったはずだが…」


「う、うるせぇやい…」


 純粋な疑問として訊ねられるとルナは拗ねて口を尖らせ、プイッと顔を背けた。

 地面の崩壊も落ち着いて、少し穏やかな空気が流れつつあった。


 ――しかし、そんな気の抜けた空気も、直後地面を貫いて現れ、天へと昇っていった我霊射の光に打ち砕かれる。

 再びメデューサが襲い掛かるのだと…。



「来るか…!」


 ディアナを下ろして背に隠したヴィスは、既に広範囲に展開していた読霊を基に振り返ってボロボロの両腕を突き出し、目を瞑ったままもうじき現れるであろうメデューサを待ち構えた。


「ディアナ、貴様はルナ達と合流し次第何処かへ逃げろ! 奴は俺様が一人でズタボロのゴミにしてやる!」


 それに対してディアナは、実際戦える人物はもうヴィスだけだと理解していながら、たった一つの我が儘をせがむように口にした。


「…メデューサの討伐はあなたにお願いすると言っていたけど、…あたしにやらせてはくれないかしら? …あと四十秒くれればメデューサを倒せるだけの怪霊力量になる。…上手く説明はできないけど、…実はあたし、読霊を使わなくても…」


「感覚で戦えるのだろう、説明は要らん。様子は隠れて少し見ていたからな。…フン、むざむざ貴様に俺様の楽しみを奪われてたまるか。貴様が倒したければ好きにすれば良い。俺は今殺したいから貴様を待ってなどやらん!」


「え…? いや、え、ちょっと…!?」


 彼は彼女の願いを笑い飛ばすようにして駆け出していった。

 彼女は呆気に取られて彼の背を手を伸ばしたまま見送る。


 彼は僅かに顔を振り向かせ、楽しげに笑い、好戦的な視線を彼女に送った。


「もう譲られねば勝てんような貴様ではあるまい。勝ちたくば、俺様を押し退けてでも勝ちに来い。俺は貴様を庇護するのを止めたのだ…これからは、俺が貴様のライバルになる」


 ディアナは目を丸くしていたが、彼が前を向いて去っていくと、遅れて少し微笑んだ。


「……うん、頑張る」



 一方、未だ空中にいたルナとノサティスは今にメデューサが飛び出して襲われるのではないかと慌てた。

 今攻撃を仕掛けられたら、速度で大幅に劣る今のルナでは対処ができない。


「おい、もっと飛ばせ! これでは…!」


「わぁってる! オレっちにゃこれが限界なんでい!」


 そう言い合う間に、我霊射が去った後の大穴から高速の影が飛び出してキィィン…と甲高い飛行音を上げた。


「き、来たぞ、どうするのだ! わ、私にはもう何もできんぞ!」


「そ、そんなの言ったってオレっちだってもう出力出ねぇって――」


 慌てふためく二人を格好の獲物と思ったメデューサはニヤリと笑って一直線に上昇する。

 このままでは、あと一秒と経たず追いつかれる。


「…く、こ…ここまでか…!」


 ノサティスが諦めの言葉を振り絞るその隣で、ルナは操霊を切ってノサティスの胸に手を触れた。

 そして自らの領域をノサティスの波長に合わせた怪霊力で満たす。


「ノサティス、収霊とか吸霊できるか!?」


「――な、なに…?」


「できねぇなら勝手に送るぞ! おめえ、ギリギリまで溜めてから一気に飛ばせよっ!」


 ルナは返事を待たずして、一の怪霊力を使って『怪霊力を取り込む』という命令をノサティスの身体に送り込んだ。

 ノサティスの怪霊領域は彼の意思に関わらずルナから一二七の怪霊力を奪い取って溜めていく。


 ルナはそれから続けて何度も波長を変換した怪霊力を用意し、次々に彼に吸わせていく。


「…な、何だこの術は…?」


「『与霊(よれい)』だ! さっきオレっちが作った!」


 みるみる内に領域の力が膨れ上がっていくのを感じ、ノサティスは驚愕した。

 しかしそんなことに気を取られている場合ではない。


「…もう追いつかれる…! な、なぁ、まだ飛べねぇか!?」


「まだたったの五百…あの接近を一瞬で突き放すには、まるで足りん!」


「ま、間に合わねぇか…!」


 策は悪くなかったが、出だしが遅すぎたのだ。

 ルナは振り返ってメデューサの悪魔のような笑みを見ると背筋が凍った。


 髪は白と黒の蛇が入り乱れ、瞳は右が黒、左が白となっている。

 そして胸には完成されたアノロクの烙印が浮かび、その中はあらゆる罵倒の言葉も彼女達の名前もなく、空白になっていた。


 先程までのメデューサとは、全てが違っているように感じた。


「待チナさイ…! あタシがセッかク掛けタ石化ヲ破るナンてタダじャオかナイ! …ソの小サな身体をバラばラニ引キ裂いテアげルワ! …サぁ、オいデイい子ダかラ…! …オいデルナ…トもダチにナロうヨ…あナタはステンノーの身体を食ベた…アなタニは教エてアゲらレル! …ソれニ、あタシ達…ナんダカとッテも似テるモノ! …許さナイ許サナい許サなイ許さナイ!!!」


 その目玉がギョロギョロと忙しなく動き回るのを見てルナはゾクリと震えた。


「さっさと降りてこい、このノロマどもが!!」


 地上からの声と同時にヴィスの我霊射が曲がりくねって迫り来る。

 メデューサはその直前で進路を変えて、狙いをルナ達二人からヴィス一人へと変えた。

 我霊射は動きを変えたメデューサに引っ張られて逸れていくが、そのまま何も貫くことなく遥か空へと通り去っていく。


「い、今だっ、ノサティス! 今の内に一気に飛ばして逃げきっちまおう!」


「う、うむ…!」


 ルナに急かされ、ノサティスは領域に溜まった八八〇の怪霊力を一回の操霊に込めて急加速する。

 そうしてメデューサの脅威から離れていきながら、ルナはヴィスとメデューサの戦いの流れを読んだ。


 そして気付く、…あのままでは負ける。


「…メデューサのやろー、あれだけの速度で操霊を使うってんだから相当の霊力のはずだ。いくらヴィスの我霊射が相手を追い掛けるっつっても、動き続けてる相手にまで当たる訳じゃねぇ…。メデューサがずっと操霊を使ってるお蔭でヴィスの読霊は阻まれねぇけど、その読霊もヴィスが我霊射を撃とうとした瞬間に切れちまう、だから一向に当たりゃしねぇ…」


 彼女の眼下では今まさにヴィスの我霊射とメデューサの飛行突撃との応酬が続いている。

 読霊を展開してメデューサの位置を知るとすぐに展開を切って誘導我霊射、そしてまた読霊を展開し直して一旦はメデューサの突撃の回避に努め、機を見て再度誘導我霊射を仕掛ける腹積もりである。


 ルナから受け取った仙活湯を五瓶飲んでから訪れていた彼は、一回の我霊射による反動傷を五秒で回復できる。

 しかし霊力の消耗を省みずに飛び回るメデューサを相手にしては一秒を争う戦いになり、五秒ではまるで足りていない。


 更にメデューサは短期決戦を試みて速度を上げた。

 それはヴィスの行動速度と比較すれば半分程度のものであるが、目を開けられない彼にはそれでも苦しい。


 左右から一発ずつを撃っても牽制程度の意味合いしか持たず、メデューサは一秒と待たずその五秒をついてくる。

 しかし彼女の方も既に無理な我霊射の反動で両腕と右脚が使えない上、高速移動を維持したいために自身への操霊以外には術を用いない。


 メデューサに肩をぶつけられたヴィスだが、操霊の体当たりにはそれほどパワーは込もらないためダメージにはならない。

 彼女の目的は、体当たりを繰り返してヴィスにプレッシャーを掛け、隙を見て至近距離から我霊射なり何なりの攻撃に転じることにある。


 しかし予想よりヴィスが落ち着いていて、読霊を維持して掴み掛かろうとするのでそこから先に進めないでいるようだった。

 そうして戦況は膠着している。


「…やっぱり見えてねぇヴィスじゃ厳しいな。オレっちがやるのも力不足だ。…でも、さっき聞こえた話が本当なら…――」


 ルナの視線は、丁度上空を通り過ぎたディアナの姿を捉える。


「…ディアナなら…」


 ルナは再度メデューサの戦いを見つめ、生唾を呑んで「…よし」と気合いを入れた。


「ノサティス、ディアナの隣に降りてくれ! 多分勝てる方法を思いついた!」


「ディ、ディアナの隣だと…!? …私は目が開けられぬのだ、お前が誘導しろ!」


「ちょ…危ねぇな! 目ぇ開けねぇでってどこ向かって飛んでたんでいっ! 分かった、とりあえずここで止まって下に降りてくれ! そっから走ってくから!」


 バタバタと慌ただしいノサティスとルナの声が聞こえると、ディアナは自ずから二人の着地地点へと走っていった。

・ディアナ

握力90kg

パンチ力220kg

キック力550kg

耐久度132

走力9m/s

霊力300/7510(地上戦)

怪霊領域16,384

技: 仙攻丹、我霊閃、我霊射、読霊、収霊、発霊、操霊

回復力:50/1(仙活湯5瓶)


・ヴィスドミナトル(封印解放度0.05%)

握力2,500t

パンチ力7,000t

キック力17,000t

耐久度4,200,000

走力170,000m/s

霊力99,236,229 /99,999,999(地上戦)

怪霊領域49,999

技: 我霊閃、我霊射、霊玉操、読霊、操霊、発霊、幻弄

回復力:250,000/5,000(仙活湯5瓶)


・メデューサ(ステンノー&エウリュアレと合体後)

握力540t

パンチ力1,440t

キック力3,600t

耐久度900,000

走力36,000m/s

霊力2,360,910/1,080,000(地上戦) ⇒1,360,870

怪霊領域1,080,000

技:我霊閃、我霊射、読霊、操霊、発霊、具象変化

特殊技能:

・その顔を見た者は石となる(例外あり)

・ステンノーとエウリュアレが持つ霊力を借りる

・ステンノーとエウリュアレの魂を霊力(1,080,000)に変換して奪う(二人は二度と元に戻らない)

・ステンノーとエウリュアレの記憶を共有している

回復力:3600

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