表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
乙女ゲームは分からない!  作者: 金鹿
第一章:入学前
6/181

1-6

ブクマ、評価ありがとうございます!

そして前話で、PV/日100越え頂きました!

沢山の方に読んで貰えて、本当に嬉しいです!ありがとうございます。

「アリシアお嬢様、お目覚めの時間です」


 もうすっかり聞き慣れたイルマの声で目を開くと、開かれたカーテンから室内に降り注ぐ朝の光に照らし出された、見慣れた室内が目に映る。

 いやー、夢も見ずにぐっすり快眠でした。何も思い出せませんでした。

 そりゃそうですよね。そうそう都合よく行くはずもなく……。

 残念だ。


 サプライズ尽くめのあの日から十日過ぎたが、あの夜以降、昼休みの記憶は蘇らなかった。まあ、連続で見れたらいいなとは思っていたが、絶対見れるはずとか期待しなくて良かったとも思っている。

 寝ぼけまなこを擦るのも控えつつ、イルマと他の侍女に手伝って貰いながら身支度を整える。

 こういうのにもすっかり慣れたな。

 ドレス選びも初めの頃のように侍女の反応を探り探り指差すだけじゃなく、時期や天気とその日の予定を考慮して指示を出せば、イルマは微笑みながら頷いて侍女ーズも自然に着替えのフォローに入るようになった。

 これが女子力ってヤツ!?もしくは貴族令嬢力?

 俺が身に着けてどーすんだよ……。

 はぁと溜息を吐くと、イルマが気遣うような視線を送って来た。

 今日はダルボワ夫人に依頼している制服一式の仮縫いの日だから、それが億劫だと思われたか?

 ハズレじゃないけど、正解でもない。

 ああでも、うん、億劫です。

 この世界、貴族や富豪の衣類は全てが仕立服、つまりオーダーメイドだ。下着やソックス、ストッキングに至るまで完全に一点物になる。これが下位貴族や平民でも裕福な人ならレディメイド、つまりお店ごとに何種類かある型紙(パターン)から作られた既製服を買うし、どちらでもない人は古着屋で買ったり自分達で布から作る。

 でも溜息吐いたのはそこじゃないんだけどな。言えないから飲み込むしかないか。


 朝食を済ませて午前の授業を受ける。午後は仮縫いがあるから今日の勉強は午前のみで、教科は国史だ。要はディアフルーレ王国の歴史だな。

 国史の家庭教師と挨拶を交わし、早速授業開始だ。これまでは王国の成立と王家の統治を称えつつ、有力貴族の変遷は徹頭徹尾「歴史は勝者が創る」お話で、裏を想像すると歴史ロマン溢れて楽しい。

 何と言っても、年号覚えなくていいのがイイ。この国の歴史って、ナントカ王の治世に何があった、くらいざっくりと覚えておけばいいので、かなり楽だと思った。

 そして今日は地理の復習と周辺の外国に関する授業だった。

 ディアフルーレ王国は北、北西、南東が海に面している。北から東にかけて弓状に山がちなエリアも多いが中央から南はなだらかな平野部が広がっている。王都ル・ディアモンは北部の山々から流れだした大きな河と、どこまでも広がる平野部がリンクする土地にあり、王国成立以来発展し続けてきた。

 北東から南東にかけては、深い森と険しい山に隔てられながら何本か通る峠道でゾンネヴァルト王国と接し、西から南に掛けては更に険しい山脈を挟んでエパレニョン王国という国があり、北は山を越えた向こう、グフル海峡で隔てられた先に、ハスィヒガルトという大きな島があるそうだ。ほほー。

 ほぅ?


 チクチクチク、ポーン!……閃いた!


 これ、ヨーロッパじゃね?

 細かい地形や地理条件は不明だが、国どうしの位置関係はヨーロッパだな。

 ディアフルーレがフランスなら、ゾンネヴァルトはドイツ、エパレニョンはスペインか。立地的にハスィヒガルトはブリテン島かな?

 イタリアは無いのか。って事はイタリア料理も無いのか、残念。

 設定担当は分かりやすさ優先だったのかな、それとも力尽きた?

 まぁ、俺は分かりやすくて助かる。

 三方で海に接しているから魚介料理に恵まれているのか。日本人としては本当に助かる。

 なんせ米もあるらしいしな。しかも長い(インディカ)米と短い(ジャポニカ)米と両方だそうだ。どっちも家じゃ食べた事無いけど、その内でいいから炊き立てご飯に塩焼き魚食べたい。王都ならあるだろうか。あったらラッキーくらいに思っておくか。

 食い意地の張った事を考えていたら、腹減ってきたな。

 その後は昼のメニューを想像しながら、何事も無く午前の授業を終えた。


 美味しい昼食を終えて一休みすると、ダルボワ夫人の待つ一室に家族揃って移動する。

 今日は不在のラ・ロングヴィル伯爵夫人はいいのかとエリザベスに聞くと、別日に自分と二人でやってもらうそうだ。それってやっぱ無茶振りじゃないですか? ねぇ? 領主夫人(エリザベス)

 部屋に通されると、そこには仮縫いの制服がトルソーにかけられて季節分並んでいた。


「ごきげんよう、領主夫人、アリシアお嬢様。本日はこちらのトルソーにかけたお衣装から進めさせて頂きたく存じます」


 ダルボワ夫人が挨拶の後、今日の進行スケジュールを説明する。

 そっか、トルソーはあるんだ。イタリアは無いのに。

 夫人に手を引かれて側に寄り、仮縫いの制服を見る。

 これ、ブレザーか? うーん、ブレザーはブレザーだけど……。

 でもこれ、女の子グループアイドルの衣装のソレだよな。あんまり学校制服感が無いような気がする。

 いや、意識的に他校の女子生徒見てた事もあんまり無いけど、トルソーにかかってるそれは、テレビでアイドルが来てた物に似てる気がする。

 王立フェルミニス学院の制服仕立次第(ルールブック)によると、制服の仕様はボトムで男女に違いがある他は、大筋において違いは無い。違いと言っても、スラックス(男子)スカート(女子)かでしかないけど。

 上着は光の魔法を表す白を基調とし、スカートは闇の魔法を表す黒を基調とする事が決まっている。それぞれ縁取りや装飾に使ってよい色が決まっていて、上着には黒または濃紺や濃いグレー等の黒を想起させる色、スカートには白又は生成や銀糸等、白を想起させる色を使う事が求められている。

 これは光と闇の魔法それぞれが、調和し安定している事を現わしているのだそうだ。

 上着には左右に十分な襟がある事が求められ、左襟には支給される学年章を取り付け、右襟には自家の紋章を付ける事と、くっそ細かい。

 さらに左胸ポケットに王国の紋章を直接刺繍またはワッペンを付け、両肩に赤、緑、黄色、青、無色、水色の宝石を属性図の示すまま配置して、王家の貴色である金糸のモールで囲った短冊形(ショルダーボード)の肩章を付けなければならない。この時、肩章にフリンジを付けてないいけない。フリンジや飾諸は身分や生徒会メンバー他、王家と学院に許された者のみが着けられる栄誉あるものである、だそうだ。

 なんだよ結局、身分格差あるじゃん。

 ほんとガバガバだな、制服仕立次第(ルールブック)。ガバガバ過ぎてその他は適当にやっとけ感が凄いぞ。

 ワイシャツやブラウスは白が望ましいが色物でも良い。ただしカラーとカフスは白でなければならないとか、生徒はネクタイに類する物かリボンに類する物を着用する事が義務付けられ、望む者はクラバットでも良い。ただし色は自家の貴色又は適正属性の色でなければならないと、いくらでも独自仕様の制服を作る事ができる。

 てゆーか、クラバットってなんだよ?

 その一方で、カフスボタンは自身の適正属性の色でなければならないとか、変なとこだけ縛りがある。

 ん? 光の属性って何色だ? 氷の属性が無色の宝石なら、光は何色? 七色?

 やべっ、ヘンなとこに俺が引っかかってる。

 ダルボワ夫人や精鋭スタッフの言われるまま姿勢を変え体を捻って仮縫いを進めて貰う間も、制服仕立次第(ルールブック)の次第とは? だの、光の属性は何色だぁ!? だの、思考に逃げ込む事で何とか終えた。


 「それでは次回、本縫いに合わせて宝飾品も持参致します。領主夫人、アリシア様、どうぞ、お心安らかにお過ごしくださいますよう。ごきげんよう」


 ダルボワ夫人とチーム・ダルボワの辞去の挨拶を受け、貴族令嬢として挨拶を返す。

 次の日からも勉強は続く。

 礼儀作法とマナーは、ラ・ロングヴィル伯爵夫人がもうこれ以上教える事は無いと太鼓判を押してくれた。後は場数を踏んで精進しなさいと言われた時は、どこの道場主だよと突っ込みたくるのを必死に抑え込んでいた。いや分かるんですけどね、実践しないと身につかないって事は。

 ダンスは担当家庭教師自身が、王都でもっと凄腕の教師をつければ更に伸びるだろうと言ってくれ、国文学に算術、古語と国史もそれぞれ、学院に入った後も何も問題無いと言ってくれるようになった。

 その間に何度かダルボワ夫人とチーム・ダルボワが襲来して制服の微調整をしてくれたけど、それは却って気分転換になったので助かった。

 何故かと言うと、微調整は立ったり座ったりした時に余分な皺が出ないように各部の生地に手を加える、本当に細やかなフィッティングの調整が主だったので時間はそれほどかからなかったのだが、来たついでとばかりにエリザベスと伯爵夫人、カミーユの仮縫いを見学する事が出来たので、眼福と言うか、自分もあんな感じだったのかなと客観視できた。

 そして魔法の授業では、遂に魔力を感じる練習が始まった。

 魔力は量の多寡は別として、少なくとも貴族であれば生まれながらに持っているものだという。残念ながら俺はそうじゃないんだが、アリシアはかなりの魔力持ちだそうだ。俺には分からないけどな。

 魔法使いの先生が俺の目の前にある授業用のテーブルに、立体パズルのような物を取り出してコトリと置くと、詳細を説明してくれた。


「この魔道具は魔力操作のためのもので、左右の手のひらから魔力を注ぐ事で、適正に関わらず一面づつ六属性の色が灯ります。一面は九つに分かれていますから、魔力操作で一度各面の色をバラバラにして、また元に状態に戻すのが魔力操作の修練に向いております」


 立体パズルを手で触れずに魔力で遊べと?

 なるほど。分からん。

 そう思っていても仕方ないので、言われた通りに取り組んでみる。鈍い鉄色をした魔道具と呼ばれる立体パズルを持ち上げると、その金属質な見た目に反して随分と軽かった。木製、いやプラスチック製の立体パズルのように片手で持ちあげて観察すると、一マス一マスに何やら複雑な文様が彫り込まれている。

 多分魔法陣とかそういう系のヤツなんだろうと、くるくる回して見ても六面の全てに細かな文様が彫り込まれていた。

 両手から魔力を注ぐと言う事なので、改めてテーブルに置き、テレビのマジシャンがよくやる、両方の手のひらを広げて、魔道具を挟み込むように左右均等に近づけていった。

 手のひらと魔道具の間隔がある一定の距離になった瞬間、俺は両肩の付け根から指先に向かって、何かが「ずるり」と引き出されるような感覚に驚いて手を引いた。

 そのまま先生を見ると彼も驚いた顔をしていたが、その視線は俺じゃなくてテーブル上の魔道具に向かっていた。何に驚いているのかとその視線の先を追うと、そこには六面全てが虹色に輝く立体パズルが、ゆっくりと自転しながらふわふわと浮かんでいた。

 自転するパズルを見ていると、どの面も虹色にキラキラしていて、これじゃ立体パズルの意味が無い。

 どうしたもんかと、とりあえず思ったままを口にしてみた。


「あの、先生? これではいくらバラバラにしても、何も変わっていないのと同じではないでしょうか?」


 どうやら先生にとっても結構衝撃だったようで、俺の呼びかけにも顔を強張らせたまま、なかなか反応しなかった。少し間が空いてから、先生はようやく俺の視線に気付いたのか、取り繕うように咳払いをしてから喋り出した。


「いや、これは大変失礼しました。アリシア嬢にお詫び致します。このような現象は初めて見ました。もしやこれこそが、光の魔法に適正を持つ者の証なのかも知れません。大変申し訳ないが、本日の授業はこれまでと致します」


 一気に捲し立てた先生は、どこから取り出したのか分からない大きな革袋の口を広げ、自転しながら浮かぶ立体パズルを慎重にその中に入れていた。

 なぁにしてんだこの人という俺の視線に気付くと、先生はまた一つ咳ばらいして言った。


「ああ、失礼。これは魔力を通さない魔獣の革で作った袋でしてね。魔力を帯びた品物に余計な魔力的影響を与えずにそのまま輸送する時に使うものです。研究者であれば誰しも持っているものですが、アリシア嬢は初めてご覧になったのかな?」


 魔獣? 悪魔の獣って書いて魔獣? この世界ってそんなのまでいるの?

 ……って、違う! そうじゃない。

 いや、俺が怪しんだのはそこじゃないし、急に取り繕わなくていいって。

 立体パズルを仕舞おうする時の先生の目つき、完全にイッちゃってたから。分かってるから。


「ああ、それよりも、アリシア嬢は魔力が移動する感覚はお分かりになったかな?」


 それは分かった。何かがずるって移動して指先から出て行く感覚、多分あれが魔力の移動だろう。

 こくりと頷くと、先生はよくできましたと言いたげな笑みを浮かべて続けた。


「素晴らしい! ではその感覚を、例えば右手から左手へと移すイメージで、魔力操作の練習をなさってください。私は急ぎこれを調べなければならないので。それではアリシア嬢、ご機嫌よう。また次の授業の時に」


 先生は言うだけ言うと、さっさと他の道具も抱え込んで慌ただしく部屋から出て行った。

 他の授業と同じく室内で待機しているであろうイルマを振り返ってみると、イルマも先生の傍若無人な振舞いに、目を丸くして動けなくなっていた。

 ですよね。

 二人でどうしたもんかと見合っていると、いきなりドアが音を立てて勢いよく開いた。そこには出て行ったはずの魔法使いの先生が立っていた。

 声を掛けた方がいいのか躊躇していると、言い忘れた事があると顔で説明しながら先生が大声を出していた。


「そうそう言い忘れたのですが、魔法も魔力操作もイメージが重要です。常に具体的なイメージを持って練習に励んでください。ただし魔法や魔力操作の練習はやりすぎに注意してくださいね! 体内の魔力が減りすぎると、身体に変調をきたします。無理のない範囲で反復練習を! では今度こそ失礼!」


 言い終わるやいなや、先生はドアも閉めずに走り去った。

 今度はイルマも正気を保っていたようで、明らかに激怒した様子で先生を追いかけて行った。

 この部屋に一人残された俺は勝手に移動する訳にもいかず、先生が言い残していった内容を反芻しながら魔力操作の練習をする他無かった。魔力の移動は感覚として経験したけどさ、でもあれ無意識で起こった現象なわけで、意識的に移動させるにはどうすりゃいいんだよ?

 イメージ? イメージねぇ……マジシャンみたいに、こちらの魔力があちらに移りますよぉ……はい! 移りましたぁ! とか?

 違うな。我ながら無ぇわ、これ。

 とりあえずイルマが迎えに来るまで大人しく練習してるか……。

 それにしても、次に会った時の様子によってはエリザベスに相談すべきか?


 あの先生チェンジ、と。

貴重なお時間を頂きましてありがとうございます。


励みになりますので、よろしければ評価ポイントやブクマ、感想を頂けると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ