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一方、良翔はサラの話を聞き、今回の疑問点の一つが解決する。
あの赤目のローブの男は、アースワイバーンが姿を変えて、人に化けた姿なのだろう。
恐らく、あいつがアースワイバーンの亜種に違いない。
そして、人型に姿を変え、タリスの薬剤師連盟を隠れ蓑に情報を集めたり、操作したりしていたのだろう。
残すは、亜種のあの男の目的が何なのか、なのだが、どうやら、サラが言うにはエルフの宝、つまり大樹の命を奪い、それを使って何かをしようとしている、という事は明らかだ。
それは一体どんな効果のあるアイテムなのだろうか。
そして、それを利用するとどんな事が出来る様になるのか。
良翔は頭の中で、色々な目的を考えてみたが、どれも、明確な理由にはなりえなかった。
「そうだな、サラの言いたい事は分かった。だが、スキルばかりは、出来るのだからしょうがないよ。出来る事を、出来ないと嘘を付くわけにも行かないしさ。サラの言い分だと、数は少ないが、出来る奴がいない訳でもないんだろう?その少数に、たまたま会ったって事だよ。だが、驚いたな、あの男はアースワイバーン亜種が人間に化けてるって事で良いんだろう?それは、あまり良くないな…。となるとタリスには何度も侵入してるんだろうな。そいつが城下内でいつでも暴れられる。となると、すぐにでもカシナさんに報告しないと…。バンダンにも情報を集めてもらわないとな…」
良翔は途中から、独り言の様に代わりに、ブツブツ言っていたが、良翔がカシナとバンダンの名前を出すと、サラの表情が変わる。
「お前…、カシナ様とバンダンを知っているのか?」
良翔は、ん?と考え事から、サラに顔を戻す。
「ああ、サラは2人の事を知っているのか?本当は内密にしろと言われていたのだが、今の殺されそうな状況が状況だから、話しちゃうけど、俺達は、そのカシナさんから、この森の調査を直接、ギルドの密命として依頼されてるんだ。バンダンは…、まあ、衣服を買った時にね…。その時に、森でローブの赤目の男の目撃情報を、たまたま、聞いたんだ。だから、俺達はそれをアースワイバーンと関連があると踏んで、調査してるんだ」
「…その、情報は私が伝えた物だ…。つまり、お前はバンダンを情報屋と知って、関係を持っているという事か…。知っているか?バンダンの店には、モンスターや魔物は入れない。
店の中は神の守護を賜った結界が張られているのだ。仮にその結界を破り、侵入を試みれば、たちまち、情報小屋は爆発し、集めた情報は闇に全て葬られる。
そして、バンダンも黙ってないだろう。
バンダンは今は、ああやって店主なんぞしているが、かつてはタリス王国の師団長迄勤め上げた男だ。
恐らくAランク級の冒険者と遜色無い強さを持っているだろう。
更にお前は、カシナ様から直接依頼を受けているとは…」
1人、話を進め、何やら納得しだしたサラは、不意に弓を収める。
「良翔、お前の話を全て信じた訳ではない。だが、お前のその話からして、モンスターではない可能性が高まった。いかに化けようとも、神の加護を偽る事は出来ないからな。今回だけは様子を見る事にする。だが、次怪しい行動をしたら、今度は迷わずお前の眉間に開けてやるからな!」
良翔は笑顔で、両手を下ろし、サラに話しかける。
「信用してもらえて助かるよ。丁度いい。バンダンに依頼したい事もあるし、バンダンと話してくれないか?少しは疑いが晴れるんじゃないかな?」
サラは怪訝そうな顔をしていたが、とりあえず良翔がサラに危害を加えないという事は理解してくれたらしく、渋々頷く。
良翔は早速、バンダンに連絡を取る。
「バンダン。バンダン聞こえるか?」
すると、少し間を置いてから、バンダンの声がする。
「おう、良翔か!調子はどうだ?少しは森の様子が何か分かったか?」
「ああ、丁度その事で良くない可能性がある事が分かってね、少しバンダンに調べてもらいたい事があるんだ。もちろん、情報に見合う支払いは戻ったらするよ。あまり額面の事は気にしないでいい。急を要するからな。それと、悪いんだけど、サラっていうエルフの冒険者の事知ってるか?今、偶然会ったんだが、森で悪さをしてる奴らの仲間、つまりモンスターが化けてる可能性があると思われてしまってね。バンダンからも、そうじゃない事を言って聞かせてくれないかな?」
するとバンダンは向こうで大笑いをしている。
「ガァーハッハッハッ!!そりゃあ、一大事だな、良翔?お前がモンスターか!それは俺も考え付かなかったな!その線もちゃんと当たった方が良いかもしれんな!?」
良翔は軽くため息をつく。
「勘弁してくれ。こっちはついさっきまで、矢を向けられて、頭に風穴が開くところだったんだからな」
それを聞き、再びバンダンは大笑いする。
バンダンは、笑いが収まったところで、話し出す。
「そいつは、災難だったな!あいつはいい奴なんだが、少しばかり、頭が硬いからな。思い込んだら、テコでも動かない。結果、自分で作った穴に、自分でハマっちまうんだ。
だから、時折ガセネタを摑まされては、恥をかくんだよ。よし!俺からも言って聞かせてやるから、サラと変わんな!」
良翔は、バンダンからそう言われ、思念の指輪を外し、サラに渡す。
サラは受け取り、疑問のついた顔をする。
「それを、どの指でもいい、ハメてくれ。バンダンと繋がる」
サラは、良翔に言われ、恐る恐る、指に通す。
すると、指輪はサラの綺麗な指にシッカリとハマる。
驚いたサラは、とっさに指輪を外そうとする。
だが、すぐにバンダンの声が聞こえたのだろう。
急に周りをキョロキョロ見回し、誰もいない事を確認し、頭の中に響く声なのだと理解する。
何となく耳に手を当てて、サラはバンダンの話を聞いている。
時折、頷いていたが、次第に顔を真っ赤にしていく。
途中から、目の前にいないバンダンに対し、何度も頭を下げ、申し訳ありません!!と声に出し、謝罪している。
恐らくバンダンに怒られているのだろう。