表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
改新奇譚カリバン~封じられし魔王~  作者: 北原偶司
三之明之篇
28/67

番外ノ一

 …どうせ家に帰っても誰も待っていない。

 街を歩き回ったって、自分を知っている人なんて誰もいない。


 だから、ディアナは傷付くと分かっていても毎日こうしてベンチに座る。

 こうして、城の訓練場に一人だけ粧し込んでポツンと利口にしているのだった。


 遠巻きに兵士達と操霊の乱取りを行っているアモルの姿を眺める。

 彼女は五人もの兵士達が飛ばした石を見事な手際で操り、或いは足下へ放り、或いは消滅させた。


 まだ訓練には一ヶ月ほどしか通っていないはずが、すぐに他の兵士達の力量を超えていき、今や教官に混じってアモルが指導をしているような感触すらある。

 男臭いこの環境に姉が身を置くというのもあって心配していたディアナだったが、どうやら杞憂だったなと最近は思っていた。


 …寧ろ、その心配をすべきは自分らしいと、最近常々そう思う。


「――で、ノってきたか? アモルちゃん」


「やぁダメダメ。てんで相手にされねぇの。相変わらず身持ちが固ぇ固ぇ! ぜってぇ男いるぜーあれは。お相手はやっぱあの新入りか?」


「ははっ! そらオレらみてぇな汗臭いのより若いオトコのがいいだろうさ!」


 当のアモルからかなり離れた場所で、屯した兵士の数人がコソコソと話し合っていた。

 …自分の姉の事でなかったとしても決して気持ちの良い話では無い。


 意図して見ないように、聞かないように顔を背けていたディアナには却って鮮明にその続きが聞こえてきた。


「したらよ、おい、クレドのヤツが上手いことたらしこんでくれたらご相伴に預からねぇか? 上物の酒をやるって言やぁ根性無しのヤツのことだ、断れやしねぇだろうぜ。それで注ぎ続けてりゃ酔っちまってよ、コロンと眠りこけちまう。そっからはアモルちゃんをどうしようとオレらの勝手ってわけよ」


「無ー理無理、若いヤツらの話じゃアモルちゃんはあれで結構呑むんだぜ。きっとそーゆーのも場馴れしてるさ」


「へっ、呑むんならそれも良いじゃねぇか。酒が呑める女のが楽しいだろ。下手なことして帰られたりしなきゃだがな」


 そうしてゲラゲラと笑っている彼らの声が、一人きりのディアナには恐怖だった。

 彼らの眼に留まったりしては嫌だと身を固くしてベンチに縮込まっていた。


 しかし、そんな時は決まって彼女が嫌がる方向に進むのだ。


「オレ、妹狙ってみようかな」


 一人がそう言って、彼女は視界の外で彼らに見つめられているのを肌で感じた。


「アモルちゃんの妹? …あぁ、あそこの」


「お前あんなのがいいの?」


「何でだよ、アモルにそっくりだしアレでいいじゃん。とりあえずさ。ってか、こっちの方がスリムじゃね?」


「いやあれは細すぎるって。もうちょっとムチッとしてりゃあ男心に来るってもんだがなぁ」


「つーか暗くない? 潔癖そうだし。結局さ、ケラケラしてるくらいがいいんだよ。綺麗でもつまらないのはNG」


「オレこの前あの子狙ってみたけど、返事してくんなかったぜ。他に話しかけた奴らも、すっげぇ引き攣った愛想笑いされたってよ」


「そーゆー子は断れやしねぇんだから押しきりゃヤれたんじゃねーの?」


「結局すぐ姉の方が飛んできて引き離されんだよ」


「おー、それいいじゃん。助けが来なかったら妹ちゃんゲットで、来たらアモルちゃんゲット。後者ならオマケで妹ちゃんもゲットできるかもよ」


「あー、オマケなら全然アリだな」


 その声が段々と彼女に近付いてくる。

 ディアナはベンチに身体を押し付けるようにして震えを堪えていた。

 手の平に滲んだ汗を握り潰して、視線はじっと伏せたまま、近付く気配が勘違いであることを祈るだけだった。


 …少し耐えていればすぐに姉さんが来てくれる。

 だから、そんなに不安がることなんてない。


 そう自分に言い聞かせて、声を掛けられた時にどう受け答えれば彼らの気分を損ねずに済むのかを必死に考えていると、


「ねぇ、ディアナさん…だっけ。大丈夫?」


 予想していたよりも早く、予想していたよりも穏やかな言葉が、彼女の頭上に影を落としていた。


 遠くで舌打ちが聞こえた。

 恐ろしい足音達は踵を返して去っていく。


「…あれ、聞こえてる? お腹痛い?」


 少し困ったような間抜けた男の声が、飽きもせず彼女に語り掛けてくる。

 彼女は、安心してもいいような気がして顔を上げた。


 白馬の王子と呼ぶには些か情けない、子供のような顔をした()が笑い掛けてくれていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ