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乙女ゲームは分からない!  作者: 金鹿
第二章:王立フォルミニス学院一年生
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2-26

いつもお立ち寄りありがとうござます。

始めましての方もありがとうございます。


ブックマーク追加ありがとうございます!

続きも見るよ、と言って貰っているようで、本当に嬉しいです。


明後日の金曜は更新できない事が決まりました。

明日は、まだ未確定ですが結構ヤバいです。今日は全力回避運動してました。

 いやぁ、一ヵ月と二週間も昏睡状態でしたか。それはそれは、皆様にはさぞご心配をおかけしたでしょう。

 改めまして大変申し訳ございません。真にご迷惑をお掛け致しました。重ねてお詫び申し上げます。


 って、素直に言える訳ないじゃん!

 なんだよ魔力が枯渇したら自己防衛なんちゃらで昏睡状態になるって。エリザベスやイルマ、リリエンヌ達から聞いて、口から魂が出たかと思うくらい驚いたし、茫然としたよ。そんなの聞いてないよ!?

 ちゃんと教えとけよ! だからお前は魔法バカクソ野郎なんだよ!


「ね? タランス教授?」


 上体を起こしたベッドの上からタランスにそう言って微笑みかけると、くっと失笑を漏らしてイイ笑顔を返して来た。

 よし、伝わってる。すっかり貴族的な以心伝心にも慣れてきた事に自信を深めつつ、相手が残念すぎて悲しくなる。



 一か月半に及ぶ昏睡状態から回復した俺が最初に驚いたのは、その長期に及ぶ昏睡状態の期間と同じくらい、それにも関わらず筋力が下がったとか別の問題が発生したという事の無い、ぶっちゃけると「めちゃくちゃよく寝た後の倦怠感」だった。身体の筋を伸ばすように腕を伸ばすと、ぐぐーっと筋が伸びて行くのを感じるだけで、眩暈も身体のふらつきも無かった。

 流石に元の世界で、知人や親戚の入院見舞いや退院の荷物運びを手伝ったりと見聞きした、患者の体力低下が全く無い事には驚くしかない。自己なんちゃらでぶっ倒れただけだから、患者では無かったからかも?と思っていたら、大騒ぎする侍女と入れ替わりで部屋に来たイルマが教えてくれた。

 俺が倒れてすぐに、タランスは手紙と一緒に回復薬と、いくつかの魔道具をエリザベスに送ってきたそうだ。手紙にはお見舞いに進呈すると書かれていたけど、どれも非常に高価な貴重品でそのまま受け入れる事は出来ない物ばかりだそうだ。そこで折衷案として、回復するまでの期間に限り好意に甘えて借り受けるという体裁をとったらしい。

 貴族って、本当に面倒くさいですね。ありがとうじゃだめなのか。

 その貴重な魔道具には、小さな砂時計に似た魔力計と大小二つの台座に乗せた水晶玉の魔道具、その他にもいくつか送ってきたそうだ。小さな魔力計は本来、小さな子供の魔力が満遍なく体に行き渡っているかを見る道具で、それをアレンジして魔力の枯渇状態からどれほど回復しているかを見る魔道具だそうだ。大小二つの台座に乗せられた水晶玉の魔道具は、ぱっと見スノードームとかウォータードームと呼ばれる置物のように見えた。

 実際、大きい水晶玉は枕元に、小さい水晶玉は足元に置かれて、それぞれ透明な水晶玉の中にキラキラと青と黄色の小さな光が浮かんでいた。水晶玉の中で踊るように光る粒の一つ一つが水と土の魔力の光だと分かるから、魔道具だと言われるとすぐ納得できた。


「体の中の流れを整えて、お嬢様の体力や筋力を維持する波動を出す魔道具との事です。わたくしは浅学の身ですからよく分かりませんが、奥様の相談を受けたリリエンヌが使った方が良いと申しましたので……。お邪魔でございましょ? 後ほど片付けさせて頂きます」


 頭の傍に置かれた大きい方の水晶玉をしげしげと眺めていたら、邪魔そうにしていると思われたんだろう。イルマが申し訳なさそうにそう言った。

 俺は小さく頭を振って、折角の魔道具だし復調した訳じゃないから、このまま置いといていいと答えて、またベッドに横たわった。事実、この水晶玉の中で光る青と黄色の点滅は、ヒーリング効果というかリラックス効果というか、見ていて心地良い。

 そんな風にぼーっと水晶玉を眺めていたら、普段では信じられないくらいドタバタと足音を立てて、ギヨームとエリザベスが部屋に走り込んできた。

 おおぅ!? おいおい二人とも、貴族の嗜みはどこで脱ぎ捨てたんだよ。

 ベッド上で驚いていると、まずエリザベスが飛び込んで来て抱きしめてきて、ギヨームはエリザベス毎抱きしめてきた。

 衝撃と抱きしめられた息苦しさでクラクラと頭が揺れるように感じて、額に手を当てていたらギヨームが「まだ万全じゃないのか」と心配そうに呟いていた。

 いえ、これは貴方達夫婦のせいですから。ほら、後でイルマが咳払いしてますよ?

 両親が落ち着いてから、俺は自分が倒れた後の話を聞いた。

 ”混色の森”の暴走(ディファリモ)の終息と被害状況の話を聞いて胸を撫で下ろした。ミシェルの兄ちゃんが助かったと分かって安心した。


「アリシアは、クロード様をお助けした時の事を覚えているかい?」


 ほっと安堵の吐息を漏らすのを聞き逃さず、ギヨームは怪訝な顔をして聞いてきた。

 俺は無我夢中で、ただミシェルの兄ちゃんが死ぬと家族だけじゃなくて周囲も悲しむだろうから、必死で治れと念じながら魔力を放出したと説明した。人体構造とか造血細胞とかは、俺も聞きかじりだから説明のしようがないし、この世界でそういう話をして異端だなんだと言われるのは御免だから、イメージの内容には一切触れなかった。


「そうか。友人のラ=ルール伯爵令嬢と、その”婚約者候補”であるミシェル様の為、か」


 俺がこくりと頷いて肯定すると、はぁっと大きく息を吐き出してからギヨームが教えてくれた。ミシェル達マラン枢機卿とミシェル兄の”婚約者候補”の両家から、リジューの後ろ盾になると明言する礼状が届いているそうだ。何それ。使うタイミング次第でめっちゃ強いお札になるじゃん。

 あれ? それだと外務系寄りって見られるようになる? それはそれで拙いんじゃ……?

 恐る恐る遠回しに聞くと、ギヨームは困ったような顔をして、心配要らないと言ってくれた。余りにも俺がやった事が大き過ぎて、この程度の事まで些末事扱いされて、すっかり誰も気にしていないそうだ。

 あぁ、多分そうじゃないかな、とは思っていたけどね。はっきり言われると項を垂れちゃうね。

 肩を落としていたらエリザベスが、まだ早いと言わんばかりに憂鬱な話を始めた。

 倒れて数日後から、お茶会や園遊会のお誘いとは名ばかりの、お見合いしませんか手紙が連日山を作っていたそうだ。ところがそれも今ではパタリと止んで、最近ではマリーやユージニ達、シャルル・アンリとその仲間達周辺のご令嬢と、ミシェル兄の”婚約者候補”マリニャック侯爵令嬢がお見舞いの手紙が殆どだそうだ。ただし、各派閥に近い王族からの見舞いの手紙が定期的に届いていると言う。

 ここまで鎮静化したのは、王家の介入があったからだそうだ。

 うへぇ、くっそめんどくせぇ。王家の介入って、何そのパワーワード。ただ怖ぇよ……。

 顔が青褪めていくのを自覚していると、エリザベスがベッドに座り直して、安心させようと頭を撫でながら教えてくれた。

 王立フォルミニス学院は派閥の中でも宮廷派貴族や警備担当の軍務系貴族の影響力も無視できないが、昔の王様肝いりで創設されただけあって、圧倒的に王家の影響力が強い。まぁ、そうでないと派閥抗争ごっこで勉強どころじゃなくなるからだろうけど、この際はそれが良い方向に力を発揮してくれていた。

 王家が介入して、平たく言うと「あんま、リジュー子爵家とその娘に構うなよな」とぶっとい釘を打ち込んでくれたお陰で、俺が学院に籍を置いている間は如何に上位貴族であっても、軽々におかしな真似は出来ない情勢になっているそうだ。すげぇ、絶対君主万歳! 強い王様って素敵!

 それと、”光の魔法属性”持ちが特別な力を持つ事が分かったのが学院入学前や卒業後じゃなくて、入学直後の時期だったのも幸運だった。もしも学院の生徒という王家バリア?が期待できない状況だったら、リジューの家を巻き込んで相当悲惨な状況になっていただろう。

 教えてくれたエリザベス自身も不安が大きいんだろう。自分と同じ色の髪を撫でつける手が、僅かに震えていた。俺は無意識に頭をエリザベスの肩に寄せて、感謝と謝罪の言葉を口にしていた。


「お母様、いつもありがとうぞんじます。心配ばかりかけて申し訳ございません。お父様も、ありがとうぞんじます」


 エリザベスの肩越しにギヨームが見えたから慌てて付けたしたせいで、付けたし感が半端ない感謝になったが、ギヨームは首を横に振って、気にしなくて良いと答えてくれた。

 それからカミーユも心配していたと聞いたので、出来れば会いたいと言うと、後で部屋に来させる言い残してこの部屋を後にした。

 いつの間にか部屋に来ていたリリエンヌが淹れてくれたお茶を飲むと、感覚的には数時間前なのに、身体は久しぶりの味わいを堪能するように、ぶるっと小さく震えた。

 それでイルマとリリエンヌにお礼を伝えていなかった事を思い出した俺は、二人を手招きして言った。


「ずっと心配してくれたのでしょう? お陰で元気になりましたわ。二人とも、ありがとうぞんじます」


 心からの感謝を込めて微笑むと、二人とも目元を押さえながら嬉しそうに「本当にようございました」と言ってくれた。



 その後カミーユが来てくれてた。その眼差しはアリシアへの心配と、両親がお姉ちゃんに掛かりっきりでちょっと面白くない感じがない交ぜになった子供らしい感情を持った微妙な表情を消しきれないまま部屋に入ってきた。その様子が可愛らしいからぎゅっと抱きしめて、「ただいま。心配してくれてありがとう」って伝えたら泣き始めて大変だった。でも妹って可愛いね。

 あんまり可愛いから、絶対皆に内緒ねと言って新しい光の魔法を使った。

 あの真っ白な闇のように、温かくて不安を感じない光。

 さすがにカミーユを包み込むとバレるから、ゴルフボールくらいの小さな光。

 イルマとリリエンヌには呆れられたけど、カミーユにあの光を見せたかった。必ず側に誰かがいるって、味方がいるって安心感を伝えたかった。

 物珍しそうに光を眺めていたカミーユは、照れたように上目遣いで「ごめんなさい」と言ってきた。すぐには意味が分からなかったから、素で「カミーユは何も悪くない」と返すと、さらに顔を真っ赤にした。


「お姉様の光はとても温かくて、優しい光なのですね」


 そう言いながらカミーユは、エリザベス譲りの大きな目をくりくりと動かして、光と俺を交互に見ながら微笑んでいた。



 そんな、ほんわかいい話があった翌朝。

 自分では小ホールで朝ごはん食べようと思っていたのに、周囲が口を揃えて「まだ早い!」と責め立てるから、部屋に運んで貰ってもそもそと一人で朝食を済ませた。

 一か月半動いてないけど、食べれば入るね。美味しかった。リジューの新鮮食材を使っているせいか、マジ美味かった。ってゆーか、一か月半寝てたけど、昨日の晩もちゃんと寝れたのもびっくりした。いや、昏睡って睡眠とは違うからおかしくはない……のか?

 そんな事を考えながら洗顔を済ませて室内着に着替えていたら、エリザベスの侍女が来客を告げてきた。ほうほうと油断して話を聞いていたら、イルマ達に室内着のままベッドに運び込まれて、肩には大振りのショールを掛けられて、呆気に取られて室内を眺めている内に、アリシアの寝室に面会スペースが作り出された。お気に入りのベッドサイドテーブルは撤去されて、そこにオークの低い丸テーブルが運び込まれ、椅子が三脚置かれた。見覚えのあるしっかり者の若い侍女が、お茶のセットを乗せたワゴンをコトコトと運び込んできた。

 ここまで、ちゃんとした説明は無かった。

 なんだか、あまりと言えばあまりな流れにイルマを見ると、彼女も結構なテンパり具合で指示出ししていたから、何を言っても怒られそうなので、俺はきゅっと口を結んでベッドの上だけど座り込んだ。

 ギヨームとエリザベスに続いてお客様が入って来た。

 その姿を見た途端、俺は室内着が見えないようにショールを押さえていた手をぎゅっと握り込んで、身構えた。忘れようのないセンター分けの直毛プラチナブロンドを煩わしげに手で押さえながら入って来たのは、そう、タランスだった。魔法バカクソ野郎が、なんで当然って顔してここにいるのか本気で俺は分からなかった。


「アリシア嬢。まずは無事のお目覚めを、心よりお祝い申し上げます。……早速ですが、ご体調の確認をさせて頂きます」


 イイ笑顔を浮かべながらよく分からない魔道具をテーブルに広げ始めたタランスを横目に、俺はコイツを招き入れた犯人はどっちだと、両親を睨みつけていた。


「アリシア嬢はご存知無かったかも知れませんが、人は体内の魔力が枯渇すると、自己防衛反応として昏睡状態に入ります。回復まではそもそもの魔力量や魔力の回復速度など、個々人の素養に依存するところがあるので、なかなか断定的なお話が出来なくて、私も非常に心苦しかったのですよ」


 先に教えとけって俺の意志は伝わったはずなのに、魔法バカクソ野郎は完全スルーと来ましたよ。ま、そういう反応だろうなとは思っていたけど、せめて詫びろよ。知らなかったかもとか、誤魔化してんじゃねぇよ。


「タランス教授? 確かにアリシアは教授の仰る通り、一ヵ月を過ぎてようやく目覚めました。それで、快癒はいつ頃になるお見立てでしょう?」


 何やらタランスが持参した魔道具を次々とあてられて、その度に魔道具が虹色に光るのだけど、もう虹色くらいじゃ誰も驚かない状況に若干引いていた。

 一通り検査が終わったのか、黙々と魔道具をしまい込むタランスに、エリザベスが不安いっぱいって声音で質問した。

 待ってエリザベス。俺もう、全然平気だから。なんで俺に聞かないでタランスに聞くの? そっちのが意味分からん!

 ほら! タランスがわざとらしく勿体付けるように顎に手を当てて思案顔しているけど、どうせコイツが考えてるのは、実験動物(アリシア)の観察に有利になるような返事を考えてるだけだから!


「子爵夫人。お嬢様の体調はもう、ほぼ万全に回復しているとお考え頂いても問題無いかとぞんじます。無理にベッドにいさせずに、身体を動かすなり本を読まれるなり、許容できるならお茶会に参加されても問題ございません。ただし、安易な魔法の使用だけは、厳に慎むようご両親からきつくお話くださいますよう」


 ぱぁっと明るくなった両親の顔色を逆光みたいに使うな! 真っ黒なイイ笑顔に凄みが増して、けっこうキモイ。


「なに、派閥の貴族達の蠢動など、どうでもよいのです。国王陛下のお言葉もありましたから、この夏休み中は、ご家族を交えて”光の魔法適正”と光の魔法について、アリシア嬢自身のご理解を深めるのにお使いになる事こそ、有効な時間の使い方というものでしょう。幸い、アリシア嬢にはお友達もいらっしゃいます。皆様とも、ご交流を深められるとよろしいでしょう」


 もうね、お前のその顔、ブラックホールイイ笑顔って感じだぞ? もしくは光一切反射しない真っ黒塗料みたいだぞ。なんてったっけな。びっくりするほど黒い塗料ってネットニュースで見たんだよ。

 貴方達もそう思いますよね?と、同意が欲しくて両親の顔を見たら、ようやくギヨームはタランスのキモさに気付いた感じだったのに、エリザベスは真剣な顔をして何か考えていた。

 ってゆーか、夏休み? あぁ、そう言えば言われた気がしてきた。

 一か月半寝てて、二か月夏休みか。

 休みすぎじゃないか? 俺。

貴重なお時間を頂きましてありがとうございます。


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