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サラリーマン、異世界へチート通勤する  作者: 縞熊模様
第1章
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1-6

『はい、マスター。聞こえております』

呼び掛けに対し、間髪入れずに応答してくるナビゲーターさん。

まるで早く声を掛けて来いよな、と言わんばかりに素早く返してきたのだった。


良翔は思わず右手に挟んでいたタバコを落とす。


「…」

慌てて落としたタバコを拾い上げ、溢れてしまった灰を集めて灰皿に落とし直す。

その間右手は、またしても小刻みに震えていた。

「夢………ではないのか?」

手を震わせながらも、タバコを、一口、二口と吸いながら、気持ちを落ち付けようと努める。

吸い終わってしまったので、少しの間を置き、新たに一本火を付ける。

そして、一口目を吸った辺りで、気持ちがユックリと落ち着き出したのを感じる。

「よし…。一旦、端から一つ一つ整理してみよう。」

そう、思い直し、もう一口、タバコとコーヒーを交互に口へ運ぶ。


「ナビゲーターさん…。確認したい事が…あるのですが、伺っても宜しいですか?」

意を決し、心の中で呟く。

『はい、マスター』

またしても間髪入れず、応答が返ってくる。

今度は驚かない。

こういった物なのだろう。

そう、割り切った事で気持ちに少し余裕が生まれた。

「では…、早速伺いますが…、まず、ナビゲーターさんは、俺自身が、自分の中に作り出した存在、って事で間違いないですか?」

『はい、マスターが私を作り出しました』

「そうですか…」


少し考えた後、良翔は再び心の中で問いかける。

「では…俺に作り出されたのは、いつ頃で、そのキッカケは何だったのか…、教えて頂けますか?」

ナビゲーターの返答を待つ。


『私は昨晩、マスターによって作り出されました。正確に申し上げますと、マスターが幼少の頃より、既に私の素となる概念的なものは作り出されておりました。その概念をベースに、昨晩マスターが夕食を取られた後に、生成を開始し、睡眠を取られている間に具体的な機能として作り出されました。』


「…え?」

思わず、大きな声が漏れてしまう。

周りから一瞬視線が集まったのを感じた。


良翔は、恥ずかしさからか、焦りからか、一旦、窓向こうの行き交う人を一生懸命、目で追うフリをする。

周囲の視線が、良翔の視線の先にある、通路を見つめ、「通路で何かを見たのだろう」と結論を導き出してくれるのを待った。


周囲の視線が、良翔から興味を無くした様に、また各自の世界に戻っていく雰囲気を感じ取ってから、コーヒーを一口飲む。


暫く、間を置いてから、心の中で再び問い掛ける。

「えっと、ナビゲーターさん…。ナビゲーターさんはどうして昨日の夕飯の後に急に作られたのか分かりますか?」

そもそも、自分が幼い頃から、その存在は自分の中に居た事を今の今まで感じる事も無く過ごして来たのに、突然前から居ましたと言われても正直腹に落ちない。

そんな思いを噛み殺しながら、ナビゲーターの回答を待つ。

『マスターが、昨晩摂取されました食事の中に、機能創成を行う効果を持つ成分が入っておりました。元々、創成を行う為の下地、つまり、具体的な私の素となるイメージが、マスターの中には既に存在しておりましたので、その成分を摂取する事により、具体的な機能を創成する事が出来ました』


うん、何を言ってるのだろう。

それに、そんな特殊な、ヤバそうな成分を含む食事など昨晩は食べただろうか…。

いや…、確かに昨晩は不思議と美味しくなる粉を味付けに使用した夕飯を食べた。

思い当たるとしたら、あの粉ぐらいしかない。


どんな粉だったか、パッケージを思い出す。

そして、パッケージに書かれていた名称を思い出し、ハッとする。

「創成の粉…」

不思議な味のする粉が入っていたパッケージには、確かにそう書かれていた。


粉を入手した経緯を良翔は思い出す。


週末の買い物帰りに、調味料がない事に気付いた芽衣に言われ、手頃な店を探していて、辿り着いた店でそれを見つけたのだった。

今まで何度も同じ道は通っていたが、その店が存在していた事すら知らなかった。

古めかしいが、どこか味のある店舗だったのを覚えている。


店内に入ると少し照明の光量を落としているのか、薄暗い店内だった。

だが、薄暗くはあるが、商品の陳列を眺めるには問題がない程度だった。

目的の調味料を探し当て、手に取り、他の類似商品と睨めっこをしている芽衣の傍らで、良翔はフト目を留める。

掌大サイズの透明な袋の中に、オレンジ色の粉が入っている商品が、山積みにされた中に一つだけあった。

オレンジ色の様な目立つ色の粉が、周囲に無かったのも手伝って、一際目を引いたのだ。

良翔は、その粉を手に取り、確認する。

パッケージの裏には、どこかの国の文字で何やら書かれているが全く読めない。

残念ながら、日本語訳も記載されておらず、原材料や生産国などは分からない。

表に返すと、そこには唯一の日本語で“創成の粉”と書かれていた。

味をより美味しく創成するとの意味あいだろうか。

色味から、勝手に辛めの調味料なのだろうとおおよその想像をし、手に下げていた買い物カゴへ入れる。

「一味も、七味もソロソロ無くなりそうだし、外れても2、300円程度なら、まぁ、良いか…」

そのまま、芽衣が悩んだ末に選んだ調味料をカゴに加え、会計を済ませる。


そんな軽はずみな動機で手にした調味料を、興味本位で使ってみようと芽衣に話し、それを食したのが昨晩の夕飯だった。

まさか、それがこんな事態を引き起こすとは…。


だが、あくまで良翔の想像した可能性でしかない為、ナビゲーターに確認する。

「ナビゲーターさん…、俺が昨日食べた料理の味付けに使われていた“創成の粉”によってナビゲーターさんが作り出されたって事だったりする?」

段々と敬語を使うのが億劫になり、口調が変わってしまう。

『はい、その創成の粉に、創成を行う為の成分が含まれておりました』

良翔の口調が変わった事など気にも留めない様に、応答するナビゲーター。

「………やっぱりあの粉が原因か」

予想した通りの回答に、良翔は何故だか、素直に飲み込めた。

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