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乙女ゲームは分からない!  作者: 金鹿
第一章:入学前
2/181

1-2

今日はスタートという事で、2話投稿しました。


1話目である「1-1」からお読み下さいますよう、お願いいたします。

 明晰夢ってマジすげぇ。ホントに腹減ってるように空腹感を感じる。


 いやそうじゃなくて、イルマと他の侍女の手を借りてゆるふわの寝間着から普段着のドレスに着替えさせられたんだけど、コルセットまじパない。口から内臓が飛び出すかと思った。

 コルセットを着るのを手伝った侍女を無意識で軽く睨んだら、申し訳なさそうな顔をしながらもう一段階引き絞ってきた時は、思わずぐえって声を上げそうになったけど、さらに何枚もペチコートを付けて後でドレスを着てみたら、同じ侍女の顔を見て頷いて感謝したわ。彼女、小さく会釈して返して来たよ。

 これでドレスぴったりってどういう事よ?なんだこの文化。貴族女性マジすげえ。

 侍女さん達は巧みに髪をハーフアップに整えると、コーディネートに調和するアクセサリーを各所に施している。その間もあれだけ締め付けられてたのに不思議と腹は減ってくる。これ多分、アリシアの体が覚えてるんだろうな。十三歳なのにこの苦行か。

 イルマに先導されて昼食を摂る小ホールに通される。ま、ホールってついてるから多少覚悟していたけど、優に二十人は食事が出来るテーブルがドン!と置かれ、テーブル長辺には椅子がズラ!と並び、大会議室かカラオケのパーティールームかってくらい広い部屋だった。

 イルマが俺の到着を告げてエリザベスから入室許可を得ると、そのままイルマに続いて俺の席の側まで行く。次いでエリザベスに向かってスカートの左右を軽く摘み上げつつ、片足を引きながら軸足を軽く曲げて挨拶を済ませる。

 正直、大昔の西洋女性マナーなんか知らないので、当然アリシアの記憶を探ってみたが、全く発見できなかった。多分こんな感じだろうとやってみたら体の方が思う通りに動いたので、それほどハズしてない気がする。ほんとアリシアちゃんとして!

 さてどうだったかなとエリザベスの顔色を窺うと、そこには信じられない何かを見たとばかりに、エリザベスが驚愕の表情を浮かべて呆気に取られていた。

 あちゃー違ったんかなと肩を落としそうになった瞬間、テーブルを挟んだ向こう側から、可愛らしい幼女の声が聞こえてきた。


「素敵ですわ! アリシアお姉様! 昨日の晩、私を驚かせると仰っていたのは、こんな素敵なお姿も出来るお姉様の事だったのですね!」


 母親譲りの、光の加減でピンクがかって見える金髪もふわふわと軽いロングボブを見て、一目で妹のカミーユだと分かる。まだ6歳の彼女はキラキラとした笑顔で羨望の眼差しをこっちに向けている。

 中身が俺でなんかごめん。

 あとアリシアがカミーユを驚かせるって言ってたの、それ、邸宅裏の小さな池に沢山いるオタマジャクシの事だから。時期的にそろそろカエル大量発生的な驚きだから。もちろん言わないけど。

 でもアリシアはカミーユには優しいお姉ちゃんで、心から妹を慈しんでいるいいお姉ちゃんなんだよな。発想とか着眼点がアレだから結果や終着点もアレなんだけど……。


「カミーユ、そのように声を上げるのははしたないわ。アリシア、素敵な挨拶をありがとう。もう体調は良さそうね。母は安心しました。さあ、お掛けなさい」

 

 エリザベスに促されるとイルマがスッと椅子を引いてくれた。タイミングを合わせやすいように腰を落として静かに座ると、今度は室内にいるカミーユ以外の皆が驚いて俺に注目したのが分かる。

 ただ座っただけじゃん!?

 アリシアー! 今すぐに、これまでの君に対する客観的な評価が知りたい!!


 昼食はオーソドックスな内容だったけど、新発見もあった。まずテーブルマナーは俺が知ってる基本的なのでイケた。良かった。マジ安心した。

 そして食事は多分フランス料理だろう。コース料理で、前菜にスープ、魚料理が出た後に口直しを挟んで肉料理、デザートが出た後で食後のお茶が出た。

 うーん、美味しいは美味しいんだけど、前菜にバルサミコ酢使ってるのはまだしも、魚料理のポワレはワサビ添えてあったり肉料理のソースが醤油風味だったりですんごいカオス。さらにデザートは抹茶アイスにウェハース付いてるし、お茶はコーヒーか紅茶かほうじ茶選ばせるし。

 なんぞこれ? ホントここドコ? 何時代?

 俺の脳みそ、何ベースに何を混ぜて構築したんだこの明晰夢。

 お陰で食事中の会話は、上手く会話を回す事に集中せざるを得ず、情報収集は少し出来たけど発信はさっぱりだった。

 食後のお茶は紅茶を頼んだ。アールグレイの香りを楽しみつつ、さてこの後はどうしたものかと思案していると、エリザベスが俺とカミーユに話しかけてきた。


「二人とも、先ほど旦那様より連絡がありました。明後日の朝、ご領地に戻るとの事です。旅支度と共にお友達にもご挨拶なさい」


 その言葉に俺達はこくりと頷いて同意する。それを確認したエリザベスはそのまま続けて言った。


「それと、領地に戻ってからの生活ですが、去年と同じくそれぞれ目標や計画を伺いたいわ」


 はぁ!? 急に何? 慌ててアリシアの記憶を探る……検索……サーチ……。

 そうしている間にもカミーユは、鈴の音のような高らかで可愛らしい声で元気よく返答していた。


「私はお姉様のように家庭教師の先生を付けて頂きたいです。いきなり全部は難しいでしょうから、何から学んでいくべきかお母様に決めて頂きたいですわ。それにお勉強を始めれば今までよりもお姉様と一緒にいられるでしょう?」


 カミーユがにっこにこ顔で褒めてと言わんばかりの笑みを俺に向けている。

 うーん、正直に言えないのが辛いけど、アリシアはアレだぞ? 一緒に勉強すると幻滅しちゃうかもだぞ?

 ま、所詮夢は夢。

 こんな可愛らしい妹がいるなら、尊敬される姉になるべきだ。お前もそう思うだろ?アリシア。


「私は来年、学院入学を控えております。出来ればこれまでご迷惑をお掛けしてきた先生方にきちんとお詫びした上で、これからは今まで以上に厳しくご指導頂きたく存じます。ですから、叶うならお母様からもお口添え頂けるとありがたいのですが……」


 へっへーん。アリシア、ちゃんと勉強しろよ!カミーユに尊敬される姉になれよ!せっかく才能を認められて学院とやらに入れるんだから、自分を信じて頑張れよ! リジュー子爵領はお前の記憶を見ただけでも、経済価値の高いアタリ領地なんだから有望株をお婿さんに出来る様に頑張れよ!

 俺は起きたら出社していつもの仕事をするだけだ。

 わははははは……は?

 あれ? エリザベスが目を白黒させてる。子爵夫人としてそれはどうでしょう?

 お付きの侍女さん? ここは突っ込まないと! 咳払いでもいいぞ?

 そう思って辺りを見回すと、カミーユは目をキラッキラさせてるのに、周囲の侍女ーズまでエリザベスに合わせて目を白黒させてた。

 おい、アリシア。お前ホント何して来たんだ?


 その後、エリザベスがちらちらと俺を見ながら、イルマに耳打ちをするという不穏な状況を見る羽目になったが、カミーユがまとわりついて可愛いのでどうでもいいかなと思った。

 去年末に実家で会った年嵩のいとこの子供たちが三人ほどいて、きゃいきゃいと遊ぶ姿を眺めながら酒を酌み交わしていたら、いつの間にか早く結婚しろという定番コースに入ったのも思い出した。ま、相手がいたら検討はしたいけどな。いねーからな。検討も出来んな。

 食事の時間が終わりイルマと一緒に自室に戻ると、早速荷造りが始まった。

 手伝おうかと申し出ると、即座にあり得ないと否定されて、窓辺に置かれたテーブルセットに無理やり座られた。

 ちょうどいいから刺繍の練習をしたらどうかと言われたので、うろ覚えの縫い方でチクチクと縫っていたらこの体もうろ覚えだったようで、途中何度か「んがー!」と叫びそうになるのを抑えながら、イルマが声を掛けてくれるまでチクチクした。

 陽光が明りの基本なのか、日が暮れるにつれて目がシパシパするのを感じ始めた辺りで、イルマが夕食の時間だと教えてくれた。

 夕食か……正直腹は減っていない。

 なんせ運動どころか動いてないからな。指先だけじゃカロリー消費なんて、ねぇ? ま、食べないとか小ホールに行かないとかいう選択肢は無いんだろうなと諦めて、イルマの側にいた侍女に後片付けを頼んで部屋を出た。

 それにしても、長い夢だな。おい。


 お昼と同じように小ホールに入ると、家長が座るべき位置に男性が座っていた。間違いなく父親であるギヨームだ。

 軽くウェーブのかかった明るいオレンジ色の髪を撫でつけて、神経質そうな細面に乗せた細いフレームの眼鏡の奥にやや三白眼の目に明るい茶色の瞳が覗いている。アリシアの瞳の色、父親譲りなんだな。他のパーツはエリザベス譲りで良かったなぁ、アリシア。ギヨーム似じゃなくてほんと良かった。そういう意味ではカミーユはエリザベスの生き写しって感じか。それもまた良かったね。

 だってギヨームの顔の作り、頬がスッキリとしたやや面長な細面にさらに細いフレームの眼鏡って、金融・財務監督省庁のバリキャリ課長クラス感満々で、ちょっと付き合いたくないタイプなんだもん。

 少なくとも俺にはいい思い出無いんだもん。正直苦手。

 お昼と同じように挨拶をすると、眼鏡の奥の瞳がくっと大きくなったような気がした。心なしか驚きよりも喜びが勝っているような気がする。もしかしてギヨーム、娘には甘いチョロパパ系か?


「おお、アリシア。美しい挨拶だな。エリザベスや他の家人からも聞いたぞ。何やら生まれ変わったように、淑女としてあるべき姿にまい進しているとな」


 はぁ? なんだそれ?

 ちょっと困るんですけどと軽く首を傾げて見せると、ギヨームは慌てたように席に着くように促した。

 ん? なんか違う意味にとられた?

 昼食時にエリザベスが座っていた席にギヨームが座り、俺の正面にエリザベス、その隣にカミーユが座ると、リジュー家の家令であるエドモンがギヨームの様子を確認して侍女たちに合図を送った。

 こうしてようやく、夕食が始まった。

 昼食と違って取り分けられた小皿料理だけじゃなかった。中盤に差し掛かるとエドモンがワゴンに大きなクロシュを被せた料理を運び込んできた。

 思わず胸の中でおお!?と興味を惹かれていると、ギヨームの側でワゴンを止めた。そしておもむろにクロシュを開くと、そこにはまるまると太った大きな鳥の丸焼きが鎮座していた。

 エドモンが確認を求めるように大皿を僅かに傾けると、ギヨームは鷹揚に頷いて見せて視線をテーブルに移す。その視線の先は他の使用人によって十分なスペースが確保されていて、エドモンはそこに大皿に乗った丸焼きを置いた。次いでエドモンは押し戴くようにして、長さ四十センチほどの大振りのナイフとカービングフォークをギヨームに手渡した。

 受け取ったギヨームも手慣れたもので、迷いなくナイフを入れてすすっと鳥の丸焼きを切り分け、エリザベスから順に家族に取り分ける。

 この辺は夢も現実と変わらないんだなぁと妙な感心をしながら、取り分けて貰った鳥肉を一口大にしてなるべく上品に口に運ぶ。もにもにと咀嚼すると、鶏肉とは違うさっぱりとした食感から、ターキーか何かだったのかと思いつつ、ソースを少しだけつけて味変しながら頂く。さすが夢の中、現実とちょっと違う感じが面白くて、会話もそこそこに食べ進めてしまった。


「ふむ、アリシアの食欲は変わっていないようだな。良い事だ。もう少しどうだね?」


 うっわギヨーム、ちゃんとチェックしてやがった。ま、年齢と立場から言えばお替わりしてもおかしくは無いけど、淑女としては避けておくべきだな。ぶっちゃけコルセットのチカラで、もうそんなに入らないし。


「ありがとう存じます。お父様。ですがもう結構ですわ」


 そう答えるとギヨームは肩眉をツイッと上げて訝しそうな目でねめつけてきた。

 なんちゅう顔で娘見てんだよ、おい。素で引くわ。

 でもここは、何か上手い言い回しで返すとこだな。アリシアの記憶を探って、怠惰とか肥満の代名詞になりつつ下品にならない言い回しを探す。おっ、これかな?


「お父様、お気持ちは大変ありがたいのですが、それも過ぎると私はヴェリヴュートになってしまいますわ。同じ赤や白でも、私はロゼのようでありたいと存じます」


 ヴェリヴュートはこの夢世界の花で赤や白、黄色と花弁の色が多様で確かに綺麗だけど、花の直径が五十センチ程もある大輪の上、どこから見てもボール状のまんまる型、しかも香りがきつい事から、遠くから見る分には良いけど近づきたくない女性を暗喩するものだろう。対してロゼは現実世界と同じバラの事で、気高く美しい女性の代名詞の一つと言える。

 それなりの返し文句になっただろうと思っていたら、ヨギームは呆け顔で俺の視線を意識するや、軽く咳払いをしてから小さく「そうか。ではよい」と言って食事を再開した。俺もニコリと微笑んで食事に戻るが、対面のエリザベスまで何故かまだ呆けた顔をしていた。解せぬ。

 その後はデザートから食後のお茶まで、家族団らんの会話が続いた。むしろこっちの方が難易度高かった。アリシアの記憶って、家族や使用人、近しい友人との絆は結構深い所まできちんとしているのに、何故か貴族令嬢としての知識は穴ポコだらけで、貴族の表現や言い回し部分にそれが顕著になる。


 アリシアァ―――――!!!!



 主に精神的な疲労で、イルマと一緒に自室に戻る頃にはくたくたになっていた。

 それなのにイルマと侍女に追い立てられながら湯浴みをさせられた。ま、お風呂は大事だよな。俺はもっぱらシャワーなんだけどね。

 もう反抗する元気も無いからイルマ達侍女の操り人形ですよ。あれよあれよという間に湯浴みが終わり、香油マッサージを受けている内に寝落ちしそうになった。最後、ドライヤー的な何かで髪を乾かされると、ゆったりふんわり寝間着に着替えて瀟洒な天蓋付きベッドに放り込まれた。

 イルマ達が部屋の灯りを落として退室の挨拶をするのを聞きながら、天蓋をぼぅっと眺めていた。

 変な世界の十二歳の女の子の体に乗り移る夢を見たなんて言ったら、絶対変態扱いされるな。

 そんな事を思ったら失笑が漏れた。

 慌ただしい一日を過ごすというシュールな夢だったが、振り返るとそれなりに楽しかったようにも思えるから不思議だ。まぁそれも、俺が眠って次に目覚めるのが見慣れた賃貸部屋の一室だと思うからこその気楽な思考だからだろうな。

 あー疲れた。ゆっくり眠ろう。寝てる間だけは真に自由になれるんだから。

 深くて柔らかいふかふかの何かに身を任せるように、俺は意識を手放した。

 お休み……なさ……い……。







 誰かがぎゃあぎゃあ騒ぎながら俺の体を揺らしている。

 多少の抵抗も鎧袖一触とばかりに布団が引っぺがされた。


「お嬢様! アリシアお嬢様!! お目覚めのお時間です!」


 イルマの声で飛び起きた俺は、我慢できずに叫んでいた。


「何でぇ―――――!?」

貴重なお時間を頂きましてありがとうございます。



よろしければ、評価やブクマ、感想を頂けると嬉しいです。


面白かったよとか応援の意味で、評価ポイントや感想頂けたらなと思って、書いています。

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