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サラリーマン、異世界へチート通勤する  作者: 縞熊模様
第1章
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おおよその森での作戦は決まったが、良翔はもう1つの懸念を口にする。

「分かった。森はその方法で行くよ。ただ必要なさそうなら、威力はもう少し抑えたものを使うよ。そうしたら、残すは待ちの方だね」

秋翔も同意する。

「そうだね。森は自由に行くけど街ではそうは行かないからね。それに、街では亜種以上のアースワイバーンが人間に化けてる可能性がある」

ノアが話を繋ぐ。

『つまり、捕まればそいつらが暴れ出す可能性が高いって事ね。それを被害を出さずにどうやって仕留める、もしくは捕まえるかね。あのキーマンとなる赤目の男がどちらにいるかも重要ね』

「ああ、その通りだ。アイツが放った技からしてもただのアースワイバーンよりはかなり強力なのは確かだ。そんな奴と同じくらい、もしくはそれ以上の強さの存在が複数いるのか、そして、街にいるのか森にいるのかどうかだな…」

すると、ノアが口を挟む。

『となると、当初の開始時刻よりも先に、森の奴らを片付けて、それから本来の集合時間に街で様子を見張った方が良さそうね』

なるほどと良翔は思う。

だが、それにはリスクが伴う。

森を予定時刻よりも早く攻撃した際に、城下に潜んでいる奴らに攻撃がバレ、こちらの準備が整う前に街で暴れられては、被害が出てしまう。

結局良翔は悩んだ末に、それは行わない、つまり予定時刻通りに攻撃を仕掛ける事にする。

「ノアの案もありだけど、その間に街をやはり危険にさらす訳にはいかないかな。とにかく早く森の奴らを片付けて、大急ぎで街に戻ろう。それが俺たちに出来る最善だと思う」

『分かったわ、良翔。明日はそれで行きましょう』

明日の結論が出たところで、家に着いた。

良翔は玄関を入り、家の中へ声を掛ける。

「ただいま」

すると、リビングからパタパタ走る音が聞こえる。

リビングの扉が開き、芽衣が出てくる。

「お帰りー良翔!あれノアちゃんは?」

開口一番、ノアとは、随分楽しみだったらしい。

「ああ、ここだと狭いからね。着替えたら出て来てもらうよ。だから、少し待ってて」

「はーい!」

そう言うと、芽衣はまたパタパタ走ってリビングに戻っていく。


良翔は、我が家に着いた安心感を感じ、口元を緩め、小さく微笑む。

そのまま寝室に向かい、さっさと着替えを済ませ、ノアと秋翔に出て来てもらう。

3人でリビングへ向かうと、芽衣がさっさと夕飯を出際よく、4人分準備しているのが見える。

『芽衣、ただいま!これお土産だよ!』

ノアは嬉しそうに芽衣のところに行き、お土産を渡し、芽衣に抱きつかれている。

とても嬉しそうだった。

その様子を邪魔しても悪いと思い、良翔は秋翔を促し、食卓のテーブルへと着席する。

ノアは、そのやり取りの後、そのまま芽衣の夕飯の支度を手伝う。

その間、良翔と秋翔は、今日の会社の様子や気になった事などを互いに話して談笑する。


急に大家族になったかの様に感じるが、決して騒がしい訳ではない。

ただ、いつもより気持ちが高揚するのを良翔は感じる。

「まさか、こんな時間が訪れるとはね…」

良翔は感慨深く呟く。

すると秋翔はそんな良翔を見て、微笑む。

「これも、良翔が自分で望んだからこそ実現出来た事だよ。決して偶然ではないさ。良翔はこれに憧れてたんだよ」

そう言われ、良翔は納得する。

「確かに秋翔の言う通りだね。このイメージを俺が望んだから、そのイメージになろうとこの力が働いているんだったね。ついつい、ラッキーだな、なんて思いがちだけど、これは俺が自ら作り出した環境なんだな」

「ああ、そう言うことさ。だから、これからもちゃんと望めばいいんだ。なにかを望み、それに向かって努力すれば、こうしてちゃんと形になる。まさにこれがその第一歩だね」

良翔はニコリと笑い、秋翔に頷く。

「そう言えば、お礼がまだだったね。こんな事ぐらいしか出来ないけど、今日はみんなで一緒に飲もうか」

そう良翔は言い、冷蔵庫から普段あまり飲まない酒を出して、4人分グラスに注ぐ。

その間に支度を終えた、ノアと芽衣も着席する。

「なんだか、とっても良い感じだよ。みんなこれからも宜しくな。それじゃ、乾杯」

「「『乾杯!』」」

みんなでグラスを合わせ、各自思い思いに話す。

その夜は良翔にとって格別楽しい時間だった。

良翔だけではない。

ノアも芽衣も秋翔も、皆嬉しそうだった。

きっとこの時間は、忘れる事なく、ずっと覚えているのだろう、と良翔はそう思うのだった。

その日はいつもより少しだけ、遅い時間まで皆で談笑し盛り上がったが、明日の為に程よいところで、会を閉じる。

やはり、そうは言っても明日も大事な用が待っているのだ。

誰もごねる事なく、各々に休みの挨拶をし、姿を消していく。


その晩の良翔は、穏やかで、とてもリラックスした気持ちでベッドに就くことが出来た。

確かに疲れてはいるが、嫌な疲れではない。

むしろ、それは気持ちの良い疲れだった。

そして、今までほとんど抱かなかった、この時間が再び来ることを、明日を楽しみにする気持ちを胸に感じながら、眠りに落ちるのだった。


翌朝、良翔はいつもより早く目を覚ます。

時計に目をやると、まだ、5時頃だった。

良翔は窓の外に目をやる。

日は登ってはいるが、朝特有の、まだ、あまり人々が活動していない空気が外に満ちているのを感じる。

良翔はまだ寝ている芽衣を起こさない様に、そっとベッドを抜け出す。

リビングへと向かい、朝のコーヒーを入れ、その匂いが部屋を満たしていく。

そんな朝の空気を良翔は好んだ。

そして一口、ゆっくりと飲む。

ふと思い出した様にタバコに手を伸ばし、思い出す。

そういえば、昨日からずっとタバコを吸っていない。

気が付けば、丸一日吸わずに済んでいるのだ。

そして、今も吸いたい衝動に駆られて手を伸ばしたと言うよりも、日々の動作の一連で手を伸ばしたに過ぎなかった。

「タバコ…、やめれそうだな…」

そう呟き、良翔は持ちかけたタバコを元に戻す。

特に無理している訳ではない。

何となく、今はタバコに頼らなくとも、この時間が満たされているのだ。

良翔は、コーヒーをゆっくり飲みながら、外の景色をぼうっと眺めて、コーヒーの匂いで満たされた朝の空間を1人楽しむ。

気が付けば、あっという間に時間は過ぎていたらしく、芽衣が起きて来る。

「良翔おはよー!今日は早いね!このままお寝坊さん返上かな?」

そう言い、笑いながら、キッチンへ行き、子供達の朝食の準備をする。

「今日は本当にお弁当作らなくて平気なの?」

芽衣が子供達の朝食を作りながら、良翔に聞いて来る。

「ああ、秋翔には悪いが、今日はお弁当はなしで大丈夫なんだ。秋翔にも了承は貰ってるし、それに、今日はちょっといつ食べれるか分からないんだ。だから、せっかく作ってもらっても食べ損ねちゃうのが勿体ないからね。だけど、その代わり朝食はちゃんと食べていくよ」

芽衣はニッコリと微笑みながら頷き

「うん、分かったー!」

と、また朝食の準備に戻っていく。

芽衣が支度をしている最中に、ノアがふと現れる。

まだ眠そうな目をこすりながら、挨拶する。

『おはよう、良翔、芽衣』

今まさに起きたのだろう。

どの様に寝ているかは分からないが、寝癖などは全くなく、ただ眠そうな顔を向けて来る。

子供達はまだ起きてこない。

芽衣も実はいつもより、早めの起床なのだ。

いつもより早めの食事を3人だけでとる。

秋翔は子供達が起きて来て、良翔が2人いる様な光景に驚く事を懸念して、朝は姿を出さない事にした様だ。

つくづく自分で言うのもなんだが、気がきく奴だ。

朝食を食べ終え、ユックリしていると、子供部屋からドタバダ音が聞こえてくる。

『子供達が起きたみたいね』

ノアもそう判断したらしく、口にする。

良翔も同意し

「そうみたいだね。そしたら、今日はだいぶ早いけど、子供達に捕まると出るのが遅くなっちゃうからね。今日は早めに家を出るけど良いかな?」

「了解でーす」

芽衣から、返事がかえる。

『私も問題ないわ。確かに今日は早めに行った方がいいと思うしね』

良翔は頷き、立ち上がる。

「じゃぁ、芽衣行って…」

良翔が芽衣に声を掛けると、芽衣はジッと良翔を見つめて、そっと抱きついて来る。

思わず良翔は言いかけた言葉を止める。

そのまま芽衣は、悲しそうな声で言う。

「良翔が凄く楽しそうだから、私は止めないけどね…。本当は今日の事とか、危険なんだからね…。私にだってそれぐらい分かるんだよ。だから、絶対に…、ね?」

芽衣が言いたい事を良翔も理解する。

「ああ、俺もノアも必ず無事に帰って来るよ。必ずだ。約束する」

芽衣はその言葉を良翔から聞き、ぱっと離れ、ニッコリと笑い、頷く。

ノアも笑顔で頷いている。

「じゃあ、行って来るね」

『芽衣、今夜の夕飯楽しみにしてるからね〜?』

「うん、2人とも行ってらっしゃい!今夜は頑張るよー!!」

ノアと良翔は笑顔で頷き、リビングを後にする。

良翔は玄関を開け、空を見上げる。

今日も快晴だ。

高鳴る鼓動とはやる気持ちを抑え、良翔は気を引き締め、前を向く。

待っている大切な存在がいるのだ。

だから、決して油断しない。

そう強く決意する良翔だった。

良翔は大きく一歩を踏み出す。

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