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同じクラスになったとリュシーと喜び合っていると、何組かクラスが別になったと慰め合う令嬢達がいた。中には”婚約者候補”とその”ご学友”もいて、貴族って本当に大変だなと視線で応援だけした。
しかしこうして貴族令息、令嬢が揃っているところを見ると、ここは本当にゲーム世界なんだとしみじみ思う。深い赤色の髪にキツめのピンクの髪、鮮やかな緑の髪やバイオレットの髪と、画材屋さんの絵の具コーナーにいるような気分になった。それに皆、見事に整った容姿をしている。
男女に関係なく、これこそ百花繚乱というやつだな。
学生の頃、貴族や上流階級に美男美女が多いのは、そういう連中は美男美女同士が結婚するからその子供もそうなるって話を聞いた事あるけど、この光景を見るとあながち間違いじゃない気がしてくる。
「ご令嬢方? 不躾で申し訳ないが、挨拶させて頂いてもいいだろうか?」
明らかに俺とリュシーに呼びかけた声に振り向くと、十三歳にしては随分と背の高い少年がぎこちない笑みを浮かべて立っていた。
「ええ、もちろん」
俺が戸惑っている間に、リュシーは快く受け入れていた。やるなぁ、リュシー。
やや切れ長の目に浮かぶ赤みの強い茶色の瞳を照れたように伏し目がちにして、アッシュグレーの髪をかなり短く刈り込んだツーブロックの髪を必要以上に撫でつけている少年を見た俺の感想は、「あ、ゲーム世界にもこういう髪型の男子いるんだ」だった。
雑誌のヘアモデルや読者モデルいる。街で見かけたイケてる男子的な、酷い言い方すると”量産型”な感じ。時代と共に細部は変わってるけど、俺も学生の頃に憧れもしたし、やってみたいと思ってたスタイルだ。
しかし、その髪型にアッシュグレイの髪色なんてデキ過ぎというかやり過ぎというか、ほんとモデル感が凄い。
「私の名は、マクシミリアン・ド・ルフェーブルと申します。ご令嬢がた、どうぞお見知りおきを。そして、お名前を伺っても?」
しかも名前がマクシミリアンとか。もうデカ盛かってくらい盛ってくるな。いや、別に盛ってはいないのか。
阿呆な事を考えている間に、少年は挨拶を終えて返礼を促していた。厳密に言えば、ここは俺が先に挨拶するのがベターなのだが、うっかりしている俺に気付いたリュシーが、見事なカーテシーで挨拶していた。
「わたくしはリュシー・ド・ヴェルヌールと申します。こちらこそ、どうぞお見知りおきくださいますよう、お願い申し上げます」
リュシーが時間稼ぎしてくれたお陰で思い出した。
ルフェーブル君、俺の記憶に間違いなければ、こいつ伯爵家の子だ。入学式の席で結構近くに居た。
やべー、上位貴族じゃん……。
「初めまして、ルフェーブル様。私はアリシア・ド・リジューと申します。どうぞ、お見知りおきくださいますよう」
慌てて挨拶を済ませるとルフェーブルは、どこか居心地が悪そうな顔して言った。
「ああ、その……もし良ければ、少し砕けた話し方をしないか?……いや、しませんか?……じゃなくて、如何でしょう?」
リュシーと視線を交わしてから、吹き出しになった口元に手を添えて、俺は答えた。
「ええ、もちろんですわ。私もその方が助かります」
―――ぷふっ。
あ、漏れた。ごめんごめん。
多分ルフェーブル君は、親御さんに何かしら指令を与えられてたんだろうな。
リュシーも頷いて同意するのを確認したルフェーブルは、あからさまにほっとした顔をしていた。
これはきっと、女子と話をして来いとか、そういう系の指令かなと思っていたら、俺の想像を軽く上回っていた。
「ありがとう、二人とも。いや、助かったよ。親から特待生とお近づきになって来いと、尻を蹴られていたから」
やっぱり!
親って時たま、そういう無茶振りをするよな。短距離走で一等取って来いとかテストで百点取って来いとか気軽にさ。
特待生と仲良くなれか、結構な無茶振りだよね。だって特待生って女子じゃん?
……ってゆーか、俺じゃん?
えぇ!? お近づき!? 俺と!? なんで!?
「うふふっ。ルフェーブル様は、随分と正直な殿方なのですね?」
俺が呆けてる間にも、リュシーは貴族令嬢としてしっかりと受け答えしていた。なんか、後輩女子に丸投げしてる感があって、辛い。
そんな俺を気にも留めず、ルフェーブルは言った。
「ああ、その……なんだか済まない」
照れて頭を掻く仕草も、少年の幼さが残っていて初々しいな……。
じゃない。
俺とお近づきになってどういう意味だよ?
「あの、ルフェーブル様? 特待生とは、私の事をご存じなのですか?」
なんとか動揺を立て直した俺は、率直に聞いた。
するとルフェーブル君は、何を今更と言いたげな顔をして教えてくれた。
「それはもちろん。光の魔法属性を持つリジュー子爵家のご令嬢。注目度の高さに反して殆ど表に出てこないから、皆貴方とお近づきになりたいと考えているさ」
ああ、お近づきってそういう……。良かった。いわゆるお友達か。てっきり男女的なのかと思った。
「そうですわね。折角一緒に入学したのですから、私も沢山の方とお友達になれると嬉しいです」
俺が微笑みながらそう言うと、ルフェーブルも嬉しそうに破顔していた。
遠巻きに俺達を見ていた他の新入生も、楽しそうに談笑する姿に安心したのか次第に近づいてきて、代わるがわる挨拶を交わした。
挨拶した女性生徒のほぼ全員と、お互いに名前で呼び合う事になった。俺は顔と名前をしっかりリンクさせて覚えようと必死になっていると、パンパンと拍手の後にキュニ教授の声が小講堂に響いた。
「さぁさ、皆様? 本日は授業もございませんから、既に側仕えが外で待機しております。そろそろお戻りくださいませ」
追い立てるような掛け声に驚いていると、それは皆も一緒のようだ。それもそうか、貴族令嬢が追い立てられるなんて経験はもちろん、想像した事も無いだろう。
ふと小講堂を見渡すと、いつの間にかAクラスの学生は姿を消していた。
俺は進んで関わり合いたいとは思っていないから、それ以上考えずに小講堂を後にした。
廊下に出ると、当然だが側仕えのお仕着せのせいで殆ど違いの無い執事と侍女がずらりと待機していた。焦る必要は無いのに、ついつい自分の側仕えを探してしまう。
「お嬢様、こちらです」
声のする方に顔を向けると、ゆったりとした笑顔を浮かべてリリエンヌが待っていた。その手には学院の指定鞄が下がっている。
やっぱり、よく知る顔を見るとほっとする。彼女の先導を受けて廊下を進み出すと、後ろからほぅと吐息が聞こえてきた。何かあったのか知りたいが、慌てて振り向くのはちょっと優雅じゃない。
興味は惹かれたけど、振り切るように足を進めた。
玄関前には何台か馬車が待っていた。リリエンヌは迷わずリジュー家の馬車に近づくと、御者も心得たものですっと御者台から降りるとドアを開いて待った。
馬車が走り出して少しすると、リリエンヌが口を開いた。
「お嬢様? お疲れでしょう? この後、植物園に足を延ばしては如何でしょう? きっとお疲れも取れるとぞんじますが……」
いきなりの提案に唖然としていると、リリエンヌは構わず続けた。
「植物園がお嫌であれば、図書館でも構いません。そうだ! すぐ近くのカフェは如何ですか?」
名案が閃いたと言いたげな顔をして立て続けに話してくるが、どうにもイヤな予感がする。リリエンヌがこういう顔で何か提案してくる時は、何かがあるんだ。
「ねぇリリ? 怒らないから、何を考えているのか教えて頂戴?」
問い詰めるように、わざとらしい笑顔を作って聞くと、リリエンヌはぎょっと目を瞠って「なんでバレた?」と表情で答えてきた。
更に問い掛けると、渋々教えてくれた。
……コイツ、また鳥の姿で飛ぶつもりだった。それも植物園か図書館かカフェでバッサバッサと飛ぶつもりだった。なんの為にバサるつもりだったのか聞くと、なんで分からないのかという顔をして言った。
「それはもちろん、わたくしを追うお嬢様のお姿に、殿方の視線を釘付けにするためですわ?」
――はぁ……誰か、リリに何とか言ってあげてくれないか……。
そうは思っても馬車には俺とリリの二人きりだ。仕方がないから昨夜と同じ話を繰り返すと、リリも同じく顔色をくるくると変えながら聞いた後で、一言詫びてきた。
しかし、同じ飛ぶなら森でいいと思うんだが、なんでわざわざ植物園? どうして場所指定なのか全然わからん。そこに何か意味があるのか?
車内の空気が重くなっていた。俺は絶対悪くないのに、何故か感じていた罪悪感を払うように違う話題を切り出した。
「そうそう、ねぇリリ。聞いて下さる? 私、お友達がたくさん出来ましたのよ」
リュシーだけじゃなく他の女子生徒達やルフェーブルとも仲良くなった事を話すと、「それはよろしゅうございました。イルマ様もさぞお喜びになるでしょう」と、朗らかな笑みを浮かべて一緒に喜んでくれた。
話の流れでクラス分けの事や、Aクラスが実質的に第二王子と”ご学友”、”婚約者候補”の隔離クラスだと話したら、リリエンヌの顔つきが変わった気がした。
「お嬢様。お嬢様は確か、Bクラスと?」
「ええ、そうよ。リュシー様やルフェーブル様と一緒なの。お友達も出来たから明日からの学院がとても楽しみだわ」
そう答える俺を見据えるリリエンヌの眼差しは、何故か酷く冷たい物だった。
あれ? 俺、何か間違った事言った? それともやった? なんでリリエンヌ怒ってるの?
「お嬢様、Aクラスの皆様とはもう、お付き合いされないのでしょうか?」
眼差しだけじゃなくて口調まで冷ややかなリリエンヌの問い掛けに、その意味を考える余裕も無く俺は答えていた。
「いいえ? ウジェニー・フィリス様はAクラスですから、全くお付き合いが無くなる事は無いわ? リリ、どうかして? なんだか怖い顔をしているわよ?」
それを聞いたリリエンヌは露骨に安堵の吐息をつくと、「これからでございますから」と言って微笑んだ。さっきまでの冷たい雰囲気が一気に溶けたようで、安心した。
安心したところで窓の外を眺めながら、リリエンヌの剣幕はどういう意味だったのか考えてみた。
俺の感覚だと、王族や上位貴族との交流なんて面倒だし危険だから願い下げというのが本心だが、このゲーム世界の、いや貴族社会からすれば、俺の考え方が非常識なのかも知れない。
親から”特待生”とお近づきになれと言われたルフェーブルの例がある。であれば、他の新入生も親や自分の意志で”婚約者候補”の座を狙っていたり、王族や”ご学友”の覚えが良くなる事を意識しているのかも知れない。
そっちの方が常識なのか……。
考えてみればリリエンヌも出会ってすぐに、ちゃんと貴族令嬢として振舞えって叱ってきてたな。
そうか、ゲーム世界人のリリエンヌにしてみれば、俺の常識外れっぷりは貴族令嬢としてヤバい外し方って事か。冷静に考えると、リリエンヌの言い分は筋が通ってるな。
しかし、面倒は面倒なんだよな。いや、ラ・ロングヴィル伯爵夫人も焦らず三年かけるように言っていたから、じっくり構えるか。
そう思い直したら、リリエンヌの忠告を蹴り続けている事に詫びと感謝を送りたくなった。
「ごめんなさいね、リリ。いつもありがとう。これからもよろしくね」
突然言った俺の言葉にリリエンヌは訳が分からないという顔すると、ふっと小さく息を吐いてから、苦笑するような顔をして「もちろんでございます」と答えてくれた。
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