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サラリーマン、異世界へチート通勤する  作者: 縞熊模様
第1章
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すると、中から声がする。

「良翔、お楽しみの所すまないが、そろそろ支度をしないと間に合わない時間だ」

秋翔にそう言われ、良翔は時計を見る。

確かに、後20分程で家を出る時間だ。

そして、良翔は思い出す。

「そうだった。助かるよ、秋翔。所で、ついでだから芽衣やノアに会うのはどうだ?ちゃんとした挨拶は夜にするしても、顔だけ合わせておくのはありだと思うんだが」

「…ああ、分かった」

良翔は、秋翔からの返事を聞き、周囲の目を向ける為、こほん、と咳払いをする。

ノアと芽衣が良翔を見る。

良翔は2人の様子を確認して、

「秋翔、良いよ」

そう、声をノアや芽衣に対してでなく、周囲の空間にかける。

ノアは、あっ、と何のことか分かり、芽衣は、?、を頭の上に浮かべている。


すると、一瞬何かが光ったと思ったら、良翔が椅子の後ろに立っていた。

正確には良翔と同じ顔をした、秋翔なのだが、芽衣は、突然良翔が、立った様に思えたのだった。

芽衣は、ん?移動したの?と突然現れた秋翔に訝しげな顔をしつつ、良翔に目を向ける。

…。

途端に芽衣は、良翔と、秋翔を行ったり来たり、視線を移動させる。

「えー!?良翔が2人いる!!」

すると、その光景を見ていた、ノアがクスクス笑い、説明する。

『芽衣、良翔の後ろに立っているのが、コピー良翔、改め、秋翔だよ。一昨日の夜、良翔がコピー良翔、つまり秋翔を作って、仕事は秋翔が行き、異世界は良翔が行くって説明したの覚えてるかしら。その、仕事に行く秋翔が後ろに立ってる方よ』

秋翔は少し照れくさいのか、頬を少し赤らめて

「初めまして、芽衣さん。秋翔です。良翔とノアに、昨日、コピー良翔では都合が悪いとの事で名前をもらって、秋翔と名乗っています」

すると、何故か少し芽衣が赤くなり

「は、初めまして…秋翔…さん。うー、なんか良翔に初めまして、って言われて丁寧に話されると、何だが緊張するー!」

ノアはまたしてもクスクス笑っている。

「違うよ、こっちは秋翔、で、俺が良翔。って言っても、顔も声も仕草も同じだから、分からないよな」

良翔も笑って応える。

芽衣はまだ、顔を赤くしモジモジしている。


良翔は、秋翔をその場に残して、身支度を始める。

良翔が身支度を終え、リビングに戻ると

「準備出来たみたいだな、良翔。じゃあ、行くかい?」

秋翔に声を掛けられ、良翔は頷く。

「ああ、行こう。ノアも準備はいいかい?」

『ええ、いつでも行けるわ』

良翔とノアがそう会話すると、芽衣は立ち上がり、良翔にお弁当を渡す。

「ノアちゃんの分も入ってるからね。秋翔さんの分は…、良翔、複製されるんだよね?」

良翔は頷きながら、芽衣からお弁当を受け取る。

「ああ、その通りだよ。だから、秋翔の分は大丈夫だよ。それじゃあ、行ってくるね」

「うん、みんな気をつけてね!行ってらっしゃーい!!」

ノアは元気にみんなを見送る。


秋翔とノアは、芽衣に手を振り、姿を消す。

良翔は健やかな気分を感じながら、玄関を出る。


良翔は、外に出て外気に触れると、気分がいつもと異なるのを感じる。

昨晩と今朝と、芽衣に、ノアと秋翔を会わせる事が出来た。

大した事じゃないかもしれない。

だが、それぞれに抱いていた思い、不安や期待といったものが、一気に繋がったのだ。

それも芽衣という第三者が混ざる事で、異世界も、良翔の中で現実の世界だと捉えられる様になった気がする。


異世界も現実だと、ノアには教えられていたが、どうしても、まだ、仮想的な位置付けであった。

だが、そこに、その異世界での生活を支える主軸となる2人が、こちらの世界の象徴とも言える芽衣と繋がったのだ。

どちらの世界でも、大切な人が居る。

大切な人と過ごす時間は、良翔に現実だという実感をもたらしたのだった。


これから良翔が向かう世界も、現実の世界。

秋翔が向かう職場も現実の世界。

まるでパラレルワールドを同時進行で、どちらの世界も、情報を共有しながら生活する様な感じだ。


そんな考えを巡らせながら、良翔は通勤電車に揺られ、入れ替わりのポイントとなる駅に着く。

良翔は迷わずに真っ直ぐ、個室へと向かう。

個室に入り、鍵を閉める。


なるべく壁に寄って立ち、秋翔を呼び出す。

秋翔が姿を現わすと、念の為お弁当を確認してもらう。

「大丈夫。ちゃんと入ってたよ」

秋翔が鞄を確認し、伝えてくる。

良翔は笑顔で頷く。

「じゃあ、行ってくる」

秋翔も笑顔で頷き

「シッカリやって来い。だが、くれぐれも無茶するなよ。良翔はもう、家族だけじゃなく俺やノアにとっても、大切な存在になっている。だから、危険を感じたら迷わず逃げてこいよ?」

「ああ、肝に命じる事にするよ。それと、秋翔もノアも俺にとっては家族だよ」

そう良翔が言うと、秋翔は少し照れ臭そうに笑う。

そんな秋翔を見ながら、良翔はゲートを作り出し、ゲートをくぐって行く。

「じゃあな、良翔」

ゲートの通り抜け間際、秋翔に声を掛けられ、

「ああ、そっちも宜しく頼む」

と、良翔も応える。

秋翔が頷くと同時に、お互いの顔が見えなくなる。


さて、3日目だ、と気持ちを新たに、良翔は歩き出す。

その後ろをノアが笑顔でついてくる。

3日目の異世界出勤が始まった。

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