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サラリーマン、異世界へチート通勤する  作者: 縞熊模様
第1章
7/163

1-7

「ふぅ」

タバコの煙と溜息が混ざり、吐き出される。


どれぐらい経っただろう。

いや、案外15分程かも知れない。

腕時計に目をやると、どうやら喫茶店に入ってから、意外にも一時間以上経過していた。

ふと窓の外に目をやると、先程まで忙しなく行き交っていた人の数が少なくなっていた。


視線をコーヒーに戻し、先程までの話を腹に落としていく。

自称ナビゲーターさんが、俺の中に実装されたのは昨晩寝ていた間。

ナビゲーターさんは幼い頃から良翔の中に存在していたが、良翔に何かを伝えたり、感じさせたりは出来ない存在だったようだ。

しかし、不意に手にした、あの粉のお陰で確かな存在として表に出てきたという事だ。

そして、そのナビゲータさんによって、良翔がイメージした異世界への道が作り出され、良翔はそこへ訪れ、帰って来たのだ。


「なんだか、WEB小説みたいなんだけどなぁ…」

異世界転生系の小説を読んでいた時は、良翔の今の様な境遇を、主人公は案外アッサリ飲み込んでしまう事が多かった。

読んでいる時はそれに対し、大して気にも留めないまま読み続けていたのだが、いざ、自分が同じ境遇に立たされると、激しい抵抗感を覚えるのだった。


だが、スッキリと納得という訳にはいかないが、良翔の中に生まれたナビゲーターという存在を、時間は掛かったが現実の事として認める事にした。

さもなければ話が進まないのだ。

それに、一度ハッキリと認めて仕舞えば、動揺する事も減るうえに、何よりも自分の気持ちを今よりもシッカリ落ち着かせる事が出来るのだ。


そう結論を導き出すと、不思議と良翔の心は落ち着き、冷静に考える事が出来た。


「俺は不思議な力を手に入れたんだ」

そう、心の中で呟くと、その言葉が腹に落ちるのを感じる。

そこから、色々な事を考える。


先ず、ナビゲーターさんは何が出来るのか。

それはつまり、俺はナビゲーターさんを作り出し、何を出来るようになりたかったのか。

そして、不思議な力を使うには何らかの代償が必要だったりするのだろうか。

代償があるとすれば、今朝の急な腹痛も関係あるのだろうか…などなど、聞きたいことは沢山ある。

だが、焦らず一つ一つ理解していこう、と自分に言い聞かせる。


そう思うと同時に、久しく日々の生活の中から抜け落ちていた、高揚感を感じている事に気付く。

先程まで感じていた、不安や心配といった気持ちとは大きく異なり、これから先、何が起きるのか、あるいは何を起こせるのか、楽しみで仕方がないのだ。

そう思えば、ナビゲーターという存在も、先程までは無機質で不気味な存在だったが、今ではとても素晴らしい存在の様に思える。

以前から良翔の中に存在し、これから、良翔に不思議な力をもたらしてくれるナビゲーターに対しては、親しみを抱きはじめた。

「彼女に名前を付けるか」

そう、思いついた。


姿勢を改め、再び、ナビゲーターに話し掛ける。

「ナビゲーターさ…」

『はい、マスター』

暫くの沈黙していた良翔に痺れを切らしたのか、せっかちなのかは分からないが、被せるように応答するナビゲーター。

「えっと、先ずは、君に名前を付けたいと思うんだけど、どうかな?」

『はい、マスター』

素直に応じるナビゲーター。

「それに昔から俺の中にいた訳だし、せっかく俺と話せるようになったんだから、先ずは堅苦しい敬語も抜きにして、話していこうと思うだけど、良いかな?」

『問題ない、マスター』

かなり順応力が高いらしい。

「じゃぁ、早速名前なんだけど…」

「…と、その前に俺の事は良翔と読んでくれていいからな」

『OK、良翔』

なんだか突然名前を呼ばれると照れくさい。


「じゃぁ、改めて名前なんだけど…、『ノア』なんてどうかな。一応イメージは女性なんだけどね」

『…』

突然黙るナビゲーターに、一瞬困惑する。

ひょっとして、名前が気に入らなかったか。

もしくは実は男性想定だったのか…。

そもそも実態のない機能に性別なんてあるのだろうか。


暫しの沈黙の後、ナビゲーターの声が聞こえる。

しかし、どうも先程とは雰囲気が違う。

『受名により、個体イメージを創成開始』

『…成功しました』

『個体イメージの創成により、独立思考が創成されました』

またも、沈黙が訪れる。

「…あの、ナビゲーターさん?」


一呼吸の間を置いて、声が答える。


『ありがとう、良翔。私に素敵な名前をくれて』

声が…違う…

先程とは全く異なり、女性の美しい声が、そう答えるのだ。

『私の名前はノア。良翔のイメージ創成ナビゲーターであり、独立思考を持つ新たな存在となりました』


あまりの変貌ぶりに、言葉を失ってしまう、良翔。

それを不思議に思ったのか、ナビゲーター、いや、ノアが心配そうな声をかける。

『良翔?』

「…あ、あぁ。ごめん、聞こえてるよ」

『そう、なら良かった』

顔は見えないが、笑顔でそう答えているのであろう。


良翔は気を取り直し、改めてノアに話し掛ける。

「名前は…どうやら気に入って貰えたみたいだね」

『ええ、とても!!こんなに素敵な気持ちになれるなんて!ありがとう、良翔!』

「あ、ああ、大した事じゃないよ。そんなに気に入ってもらえて何よりだ。それよりも…、さっきとは全くの別人のよう…、いや、少し様子が変わったようだけど…」

変化が激しすぎて、思わず聞かない訳にはいかない。

『ええ、良翔が驚くのも無理ないわ。先程までの私はただの機能であったのだから。』

「えっと…、つまり?」

『ただの機能だったのだけれど、今は名前を貰って、抽象的なイメージだった存在から、具体的な個性として進化出来たの。イメージ創成ナビゲーターの能力を持つ人格になったって言った方が分かりやすいかしら。また、人格が出来上がった事により、感情というものが生まれ、良翔とは別の、まるで、1人の人間の様に考えられる様になったわ』

「えぇと、うん…。なんだかさっきよりは分かりやすい気がするけど…、正直あまりよく分からないんだよね…」

『まぁ、それはそうね。それなら、先ずは分かりやすく、見てもらって肌で感じてもらった方が良いと思うの』

「そりゃぁ…、確かにそうかも知れないね」

『それに、イメージ変換ナビゲーターってそもそもなんなの?って思うでしょ?』

「うん。まさに仰る通り。」

『だから、その説明も踏まえて、言葉で語るよりも、実際に体験してもらった方が、私の存在がどんなものなのか、理解し易いと思うわ』

なんだか、新しく生まれ変わったらしい、ナビゲーター改めノアは、非常に親しみやすい。

名付けにより、嬉しい誤算だ。

それに、質問する前に良翔が抱くであろう疑問を想像し、理解してくれ、先回りして回答を導き出してくれるという、素敵な変化(人格化)を遂げていたのだ。

申し分無い。

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