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いつもお立ち寄りありがとうござます。
始めましての方もありがとうございます。
今回はミシェル視点です。
大変申し訳ありません。後日、手を入れる可能性の高いお話になってしまいました。
練り込みが足らないのを自覚しております。
じゃあ何故上げるのか。プロット的に調子っぱずれになっていないからです。
正直言うと筆者自身が、何が足りてないのか掴み切れてないんです。
お目汚し、大変申し訳ありません。
狩猟大会から一週間が過ぎても、アリシア嬢は学院に姿を見せないままだった。
シャルル・アンリ殿下を始めとして、Aクラスの皆の気落ちした顔を見るのが辛い。特にマリー・シャルロット様とウジェニー・フィリス嬢、そしてシルヴィの悄然とした様子を見ると、心から申し訳ない気持ちで一杯になる。
アリシア嬢が昏睡状態になった原因は、恐らく瀕死の兄上を助けてくれたからだ。マランの家からはもちろん、婚約者の家からもリジュー子爵家にはお礼を済ませてはいるが、それで済む物ではない事を、僕も兄上も理解しているつもりだ。少なくとも僕は、彼女のあの献身にどう応えるのが正しいのだろう……。
纏まらない思考がまた、あの日の記憶を呼び戻す。
「敵襲、戦闘中、周囲警戒……まさか、ディファリモか!?」
僕達の護衛についていた騎士がそう叫んだ。
騎士の視線の先を追うと、薄れながら広がる赤に続いて、ピンクと黄色の煙が風に流されていた。
驚いた僕はシルヴィを見た。彼女も右手を口に当てて驚愕していた。僕達だけじゃなく、二年生や三年生にも緊張が走る。
騎士が叫んだ”混色の森”の暴走という言葉。
普段見る事の無い魔獣が大量に出現すると聞いた事がある、非常に危険な現象だ。
「男子諸君、ご令嬢方を内側にして陣形を組みたまえ。これより出発地に戻る。しかし進路上には、先ほど打ち上げられた連絡筒の場所があるため、私は君達の撤退する時間を稼ぐつもりだ。いいな、男子諸君。今は家に拘らず、経験ある三年生の指示に従うように」
不安に包み込まれていた僕達を落ち着かせようと、温かい笑みを浮かべながら騎士がそう言った。家に拘るなとは、きっと僕の事を言ったのだろう。やはり兄上に比べると僕は未熟なのか、そういう目で見られていると思った。
悔しさに俯いたら、くっと袖を引かれる感覚を覚えた。ちらと見ると、シルヴィが不安そうな顔をして僕を見ていた。
シルヴィ、そんな顔しないで。こんな僕でごめんね。でも……。
弱音を振り払うように頭を振った僕は、まっすぐ騎士の目を見返した。すると騎士は、僕の気持ちを知ってか知らずか、困ったような顔をして息を吐いていた。
それから騎士に先導されて歩いて来た方向と僅かにずれながら、足早に歩みを進める。茂みをかき分けて迷い無く進む騎士に続いて学院生徒が追い縋るようについて行くと、前方から魔獣の叫び声に交じって人の絶叫が聞こえてきた。
魔獣が吠える度に、ぎゅっと心を鷲掴みにされて竦むような気持ちになりながら、負けたくないと気力を振り絞って足を前に出す。するとシルヴィは気丈にも僕の隣に立とうとするから、大丈夫だよと小さく呟いてから、僕の後ろにいるように手を引いた。
少し抵抗を感じたものの、シルヴィは大人しく僕の斜め後ろに控えながら着いて来た。
「よし! 君達は今走って行った生徒達の後を追ってこの場から立ち去りなさい! レオ! ミカ! 待たせた!」
少し開けた所に出た途端に、僕達を護衛していた騎士は槍を構えて太く鋭い爪の付いた右前脚を振り上げた巨大熊の魔獣に走り込んで行った。フウルの側には、ソルセルが二頭と他にも見慣れない魔獣がいるのが見えた。
間違い無い。”混色の森”の暴走だ。少なくともフウルがこんな明るい”混色の森”外縁部に出てくるなんて聞いた事が無い。
護衛に急に放り出された僕達が驚いていると、三年男子が「行くぞ!」とチームに掛け声をしたのが分かった。慌てて彼の後を追うと、横たわった学院生徒に取りすがる令嬢が視界に入った。
―――え? シモーヌ様?
思わず足が止まった。
明るい金髪と泣き叫ぶ聞き慣れた声の主を確認したくて足を止めて注視すると、間違いなく兄の”婚約者候補”のシモーヌ様だった。
傍でシルヴィも小さな悲鳴を上げていた。
そう、シモーヌ様が泣き叫んで取りすがる相手など、この世に一人しかいない。
我が兄クロード、ただ一人だ。
足元が崩れ落ちたように足が竦む。目の前の光景が嘘であって欲しいと思いながら、膝が笑っているから上手く歩けなくてすり足で近づいて行くと、シモーヌ様はチームの仲間に引き剥がされて狂乱の叫び声を挙げながら連れて行かれた。
地面に横たわる兄上の身体から止めどなく、真っ赤な泉が流れ落ち、広がっていた。
「ミシェル、貴方も早く……」
後ろからシルヴィの声が聞こえるけど、僕はまるで聞こえていないように、兄上に近づいて行く。さらに後ろでシルヴィが「でも、ミシェルを置いてなど」と言う声が聞こえた。
「シルヴィ! 先に行って味方を、援軍を要請して来てくれ! 僕は大丈夫。君を信じているし、君の無事こそが僕の望みだ。だから早く!」
振り返りもせずにそう叫ぶと、シルヴィがすすり泣く声が聞こえてきたけど、魔獣の叫び声にかき消されていた。何か言い合いをしている喧噪と魔獣の叫び声が混じる中、一歩づつ兄上に近づいて行く。
まだいるのかと振り返ると、この小さな広場から女子学生の姿は消えていた。残っているのは騎士と男子学生だけだった。
僕が安堵の息を吐くと、戦っている騎士達が責めるような視線を送って来た。
「マラン家の跡継ぎを残して、その弟が立ち去れようか! 僕の事は気にせず、その任を全うしてくれ!」
呆れと侮蔑の視線を送られたが、僕にも考えはある。
僕は水の属性持ちだ。水属性と土属性は治療院でも引く手あまたの、怪我や病気の治療を行っている魔法使いが持つ属性だ。
僕自身はまだ未熟だと自覚しているけど、多少の回復……いや、延命は出来るだろう。
膝から崩れ落ちるように兄上の側にかしづいて観察すると、その左半身は血まみれだった。フウルの爪に切り裂かれたのか、所々焼け焦げていた。まずい。非常にまずい。
兄上は浅い呼吸を繰り返し、虚ろな目で空を眺めていたが、手を取るとゆっくりと僕に向けてた。
手を取ったのが僕だと気付いたのか、少し驚いたような目をして、息も絶え絶えに「逃げろ」という兄上は、今この瞬間にも光と闇の二大精霊と六属性の精霊が住まう天上に、魂が召されるのを待つばかりに見えた。
「アントゥニール・ラ・ヴィ」
呼吸を整えて全身の魔力を操作する。治療院でも使われる治癒呪文の一つだ。
ただし、僕はアリシア嬢が教えてくれた通り、兄上の身体から流れ出す血液を減らす具体的なイメージを心掛ける。シモーヌ様もシルヴィも救援を呼び行っているはずだ。あの方が兄上を、シルヴィが僕を見捨てるはずがない。
だからそれまで、兄上の命が消えなければいいんだ!
何度も何度も繰り返し呪文を唱えても、兄上の出血は収まらなかった。次第に兄上の顔色は青から白に変わり始めた。顔色の変化に合わせて、焦点を失った兄上の目は、ゆっくりと瞼を閉じようとしていた。
その変化に驚いた僕は、無我夢中で叫んでいた。
「兄上! 兄上! 起きて下さい! 兄上! 起きて!」
家で見せてくれる、困ったようで優しい笑みを浮かべた兄は、力を振り絞って呟いた。
「ミシェル……後を……頼む」
「いやです! 兄上がいなくなったら、僕は何を目標にしたら……。兄上、起きるのです! 兄上!」
そう叫んだ途端、兄上の手は不意に奪われた。
驚いて顔を上げると、アリシア嬢がそこに居た。真っすぐに兄上を見て、僕には一瞥もくれない。
何故ここにアリシア嬢が? どうして? 何のために?
「アリシア嬢? 一体? 何故? 何を?」
頭に浮かんだ言葉が次々と口から衝いて出るのを止める事も出来ず、ただ彼女がするがままを見ていた。兄上の手を両手で包み込むのを、僕はただ茫然と見ていた。
するとすぐにアリシア嬢の身体から、ふわふわと光の粒が溢れ出した。それは次第にまとまって温かな光の束になると、兄上の身体を包み込んでいった。
目に見えて兄上の出血が収まっていく事に、僕は安堵と驚愕が混じり合う奇妙な感覚を覚えていた。側で誰かが「これは?」や「おおっ!?」と、驚嘆の声を上げるのが聞こえた。
僕達のすぐ側で騎士達は魔獣と戦っているのに、アリシア嬢を中心に発せられた光に包まれていると、まるで別世界の出来事のように思えた。
一瞬、光が峻烈さを持って広がった。
まるで何かを拒絶するように輝くと、騎士達は呆気に取られたように声を出していた。
「ミカ? テオ? 消えた、よな?」
「消えた、な……」
「一体、何が起きた? レオ? ミカ? 分かるか?」
呆気から安堵に変わっていく声音に脅威が去った事を知らされた僕は、顔を動かさずに兄上の様子を見ていた。
いつの間にか血色が戻り、呼吸も整っていた。酷く血に汚れているけど、兄上の左半身にあった傷は、跡形もなく消えていた。
驚きのあまり僕が顔を上げると、アリシア嬢は満足そうな笑みを浮かべたまま、その場に倒れ伏した。
それなのに僕は、彼女の神々しさに身動き一つ出来なかった……。
アリシア嬢が光る姿を見るのは三度目だったけど、”光の魔法適正”持ちだという事が、本当の意味で分かった気がした。光の精霊の恩寵を受ける彼女こそが、聖なる乙女。すなわち聖女だと言われたら、僕は疑う事無く信じるだろう。
兄上と僕を救ってくれたアリシア嬢が、そうでないとはとても思えなかった。
「ミシェル? どうかなさったの?」
シルヴィの声にはっとした僕が思わず謝罪すると、シルヴィは困ったような顔をして謝罪はいらないと言った。また心配をかけてしまった。大丈夫だと返しながら、胸がざわつくのを感じた。
シルヴィは何も悪くない。
悪いのはやっぱり、僕なんだ……。
ごめんね、シルヴィ。君を選べないかもしれない……。
いや、そもそも選んでもらえる資格が無いのかも知れない。
それが自分に言い聞かせている言い訳だと自覚しながら、アリシア嬢の状況が心配で仕方なかった。
貴重なお時間を頂きましてありがとうございます。
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