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サラリーマン、異世界へチート通勤する  作者: 縞熊模様
第1章
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いつもよりだいぶ早い電車に乗り、いつもと違う人の群れに混ざりながら、良翔は例の駅に着く。

迷わず、いつもの個室へ向かう。

扉を開け中に入る。

すると、一呼吸起き、秋翔が現れる。

秋翔は真剣な表情だ。

「あまり、ここで話すべきではないだろうから、端的に言わせてもらうと、とにかく気を付けろって事だ。敵が予想を上回っても慌てない事だ。諦めずに冷静に考えれば、活路はきっとある」

良翔は頷き

「ああ、その言葉、ちゃんと頭に叩き込んでおくよ。他ならぬ俺自身からのアドバイスだからな」

それを聞き、秋翔は笑う。

良翔は秋翔に手を振り、ゲートを個室の扉へ作る。

「じゃあ、行ってくる。そっちも大変だろうけど、宜しく頼む」

「ああ、こっちの事は気にせず思い切り暴れてこい」

良翔は頷き、ゲートをくぐる。

青い草原が、良翔の目の前に広がる。

振り返ってもゲートは既に無く、秋翔の顔も見えない。

隣には、ノアが立っている。

ノアも気を引き締めた顔をしている。

ノアに向かい良翔は声を掛ける。

「さぁ、異世界出勤4日目だ」

するとノアは表情を崩し、良翔に笑顔を向けてくる。

『ええ、楽しみましょ♪』

良翔は宿屋の部屋へのゲートを作り出し、ノアを先に通す。

良翔はゲートを通る前に遠くの山の方を見る。

この後に向かう、森がある方角だ。

山の方には雲がかかっているのが見える。

「荒れそうだな…」

そう呟き、良翔もゲートをくぐる。


柳亭の個室に着くと、早速良翔は着替える。

その間ノアはお決まりになったのか、窓際の椅子に腰を下ろし、目の前のテーブルに肘をつき、外を眺めている。

良翔は着替えを終えると、ノアに話し掛ける。

「外の様子はどうだい?何か変わった様子はない?」

ノアは振り向き、手をかざす。

『これといって何もね。ただ、向こうの方の雲行きが怪しいわね』

そう言い、ノアは窓の外へ指を指す。

やはり、これから良翔達が向かう森の方角だ。

「そう言えば、バンダン達は、もしも人間に化けたアースワイバーン達と遭遇したらどうするつもりなんだろうね。参加してる冒険者が皆Bランク以上の冒険者って訳でもないだろうし、何か、適切に人員をあてがってるのかな?」

『んー、どうなんだろうね。その辺はバンダンだって考えてないわけじゃ無いだろうけど、何かコイツが怪しいって特定できる方法でもあるのかもよ?』

良翔は考え、ある事を思いつく。

「ノア、始まる時間までまだ時間があるよね?まだ試した事は無いけど、俺達のスキルって、物に対して、特別な力を与える事も出来るのかな?」

ノアは、ん?、と良翔の言いたい事を考える。

そして、ニヤリと笑う。

どうやら良翔が思いついた事に思い当たったらしい。

『ええ、良翔。周囲の魔素を自由自在に操れる私達なら出来るわ』

「なら、直ぐにバンダンに連絡した方が良いね」

ノアは頷く。

「バンダン。バンダン聞こえるか」

すると直ぐに返事が返ってくる。

「ああ、良翔聞こえるぞ。どうした」

「突然で悪いんだが、バンダンは今日どうやってアースワイバーンが化けた人間とそうでない人間を見分けるつもりだったんだ?」

しばし沈黙が流れ

「一応は、容疑者候補全員を一斉に眠りにつかせてから、一箇所に集め、その周りを冒険者で囲むつもりだったんだが…。そうすれば、仮に正体を表したアースワイバーンが居ても一斉に冒険者で叩けるからな。だが、正直不安ではあるな…。本命にブチ当たった時に眠りにつかせられれば良いが、眠らなかった場合、その場で正体を現す可能性もあるからな。そうなったら、適切な力量の冒険者を充てがう事が出来ずに、被害が出る可能性がある。もちろん1匹もアースワイバーンがいない可能性もありはするがな」

バンダンもその危険性は考えていたが、具体的な良い対策は立てれずにいた様だ。

そんなバンダンに良翔は尋ねる。

「因みに、候補者出しの作業は終わったのか?」

「ああ、つい1、2時間程前にな。精度の程は分からんが、ざっと容疑者候補が100人程いる。その中で特に不審な人物が20人程といったところだ」

「ご苦労だったな。後でその人達にお礼を言わなきゃな。だが、やはりそれなりの数が居るな…」

バンダンは苦い声を出す。

「ああ、1人当たり3人を付ける計算だが、本当にアースワイバーンに当たったら、Cランク、Dランクの冒険者達じゃとてもじゃないがその人数じゃ歯が立たんだろうな」

「だから、一斉に眠らせて一箇所に集めるという作戦になるんだな」

「ああ、そういう事だ」

「バンダン、1つ試してみないか?時間が余り無い。そちらに向かいながら話すから、今から言うものを大急ぎで揃えられないか?」

声色が変わったバンダンが良翔に応える。

「なんだ、良翔!何か妙案でもあるのか!?直ぐ用意するから、言ってみろ!ダメならダメで元の作戦で行くだけだ!」

「分かった。とにかく100人分の指輪を集めてくれ。足りなければ腕輪でもネックレスでもいい。後は竜の涙か、アースワイバーンの牙を1つ用意してほしい。これから直ぐにバンダンの所に向かうから、なんとか頼む」

「分かった良翔、何とかする!ちょうどそれぐらいあるかも知れん。急げ!時間は後1時間ほどしか無いぞ!」

バンダンに急かされ、良翔はノアを見る。

ノアも良翔を見て頷く。

2人は急いで、部屋を出て、柳亭からバンダンの店に走って向かう。


「バンダン着いたぞ!」

息を切らしながら良翔が、店内に向けてバンダンを呼ぶ。

すると奥から声が返ってくる。

「こっちだ!」

あの情報部屋の方だ。

良翔とノアは迷わず、店内を抜け、開け放たれた扉を通り、木製の情報部屋へ入る。

するとバンダンは、良翔達がきた事には気付いてはいるが顔も上げずに、ゴソゴソ探し続けている。

時間が惜しいのだろう。

情報部屋に唯一置かれた、テーブルの上には、この店に有るだけの、指輪や腕輪、ネックレスやイヤリングなどが置いてあるのだろう。

恐らく100は超える数がありそうだ。

となると今バンダンが探しているのは、竜の涙か、アースワイバーンの牙なのだろう。

少し待つと、手に赤く光る宝石を持って立ち上がる。

「悪い、時間が惜しくてな」

そう言いながら、良翔に宝石を手渡して来る。

竜の涙だ。

アイテムは全部揃った。

ふうと、息を吐きバンダンが口を開く。

「それで…、集めたはいいがコイツらをどうするんだ」

良翔は頷き、指輪を1つ取り、右手に竜の涙、左手に指輪を乗せ、バンダンに説明しながら実演する。

「正直これを試すのは初めてなんだ。だが、やってみる価値はある」

そう言い、良翔は周囲の魔素を集める。

バンダンにはまだ、良翔が何もしてない様に見えるだろう。

良翔は周囲の魔素を使って、竜の涙と指輪を魔力で繋ぐ。

そして、指輪にこのアースワイバーン特有の魔力をなじませ、指輪自身にアースワイバーン固有の魔力を帯びさせる。

そこに鑑定スキルの力を流し込み、ウインドウに表示するのでは無く、指輪を光らせる様に加工する。

最後に、もう一つ別の指輪を取り、魔力でつなげる。

これで、念話が可能となる。

試しにバンダンに最初の指輪を渡し、テーブルの上に竜の涙を置く。

そして良翔は最後に魔力で繋いだだけの指輪を持ち、部屋の隅へ移動する。

「バンダン。その指輪へ自分の魔力を流してくれ。その後、竜の涙に意識を向けて、指輪をかざしてみてくれ」

バンダンは訝しげに、良翔に渡された指輪をはめ、自分の魔力を流す。

そして良翔に言われた通りに、竜の涙に向けて、手をかざす。

すると指輪が他とは違う輝きを放つ。

バンダンが驚いていると

「うまくいった様だな。こっちの声は良好に聞こえるか?」

バンダンは良翔にそう言われ、ハッと視線を竜の涙から良翔に向ける。

だが、良翔は口を開いていない。

そして、良翔の手にはバンダンが以前渡した念話の指輪を外した乗せてある。

その念話の指輪をバンダンに見せるように向けて、立っている。

バンダンは恐る恐る念話を試みる。

「これは、念話なのか…?」

良翔はニコリと笑い、バンダンから渡された念話の指輪を床に置き、応える。

「これは、念話を可能にし、アースワイバーン特有の魔力を鑑定できる様な能力を付与した指輪なんだ。うまくいった様に見えるけどどうなんだい?素直な感想が欲しい。使えるのか、ダメそうなのか」

するとバンダンはしばし沈黙していたが、朝にも関わらず大きな声で笑い出す。

「ク、ハッハッハッ!!コイツはいい!お前はなんて奴だ!これがあれば、早期に人間に化けたアースワイバーンを特定出来るぞ!使えるかって?そんなの大いに当たり前だ!こんなの国宝級に優れた代物だぜ!それをいともあっさり作りやがって!まったくお前には敵わんな!」

そう言い、バンダンは大笑いする。

良翔はニヤリと笑う。

どうやら、思った通りの出来に仕上がったらしい。

「よし!そうしたら悠長にしてられない。これをここにある全部に施すぞ!ノア、協力してくれるかい?」

ノアは力強く頷き

『当たり前じゃない!さあ、どんどんやるわよ!』

そう言い、ノアは手近な指輪を複数個取り、どんどん先程と同じ鑑定スキルを付与させていく。

良翔も同じく、複数個取り、先程と同じ作業を繰り返す。

あっという間に、アースワイバーン専用の鑑定スキルを付与された装飾品達が出来上がる。

最後に全てまとめて、ノアが魔力で繋ぐ。

これで一斉に念話の機能を付与したのだ。

全てにスキルを付与し終えた後、念の為全員で種類別に集め、数を数える。

その結果、イヤリングが30セット、腕輪が40個、指輪が50セットという数である事が分かる。

3人1チームのグループに全て行き渡らせても余る数だ。

残りはバンダンやカシナにつけてもらい、状況の取りまとめを行なってもらう事にする。

「よし、これだけあれば新たな作戦が立てられる。時間は…、まだ集合時間まで30分あるな」

バンダンがそう言ったのを聞いた良翔は

「そうしたら、計画を練り直そう。それだけの時間があればかなり良い線までイケるはずだ」

バンダンとノアが頷く。

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