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サラリーマン、異世界へチート通勤する  作者: 縞熊模様
第1章
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1-54

良翔は寝室へ入ると、鞄を置き、お弁当箱を二つ取り出す。

室内着へ着替えると、早速メモリー機能で収納を再現してみる。

収納物の一覧を表示した、ウインドウが表示される。

どうやら、この世界での収納機能の具現化は問題なく成功したようだ。

収納より、ノアの大きな菓子袋、良翔の小さな菓子袋を取り出し、それぞれベットの上に置く。

次はいよいよ、ノアの番だ。

ノアは出来ると言っていたが、やはり、実際に姿を現わせる迄は、心配なものだ。

あれだけ楽しみにしていたノアのガッカリした顔は出来れば見たくない。

良翔はノアに話し掛ける。

「ノア、出て来てもいいよ」

『…うん、分かったわ』

「ノア、心配するな、芽衣ならきっと大丈夫。だから、安心して行っておいで」

秋翔がノアに声をかける。

それを聞いて、良翔は微笑ましく思う。

「秋翔、ノアもそうだけど、お前も後で、芽衣とノアに会うんだからな、気持ちの準備しといてくれよ?」

すると、秋翔は冷静さをアピールしようとして失敗した様な返事をする。

「あ、ああ。俺の事はし、心配するな」

すると、ノアは、ふふふと笑う。

良翔は笑い声に驚き、隣を見ると、既にノアは現れていた。

無事にこちらの世界でも、姿を現せた様だ。

ノアは笑った顔を、クッと引き締め、よし、と意気込み、大きな菓子袋を胸の前にギュッと掴む。

「そんなに固くならなくても平気だよ」

ノアの緊張を和らげてやりたかったが、叶わない事は分かっている。

だが、そう声を掛けずにはいられない良翔だった。

ノアの顔は少し強張っている。

手紙では好印象に伝わってはいるとは思うが、いざ、本人を前にしようとすると、幻滅されたりしないだろうか、と心配してしまうのだろう。

良翔はノアとリビングの扉の前まで行く。

なんだか、良翔まで緊張する。

良翔はチラリとノアの顔を見る。

凄い眼力で扉を見つめている。

扉の向こうでは、芽衣が夕飯の支度をしている音がする。

時折、キッチンからリビングへ歩いて移動し、テーブルの上に何かを置いて、また、キッチンへ戻っていく足音が聞こえる。

芽衣の足音がリビングに向かって来るたび、ノアはビクリとする。

まるで怒られに行く子供の様に見える。

良翔はなんだか、微笑ましく思えて来て、もう一度ノアに小さく声をかける。

「大丈夫、ノア。ノアは芽衣にもとても大事にされる。だから心配しないで」

すると、ノアは顔の緊張を少し緩め、小さくコクリと頷く。

良翔は、その様子を確認してから、リビングの扉を開ける。


扉を開け、良翔が先に入る。

そして入ってすぐのところで足を止める。

「お待たせ。うん、いい匂いだ、今日は唐揚げかな?」

すると、キッチンから芽衣の声がする。

「正解!良翔、匂いでわかるって事は、今日はちゃんと唐揚げを求めてるお腹だね?」

笑いながら、キッチンから近づいて来る。

すると、良翔の後ろに誰かいるのに気付き、足を止める?


「あれ?良翔の後ろに…、誰かいる?」

扉を開けた途端、となりにいたノアは我慢出来ず、良翔の後ろに、それはもう今までで一番早く移動して隠れた。

だが、それでも隠れ切れるわけでもなく、すぐに芽衣に見つかる。


良翔はノアを片手で前に出て来る様、背中に手を添えて、前に押し出す。

「ああ、実はノアが居るんだ」

良翔はそう言い、ノアの顔を見る。

ノアは顔を真っ赤にして、下を向いたまま一生懸命、口を動かす。

『あ、あの、ノアって、言います。そ、その、芽衣ちゃん…、芽衣さんにはお弁当…作って貰って、その…、お礼が言いたくて…』

ノアは今にも泣き出しそうだ。

すると、芽衣は、目を大きく見開き

「ノ…ア…ちゃん?ああー!!ノアちゃんだー!!」

そう言うなり、凄い勢いで走って来る。

『ひっ』

突然の事にノアが怖がる。

そんな事は気にもとめず、そのまま芽衣はノアをギュッと抱きしめる。

「『え?』」

良翔もノアも一瞬固まる。

芽衣はノアを抱き締めると、満面の笑みで

「ノアちゃんだー!!」

と言っている。

途端にノアを抱き締めていたと思ったら、パッと離し

「私、芽衣だよ?ノアちゃん知ってるかな??会いたかったよー!!ノアちゃんスっごくかわいいね!いいねー!イメージ以上で、益々好きになっちゃったよ!!そういえば、今日のお弁当どうだった?食べれた?あー嫌いな物分からなかったから、ひょっとして苦手なものがあったかな?でも、安心して!明日は嫌いな物入れないよ!あ、でも唐揚げ嫌いだと困るなあ。ノアちゃん唐揚げ嫌い?いや、誰でも好きだから、きっと好きだよね?でもさ、ノアちゃんて肌、凄く綺麗だねー?何歳なの?と言うか、良翔に嫌なことされなかった?良翔ねー、こう見えても、ノアちゃんみたいに若くて、美人な子には…、ムグムグ」

突然の弾丸トークに良翔は、芽衣の口を思わず塞ぐ。

勢いのまま、良翔のあらぬ情報を話そうとし出したので、ここで良翔から待ったが入ったのだった。

ノアは、拍子抜けして、呆然としている。

抱き着かれて魂までも抜けてしまったのか、だらんと両手を垂らし、芽衣を見ている。

片手には、出番を失ったかの様に、大きな菓子袋をぶら下げている。

良翔はこの想像を軽く超えた状況に焦り、ノアから芽衣を引き離す。

「ちょ、ちょっと芽衣落ち着いて。いや、むしろさっきまでの緊張を返してくれ。なんなら謝罪が欲しいところだ」

それを聞いた芽衣はキョトンとする。

するとすぐに

「あ、そうなの?なんだかよく分からないけど、それはごめんね?」

と言って、また、すぐにノアに向かって歩き出そうとする。

慌てて、良翔は芽衣を捕獲する。

腰から抱え、言うことを聞かない子供が親から、抱えられる様に芽衣は持ち上げられてしまう。

すると、芽衣は足をジタバタさせて、良翔に抗議する。

「はいはーい!おかしいと思いまーす!良翔ばっかりノアちゃんと沢山お話しして、ズルイと思いまーす!私だって、楽しみにしてたのにー!!」

「待って、待って、芽衣。よく見てごらん。ノアびっくりして固まっちゃってるよ?」

良翔にそう言われ、芽衣は、ん?、と顔をする。

芽衣はノアと視線が合うと、良翔に抱えられたまま、笑顔でヒラヒラ手を振る。


それを見ていたノアは、突然プルプル震えだし、堪えきれなかったのか、今までで一番大きな声で、お腹を抱えて出して笑い出した。


それを見た良翔と芽衣は、思わずお互いキョトン顔を見合わせて、こちらも、ぷー、くすくす、と笑い出す。


しばらく3人で笑った。

久しくここまで気持ちよく笑った事がない程、こうやって本当は笑えることを思い出した様に笑った。

ノアは笑いながら、盛大に泣いていた。

緊張した気持ちが溶け、安心と同時に、不安だった気持ちが一気に湧き出てしまったのだろう。

ノアは一生懸命、涙を拭いながら、笑っていた。

良翔だったら、焦り、あたふたしただろう。

だが、芽衣はそれに気付くと、良翔から降り、そっと近づいて、優しくノアを抱擁した。

「うん。辛かったんだね。一人でずっと良翔の中に居たんだよね?誰にも気付いてもらえず不安だったんだよね。でも、安心して。私も良翔もノアちゃんの事を知ってる。細かい事はこれからちゃんと皆んなで知っていけば良いのよ。それに、私も良翔もノアちゃんの事大切に思ってるよ。だから、ちゃんと、我慢しないで泣いて良いよ?気持ちスッキリするまで泣いちゃえー」

そう芽衣が優しくノアに囁く様に言うと、ノアは堰を切ったように、声を出して泣き出した。


良翔はその光景を微笑ましく笑顔のまま見つめる。

見つめながら、良翔は思う。

芽衣はやっぱり、なんだかんだ言って凄いんだな、と。

芽衣が、ノアの緊張と不安を気付いたかは分からない。

でも、結果として、良翔には出来なかった、ノアの心の壁をこうも簡単に崩してしまうのだ。

真っ直ぐ人と向き合うって、きっとこういう事なんだろう。

うまく笑顔が作れるとか、相手の望むかゆいところの言葉を気付いて言えるとか、そんな事は些細な事で、あくまで表面的なのだ。

こうして、その人の本当の気持ちを引き出せるからこそ、ちゃんと向き合ってると言えるのだろう。

良翔にはなく、良翔が芽衣に憧れる人間性なのだ。

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