1-91
良翔とノアは森に出る。
再び古の森だ。
森は静まり返っている。
良翔は気掛かりを口にする。
「知らなかったとはいえ、アースワイバーン達を全滅させてしまったのは失敗だった…。ノアのさっきのサザにやったみたいに元に戻せないかな…」
するとノアから思い掛けない返答が返ってくる。
『多分出来るわよ?アースワイバーンの牙から、魔力を注ぎ込んでやれば、出来ると思うわ』
良翔は驚き、目を見開く。
「そうか!!流石はノアだ!じゃぁ、事が全て終わったらハザやサザに聞いて、試してみよう!それならタリスの東の森の中のアースワイバーン達もどうにか出来るね!」
ノアはニコリと笑い
『ええ』
良翔は気掛かりが取れた事で気分がスッキリする。
あとは黒幕の、あのお方、だけだ。
良翔とノアは地図を広げ、位置を確認したのち、古の湖から、北に向かう。
30分程飛んだところで、村が見えてくる。
「なるほど…、たしかにこれは酷いな…」
村の外周を囲う、侵入抑止用の柵は、全て薙ぎ倒され、全く修復の目処が立っていないのだろう。
一部は朽ちかけてすらいる。
襲われてから随分と放置されている証拠だ。
村のいたる建物は、一部破壊、もしくは全壊しており、人の気配を全く感じさせない。
そんな中、一棟だけ、無傷のまま、立っている異様な家がある。
大きさも他の家とは異なり、一回り以上大きく、丈夫な作りの様に見える。
そして、その家の煙突からは煙が出ていた。
『どうやらあそこの様ね…』
良翔もノアにそう言われ、念の為、村全体を鑑定する。
そこには反応が2つ。
1つはアースワイバーンの魔力と同じ固有の魔力がある。
恐らくこちらが囚われてしまった姫様なのだろう。
もう1つは…
良翔は驚き、目を疑う。
ウインドウには、今まで出会ったどの生物よりも明らかに異なる大きさの魔力を持った存在がいるのだ。
その大きさは明らかに強力であり、禍々しいものだった。
良翔とノアは、気付かれないように、ユックリ地に降り立つ。
村の中心を走る道に沿って警戒しながら、歩く。
良翔とノアは、通常よりも防御壁を強固なものに変更する。
そして、慎重に辺りの様子を伺いながら、村の中心にある、建物へと歩みを進める。
常に周囲に鑑定を行い、不審な魔力が突如現れたりしないか、警戒しながら進んでいく。
しかし、特段変化は見られない。
少し歩みを進めると、道の真ん中に何かが落ちているのに気付く。
『アレって…』
良翔もそれが何かを理解し、歩みを止め、ノアに頷く。
アースワイバーンの牙だ。
恐る恐る牙へ近づいていくと、突然アースワイバーンの牙から怪しげな光が放たれ、周囲を閃光が包む。
とっさに良翔とノアは、後ろに飛び、牙から距離を取る。
ゴゴゴゴゴガガガガ
大地が揺れる。
良翔とノアは危険を感じ、すぐさま上空に飛び上がる。
すると、先程の牙の辺りの地面が隆起しだし、禍々しい姿のアースワイバーンが、地面から姿を現したのだった。
『ただのアースワイバーンじゃないわ!』
そう言うと、ノアはすぐに魔力球をアースワイバーンに向けて放つ。
例のマシンガンの如く魔力球を放つ。
だが、様子がいつもと違う。
魔力球はアースワイバーンに着弾する直前に何かに辺り、跳ね返って良翔達の方へ飛んで来たのだ。
とっさに良翔もノアもそれをかわすが、ノアが放ったのは一発ではない。
数十発の魔力球が全て跳ね返った来たのだ。
良翔はかわしきれない魔力球に対しては、同じく魔力球を作り出し破壊する。
ノアは全てをかわす。
「マジックカウンターか…」
良翔はそれをゲームの中で知っている。
だが、現実に見たのは初めてだ。
実際に目の前で見せられるとこれ程強力とは思いもしなかった。
どれだけ、強力な魔力であっても、アレが有れば全て跳ね返ってしまう。
良翔達がマジックカウンターに驚いていると、アースワイバーンは、グルルルと唸ると、口を開け、突然、火炎球を数十発放ってきたのだ。
良翔とノアもそれをとっさにかわすが、なんとかわした火炎球は良翔達に向かって、ブーメランの様に戻って来たのだ。
これにはたまらず、良翔もノアも全ての火炎球を魔力球で撃ち落とす。
『良翔危ない!』
ノアの声に、ハッと後ろを振り向いた良翔の目の前に、アースワイバーンが空に浮き、その巨大な右手を振り下ろして来たのだ。
「くっ!」
良翔は直ぐに目の前に、新しい障壁を作り出し、それを受ける。
そのアースワイバーンの一薙ぎは強烈で、傷を受ける事は何とか免れたが良翔は、その衝撃で吹き飛ばされてしまう。
すごいスピードで景色が目の前を流れていく中、良翔は何とか空中で態勢を直し、静止する。
良翔は直ぐに顔を上げ、アースワイバーンの方を向き直ると、またしてもアースワイバーンが凄まじいスピードで突進して来るのが見える。
間に合わない!
そう思った良翔は、障壁を作り出すのを諦め、体を守る様に手をクロスさせる。
と、上空から凄まじいスピードで飛び込んで来たノアが、蹴りをアースワイバーンに向かって振り下ろす。
単純に肉体を強化した攻撃なので、マジックカウンターを纏っているアースワイバーンに通じるのだろう。
ドォゥゥゥン!!
その蹴りの衝撃波は良翔まて飛んでくる。
蹴られたアースワイバーンは高音を立てながら、大地に向かって真っ直ぐ、墜落する。
ズガガガガガンンン
大地に深く埋まっていくアースワイバーン。
そこにはノアの蹴りの凄まじさを、見事に空いた大穴が物語っている。