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改新奇譚カリバン~封じられし魔王~  作者: 北原偶司
遺恨之篇
41/67

三八ノ業 魂の無い魔物、迫り来る不死の絶望

 小穴を通して聞こえた声に、驚いたディアナが声を張り上げる。


「メデューサ!? ねぇ、そこにメデューサがいるの!?」


 返事は無いが、この基地で現れる相手となれば答えは明白だった。

 彼女は固唾を呑んでルナへと目配せを送る。


 ルナはすぐに頷くと前方広域への読霊を展開した。

 しかしそんな必要は無かった。

 それまで通路の角に身を潜めていたそれは、ディアナの発言を聞くなり無警戒に姿を現していた。


「――ノサティス…!?」


 ディアナは開き下がって臨戦態勢を取り、腰に提げた二本の内一本の剣の柄に手を掛けた。

 ルナも慌ただしく両手を上げて毛を逆立てて、精一杯威嚇していた。


 しかし、ノサティスが気になるのはそんな二人ではない。


「やはり生きていたか…メデューサ。…フ、フフ…! そう、当たり前だ。奴などに…スティリウスなどにメデューサがやれるものか…! あ、あれは私の宿敵だ…! 私の手で殺されなければならないのだ!!」


 彼は安堵とも強がりとも定まらない奇妙な笑みを浮かべ、額に薄らと汗を滲ませた。

 ディアナは歩み寄ろうとしている彼へと抜き身の剣を突き出す。


「…それ以上来れば殺す! 以前の僕と同じだと思うな!」


「お前達などに手は出さん。私が興味があるのはメデューサとヴィスドミナトルだけだ。…奴らさえ殺せば、…私は、私はもう一度リーラ様に…!」


 その時、鋼の壁の先から重々しい衝突音と地鳴りが響き渡り、相対する三人は同時に壁へと振り返った。



※※※※※※※※※※※



「―――ハッ! …随分とつまらねぇ結末だな…!」


 パラパラと崩れた岩が天井から降り注ぐ中、ヴィスは鋼を利用して操霊で作り出した槍のように鋭い刺を持つガントレットでその怪物の胸を突き刺した。

 怪物の血がどくどくとガントレットを伝うのを感じると、彼はニタリと笑って怪物の細く軽い身体を突き飛ばす。


 怪物は力無く倒れ、彼はその顔を容赦無く踏みつけた。

 そしてガントレットを放り捨てて目を開けると、怪物の姿を確認して楽しげに笑う。

 一糸纏わぬ青白い肌の女がいて、女からは頭髪代わりに無数の白蛇が生え、うねるように蠢いている。


 こうして姿を確認すれば間違いようがない。

 彼は正真正銘、メデューサを倒したのだ。


「…クックックッ……ハーッハッハッハッ!! この俺様に読霊の機会を許した時点で貴様の敗けだ! 折角の長所も活かせねば意味があるまい! 悔しけりゃ精々あの世で鍛練でもするんだな、フハハハハハッ!!」


 声高らかな勝利の宣言。

 しかし、その笑い声は不意に彼の眼に飛び込んだ不可解によって掻き消された。


「――…何だこれは…? …刺青…?」


 彼女の、先端を削がれたようなただ丸いだけの乳房の、その上に、…先端を右へ向けた大きな歪な扇形の模様がある。


 その扇の中を埋める形の古い数多の文字。

 ――嘘つき――人殺し――病原菌――反逆者――女狐――淫女――罪人――犬――魔女―――。


 ――そして、その中央に一際大きく刻まれた言葉が――


「…『ステンノー』…?」


 …ヴィスがそれを口ずさんだ時、踏みつけられた怪物は既に左手を上へと突き出していた。

 咄嗟に気付けた彼は急いで目を瞑りその場から飛び退いた。


 瞼の前を我霊射の赤い閃光が通過していき、彼は泳ぐ身体を何とか制御して距離を取る。


「――ぐっ…! …き、貴様…!?」


 彼が体勢を立て直し、一度切れてしまった読霊を再び展開しようとしたが、既に形勢は逆転していた。

 ヴィスが読霊を展開できる隙間など無く、辺りは彼女の読霊で包まれてしまっていた。


「…アナタモ…酷イコトスルノ……ワタシ達ニ…?」


 鈴が鳴るような静かな彼女の声……しかし、その音色は悲しくも殺意に充ちていた。


「…何故だ…大した回復力も無い癖に何故死なん!? 心臓を貫かれたまま何故立ってくるのだ…!?」


「…人間ジャナイナラ…ワタシ達ノ…前ニ来ナイデ……。…ワタシ達ガ…殺シタイノハ…アナタジャナイ…」


 怪物の女はそう告げながらヴィスへと向けて再び左手を指し、足音一つ立てずに横へ移動を始めた。

 その腕は、先程までとは比べ物にならない強い光を灯している。


 …流石のヴィスも額に冷や汗が伝うのを犇々と感じた。

 しかしそれほどの苦境にありながらも、彼は不敵な笑みを絶やさず、左手を相手とは無関係の真横へと突き出していた。


「……ワタシ『達』……? ……そうか、貴様は…。分かったぞ…分かったぞ! 貴様、メデューサではないな!?」


「……」


 ピクリと彼女の身体が揺れたのを、彼もその無言から悟っていた。

 細く切れるような悪魔の笑口を湛える彼に、彼女も静かな殺意を返す。


「黙りかよ…。まぁ、いい。貴様以外にこの地下に力の反応があれば、そいつこそがメデューサだ! 仮に貴様が()()()()を使っていたとしても、母体を殺されれば終わりだろう!? メデューサの亡骸の傍らに仲良く眠らせてやるぞ『ステンノー』!!」


「…ッ……!」


 遂に彼女――ステンノーと呼ばれた怪物の女は激情を露にした。

 彼にはその顔を拝むことは出来なかったが、声色だけがそのことを如実に伝えてくれる。


「許サナイ……アナタ………許サナイッ…!」


 次の瞬間、ステンノーの左腕がジッ…と肉が溶けるような音を立てて我霊射を解き放った。

 その赤い閃光は一瞬の間に彼へと迫り、…しかし彼は不敵に笑い続ける。


「ハッ! 見やがれッ!」


 彼が叫びながら横へ向けて放った弱い我霊射が、彼を射抜こうと接近していた我霊射を引き寄せる。

 二つの光は互いに引かれ合って進路を逸らされ、大きな曲線を描いて通路横の壁に衝突した。


 岩が崩れ、黒煙が巻き上がる。

 松明が明かりを失い、両者の視界が煙と暗闇に塞がれた。

 そして彼女は肉体の限界を超えた我霊射によって左腕の肘から先を完全に失っていた。


 …これまで一方的に『視界』をアドバンテージとしてきた彼女にとって、それはとてつもなく大きな不安と屈辱だった。

 しかも片腕を失っていては肉弾戦すら分が悪い。

 彼女はすぐに煙の先へと眼を凝らす。


 ――そして突如、…一体いつ煙から飛び出したのか…ヴィスが彼女の視界の隅を駆け抜けて背後に回ろうとしているのが見えた。


「……っ!? …コ、コノ――」


 急いで後ろを振り向き、今度は右手を突き出した。

 しかし、もうそこにはヴィスの姿は無い。


 混乱したステンノーは髪を振り乱して辺りを見ながら読霊を展開しようとした。

 しかし、展開できない。

 既に彼女の周りには強力な怪霊力が充満し、彼女の怪霊力が展開できる隙間など何処にも無くなっていた。


 ――彼女がその一連の現象に理解が追い付き、息を呑んだその瞬間、煙を突き破って飛び出したヴィスの拳が彼女の背を打ち抜いた。


「…ァガッ…! …ア、アナタ…幻弄ヲ…!?」


「おいおい、どうした? 余裕がなくなってきたぜ」


 彼の右手から零距離の我霊射。

 ――その赤い光が消え失せた後、彼女の大きくくり貫かれた背から千切れた骨が覗き、ズタズタに潰された内臓が血と体液を垂れ流してはみ出していた。


 ステンノーは力無くうつ伏せに倒れる。


「…グ…アゥ……ウゥ…!」


「立ってみろよ、おら」


 ヴィスはニタニタと笑って彼女の頭に狙いを定め、血塗れの右手で霊玉操を一発――彼女の後頭部へと放った。

 光の爆発は身体を起こそうと必死に呻いている彼女の頭蓋をいとも容易く叩き割り脳髄をぶちまけさせる。


 ――その途端、彼女はピクリともしなくなった。


「クハハハッ…! 話にもなれねぇな。不死の法を使っていても、肉体の司令塔である脳を失っては結局動けん訳か」


 見下し、踏み付け、嗤う。

 殺しの快感に酔った彼は不意に強まった封印によろめく。


 それが彼に怒りと、そして冷静さを取り戻させ、足下に転がっているその肉塊の傷口がじわりじわりと修復し始めているのに気付かせた。


「…なるほど、不死は伊達ではないということか。貴様を無力化するには肉片一つ残らず掻き消すか、霊力を完全に尽かせるしかない…そういうことだろう」


 ヴィスは再び読霊を展開することにした。

 彼の最大火力を以てしても、現状では肉を削り骨を砕く程度が限度――肉体を完全に消滅させるには程遠い。

 故に彼の最善策はステンノーの霊力を削ること。

 そのためには彼女の霊力残を見極める必要がある。


 ――その時になって漸く気付く。

 彼の周囲が何者かの怪霊力で塞がれていることを…。


「し、しまっ――」


 慌てて目を瞑り、闇雲に飛び退いた彼だったが、一足遅かった。

 蛇の髪を持つもう一人が急速に接近し、鋼鉄の槍を、彼の腹部に――


「…許サナイ…」


 ステンノーと瓜二つの声が静かな怒りと共に放たれ、ヴィスは激痛と、血が喉を迫り上がる感覚に倒れた。


「グァアッ!! くっ…、フゥッ……ぅ、う……!」


 急ぎ、我霊閃で周囲に充満する怪霊力を掻き消して読霊範囲を確保する。

 痛みで集中しきれず出が遅れた読霊は、僅か十メートル範囲の知覚を彼に与える。

 しかし、謎の奇襲者は既にその範囲外へ逃げ、彼の読霊を同じく読霊で遮断していた。


「…や、やってくれるな…ゴミどもがッ…!」


 ヴィスはベルトに括りつけた革袋から仙活湯を一瓶取って飲み、起き上がろうとする。

 しかし、彼の瞼にふわりと陰が伸し掛かり、そっと左頬に手が添えられ、次の瞬間冷たい親指が瞼に触れる――



※※※※※※※※※※※



「…急に声が途切れたか。…『メデューサではない』…『ステンノー』…『不死』…? …どういうことだ、スティリウスが殺した相手もメデューサではなかった、ということか? …しかし、あの生首も石化の能力を確かに持っていた。…メデューサと同じ能力を持つ者が、他にもいたというのか…?」


 ルナの読霊に邪魔されて壁の先の光景を読霊で察知することができないノサティスは、警戒を解かず刃を向け続けているディアナに右手を指したまま耳を澄ませていた。

 ディアナはノサティスに勝つ自信が足りず、自分から仕掛けることができないまま壁の向こうの戦いを気にしたりしている。


「…っ! い、今、おめえ何てった!? に、にぃちゃんが、誰を殺したって!?」


 ふと溢れた発言に驚き、声を上げて食い付いたルナ。

 しかし、ノサティスは彼女の問いに興味はなく一人で思考を纏めていた。


「不死……不死と言ったか。『不死の法』は自分以外で同じ霊力波長を持つ人物がいるという特殊な状況下でのみ発動できる、他者に魂を預ける術だと聞く。預かった者は拠り代として複数の魂を身に宿し、拠り代が死ねば不死の法を使っている全ての者が一度に死ぬ」


「おい、おいって! おめえがにぃちゃんのこと知ってるってこたぁ、やっぱにぃちゃん怪霊衆と繋がってんのか!?」


「…メデューサとは何度か対峙し、読霊で見た。今まで奴は魂の気配を持たない謎の存在だったが、不死の法を使用しているとすればその辻褄が合う。…メデューサと、今ヴィスドミナトルが戦っている相手が仮にステンノーという別人ならば……――そして二体が共に不死だとするならば、同じ霊力波長を持つ一体の拠り代がいる。そして波長が同じということは体質も同じということ……つまり、…石化能力を持つ怪霊獣が三体以上存在するという計算になる」


 彼は辿り着いた自らの仮定に戦慄し、じっとりと嫌な汗を掻く。

 彼の考察には、それまでずっと神経を尖らせて黙り込んでいたディアナも驚きを隠せなかった。


 見開いた瞳を真っ直ぐノサティスへ向けて、「…何ですって…」と聞き直した彼女の隣で、未だ個人的な衝撃と格闘しているルナが声を荒げる。

 彼女のキンと高い声が立て続いたことが、ノサティスにとうとう苦い顔をさせた。


「答えろって! おめえ、にぃちゃんが今どこにいるのか知ってんのか!? おめえは前にも『スティリウス』って口にしたはずだ! 何回会った!? どこまで知ってんだ!? ちょっとでいいから教えてくれ、にぃちゃんは――」


「…さっきからベラベラと小煩い小娘だ! 奴のことなどどうでもいいではないか! 口を閉じろ!!」


 彼の右手がうっすらと赤く輝き、間を置かず我霊射が放たれた。

 しかしそれは後にメデューサとの戦闘が控えているため、ルナの心臓を破裂させられる最低限の威力まで温存されている。

 まだルナでも反応できる速度だった。


「うおっ…!?」


 調子外れで滑稽な声を上げながらも、彼女は具象変化でぐにゃりと身体を縮ませて我霊射を避ける。

 ノサティスはそれにまた顔をしかめ、「クソッ、狐どもの術か…!」と毒づくが、すぐに余裕を失うことになった。


 …攻撃を仕掛けられてその気になったディアナが、遂に仙攻丹を発動して急接近してきたのだ。

 彼女相手ではもう温存などと言っていられなくなったノサティスは、牽制として怪霊力二百の我霊射を指先から連射する。


「来るか! …しかし、やはり私よりは遅い。前回の二の舞を踏んで大人しくやられるがいい!!」


 ――しかし、牽制は一向に当たらず見る見る内に距離が詰まっていく。

 焦った彼は出し惜しみしなくなる。

 …三百、四百、…一万ッ、……十万ッ…!!


 しかし、我霊射は悉く彼女の残像ばかりを射抜く。


「なっ、馬鹿な…!」


 ――何故避けられる!?

 動揺している間にも彼女は迫る。


 そして遂に、彼女の太刀筋の間合いにまで近づいてしまった。

 彼の胸中には凄まじい素早さで感情と思案が往き来する。


 ――…まだだ…我霊射が当たらずとも恐れることはない!

 身体能力は明らかに此方が勝っている…肉弾戦でなら前回と条件は変わらない!

 我霊射が当たらなかったのは何か特殊な術で誤魔化しているだけだ、そうに違いないッ…!!


 ノサティスは我霊閃で全身を輝かせて大きく腕を振り上げた。

 …幻術の類いなら我霊閃で退けられる…ついで身体能力を底上げするこの妙な術も効果を消されるはずだ…!


 ――しかし、彼の拳は左打上げの受けに流され、既に彼女の左薙ぎが脚の切断を狙っていた。

 彼女の速度も変化しない。


 ノサティスは身体能力の有利に頼って飛び退き、刃の軌道から逃げようとした。

 しかしそれも織込み済みの間合い――ディアナの剣はその切っ先を以て彼の大腿筋を斬り裂いた。


 そうしてバランスを失った彼の身体は宙に投げ出され、彼女はその背後へと回り込む。



 彼女は笑っていた。

 ――我霊閃じゃ仙攻丹は消せない。



「ぐ…! き、貴様――」


 彼が無理に腰を捻っての左裏拳、しかし、彼女は左手に剣を持ち替え、裏拳の腕の軌道にそっと刃を沿わせて屈むだけ。

 彼の腕は勝手に切り込まれていく。


「腹斜筋」


 彼女は呟き、二本目を抜剣する勢いのまま伸びきった急所を柄で鋭く突く。

 打ち上げられたノサティスは激痛に叫びながら天井に叩きつけられた。


 ――最後に二本の剣が槍のように投げられ、彼の右上腕、右大腿が貫かれる。


「ジャスト一秒」


 ディアナが冷たく呟き、操霊で剣を引き抜いて両手に掴み取る。

 その後に遅れてノサティスが落下した。


 四肢が使えなくなった彼は、這いつくばりながらも必死に顔を上げ、怯えた目で彼女を見上げた。

 ディアナの剣がその首に添えられると、その鋭利な冷たさに、恐怖に、彼は怪霊術での応戦を諦める。


「前の戦い、僕は仙攻丹を過信し、『一秒』という制約に怯えて勝負を焦った。結果、直線的な攻撃になってあなたの迎撃を許す形勢となった。僕らの行動速度から考えれば一秒なんて膨大な時間なのにね。その一秒をたっぷり使えば良い、単純な話だった。…それに、忘れてたんだ、僕はルキウス様の弟子だってことを。敵の動きを事前に見極め、対処を先取りして自分より強い相手を往なす技を学んだことを…! それを思い出せた今、あなたは僕の敵じゃなくなった」


「…に、…人間に……この私が、人間など…に……!」


 弱々しく震え、噛み合わさらない奥歯をカチカチと鳴らすノサティス。

 もはや彼に戦意は無い。


 壁の傍に立ち尽くして見守っていたルナは、冷徹な彼女の横顔を見つめながら生唾を呑んだ。

 しかしそんな汗を握る緊張の中、氷のような美しさを漂わせる彼女の姿にルナは安堵して微笑んでいた。


「…ディアナだ…。……前の…自信を失う前のディアナが、帰ってきたんだ…!」


 ディアナはノサティスの首筋に刃を押し当てながら膝をつき、低い声で囁く。


「あなた、メデューサについて面白いことを言ってたね。それを聞き出すまで生かしてあげる。まず一つ答えなさい。あなたは何をしに此処へ――」


 …聞きかけていた事柄を放置して、突如、彼女は血相を変えて彼の傍を離れた。

 そして領域に残っている全ての怪霊力を惜し気もなく利用して仙攻丹を発動する。


 その足は真っ直ぐ、ルナの下へと急いだ。


「――伏せてッ!」


 小声で告げてルナを抱き抱え、通路の隅に転がり込む。

 その直後、ヴィスとの間を阻んでいた鋼の壁がぐわりと揺らぎ、刃の雨と化してとてつもない勢いで飛散した。


 二人は弾幕を免れて息を潜める。

 身動きが取れないノサティスは咄嗟の操霊で岩の防御壁を作り自身を覆うも、その防御は無数の刃に力負けして崩れ去り六撃ほど背中に突き刺さった。


「ぐぁ!! ぐ、…がぁああッ!!」


 ノサティスは操霊で刺さった鋼片を塵に変えて、苦痛に喘ぎながら顔を上げようとする。

 しかし、壁の向こうに立つ青白い女らしき影に気が付くと顔を見る前に目を瞑った。


 …どうしても外の様子が気になってディアナの腕の中から顔を覗かせたルナは、壁が取り払われた先の通路に、おぞましい化け物の姿を見た。


 …左手と腹から下を失い、上半身から背骨を垂らすだけになって宙に浮いているステンノー。

 後頭部は剥き出しの脳髄から黄色い液体を流し、顔を覆う白蛇髪の隙間からは左目が飛び出してプラプラと揺れている。


 右目は憎悪に血走り、その漆黒の瞳はギラギラと真下を見つめて笑っている。

 …その視線の先には、両腕を突き出して座ったままの格好で、衣服を残して全身を石にされたヴィスの姿があった。


「…ッ!? ヴィ――」


 思わず叫び出しそうになったルナの口をディアナが慌てて塞ぐ。

 そしてディアナがきつく目を瞑って息を殺しているのを見ると、ルナも真似をして目を瞑る。


 ノサティスは恐る恐る読霊を展開した。

 突然の出来事にルナの集中が途切れて読霊が解けていたため、もう彼の邪魔をするものはなかった。

 そうして漸く壁の先の状況を理解する。


 石化されたヴィス、その傍には生きているはずのない重傷を負った霊力残一七万の者、…その更に奥に百万の霊力の反応がある。

 ヴィス以外はどちらも魂を感じない。

 …ステンノーとメデューサだ、そう彼も直感した。


「…ア…」


「…ドウシタノ…? …オ姉チャンノ…知リ合イ…?」


「…見タコトアル……ドコデ会ッタカ……忘レタケレド…」


「……殺スノ…?」


「…ウウン…人間ジャナカラ…。……ソレニ…怖ガッテル…」


 瓜二つの声が交差して、両者ともノサティスを置いてその場を去っていく。

 ノサティスは薄らと目を開けてその二人を盗み見た。


 …重傷を負い宙を飛んでいる白蛇の髪の女。

 …ヴィスの発言を盗み聞いた限り、途中までは一対一の戦いであり、その相手こそがステンノーと呼ぶべき者だった。

 ならば、この重傷を負っている方がステンノーのはずだが、…白蛇髪はメデューサの特徴のはずだ。


 そして、その隣を歩く女は黒蛇の髪。

 明らかに彼が知るメデューサとは別人だった。

 …此方はまともに戦った形跡が無いため、ステンノーではない。


「…こ、これは…どういうことだ……? 誰がメデューサで、誰がステンノーなのだ…。……今までメデューサを名乗っていたあの女は、メデューサではなかったということなのか…!?」


 彼の疑問は岩肌に吸い込まれ、答える者などいない。

 辺りが完全に静まる頃、ディアナは水中から顔を出したようにプハッと粗く息を吸い、潤んだ目で石像を見上げた。


 フラフラと立ち上がり、悲しみと恐怖に震える手で石像に触れる。


「…ヴィス……! …へ、返事を……ねぇ…! …応えてよ…ねぇ……ヴィス……!」


 涙を堪え、石像に額を押しつける彼女の背中を前に、ルナはキリキリと拳を握りながら唇を噛んだ。

・ヴィス(封印解放度0.05%)

握力2,500t

パンチ力7,000t

キック力17,000t

耐久度4,200,000

走力170,000m/s

霊力99,999,999 ⇒ 99,796,207

怪霊領域49,999

回復力5,000

術: 我霊閃、我霊射、霊玉操、読霊、操霊、発霊、幻弄


・ステンノー

握力540t

パンチ力1,440t

キック力3,600t

耐久度900,000

走力36,000m/s

霊力1,080,000 ⇒171,806

怪霊領域1,080,000

回復力3,600

術:我霊閃、我霊射、読霊、操霊、発霊、具象変化、仙癒婪

特殊技能:不死の法(拠り代が死なない限り決して死なない)

その顔を見た者は石となる(例外あり)



・ディアナ

握力90kg

パンチ力220kg

キック力550kg

耐久度132

走力9m/s

霊力7510

怪霊領域16,384

回復力1

術: 仙攻丹、我霊閃、我霊射、読霊、収霊、発霊、操霊


・ノサティス

握力675t

パンチ力1,800t

キック力4,500t

耐久度1,125,000

走力45,000m/s

霊力1,350,000 ⇒ 937,340

怪霊領域1,350,000

回復力4,500

術:我霊閃、我霊射、読霊、操霊、発霊

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