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サラリーマン、異世界へチート通勤する  作者: 縞熊模様
第1章
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良翔は、この他にも、この世界の地図や武器などが欲しかったが、今日は宿屋で宿泊の予約を取り、帰ろうと決めた。

こんなにも嬉しそうなノアを早く帰らせて、芽衣に合わせてやりたかったのだ。


そう思っているうちに、ふとコピー良翔の事を思い出す。

そういえば、あっちは大丈夫だっただろうか。

気が付けば、もう後一、二時間もすれば終業となる頃合いだ。

向こうからは一度も連絡が無い。

問題が起きていないから連絡がないのだ、と良翔は分かっている。

問題が無いのは大変良い事なのだが、連絡が無いというのは、何故か不安にさせる。

良翔は、コピー良翔に連絡を取るか悩む。

いずれにしても、帰宅の予想時刻を確認しなければ、良翔達もこの世界からは帰れない。

何せ、あのトイレの個室で入れ替わるからだ。

だが、よくよく考えれば、良翔はここ最近数ヶ月は、終業とほぼ同じ時刻に会社を出るということは、ほとんどしていない。

つまり、終業時間から、まだ、二、三時間は会社にいるのだ。

となると、長ければまだまだコピー良翔は業務を行なっている真っ最中な筈だ。

連絡したい気持ちを抑え、良翔は、コピー良翔からの連絡を待つ事にする。


そんな思いを馳せていると、やがてバンダンの説明通り、柳亭の文字が書かれた看板を吊るした、大きな建物が見えてくる。

建物の前迄来たところで、良翔は歩みを止める。

ノアはそのまま行き過ぎそうになるが、良翔が止まった事に気付き、戻ってくる。

そういえば、ノアに宿の名前を言っていなかった、と良翔は思い出す。

『良翔、バンダンが教えてくれた宿ってここなの?』

「ああ、そうみたいだ」

良翔とノアは宿を見上げる。


他とは一線を引き、優雅だが、どこか独特な印象を与える建物だった。

流線的な木製の扉が重く立っているだけでなく、全体的に木をあしらった箇所が多い。

ここにくるまでに見つけた、他の多くの宿は、大概がコンクリート風の、無機質な外壁なのに対し、この宿はもちろんコンクリートらしきものも使用しているのだが、全くその印象を与えない。

どこか柔らかみがあり、かつ、とても頑丈そうにも見える。

やはり、他とは違い、値段も高いというのにも納得の外観であった。


良翔は、恐る恐る前に進み、扉を開けようと手を伸ばすと、そのタイミングに合わせたかのように、扉が勝手に内側に開く。


驚き、良翔は直ぐに伸ばした手を引っ込める。

扉が開くと、どうやら中から扉を開けたと思われる執事の様な格好の、白髪の男性が頭を下げる。

恐らくこの宿の従業員なのだろう。

「ようこそいらっしゃいました。こちらは柳亭で御座います。宿泊の御用で宜しかったでしょうか?」

「は、はい。こちらに泊まるのが良いと、バンダンさんの紹介で伺いました。ここで私達が宿泊する事は可能でしょうか?」

すると執事風の男は、顔を上げ、

「ほう、バンダン様のご紹介で御座いますか…」

一瞬の沈黙が流れる。

その間、男はノアと良翔をすっと眺め、ニコリと笑い、また頭を下げる。

「もちろん、お泊りいただけます。バンダン様のご紹介ともあらば、尚更で御座います」

そうなのか、と良翔は思う。

バンダンは流石は情報屋だけあって顔が広い。

この男もバンダンの事を知っているようだし、恐らく、情報屋としてお世話になっているのだろう。

だが、あえて良翔もそれには触れず

「そうですか。それは大変助かります。私たちは今晩だけでなく、しばらくこちらで宿泊させて頂きたいと思っているのですが、連泊も可能ですか?」

すると、執事男は

「それでは空き状況を確認いたしましょう。どうぞ中にお入り下さい」

と、良翔達を中へ招き入れる。


扉を抜けると、ロビーになっている。

大きなロビーは、白の壁を基調に、そのまま天井まで吹き抜けており、天窓から差した光が、ロビーの中心へと降り注がれている。

洋館の様な作りなのだが、その装飾の多くが焦げ茶色に塗られた木製で出来ており、漆で塗られた様な、深みのある落ち着いた艶を出している。

ロビーには、身分の高そうな騎士や、貴族風の夫婦、凄腕であろう冒険者など様々な人種が入り混じっている。

しかし、ギルド内とは大分違い、皆落ち着いていて、誰も大声で高笑いなどしていない。

やはり、バンダンの言う通り、ここには、それなりの人種しか泊まれないのだろう。


執事男の後に続き、良翔とノアは、ロビーの先にある受付へと足を運ぶ。

受付へと向かう最中、良翔とノアは、他の宿泊客の視線を集め、何かを囁かれているが、ここまでは聞こえない。

まぁ、確かに少し場違い感があるのは否めない。

ノアも、特段そんな周りの事など、気にしていない様子だったので、無視する事にした。


受付に立ち、待っていると、執事男は口を開く。

「バンダン様から、既に伺っておいでかもしれませんが、当、柳亭は最大1週間までの宿泊が可能となります。それ以上の宿泊をご希望の場合は、都度こちらでお手続きをお願い致します。宿泊料金は前払い制となっておりますので、受付のタイミングにてお支払い頂きます様お願い申し上げます。尚、本日から連泊をご希望との事で御座いますが、部屋に空きが御座いますので可能で御座います。何泊のご希望でいらっしゃいますか?」

「では、一部屋を1週間、お願いします」

「かしこまりました。では、まず宿泊料金のお支払いをお願い致します。1週間で御座いますので、お一人様通常70000ゴールドとなりますが、バンダン様のご紹介との事でございますので、今後はお客様は半額の35000ゴールドで承ります。お連れ様の分も合わせまして、1週間で70000ゴールドとなります」

良翔はバンダンの偉大さを感じた。

この高級そうな宿の宿泊料が半額になるとは、素晴らしい。

良翔は鞄から小銭入れを出し、金貨を7枚支払い用のトレーへ置く。

「確かに頂戴致しました。では、ご案内致します」

そう言うと、執事男は木製の札のついた、金属製の鍵を持って、緩やかなカーブを描いた、木製の手すりの階段を足音もなく上がっていく。

良翔とノアはそれに続く。

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