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ミレナだけでなく、他の受付嬢達も合わさって数えてる間にバンダンに話しかけられる。
「アースワイバーンの全滅の話しから、実際のファウンドウルフの1000匹狩りとはね…。つくづく、良翔、お前達は一体何者なんだ。まぁ、その答えはオイオイでも良いからいつか教えてくれ。とりあえずは、これでお前達がアースワイバーンの掃討作戦を2人だけで挑むという事に、誰も文句は言うまい」
「ああ。そうしてくれると助かるよ。その話はコッチもなんて説明して良いものやら、っていうのもあるのが正直な所なんだ」
「そうか、まあ、誰しも自分の生い立ちやスキルの事は話したがらないもんさ。ただ、良翔やノアの場合、規格外すぎて説明してもらわんと話が通らん事もあるからな」
「ああ、分かっているよ。それはそのうちな」
『いいじゃない、強いって事だけはちゃんと実証出来てるのよ。それ以外に語る必要性も特にないと思うけどね』
ノアにそう言われて、バンダンも、まあ、そりゃそうだがな、と鼻をかいている。
「まぁ、ノア。人は集団で生きているんだ。どうしても、その中に特異な存在が現れれば不安になるものさ。だから、それを安心させる為に、説明する事も時には必要になると思うんだよね」
『まぁ、良翔がいいって言うなら私は構わないけどね』
ノアがそう答えると同時に、ミレナから声がかかる。
「良翔さん!数え終わりましたー!」
良翔とノアとバンダンは、受付へ再度向かう。
受付の後ろではせっせとカウンターの奥へファウンドウルフの牙を運ぶ他の受付嬢の姿が見える。
「良翔さん達の成果はとんでもない事です!全部でファウンドウルフの牙が確かに1025匹分確認出来ました!これって、過去最高の討伐数ですよ?もっと誇らしげにしていいと思います!それに、今回の大量討伐のお陰で、周辺に出ていたファウンドウルフの討伐依頼もほとんど片付けられたと思います。そのクエストも他に5件ほどあったんですが、ぜーんぶ良翔さん達がクリアした事とみなし、クエスト完了報酬が、12万5千ゴールドになります!後、あの大量の牙の買い取りについてですが、ファウンドウルフの牙は一つあたり、3000ゴールドでの買取になりますので、合計は307万5千ゴールドになります!ですので、全て合わせまして、320万ゴールドになります!凄い!一回で、こんなに稼ぐなんて!冒険者でも超一流ですね!」
一回の戦闘で、300万オーバーとは、桁違いにこちらの方が富豪になれるな、と良翔は心底思う。
これも良翔やノアのチートスキルのお陰なのだが、自分の世界でも1日でこんなに稼げたらどんなに違うものか、と思わずにはいられない良翔であった。
「グワハッハッハッ。一回でそんなに稼ぐ冒険者なんぞ聞いたことないぞ!これは、ウチでたんまり落としてもらわにゃ」
バンダンはそう言い、ニヤリと良翔に笑いかける。
そんな話を聞き、良翔は思いつく。
「あのさ、ミレナさん。今回の全冒険者に出されたカシナさんからのクエストって、冒険者達に報酬は出るの?」
「はい、ギルドとしても痛い出費にはなりますが、街がなくなってしまっては元も子もないですからね。達成の暁には、一人当たり5万ゴールドが支払われます」
「全部で何人程の冒険者が参加されるのですか?」
「恐らくですが、約300人程かと」
良翔は少し考え、ノアを見る。
ノアは呆れた顔をするが、良翔が何をしようとしているか分かったらしく、すぐに笑顔で頷く。
「そうしたら、一人当たり1万ゴールドを今回の報酬から寄付させて下さい。そうすればギルドの負担が少しだけですけど、減ると思います。その浮いたお金は、これから戻ってくるであろう冒険者達の為に使って欲しいと思います」
「そ、それは、受けられますが、良翔さん、300万ゴールドの寄付って…」
すると、バンダンは目を丸くしたが、直ぐに大声で笑いだし、
「嬢ちゃん、良翔の思いを組んでやんな!ここまで男気溢れる申し出だ。引っ込ませちゃダメだぜ?」
「バンダンさんまで!の、ノアさんはそれで良いのですか?ノアさんこそ今回の活躍の主なのですよ?」
珍しく、ノアに意見を求めるほどミレナは驚き焦った様だ。
『ええ、惜しいのは確かにあるけど、良翔の言うのも確かに一理あるもの。それに、こうやってギルドに恩を売っておけば、今後私達にもよく働く可能性もあると思えるわ』
しばらく呆気に取られていたミレナだったが、突然立ち上がり、凄い勢いで頭を下げる。
それはミレナに限った話では無かった。
カウンターに座る全ての受付嬢も立ち上がり頭を一斉に良翔に向かって下げ、カウンターの奥からは、ガザルまで出てきて、頭を下げている。
「良翔さんの街を守ろうとして頂けるその気持ち、確かに頂戴いたしました!我がタリス支部一同、心よりお礼申し上げます」
ミレナが代表して、お礼を述べる。
バンダンは腕を組みウンウンと嬉しそうに頷いている。
ノアもニコリと微笑んでいる。
良翔だけは、上手く状況について行けず、キョトンとしている。
すると、ホール内からは、他の冒険者達からも拍手が送られる。
良翔は恥ずかしくなり、下を向いてしまう。
すると、そんな良翔の様子を見ていたカウンターの別の受付嬢達が
「きゃー可愛い」
などと言っている。
それは聞いたノアとミレナは、彼女達にキッと鋭い視線を送る。
バンダンはニヤニヤしながら良翔に話しかける。
「お前さんはどうやらモテるようだな。それに美人にも縁があるようだしな」
良翔は、確かに最近美人に縁があるなと思いはするがモテるとはかけらにも思っていなかった。
「からかうのはよしてくれバンダン。俺はもう35歳だぞ?いいオヤジさ」
「なに、良翔。こういうのは年齢じゃないのさ。人柄なんだよ」
『そうよ、良翔。良翔はその辺の奴らに比べて、断然いい男だもの。私としては面白くないけど、良翔が女狐達から注目を集めるのは当然の事よ』
女狐って…、と良翔は思うが口にはしない。
とりあえず、こうしていても話が進まないのでミレナに先を促す。
「とりあえず、受け取ってもらえて良かったよ。そしたら、残りの20万ゴールドだけ頂けるかな?」
「はい、かしこまりました!」
そう言い、ミレナはカウンターの奥にパタパタ消える。
カウンターの奥の入り口付近に居たガザルも良翔に片手を上げ、去っていく。
良翔も会釈だけする。
直ぐにミレナが金貨20枚をトレーに乗せ、戻ってきた。