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「ノア、聞こえるかい」
良翔は念話でノアに話し掛ける。
『ええ、聞こえるわ良翔。アイツかなり不味いわね』
「ああ、確かにそうだと思う。この状況はかなり良くない。それに、アイツはどうやら転生者か、俺達と同じ、転移者のどちらかだ。名前は明らかに日本人名だし、あの強力な強さはこちらの世界に来る時に手にしたものの筈だ。そして恐らくゲームの世界と混同していると思われる」
『え?アイツが?あんなのが良翔と同じ日本人なんて嘘にしか聞こえないわ。でも、そしたらアイツと話せるんじゃ…』
「多分、無理だね…。まともな思想を持った奴が、アースワイバーン達を乗っ取り、いずれタリスを支配するつもりだなんて、言う訳がないさ。大方ゲームの延長で、この世界に来れたものだから、通常とは違う、好きな事をしてやろうって感覚なんじゃないかな?だから、こちらが止めろと言ったところで、怒るのが目に見えるよ」
『うっわぁ。凄く嫌な奴にしか聞こえないわ。じゃあ、どうする良翔。逃げる?』
「そうだね。これ以上危険を感じたら逃げよう。死ぬ訳には行かないからね。でも、まずはダメ元で交渉してみるよ」
四島は良翔達が会話している最中も、良翔の刀をヒュンヒュン振り回している。
「おい、四島と言ったな」
良翔が話し掛ける。
だが、四島は良翔を無視して、素振りをしている。
剣道の上段の様な構えから、対象とした、岩へ斬りつけ、遊んでいる。
良翔は一呼吸置き、四島の手から刀を消す。
四島は振り下ろした筈の刀が消え、バランスを崩す。
そして、手から消えた刀を、周囲を見回して探す。
そして、思い至った様に良翔の方を向く。
「なんだよ、人がせっかく楽しんでたのに。お前この武器を持ってるんじゃなくて、作り出したんだな?だから、消せるって事だろ?モブのくせに生意気なスキルを持ってるな」
良翔は四島のへらへらした馴れ馴れしい態度は気に食わないが、無視し、再び話し掛ける。
「おい、四島と言ったな。お前は…、日本からの転生者なのか?」
すると、ピクリと眉を上げて四島が良翔を見る。
「へえ、おじさん。僕の事何か知ってるのかな?」
「いや、お前の事は全然知らない。ただ、お前のその名前が日本名なのと、その異様な強さ、ひょっとしてと思ってな」
「ふんふん、て事は、おじさんも転生者なのかな?おじさんもひょっとして、日本から?」
「まあ、そんな様なものだよ。まだ、こちらに来て日が浅いがな。なぁ。ところで、何でこんな事してるんだ?それだけの力があれば、恐らく英雄だの何だのって敬われたりする事だって出来るだろうさ。何故あえて、人の敵になる様なことするんだ?」
すると、四島は大笑いを始める。
「あはははは!その力でおじさん転生者なの?残念な能力だねー?そっか、僕はひょっとして恵まれてたのかもね?おじさんより遥かに強いもんね。現世で死んじゃった時は、このクソみたい世界のせいで、何で僕が死ななきゃならないんだって嘆いたけど、この強力な力のおかげで、今や天下人さ。今や死んで正解だったとも思ってるよ。そして、おじさんも馬鹿だねー。せっかく転生までして、僕には圧倒的に劣るけど、それなりの力を手に入れたってのに、何でこっちに来てまで、あっちの世界と同じ様にルールを守らなきゃいけないのさ?それにね、僕は疑問だったんだよ。何でモンスターは敵なのかって。奴らにとってだって人間は滅ぼしに来る敵だよね?だからね、どっちが正義でどっちが悪かなんてどうでもいいんだよ。なら、現世では出来なかった、決められた物語を歩む主人公よりも、別の方法で世界の統一を行たっていいじゃないか、って考えた訳さ。名案だろ?ほら、ずーっと何倍も面白そうじゃない?なのにさ、おじさん達せっかく配下にした、アースワイバーン達を倒しちゃうしさあ。僕の邪魔しちゃってくれてね。正直話をするまでどうやって殺してやろうか、悩んでたんだけど、気が変わったよ。いくら弱いとは言え、僕と同じお仲間なんだ。今なら、全て水に流して仲間にしてあげても良いよ?さっき、お姉さんには断られちゃったけど、ノーカンにしてあげる。ほら、一緒に新しい楽しみ方しようよ」
『コイツ腐ってるわ…』
ノアは念話でそう呟く。
だが、散々コケにされたからといって激情に駆られ、攻撃を仕掛ける程ノアは自惚れてはいない。
怒りはしたが、ちゃんと自重している。
良翔も散々年下と思われる、幼ささえ残った青年の横柄な振る舞いに腹を立てはしたが、グッと堪える。