表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サラリーマン、異世界へチート通勤する  作者: 縞熊模様
第1章
51/163

1-51

階段を上がり、しばし茶色の絨毯の通路を歩くと、また、木製手すりの階段にたどり着く。

再度その階段を上がり、三階に着いた。

そのまま通路を道なりに進み、通路が丁度90度に曲がる所で立ち止まる。

黒執事は、通路の左手の部屋の扉に鍵を差し込み、ドアを開ける。


ドアを開けた途端に、風が通り抜けていく。

換気の為に窓を開けていたのだろう。

白いレースのカーテンが、風に揺られ、ひらりとその身を返しては戻してを繰り返している。

そよ風が気持ちいい。

中に入ると、ベッドが左右に一台ずつ。

その奥の窓際の下にテーブルが1つと椅子が2つ向かい合って置かれている。

西洋風だが、どこか懐かしい、そんな空気がその空間にはあった。


黒執事は中に入り、テーブルの上に鍵を置く。

良翔達も執事に続き、中に入ると、扉の陰で見えなかったが、クローゼットと荷物置き場がある。

良翔は荷物をそこに置き、おもむろに近くにあった椅子に腰掛ける。

ノアは大事そうに大きな菓子袋を抱えたまま、手近なベッドに座る。

良翔達が部屋を見終わる頃合いに、黒執事が聞いてくる。

「宿泊の間のお食事はいかが致しましょうか。お食事以外にも何か私どもに出来る事が御座いましたら、遠慮なく仰って下さい」

良翔は、少し考えてから

「食事は今のところ不要です。こちらで、適当に食べます。私達は冒険者なので、宿では、しっかりと休息を取りたく思います。ですので、こちらから何かあれば都度お願いさせて頂きますので、それ以外は、原則、部屋を訪れないで頂けると助かります」

すると執事男はお辞儀をして

「かしこまりました。では、何かご用の際は、そちらのベルを鳴らしてください。そちらから、私どもと連絡を取ることが可能でございます。また、この他、建物内の案内については、そちらをご確認下さい」

そう言うと、壁に掛かった、建物内の案内図を指差す。

執事男はそのまま、部屋の入り口へ向かい、こちらへ向き直る。

頭をユックリと、下げ

「それでは失礼致します。良き宿でのお時間となります事を、心より願っております」

そう言い、そのまま、静かに扉を閉めて去って行った。


執事男が去ると部屋には沈黙が流れた。

周りの音などは、殆どなく、窓から漏れ入る宿の外の音が時より聞こえる程度だった。


念の為、良翔は魔力のものが隠れて置かれていないか、室内全体の鑑定を行う。

先程の呼び出しベルに魔力の反応があったが、他には無い。

恐らく、ベルを鳴らすと、執事男がいるところに何らかの連絡が入る仕組みなのだろう。

その仕組みを魔力が支えていると見て問題なさそうだ。

その為、このベルは、良翔達に害はないと判断する。


良翔が室内を見て回っている頃、ノアは窓際へ寄り、外の様子を見る。

まだ春先なのだろう。

日が徐々に沈みかけている。

夕日がノアの顔を照らす。

レースのカーテンが、ノアの顔に淡いブラインドをかけ、どこか神秘的に見えた。


すると、突然声が脳内に聞こえる。

『良翔、聞こえるか?こっちはもうすぐ仕事が終わるぞ。そっちの様子はどうだ?』

意外な声が聞こえた。

コピー良翔からの通信だ。

良翔の予想よりも早く、ほぼ残業がないとの事らしい。

まあ、あの会社は残業代も、ベンチャーだからの一言で支払われないから、さっさと帰るに越した事はない。

意味がよくわからない理由だが、そんなものなのだろう。

いずれ大きくなったら、給料を増やしてやる、なんて何かあれば口実に出すが、そんなもの期待しているのは果たして何人いるのだろうか。

会社とは得てしてそういうものなのかもしれない。

今ある収入口を無くしたくないから、残っているだけで、次への機会があれば、離れて行く者も沢山いる。

要はさほど、今のその会社に残る魅力が無いのだ。

そんな思いを持って仕事に行くのは、非常に億劫になる。

だが、良翔はその仕事をコピー良翔に押し付けている。

帰ったらちゃんとねぎらってやらなきゃな、と良翔は思う。

「お疲れ様。意外と早かったな。お前はオリジナルの俺よりも優秀かもしれないな」

すると、向こうでふっと笑う声がする。

「そんな事はないさ、良翔。俺はお前であって、お前は俺なんだ。能力に差なんてないさ。あるとすれば良翔が感じていた苦痛を俺は感じない。だから、さほど集中力も切れないし、淡々と業務をこなせるからな」

ふむ、と良翔は思う。

「なるほどな。気持ちが左右されないだけでこうも効率が変わるものなんだな。だが、お前が仕事をしていたのには変わりない。後で今日の疲れを癒してくれ。それに会社の様子も…、まぁ、代わり映えはないだろうが、聞かせてもらえると有難い。因みにあの駅には何時頃になりそうだ?」

「ああ、分かった。後で帰りがてら様子を伝えるよ。あの駅にだが、…恐らく6時頃に着けると思う」

「分かった。それまでもう一踏ん張りだ。宜しく頼む」

ああ、とコピー良翔は返事をし、通信を切る。


ノアは良翔が誰かと話していた事を察知し、良翔に聞いてくる。

『何かあった?』

良翔は、ノアに笑顔を向け

「いや特に何もないさ。コピーからもうじき帰れるとの連絡があったんだ。あと二時間ぐらいしたら、俺たちも、あっちの駅に帰ろう」

『そうね』

ノアもニコリとし返事をしたが、何かを思い出したらしい。

『良翔、私思うのだけれど、コピーと入れ替わった途端に良翔の手荷物が増えるのは、怪しまれるかも知れないわ。ごめんね。私が大きいのを買っちゃったばかりに…』

ノアにそう言われ、確かにそれも不自然だな、と思った良翔は、同時に考えていた事を口にする。

「今まであんまり、時間が取れなかったから、後回しにしてたんだけど、収納のスキルを身につけたらどうかな、って思うんだ。ちなみに、魔素から生み出すのでは無くて、一から生み出す方ね」

ノアも良翔の意図を察知したらしく、話を続ける。

『…そして、そのスキルで、ここで得たものなんかを収納して、あっちの世界でも取り出せる用にするってことね?うん、いいと思う。出し入れの際だけ、人の目につかない所で行いさえすれば、有効に使えると思うわ。それにモンスターの戦利品だって、今はたまたま小さいものだったから良いものの、大きいものだってその内手にする機会が出てくるわよね。だから、収納領域は際限ない程大きい方が良いわ』

良翔は、頷き、

「じゃあ、話は早いね。ノア、コピー良翔が帰ってくる前にスキルを作ってしまおう。イメージの手伝いをしてくれるかい?」

ノアは頷き、実現したい機能を、良翔と話しながら決めて行く。

作成するスキルの内容を決め終えると、良翔は早速イメージを開始する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ