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サラリーマン、異世界へチート通勤する  作者: 縞熊模様
第1章
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1-89

男は痛みから解放され、歪んでいた顔が元に戻っていく。

そして、命を取り留めただけに限らず、思いもよらず、体が修復された事に驚く。

「お前…、良いのか…?確かに…、我はもう…、お前らに挑もう…、という愚かな考えは…、ない…。だが…、お前らの敵で…、ある事には…、変わりない」

良翔はふと笑い、男に話しかける。

「ああ、お前達が、自分の欲望の為に俺達を攻撃すると言うのなら、敵だ。だが、お前達は、大切な仲間や存在を守る為に、仕方なく動いているだけだ。ならば、俺達と、している事は変わらないだろう?俺達も大切な者達を守る為に、お前達を沢山殺めてしまった。もっとそれが早く分かっていたなら、決してこんな結末にはさせなかったんだがな…。とにかく、その話を詳しく聞かせてくれないか?俺としては、お前達の事も何とかその苦しいから解放してやりたい」

すると、ローブの男は、顔を上げ、ユックリと正座をし、良翔に頭を下げる。

「その言葉、誠であると信じたい…。我らは、失われて行った多くの同胞の命を、無駄にはしたくない。頼む…、我が一族を助けてくれ」

その言葉を聞き、良翔はアースワイバーンの側へ来る。

そして、良翔もしゃがみ込み

「ああ、是非、手伝わせてくれ」

それを聞くと、ローブの男は、頭を上げ、先程までとは全く異なり、青い色の目を薄く細め、嬉しそうにする。

どうやら、目の赤色はアースワイバーン達の攻撃だったり、敵とみなした者だったりする者に向ける攻撃色の様なものだったんだろう。

今はそれが完全に消え失せ、空の色と同じ様な薄青い深みのある、色へと変化しているのだ。

「本当に…、恩にきる」

と男は頭を下げる。


その様子を見た良翔は、ノアを見、頷く。

ノアも一瞬迷う顔をするが、コクリと頷くと、ローブの男から障壁も取り除く。

「では、話を聞かせてくれないか?」

男は頷き、良翔とノアを真剣な眼差しで見つめてくる。

良翔達なら、どうしようもなかった、アースワイバーン達を救ってくれるかもしれない、そう思っているのだろう、そう期待のこもる、眼差しだった。

やがて男は口を開き、話し始める。


「我々は、はるか昔、お主達人間でいう、3000年以上も前から、あの森に住んでいる。我々は元々大地と共に生きる存在である事もあり、戦闘などはあまり好まぬ気質なのだ。それ故に、他の者に対しても、特に害を及ぼさない限りは、共存の道を選択し、ひっそりと生きてきたのだ。我々には、代々その流れを受け継ぎ、我が種族に被害が出たり、他のものと大きな争いにならぬ様取りまとめる長がいるのだ。その長の元に集い、我々は少しずつ少しずつ、大きな争いに巻き込まれる事なく、その数を地道に増やして、徐々に今の数に至ったのだ」

ローブの男は一旦話を切る。


良翔は少し気掛かりな事がある。

このローブの男から、急に先程までのタドタドしさが消え、流暢に話し出したのだ。

良翔が、何故だと、疑問に思っていると、ノアが後ろから説明してくれる。

『さっき体を復元する際に、意思をスピーディーに言葉にできる様に手を加えておいたわ。あの喋り方、煩わしいったらありゃしないんだもの』

なるほど、それでか…、と良翔は納得する。

だが、つまりそれは、モンスターならノアは体をいじれるという事にならないだろうか…、という疑問にはあえて触れない事にする良翔。

今はこちらの話が先決だ。

「そうか、それでスムーズにお主達の言葉が発せれるのだな。済まない、ノア殿。助かる」

そう、言い男は頭を下げる。

『まあ、気にしないで頂戴。そうする事が私達にとっても、都合が良いってだけよ』

男は黙って頷く。


『さあ、続きを話して』

「ああ、そうしよう。今はあまり時間がないのであったな。我々は今話した通り、そうして数を増やしてきた様な静かな種族だったのだ。派手さはないが皆満足して生活していた。だが、突然それは現れたのだ。あのお方と我々が名前を出す事を禁じられた、存在だ。いや、今であれば、もうそう呼ぶ必要も無いな。お主達が手を貸してくれるのだ。あの人間を敬う必要は無くなったのだ」

「ん!?待て、人間だって!?お前達が恐れ、逆らえない存在が人間だっていうのか?」

男は頷く

「その者は人間だ。だが、普通の人間では無い。どうやって見つけたかは分からぬが、我々の住処を特定し、突然現れたのだ。そして、その者は我らの長を一瞬で殺してしまったのだ。代々長となる者は、その中で1番強く、そして賢くなくてはならない。種族をまとめ上げるのだから当然の事なのだ。そんな長を奇襲するでもなく、正面から堂々とその首を跳ね飛ばして見せたのだ。確かに人間だからと侮って油断したかもしれぬが、それでも我らが長だ。生半可な人間の冒険者程度では、通常傷も付けられんよ。それなのにだ。意図もあっさりとだ。我々は目を疑った。長がそんな簡単に負けるはずがないとな。そして、それを見て、憤慨した我が同志達が、一斉にその者に襲いかかったのだ。どれも次の長候補と言われる様な猛者ばかりだったのだ。だが、それも一瞬にして、皆刻まれて肉塊となってしまった。我々は震え上がった。そしてその者は、長の娘であった姫を、捕まえ我々に命じたのだ。エルフの里で大樹の命を、タリスの街で、破邪の宝珠を手にして来い、とな。そして、あの破壊を禁ずる約束事をさせられ、我々は潜入などを行っていたのだ。我々としても、長を失い、次の長候補者達まで失い、これ以上種族の宝である、長の娘まで失うわけには行かなかったのだ。そこで、我らの仲間がタリスに潜入した際にギルドへ依頼を出す事に成功した。我らを討伐しに来いと。そうして来れば、我らの異変に気付いてくれる強者が現れるかもしれない、そう思ってのことだった。だが、その希望も虚しく、あの者からは冒険者が来るたびに大地に隠れろと命令されてしまったのだ。当然従わなければ、長の娘を殺すと言われてな。それでも我々は諦めなかった。エルフの里を見つけるのにあえて長い時間をかけ、これ以上は怪しまれると思えるところで、見つけた事にする。そこから奴らの攻撃のお陰でなかなか進行出来ないフリもした。タリスの方でも、時折森を抜け出し、人間に我々の存在を知ってもらうために冒険者を襲う真似事などもした。全ては誰かにこの異変に気付いてもらうためだ。だが、自分で気付いて貰わねばならなのだ。ここまでの事を自分で調べ、辿り着ける者こそ、長以上に強い、あの者への唯一の対抗手段の切り札となりうる存在なのだ。我らの攻撃に屈してしまう程度の力ではダメなのだ…。それではあの者には勝てん。そうして、誤魔化し誤魔化しやり繰りしていた時だ。お前達が突如現れたのだ。初めは驚いた。いくら命令されて攻撃したとはいえ、アースワイバーンの上位種である我が同胞の半身にいとも簡単に大きな怪我を負わせたのだからな。だが、まだ安心は出来なかった。お主達が我々の状況に気付いているかは分からないからだ。ただ、アースワイバーンがいる事が認識される事は大事なのだが、討伐対象になってしまっている可能性があるのも事実なのだ。それは我々にとって脅威でしかない。だが、気付いてもらわねば調べても貰えないからな。苦しい選択だった。そして、その読みはおおよそ当たってしまったのだろうな…。今頃森で囮役を命じられた仲間どもも、我々と同じく、お主達に倒されてしまったのだろう。離れているとはいえ、気配を感じる事が出来ない。だが、お主達を我々が責める事は出来ない。我々もお主達に攻撃される事をしているのだからな」

そこまで長く話し、ローブの男は話を切る。

喉に長らくつっかえていた異物が取り出された様な、そんなスッキリとした表情をしていた。

「だが、遂に会えた。お主達のその実力、その頭脳のなら、きっと姫さまを救い出し、あの者を倒してくれるに違いない。頼む。我らを救ってくれ」

良翔は黙って立ち上がり、ローブの男の肩にそっと手を置く。

「今まで良く耐えたな。ご苦労だった。後は、俺とノアに任せろ。それから街にいるお前達の仲間を街の外に呼び戻すんだ。俺達の仲間が、お前達に危害を加わえる前に急げ。この話を聞いて俺達が争う理由はない事が分かった。争うべきは全ての元凶のその人間1人だ」

男は頷く。

すると、ローブの男は左腕を前に出す。

すると男の左腕の手首にある金の腕輪が光り始め、良翔達の前に大きなウインドウの様なものが出現する。

そして、男はウインドウへ向かって話し出す。

「つまりそういう事だ。俺はこの者に我々の全てを賭けてみたい。お前達はどうだ」

するとウインドウの右上端に商人らしき男の姿が映る

「ああ…、俺も同意だ」

すると、それを皮切りに、次々と様々な者がウインドウに表示されていく。

そして次々に同意の意を伝えてくる。

だが、最後の一箇所だけは中々応答して来ない。

「どうした、ハザ。後はお前だけだ」

ローブの男がそう呼びかけると、片目に眼帯をしている、あのローブの男が映る。

見間違いではない。

眼帯はしているが、森で良翔達を襲撃して来たあの男だ。

ハザと呼ばれたその男はしばし、黙って良翔達をウインドウ越しに見てくるが、やがて口を開く。

「本当にお前達は信用できるのか…。俺は長くこの街に潜み、あらゆる人間と接点を持った。そして感じるのは妬み、恨み、嘘、見栄、あらゆる歪んだその性質だ。俺は段々と疑問に思うのだ。その様な者達に我々の運命を預けていいものなのか、と。確かにお前達の力は俺が身をもって受けたからな、確かに凄まじいものがある。だが…、人間だ。お前達にもその歪んだ性質があるはずだ」

良翔は真剣な眼差しを、ハザに返す。

「ああ。俺は人間だ。だが、お前が見たのはその歪みだけではないはずだ。それにな、俺以外にもお前達の事を理解し、助けてくれる者は大勢居る。そうだよな、バンダン?」

良翔が左手を前にかざすと指輪から声がする。

「ああ、その通りだぜ、良翔!話はしかと聞き受けた!安心しろ、今お前達のこの話を聞いているのは、俺だけではない。カシナやニーナ、そして、今お前達の側に居る冒険者共だ。なあ、お前ら。お前らが守りたい者は、お前らにとって大切な者達だ。そして、種族など関係ない、助けを求めてくる者達ではないのか!?異議のある奴は申し出ろ!」

すると、指輪の向こうから大勢の声が聞こえる。

「「「異議なし!!」」」

そして、カシナとニーナの声も聞こえる。

「ああ、異議なしだ、バンダン」

「私もカシナ様と同じく異議なしです」

「つまり、そういう事だ、アースワイバーン共!そして、ハザと言ったな!人間だけじゃねえ。生きている者全てが、妬みや恨み、疑いや嘘、そんなものは皆持って生きている。それはお前らも例外じゃないだろう。何故サッサと俺達に相談して来なかった。そしたら、もっと早く解決したかも知れないだろう。だが、そうしなかった。その理由はなんだ?人間どもに頼るなんて、という慢心なのではないか?それとも信じる事が出来ない、疑いという歪んだ性質じゃないのか?だがな、今はそんな事を互いに揚げ足取ってる時じゃねえんだ。助けを求める奴がいる。そこに俺達冒険者が行くだけだ。その言葉だけじゃダメかよ?」

すると、ウインドウ越しに黙って聞いていたハザがふっと笑う。

そして、口を開く。

「ああ、全くその通りだな。バンダンと言ったな。こちらからもお願いする。どうか、我が一族を助けてほしい。力を貸してくれないか」

「おうよ、当たり前だ!お前ら!作戦は変更だ!そいつらをチャンと守ってやれ!お前らは守る為にこの作戦に参加している!良翔達が、お姫さん助けて来るまで、そいつらが、親玉野郎からから攻撃されない様にシッカリ守るんだ!」

「おいおい、ギルマスは私なんだがな、バンダン。まあ、そういう事だ。冒険者諸君、作戦は変更だ。各自最寄りの対象者の警備に当たれ!」

「「「は!!」」」

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