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改新奇譚カリバン~封じられし魔王~  作者: 北原偶司
遺恨之篇
35/67

三二ノ業 罪との寄り添い、厚くて脆い女の友情

 ルナは空き地に座り込んで仙活湯を三瓶飲み干した。

 四瓶目に手を掛けかけてから、これ以上飲まなくても死にはしないだろうと思い直し、そっとディアナのいる方へと置き直す。


 そうして深く項垂れて、魂を吐き出すような深い溜め息を溢すルナに、ディアナは遠慮がちに近寄って仙活湯の小瓶を拾いながら労りの視線を送った。


「…ディアナ、オレっち、恨めねぇよ。大好きだから。…ペール・ルナールを殺したディアナも、オネット達を殺したにぃちゃんもさ…」


 …ディアナはそれに応えるための言葉も表情も思い付かなかった。

 謝るのも、喜ぶのも、責めるのもその場にはそぐわない。

 彼女は屈んで小瓶を摘まんだ姿勢のまま硬直していた。


「……でも、でもさ……やっぱりディアナの口から明かして欲しかったよ。…そりゃ、ディアナのことだから……ディアナが全部正直に話して謝ったら、オレっちはそれを許すしかなくなっちまう、って……そんなこと思ったのかもしれねぇけどさ…。……オレっちは、そんな気の遣われ方されたくなかった…」


「…違う…そんなんじゃ…そんなんじゃないの……」


 ディアナは掠れた声を上げて首を振った。

 俯いた視界の中にポツポツと落ちる雫が入り込み、ルナは顔を上げる。

 ディアナはくしゃくしゃに歪めた顔で泣いていた。


「…怖かったの……あんなに慕ってくれたあなたが、あたしを恨むかもしれないことが…。……その引き金を自分で引く勇気がなくて…だから、下手な言い訳をしてスティリウスに引き金を引かせようとしてた…。……あなたの、家族同然の人達を殺しておいて…その罪を隠し続けて、責任も取らず、…こんな結果に……。…誠意なんてあったものじゃない。…あたし、恨まれるべきなのよ。あなたとスティリウスに殺されるべきよ…」


「…うん、…じゃあ、隠してたことだけ恨むよ。ディアナが苦しんでたことは見てて分かってる。……でも、オレっちが恨まないでいることがディアナにとって罰になっちまうなら…人の心って難しいな…」


 ルナはできるだけ優しく笑って頷いていた。

 その優しささえも、ディアナには罰に刷り変わる。


 ディアナもルナも途方に暮れ、各々の表情で項垂れていた。

 …ここで話しても何も纏まらない。

 端から見ていたヴィスはそれを察して、一つ咳払いして二人の視線を引き寄せた。


 ディアナはぐしぐしと袖で目元を拭い、ルナは彼女を気にして一瞥しつつ彼に応じた。


「ルナ、傷は何ともないか?」


「ん、おう。最初はたまげたけど、もう痛みも引いてきたかんな」


「刺されたのは脇腹…恐らく内臓にも達していないはずだ。もし腸が傷付いていても、普通の人間とは違い貴様なら細菌で死ぬこともないだろう。加えて出血の具合から見て、太い血管も傷付いていまい。…やはり奴は、挨拶代わりに刺しただけのようだな…」


 彼は思ったことをそのまま口にしたまでだったが、最後の一言は言いながら『思慮が足らなかった』と後悔していた。

 ルナはそれに憤るではなく、ただ寂しそうに呟いた。


「…『ディアナと仲良くするならオレはお前でも殺せる』……そう言われたような気がした。…にぃちゃん、昔はあんなに優しかったのに…あんなにたくさん笑ってくれたのに……オレっちはそんなにぃちゃんが大好きだったのに…。…オレっちの勘違いだったのかな…? にぃちゃんは、オレっちのことなんて好きじゃなかったのかな…? 本当はオレっちのこと、鬱陶しかったりしたのかな…? …また、昔みたいに戻れたら…いいのに…」


 ディアナもヴィスも、掛けられる言葉など無かった。

 彼女の頼りない声の後には無言だけが続く。


 ――遠方から三つ、翼をはためかせて何かが接近している。

 …唐突ではあったが、意外とは誰も思わなかった。

 スティリウスは以前一度、三体の狐を刺客に差し向けている…それだけで十分状況を理解できる。


 ヴィスが顔を上げると釣られて後の二人も身体を起こして読霊を用いる。

 そしてその脅威に思い至ると素早く臨戦態勢に入った。


 …彼らを囲うように降り立ったのは、岩のような灰色の鱗に包まれた二本足の翼竜――三体のワイバーンだった。


「…また力量測りの刺客か…。おい、ワイバーンども! 貴様らスティリウスの部下か!? 奴はまだ近くにいるのか!? そうなのだろう、おい!」


 ヴィスの問いには誰も答えなかった。

 ワイバーン達は黄色く光る丸い目をギョロギョロと回してヴィスとディアナ、ルナを見つめ、炎の吐息を漏らすだけである。


 …返答など無くていい。

 奴が傍にいるのならこれだけは言いたい。

 ヴィスはそんな思いで声を張り上げた。


「よく聞け、スティリウス! 貴様が誰を恨もうが何人殺そうが俺様にはどうでもいいことだ! だがディアナとルナに牙を向くのならば、次は即座にその喉を切り裂く! 貴様に少しでもルナに温情を掛ける素振りがあれば考え直す気があったが、もうそんな期待は無駄だとよく分かった! ルナに何を言われようと、恨まれようとも俺はそれを選ぶと決めた! 覚悟してきやがれ!!」


 フッ、と笑うような声が聞こえた気がした。

 ヴィスはその声に眉を寄せたまま、今は目の前の敵を最優先にと決めてワイバーンの一体に右手を指す。


 そうして彼が怪霊力を周囲に展開し、霊玉操の準備を始めた瞬間、三体のワイバーンは三人に目掛けて一斉に青く大きな炎を吐き出した。

 ディアナはすぐに目を細めて意識を尖らせ、ヴィスの発言に気を取られて考え込んでいたルナは急のことで戸惑いキョロキョロと慌てふためく。


「――ちょ、そ、そんないきなり始めんなっ…!」


 彼女は文句を上げながら我霊閃を連発して炎を弾き、炎の渦を離脱していく。

 ディアナは仙攻丹で炎を避け、ワイバーンの一体へと一瞬で距離を詰める。

 そしてヴィスは、その猛火を全身に受けながら雄叫びを上げて耐え忍び、怪霊力を玉へと凝縮させようとしていた。



 肉体を焼かれる激痛にヴィスの怪霊力のコントロールは乱れていた。

 折角展開した怪霊力は、操ろうとした拍子に怪霊領域との繋がりが途切れてしまい忽ち宙に霧散して消えていく。


 ヴィスは忌々しげに「クソッ…」と呟いて諦めると、ルナに倣って我霊閃で炎を弾きながら突撃していった。

 しかしそんな初めの躓きなど、直後には些細なことに変わる。


 ワイバーンの最大速度の二倍以上にもなる彼の接近に、ワイバーンは反応が大きく遅れたのだった。

 彼はワイバーンの右脚を回し蹴りで挫く。


 その一撃は重く、ワイバーンは骨を真っ二つに折られて大きく姿勢を崩した。

 そしてそこに畳み掛けないヴィスではない。


 彼は続けて跳び上がり顎への上げ鉤突き、胸部への素早い連撃と続いた。

 ワイバーンの身体は二度彼の拳を受けただけでその骨を破壊される。


 小刻みに大気が震え、目下の土と草は捲り上がり、赤い血が宙を舞う。

 ワイバーンは胸を中心に滅茶苦茶に折れ曲がり原型を留めていない。

 ヴィスは大きく右足を振りかぶり、「ゥラアッ!!」と楽しげに叫んでワイバーンを蹴り飛ばす。


 飛ばされた先で地面を深く抉りながら転げ、既に絶命していたそれを眺めて彼はニタリと笑った。



 一方、怪霊領域を二倍に広げたディアナの全力の仙攻丹はワイバーンの最大速度を一割弱上回る程度である。

 その一秒間が雌雄の分かれ目だった。


 彼女の怪霊領域が八一九二とすれば、彼女が元来保有している霊力は六五五〇。

 この一秒でとどめをさせなければ、彼女はそれ以降あらゆる技を満足に発揮できなくなってしまうのだ。


 …しかし彼女はその一秒を自分のものとする訓練を繰り返している。

 たった一秒の有利があれば彼女は無敵だった。


 互角の速度で間合いを詰めてくる彼女に、ワイバーンは再び炎を吐き出し、同時に眉間から鉄の槍を発生させて放った。

 彼女は自分にそれが迫るより早く安全圏を見定めて動き始める。


 ワイバーンが取る行動の全てが彼女の後手に回る。

 そうして遂に彼女はワイバーンの首へと飛び掛かった。

 擦れ違い際の居合斬りでその首を刎ね、顔色一つ変えぬまま着地した彼女の横にワイバーンの顔がボトリと落ちる。

 

 彼女は血を噴いて倒れた相手をじっと見下ろし、剣を握る自らの手へと眼を移した。



 そしてルナはと言えば、炎の渦を乗り越えたものの、巨大で凶暴な敵を前に途方に暮れていた。

 しかし、勝てずとも抵抗くらいはしなければすぐ殺されてしまう。


 彼女は我霊閃を打ち止め、準備から発動までを一瞬の内に成し遂げた霊玉操を連続に飛ばす。

 その技の精度と発動速度は常軌を逸していたが、肝心の玉の速度がどうしても物足りない。


 ワイバーンはその鈍い紫玉をつまらなそうに見て、避けながらルナを噛み砕きに掛かった。

 並の人間よりは速い程度で仙攻丹すら持たないルナでは避けられるはずもない。

 その大きな口は、いとも簡単にルナの小さな身体を噛み千切った―――はずだった。


「今だ、行けぇ!」


 その声にワイバーンが振り向いた時には、既に紫の光の玉が目前まで迫っていた。

 そしてその先には、裸のルナが両手を突き出している。


 ――ワイバーンが噛んだと思ったのは彼女が脱ぎ捨てた後の衣服だった。

 穴だらけにされた布地を一瞥したルナは、祈るように眉を寄せて光の玉に爆発の指示を送り込む。


 そして光の爆発は確実にワイバーンの左目を襲い、ルナはじっとその攻撃の成果を見届ける。


 …しかし彼女の策も虚しく、ワイバーンの目は傷も痣も、痛みすら無かったように平気で見開かれていた。


「…くっ…!」


 青冷める彼女へとワイバーンは口を大きく開けて舌先から我霊射を放つ。

 まるで全力ではなく、舌も傷まない一撃ではあるが、ルナを殺すには十分過ぎる威力だった。


 ルナはその一瞬の内に液体のように溶けて地面に張り付いた。

 …先程ワイバーンの牙を避けたのもこれと同じく、具象変化を回避に応用していたのだ。


 そうと分かってしまえばワイバーンには恐れるものなど何もない。

 液体のような姿になったルナを地面ごと攻撃すれば殺せてしまう。


 勝利を確信したワイバーンが微かに笑い、狙いを定めていると、その目の前に小さな放電と共に人影が現れ立ちはだかった。


「…ディ、ディアナ…!」


 ルナは驚いて元の姿に戻り、両腕を広げて庇ってくれているディアナを這いつくばったまま見上げた。


 ルナは少し安堵しかけていたが、すぐに何の希望も無いことに気がつく。

 …ディアナの怯えたような目、遠くで倒れる首の切れた遺体。

 それは彼女が仙攻丹で力を使い果たした後であることを如実に物語っていて、全く勝算の無い行動であることが明確だった。


「…ルナの前に僕だ! 僕を殺せ!」


 ディアナは震える声でそう叫ぶ。

 ワイバーンは読霊で彼女の霊力残を見て、侮った笑みを浮かべた。

 そうしてワイバーンの額の先に超圧縮された炎の槍が生み出されていくのを、彼女は決死の面持ちで見つめた。


「な、何して…ディアナ…――」


「戦えん癖に前に出るなこの馬鹿者がッ!」


 狼狽えるルナの声に被さり怒鳴り込んできたヴィスが、ディアナを横に押し飛ばして素早く右腕の我霊射を放つ。

 その赤い光は炎の槍も消し飛ばしワイバーンの額に命中した。


 ワイバーンの頭はバラバラに崩れて血と骨と肉片を飛び散らし、その身体は糸切れ人形のようにバタリと倒れた。

 ヴィスはズタズタになった右腕も構わず振り返り、激しい怒りをディアナへと向けた。


 それに対し、彼女は悪びれもせず彼を睨む。


「死ぬ気か貴様! 俺様に任せておけば良かったのだ! 一体何のつもりで――」


「死にたかったのよ! 今ので死ねば丸く収まったのに!」


 ヴィスは彼女の心からの叫びに、思わず口を噤んで聞いた。

 ルナは静かに立ち上がり、目を見張ってゆっくりと彼女に近寄っていく。


「博士達はあたしの力を宛にしてペール・ルナールの廃棄を決めた! あたしがいたからペール・ルナールは殺されることになったの! そのせいでルナは一人ぼっちになって、スティリウスは復讐に囚われた! あたしがいたから!! 全部あたしのせい!! …スティリウスが人間を滅ぼすって言ってるのはあたしを苦しめたいからでしょう…。あたしが死ねばそんなこと興味なくなるはず。そうしたらまたルナと彼は仲良くできるようになる。ルナがどっちの味方をするかなんて葛藤に挟まれることもない。皆幸せになる、あたしさえ死ねば――」


「――ディアナ」


 ルナがディアナの肩を背後から引いた。

 振り返った彼女の頬を、パシンッと大きな音を立ててルナが叩く。

 ルナは両目に大粒の涙を溜めてキッと睨んでいた。


「いつオレが死んでくれなんて頼んだんでい…! 死にたいから死ぬなんてこの世で一番馬鹿なことだ! 今まで生きるために食べてきた命も、身を守るために殺してきた命も全部全部無駄にしちまう最低な行為だ! そんなことしやがったらディアナだって一生許さねぇ!! 二度とそんな馬鹿なことすんな!!」


 彼女がこれ程まで怒りを見せたのは初めてのことだった。

 ディアナは驚愕の剰り放心し、小さく口を開いたまま瞼すら動かせなかった。


 ヴィスも呆気に取られてぼーっとルナを眺めている。


「ディアナが死んだらクレドはどうなんでぇ…! クレドがどんだけディアナのこと大事にしてっか分かってんのか!? オレっち達だってそうだぞ!? 大事な人が死ぬってんだ、それで喜ぶ奴なんかいる訳ねぇだろ!! ディアナだって姉ちゃん死んでんなら分かんだろ!? 分かんねぇのか!?」


「……わ…かり……ます…」


 ディアナは小さくか細い声で答えた。


「それでも死ぬのか!? オレっち達のこと悲しませて一人で死んでくのか!?」


「…い…え……」


「クレドに会えなくなっていいのか!?」


「……いや…で…」


「オレっち達に会えなくてもいいのか!?」


「…い…嫌です…」


 ――答える内に、ディアナの目からポロポロと涙が零れ落ちた。

 身体が震え、ガチガチと歯が触れて鳴る。


「…嫌…です……」


「…だろ。…だから死なねぇでくれ。…オレっちは恨んでなんかねぇからさ」


 ルナは優しく笑い掛けてディアナを胸に抱き締めた。

 温もりに包まれた彼女は徐々に嗚咽を漏らし、しがみついて泣き出した。

 ルナは子供をあやすようにディアナの頭を撫でて微笑む。


 …しかし、ふとルナの胸の中に小さな痛みが走った。

 ディアナを恨む理由など無いはずなのに、何かが喉に支えているような複雑な思いがあった。

 彼女が手を止めてその感覚に思い悩んでいると、ヴィスが地面に落ちていた衣服を拾い上げて差し出してきた。


「さっさと服を着ろ。女は肌を晒さないものだと以前ディアナも言っていたろうが」


「あ、わりぃ。あんがとな」


 ルナが咄嗟の愛想笑いでそれを受け取ると、同時にディアナは邪魔にならないように彼女から身を離した。

 衣服は不恰好ながらヴィスの操霊で修繕が施され、ルナはテキパキと着替え直していく。


「…()()()…か…」


 ルナの気落ちしたような声に、ヴィスは訝しんで首を傾げた。




「…罪を自覚してるから何だ…。…それくらいで皆の死が許されてたまるかよ…」


 ソウラモンブルの廃墟に隠れ、読霊の応用で聞き耳を立てていたスティリウスは手の平に爪が食い込む程に拳を握り締めた。

 テーブルの上に腰掛けてパイプ煙草を咥えた彼は、自分の怒りを鎮めてくれない役立たずの紫煙を睨みながら、フゥ…と息を吐いて呟く。


「…お前は甘いんだよ、キョロすけ…。…何故分からないんだ…」



※※※※※※※※※※※



「…オレっちさ、物心ってのがついた頃にはにぃちゃんが好きだったんだ」


 ルナは唐突に世間話のように告げる。

 それはモンヴァーティの麓で一晩休み、パロへと馬を走らせていた途中の出来事だった。


 ディアナは彼女の発言に対し返答に困り、危うく『ごめんなさい』と出るのを堪えて「そうだったのね…」と頷いていた。


「飯の食い方も、他のペール・ルナールとの話し方も、博士達に取らなきゃいけない態度とかも、知らない内ににぃちゃんが教えてくれてた。にぃちゃんと一緒じゃなかった時間なんて一日にちょっとしかなくって、ずっとべったりで…。にぃちゃんにもよく『手の掛かる妹』って笑われたなぁ」


「仲良かったのね…」


「そうなんだぁー」


 ルナがカラカラと笑ってそれを言うと、ディアナはぎこちなく笑って小さく頷く。

 ヴィスはそれを眺めて「おい…」とルナを窘めたが、彼女は静かに彼に首を振って続けた。


「別にディアナを責めようなんて思っちゃいねぇよ。にぃちゃんはぜってぇに考え直してくれる、また前みたいに仲良くやれるって信じてるから。…オレっちさ、ディアナとクレドのなれそめっての、聞きたかったんだ。ディアナはいつからクレドが好きだったのかなってさ」


「あたしと彼…?」


「うん。オレっちは産まれた頃からにぃちゃんと一緒だった。ディアナの方はどうなんでぇ?」


 ヴィスは雲行きが怪しくはないかと疑って注意深く二人を眺めた。


 ディアナは暫し浮かない顔でいたが、ルナが笑っているので段々と胸の重荷が外れていく。

 それで話し始めようと口を開くと、急に気恥ずかしくなり彼女は赤く染まった頬を隠すように俯いた。


「…あたしが彼と初めて会ったのは…二年半以上前ね。まだ姉さんがパロの訓練場でエ連の派遣指導員に修業をつけられていた頃だった。急に姉さんがそんなことになって、事情もよく分からなかったあたしは不安で堪らなかった。だから当時は毎日その付き添いをしていたの」


「神仙様に修業つけてもらう前か。そんで、クレドもその時姉ちゃんと一緒に修業してたってとこか」


「ええ。…姉さんはね、とても綺麗で聡明で活発な人だったから、訓練場の男の人達によく声を掛けられてたわ。でもその分身持ちも固い人だったから、全員『お友達』止まりだった。そんな中で姉さんが特別仲良くしていたのが彼だったの。『弟みたいでかわいい』って」


「……最初はディアナじゃなくて、姉ちゃんの方がクレドと仲良かったのか。…その頃ディアナはクレドとは?」


「たまに眼が合うことがあったくらいで会話もしたことなかったわね。訓練場ではあたし、姉さん以外の人とは口を利かなかったから」


 ルナは僅かに首を捻って、「ふーむ…」と難しそうに眉を潜めた。

 ディアナはそんな彼女を一瞥し、遠くを見るようにして笑いながら懐かしんでいた。


「…彼とちゃんと話したのは、…通い始めて一ヶ月経った頃。姉さんを口説くのを諦めたらしい人達がちょっかいを掛けてくるようになってきて、困ってたあたしを彼が庇ってくれたの」


「おお!」


「それからは彼があたしを気に掛けて、少しずつ声を掛けてくれるようになって…。あたしも、…あんまり態度はよく無かったけど、彼と話をするようになった。…それからちょっとずつ、彼の前でも笑えるようになって…、彼との距離が近くなって…、彼と触れ合えるようになって……。…そんな感じ、馴れ初めは」


「へぇ!」


 ルナはわざとらしく過剰に感嘆の声を上げて聞いた。

 ディアナは彼女の反応を受けて顔を真っ赤にして、逃げるようにセクレトの足を速めさせる。

 会話はそれで勝手に断ち切られ終わりを迎える。


 ルナは遠退いていくディアナの背中を眺め、「…はは、照れてら」と呟いたが、その声は先程と大きく変わって覇気が無かった。


「…どうした?」


 ヴィスが小声で訊ねると、ルナは俯いたまま弱々しく笑った。


「恨まねぇ自信があったのに、こればっかりは思っちまうみてぇだ。…何でディアナにはクレドがいて、オレっちの傍にはにぃちゃんがいねぇんだろ、って…」


 ヴィスは彼女の思いが理解ができず、「俺とディアナがいるのでは足りんのか」と不満げに告げた。

 ルナは返しに悩んだが、数秒して小さく頷いた。


「今の、ディアナには内緒な。墓まで持ってってくれ。…ディアナを責めたくねぇ」


 そう告げてルナはディアナを追い掛ける。

 そんな彼女の複雑怪奇な心理の初歩ですら、ヴィスにはまるで見当がつかなかった。

ヴィスドミナトル(封印解放度0.045%)

握力2,250t

パンチ力6,300t

キック力15,300t

耐久度3,780,000

走力153,000m/s

霊力99,955,001 /99,999,999

怪霊領域44,999

回復力4,500

術: 我霊閃、我霊射、霊玉操、読霊、操霊、発霊


・ディアナ

握力80kg

パンチ力200kg

キック力500kg

耐久度120

走力8m/s

霊力6550

怪霊領域8192

回復力1

術: 仙攻丹、我霊閃、我霊射、読霊、収霊、発霊、操霊


・ルナ

握力2.7t

パンチ力5.75t

キック力17.2t

耐久度3798

走力162m/s

霊力2,892,194

怪霊領域128

回復力9

術: 我霊閃、我霊射、霊玉操、読霊、具象変化、操霊、発霊



・ワイバーン

握力210t

刺突力3,750t

キック力1,875t(爪での攻撃7,500t)

耐久度375,000

走力7,500m/s

飛行速度60,000m/s

霊力450,000

怪霊領域450,000

回復力1,500

術: 我霊閃、我霊射、読霊、操霊、発霊

特殊技: 炎・毒気を吐く

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