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宿に着き、良翔達は自分の宿泊部屋へ向かうと、扉を開き、郵便受けの内側を確認すると
筒状にまとめられた紙が2本入っていた。
早速、筒状の紙をテーブルに広げ、確認していく。
1枚目はこの世界全体の地図だった。
地図を見て初めてわかった事だが、この世界は、殆どが大きな1つの大陸の上にあり、別の陸などはあまり無かった。
もっと地図に乗らない様なあまり大きくない島などもあるかもしれないが、この世界地図自体が結構大雑把に出来ているのだ。
地図の上には、日本地図の様に、点線が引かれ、その点線で囲まれたエリアがどの国の領土に当たるのかが書き記されていた。
良翔達が居る、ここタリスの街は、その大陸のなでも、それなりに大きな領土を持つ国だった。
だが、その大半は古の湖を含む、森が多く占め、平野などの面積は、隣国にある中規模サイズの国とあまり変わらなそうだった。
「なるほど、この国は東の森のウェイトが大きいのか。そこの安全が担保出来ないと、この街の住民にとっても、色々と不都合が生じるのだろうね」
ノアも頷き、同意する。
『その様ね、この森からも多くの恩恵を受けないと、このタリスは食料や交易も色々と支障が出そうね』
そして、良翔はタリスの周辺の環境などにも目を向ける。
古の湖の周りの森のさらに東側には、大きな山脈が南北に伸び、それよりも東側への行く手を遮る。
実はその山脈の東側に広がる平原に、良翔達は毎度、ゲートから出勤しているのだ。
その平原は、山脈のせいもあってか、殆ど情報が記載されていない。
いわゆる、未開の土地なのだろう。
平原がある事だけは、山を超えた旅人や冒険者などによってもたらされた情報なのだろう。
平原には、“最果ての平原”とだけ記されていた。
東の森に視線を戻すと、森の北東と南に小さな村があるのが分かる。
このどちらかが、アースワイバーンからの攻撃を受け壊滅的になっているのだろう。
早く解決してやらなければ、そのうちに本当に廃村となってしまうだろう。
良翔は、顔を上げ、世界地図を丸めて、筒状にし、元の通りに戻す。
もう一本の筒をテーブルの上に広げ、古の湖付近の拡大地図を見る。
森の中のやや西寄りに、古の湖があり、その周りを森が囲む。
東に向かって森は量を増していき、山脈へぶつかるところまで、ビッシリと占めているのだ。
湖も相当に大きいが、森はその湖を飲み込む様に、湖の10倍以上の面積はあるだろう。
良翔は収納から、自宅から持って来た通勤バックを出し、ボールペンを取り出す。
荷物を収納し、ボールペンのペン先をカチリと出す。
ノアは良翔が何かを書き込もうとしているのに気付き、良翔と同じ様に地図を覗き込む。
「初日に倒したアースワイバーンはこの辺りだ」
良翔は、ノアに話しながら、アースワイバーンに遭遇した辺りに赤で✖︎印を書き込む。
「だが、カシナの話では、この森に探索に行っても、アースワイバーンに遭遇するのは難しい。だが、放ってみれば、時折クエストの邪魔をする様に森の外にまで突然姿を表したり、大群となって村に押し寄せたりする、との事だ。では…、なぜ、モンスターであるコイツらは、まるで何かの目的を持ったかの様に行動するのか、そして、肝心のどこから来たのか」
そこで、ノアが良翔の言いたい事を探る様に、代わりに続ける。
『つまり…、モンスターが人間に対して、森の中で姿を隠している。あのアダマンタートルの様に知性が高い訳ではない彼らが、何かの…、誰かの指示に従って…いる?つまり、赤い目をしたローブの男が彼らを操っていると?』
「まだ、断定は出来ないかな。だが無関係って事は無いだろうね。それに、もう一つ。アースワイバーンの亜種の存在だ。さらに、もう1人キーマンとなる人物がいる」
ノアは、まだ、分からない、という顔をする。
良翔は自分の考えを、伝える。
「正直少し、引っかかってたんだ。このクエストには不審な箇所があるんだ。探しに行けば、会えないアースワイバーン達。ましてや亜種ともなると個体数も少ないだろうから、尚更会えないだろうね。だけど…、このクエストの発行主はアースワイバーン達が沢山いる事を知っているんだ。つまり、依頼主はその大群に出会ったって事だ。依頼主が森の近隣に住む村人達なら分かる。だけど、誰が依頼してるんだっけ?」
ノアは少し考え、答えを口にする。
『確か、薬の連盟みたいな所からだった気がするわ』
良翔は頷く。
「そうだ、確か依頼主は、“タリス薬剤師協会”だった筈だ。その協会の中に今回のアースワイバーンの群れに遭遇した、と言っている奴がいるって事だね。それに、近隣の村からクエストの依頼が来るなら、村が襲われてからだと思うんだ。村が襲われた、だから退治して欲しい、とね。だけど、村が襲われたのはこのクエストが発行された後なんだ」
ノアは良翔の話を聞き、少し考える。
『つまり…、そのタリス薬剤師協会、の中にアースワイバーン達を操っている者がいるって事ね?そして、その者は、赤い目をしたローブの男本人か、もしくはそのローブの男と繋がっている…』
良翔は頷く。
「その可能性はあると思う。まずは、森に行って、アースワイバーンの様子を探ろう。そこから、その赤い目のローブの男、もしくは薬剤師協会のクエスト発行の依頼者との繋がりを見つけられれば、この推測に進展が見いだせるかな」
『敵は、案外近くにいるかもしれないわね…』
ノアは頷き、思案げに呟く。
良翔は地図を丸め、収納し、購入した各アイテムをお互いに分配する。
良翔から、分配されたアイテムを、ノアは良翔と同じく、収納スキルを作り出している様で、そこにしまい込む。
「さあ、行こう。この不可解な事態の正体を暴きに行こう」
『ええ!』