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そこで念話が切れる。
良翔はハザを見ると、ハザも良翔を見つめてくる。
「まだ、お前の名前を聞いていなかったな」
ハザからそう言われ、良翔は応える。
「良翔だ、ハザ。」
ハザは口元を緩め、応える。
「そうか、良翔か…。その名前しっかり覚えておこう。そして、俺の左目を潰した隣のお嬢さんは?」
『ノアよ!そりゃぁ、攻撃されたんだもの、やり返されても文句は言えないわよね?』
「そうか、ノアか…。良い名前だ。俺に名誉の傷をくれたんだ。アンタに、俺達の姫を任せる事になるんだ、その為なら片目など惜しくはない。あの時は済まなかった」
素直に謝られ、ノアは少し、挙動がおかしくなる。
『わ、私は謝らないわよ!正当防衛だもの!いくら名前を褒められたからって…』
そう言いかけて、良翔にじーっと見られている事に耐えかね、折れる。
『…私も、…ごめんなさい。後で会えるかしら?その目を治してあげる』
するとハザは笑う。
「くふははは。いや気にしないでくれ。俺はこの傷を今では気に入っている。自分の曇った心に光が指したのだ。これは奢り、全てに懐疑的になり、本来の本質を見間違えてしまった自分への戒めでもあるのだ。だから、気にしないで欲しい、ノア殿」
ノアは良翔をチラリと見る。
良翔もノアに対して頷く。
『分かったわ。私もあなたの名前をちゃんと覚えるわ、ハザ』
すると、ノアは目の前のローブの男にも向き合う。
『あなたの名前をまだ聞いていなかったわ。情報を聞き出すためとは言え…、その…、かなりひどい事をしてしまったのだから…』
すると、目の前のローブの男は、ザッと片膝をつき、まるで王族への謁見でもするときの様に、肘を片膝の上に乗せ、頭を垂れる。
「申し遅れました、ノア殿。私はハザの兄のサザと申します。あなた様方に対する我々の無礼をどうかお許し願います。そして、先程の事はお気遣い無用です。ハザ同様、このサザも、ノア殿の力の片鱗に触れる事が出来たからこそ、この様な話の結論になったのです。それに、あなたが纏ったあのオーラは…。あれは間違いなく神系のものとお見受けします。我が姫君を救って頂いた暁には、我らの忠誠を捧げる事を約束致します。皆の者それで良いな?」
ウインドウに映る全ての者が、頷く。
だが、ノアは焦る。
『いやいやいやいやいやいや、ちょっと、勝手に忠誠なんて誓わないでよ!まさか、私の後ゾロゾロ付いて来たりなんて事しないわよね?』
「ん?ノアはそういう忠誠が良いのか?」
良翔はニヤリと笑い、ノアに声をかける。
『もう!良翔まで!そんな訳ないじゃない!』
くすくすと良翔は笑い
「もちろん、冗談さ。彼等もそういうつもりで言ってる訳じゃ無いと思うよ。何かあれば俺達に協力してくれるって言ってくれてるんじゃないかな?」
サザも頬を緩め
「ああ、良翔殿の言う通りに思って頂いて構いません、ノア殿」
『そ、そうなの?』
ノアに言われサザは頷く。
「さて、サザ、ハザ、皆さん。これから、あのお方って奴の所に行って来ます。無事にあなた方の大切な姫様を救って来ます。姫様の居場所をご存知なら、教えて頂けますか?その間あなた方は、相手に気づかれぬ様、ここで、街で破邪の宝珠を手にする為の準備を行なっているフリをしていて下さい。上手くやらないと、姫様の身が危険になってしまいますからね。頼みます」
サザは表情を引き締め、頷く。
「我らの姫様は、北の人間達の村におります。以前、あの者の指示で仕方なく、村に壊滅的な破壊を行った際に、そこを隠れ蓑にすると申しておりました。きっと、その者と姫様はそこに潜伏しております」
「なるほど、そこで、森の様子を監視していた訳か…」
良翔はノアを見ると、ノアも表情を引き締め、頷く。
『良翔、サッサとこれにケリをつけに行きましょう!』
良翔も頷き、ハザ達を見る。
「どうか、宜しくお願い致します」
ハザが代表して頭を下げる。
「ああ、何とかしてみるよ。じゃあ、また後で!」
そう言い、良翔とノアは、再びゲートを作り出し、ゲートを走り抜けていく。