表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サラリーマン、異世界へチート通勤する  作者: 縞熊模様
第1章
56/163

1-56

良翔は、ボンヤリとした意識が、周囲の朝の雰囲気を感じ取り、徐々に戻って行くのを感じる。

うっすら目を開けると、芽衣はもうベットから抜け出し、朝の支度をしている様だ。

リビングの方で音がする。

時計を見ると、いつも出勤の為に嫌々起きていた時間よりは早いが、それ程ユックリ出来る時間でもない。

良翔はむっくり起き上がり、しばしベッドに腰掛けた状態でぼぅっとする。


欠伸を一つした後に、少し重い腰を上げる。

やはり、それなりに疲労していたらしい。

昨日は、すぐに寝落ちしてしまった。

そして、この時間まで、全く意識が戻らなかったのだ。

熟睡時間が長かったせいか、体が少し気怠い。

すると頭の中で…、ではなく隣から、声がする。

『おはよう、良翔。眠そうね?』

声の方へ良翔が向くと、ノアがそこには立っていた。

昨日とは少し違い、今日は緑を基調とした感じの服装だ。

「ああ、おはよう、ノア。そういうノアはよく眠れたかい?」

『ええ、お陰様でね。なんだか昨日は気持ちのいい睡眠だったみたいで、結構早く目が覚めちゃったのよ』

「ああ、そうなんだ。でも、よく眠れて良かったよ。今日は…」

良翔はそう言いかけて、ハッと思い出す。

いくら何となく眠いといっても、今日は、いよいよ、カシナのクエストをメインに、初の冒険者業務を行うのだ。

ちゃんと気を引き締めて行かなければならない。

危険かどうかは分からない。

だが、決して安全と呼べる所へ行くわけではないのだ。

『今日は?』

ノアが聞き返す。

「ああ、ごめん。今日は、カシナのクエストをこなしに行かなきゃならないな。ちゃんと気を引き締めて行かないと。いつまでも眠いなんて言ってられないな、と思ってさ」

するとノアは、何故かくすくす笑いながら、返してくる。

『そうね。気を引き締めて油断しない事は大事だわ。でも…、そのセリフの前に、口元のヨダレを拭かないと。せっかくの決意が締まらないわよ?』

ノアにそう言われ、良翔は慌てて、口元の辺りを触る。

盛大にヨダレが垂れていた。

良翔は急いで、顔を赤らめながら、ティッシュで拭きとる。

その間ノアはくすくす笑っている。


そんなやりとりの後、良翔はリビングへノアと向かう。

リビングの扉の向こうからは子供達の声と芽衣の声が聞こえる。

まだ、芽衣は登校前の子供達と戦闘中の様だ。

「ママー!麦茶こぼれちゃった!」

「ええー!?もうすぐ出なきゃなのに、服濡れてない?」

「お洋服は大丈夫!でも、テーブルの上が水たまりみたいになってるよー!あっ!ゾウさんみたいに見える!?」

芽衣がパタパタ小走りに走って行き、テーブルを拭いてるのだろう。

「ママー!髪やってー」

「テーブル拭くから、ちょっと待ってー!」


良翔も手伝った方が良いだろう。

良翔はリビングの扉を開ける。

すると娘達は振り向き、良翔を確認する。

「パパー、おはよう!」

「パパ、少しだけお寝坊さん!」

良翔はニッコリ笑い

「ああ、お寝坊のパパだよ。おはよう」

すると、娘の一人がノアに気付き

「後ろのキレーなお姉ちゃん誰ー?」

そう言われ、ノアが前に出る。

すると、芽衣が気付き、テーブルを拭いていた手を止めると、

「ノアちゃん、おはよー!」

と抱きつこうと駆け出すのを良翔が捕まえる。

それを聞いた子供達が

「あーこの人が、さっきママが言ってたノアちゃん?」

「わーい、新しいお姉ちゃん来たー!」

子供達が芽衣の代わりにノアに抱きつく。


ノアは突然の事に、少し固まっていたが、やがて、優しく笑い

「おはよう、未亜[みあ]ちゃん、奈々[なな]ちゃん。そうよ、私がノアよ?これから宜しくね!」

「うん!ノアちゃんとよろしくしたー!」

「ノアちゃん、いい匂いだー!」

なぜかそんな様子を恨めしそうに見る芽衣。


ノアは良翔の中に居たのだから、当然未亜や奈々の事は知っている。

だが、話すのは初めてで、少し緊張はしていたようだったが、子供達の無邪気な反応に、なんの問題もない事を感じた様だ。


その間、良翔は、母親似かな?と呆れながら、子供達とノアの様子を見ている。

「ほら、未亜、奈々。学校遅れるよ?」

良翔にそう言われ、未亜と奈々はノアから離れ、渋々ランドセルを背負い、

「「行ってきまーす!」」

と声を揃えて出て行った。

「行ってらっしゃい」

「行ってらっしゃーい」

『行ってらっしゃい』

それぞれに応え、子供達を見送る。

すると、芽衣は良翔から降り、テーブルに向かって、残りの溢れた飲み物を拭きに歩き出す…

と思いきや、さっ、と良翔の側をすり抜け、ノアに抱きつく。

「ノアちゃんおはよー!昨日はよく眠れた?ああー本当だー!ノアちゃん、寝起きなのにいい匂いするー。んー、癒されるう」

芽衣が時折見せる、この動き、ただ者ではないのではないか、と良翔に疑念を抱かせる。


良翔は軽く溜息を吐いた。

ノアは戸惑いながらも、芽衣に挨拶する。

『おはよう、芽衣。お陰様で気持ちを安心させてもらったから、ぐっすり眠れたわ』

すると、芽衣はおふざけ顔から、優しい笑みに変わり

「そう、なら、安心したわ♪」

そう言い、芽衣から離れ、

テーブルに溢れた飲み物の残りを拭き、すぐにキッチンに戻っていく。


その後、3人で朝ご飯の支度をし、一緒に席に着き、朝食を食べる。

今までにない充実感に満たされた朝食だった。

人が一人増えるだけでこうも違うものなのだろうか。

いや、ノアだからこそ、この時間が生まれたのかも知れない。

朝食を終え、芽衣が3人分のコーヒーを入れてくれるのを待つ間、良翔はそう思う。


良翔は久々にくつろぎの朝の時間を過ごす。

モンスターの話も昨日既にしている為、朝から、今日の予定をお互いに話す。

『今日は、良翔と私は、ギルドマスターから受けたクエストをしに行くわ。ついでに他にも受けたクエストもあるから、それも並行して行う感じね』

「ああ、ノアの言う通りだ。あちらの世界で無事に冒険者になれてね。どうやら、向こうの世界では、ノアや俺が使うスキルは有能みたいでね、早速依頼を頼まれたって訳さ」

「うんうん。なんだか良翔楽しそうだね!私もね、昨日、話しそびれちゃったんだけど、私のスキル?魔法でね、家の中をピカピカにする方法を閃いちゃったのです!」

そういえばそうだった。

あまりにも綺麗で、芽衣が何をしたのか説明してもらう筈だったのを、良翔は思い出す。

「ああ、そういえばそれを昨日聞きそびれちゃったね?どうやってやったんだい?」

すると芽衣はふふんと鼻息を吐き

「では、教えてしんぜよー。実はね…」

ノアも興味深い様で、真剣に相槌を打っている。

「私の魔法って、物に対して、こうして、ってお願いすると、そう思ったように、その物自身が移動したり、燃えたりするって、良翔が教えてくれたじゃない?だから、今回は色んな家の中のものに、出来た時と同じ姿に戻って、ってお願いしたの。壁の小傷だったり、窓の汚れだったりって、初めは付いてないじゃない?だから、そういうのが、着く前の状態に戻ってもらう様にお願いしたの。そしたらね、見事に新品の時の状態に戻ってくれたのよ!これで何か汚れちゃったり、傷付いたりしちゃっても、また、新品に戻ってもらえるから、新しいのとか全く買わなくていいんだよー?どう?凄くない??」

『うんうん!芽衣凄い!よくそこに思いついたね!』

ノアは頷きながら芽衣を褒める。

「ああ、確かになるほどだね。芽衣は賢いな」

良翔も芽衣を褒める。

芽衣は、そうでしょ?、とドヤ顔だ。


そして、良翔は芽衣のその力の有用性に気付く。

物に対してであれば、新品の様になる。

つまり、人や生き物であれば、仮に大怪我を負ったとしても、元に戻す、つまり治す事が出来るのだ。

また、癌だったり、何かの免疫が弱い、もしくは過剰に反応してしまう様なアレルギー症状であれば、それらに働きかけ、正常に機能する様に指示してやれば良い。

芽衣は万能の医者として、多くの人や生き物を救う事が出来るだろう。

それこそ、神の子と言われてもおかしくないほどの力だ。


今は芽衣はそこまでは考えていないだろうが、子供の大怪我や、家族の危機の際は、必ず役立つ力となり得る。

その力はいざという時に使われれば良い。

普段は、やはり、他とは違うようにはせず、転べば痛いし、治るまでは傷口からの痛みもあるだろう。

だが、それでいいのだ。

痛い思いをするから、気をつける様になる。

それが、本来あるべき姿だと良翔は思う。


なので、この力の使い道は芽衣にはあえて伝えない。

何でもかんでも、直してしまっては都合が悪い事もあるのだ。

良翔は、そんな事を思いながら、芽衣とノアのやりとりなどを聞いていた。


『芽衣すごいね!これなら、家中ピカピカになっちゃうね!それに、きっと掃除も不要になるかもね?』

「うんうん、そうなのー!みんなにお願いして、自分で綺麗になってもらってるから、実は昨日はお願いして回っただけで、私は何も掃除してないの!もう、みんなありがとー!って、感じだよ」

ノアは微笑み、頷く。

良翔もそんな2人のやり取りを、微笑ましく見ている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ