1-62
ノアは、街で良翔に見せたレイピアとは違う、日本刀の様な刀身の武器を手にする。
そして、そのまま立ち上がり、魔素を集め、ノアの身の周囲に防御壁を纏わせていく。
その後、脚部と腕に追加の魔素を集め、脚力と腕力を高めていく。
実に見事な強化だ。
その間実に1秒に満たないだろう。
正に一瞬の強化だった。
そのまま、ノアはユラリと刀を右手に下げると、
ドンッ!
と地面に亀裂を生じさせ、低姿勢のまま、凄まじい勢いで駆けて行く。
良翔が瞬きをする暇もなく、一瞬でアースワイバーンの足元まで近づくと、その勢いを左足で急停止させ、勢いづいたままの刀をそのまま流す様に、水を飲むために下げていたアースワイバーンの首元に目掛けて、下から上に向けて一気に振り上げる。
サンンンッッッ
刀が空気を切り裂き、その音が湖にこだまする。
それはまるで、綺麗な弧を描く様に滑らかに振り上げられ、刀が通り過ぎた後も、アースワイバーンは何事かと、ピクリとする。
凄まじい勢いだっのだろう、ノアの振り上げた刀の衝撃が、一直線に地面を100メートルほど後方まで鋭利にえぐって行く。
だか、アースワイバーンはあまりに一瞬の事で、切られた事すら気付いていないらしい。
アースワイバーンはそのまま、一歩下がり、首を上げようして、それが叶わない事を知る。
ドシンと首の根元から先を地面に落とし、視線だけはノアを見つめるている。
いや、既に事切れており、目だけ動かしたが、何かを認識する前に絶命した様だ。
すると、少しして、パッとノアの足元に竜の涙が現れる。
良翔はすぐに立ち上がり、ノアのそばに駆け寄る。
近づいて分かるが、アースワイバーンの首は、骨ごと躊躇い無く、また、ぶれる事なく、真っ直ぐに綺麗に切り落とされていた。
それは綺麗な切り口だったが、やがて凄まじい勢いで血液が流れ出て行き、湖に流れ込む。
湖を真っ赤に染めるかと思われる程流れ出た血液は、思った程広がらず、立ち所に薄められ、消えて行く。
この湖の水はアースワイバーンの血液の様な異物となるものを、たちまちに浄化してしまう様だ。
そんな湖から目を戻し、ノアに目をやると、ノアは涼しい顔で、またしてもヒュンッと刀を回し、鞘に収め、武器を消す。
そして、良翔に笑顔を向け
『こんな感じよ?』
とサラッと言う。
「ノアは凄いな。一体…、どこでその剣さばきを身につけたんだい?」
素直に感嘆する良翔だったが、それはまた今度ね、とノアにはぐらかされてしまう。
ぜひとも、ご教示願いたいものだ。
そんな思いを奥にしまい込み、血液の流れが止まった頃に、良翔はアースワイバーンを首ごと含めて、全て収納する。
そして、ノアから、拾った竜の涙を渡され、受け取る。
『まずはそれを鑑定してみて』
ノアに言われ、良翔は素直に鑑定する。
すると今までは気づかなかった、魔力の波動の様な物を感じる。
独特のものだった。
恐らく、これが、アースワイバーンの魔力の色なんだろう。
良翔は早速鑑定スキルにこの波動を条件に付け加えて改良する。
どうやら出来上がった様だ。
早速試しに周囲に向けて、鑑定スキルを使ってみる。
そして、良翔は驚き、自分に表示されたウインドウを凝視する。
周囲1キロほどだろうか、かなりの数のアースワイバーンの位置が把握出来るのだ。
その数10匹以上だろう。
想像を上回る、かなりの数だった。
ノアも眉間にシワを寄せて、その様子を感じ取っている。
良翔と同じく鑑定スキルを周囲に使ったのだろう。
『どういう事?こんなにいるなんて、話と違い過ぎるわ…。それに、どうしてこんなにいるのに、誰も見つけられないのよ…』
ノアの言いたい事はよく分かる。
良翔もまさにそう思ったのだ。
「何でなんだろうな…」
少し考えたが、結局何も分からない。
良翔とノアは当初の予定通り、空から森を確認する事にする。
良翔とノアは宙に浮き、徐々に高度を上げて行く。
その間も、高度を上げながら、森全体へ徐々に範囲を広げながら鑑定スキルで確認して行く。
高度が上がるにつれ、その範囲は広がり、更に先程の数とは比較にならない程のアースワイバーンの位置が確認されて行く。
その数はゆうに100匹を超えている。
良翔とノアは、どんどんと不安になる気持ちを押し殺したまま、森全体が確認出来る高度まで上がってくる。
良翔は、改めて、その数を確認する為、鑑定スキルにその反応数を数えさせる。
すると驚愕の数字がウインドウに表示される。
「500匹を超えてる…」
『あり得ない…』
良翔とノアは呆気に取られる。
呆気にとられたまま、2人で森を漠然と見つめる。