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しばらくして、涙も止まり、少し目は赤くなってしまったが、ノアは気持ちが落ち着き、再びサンドイッチを食べ出す。
『ん、芽衣のサンドイッチは美味しい!』
良翔はニコリと笑い
「ああ、そうだな。2人で食べるご飯は美味しいな」
『うん』
ノアもニコリと笑う。
本当に嬉しそうだ。
良翔とノアは、サンドイッチを食べ終わり、しばらくのんびりとベンチにくつろぎ、この時間を楽しむ。
遅かったランチだったせいか、もうすぐオヤツの時間だ。
この世界にもオヤツの時間という概念は存在するらしく、獣人の親子だろう、子供がしきりに、母親に店頭に並ぶ菓子をねだっていた。
ねだられた、親は仕方いないなと、子供に菓子を買い与える。
子供は満面の笑顔を浮かべ、親と手を繋ぎ嬉しそうに、はしゃぎながら歩いていく。
ノアも良翔と同じ光景を見ていたらしく、微笑ましい光景に笑顔を浮かべていた。
良翔は思い立ち、突然立ち上がり、先程の親子が向かった菓子屋へ歩き出す。
ノアが、驚き、慌てて良翔の後をついて行く。
『どうしたの、良翔?お菓子でも買うの?』
すると良翔はニコリと笑い
「ああ、芽衣のお土産にね。ノアも芽衣に今夜会うんだ。何かプレゼントを持って行きたいだろ?」
そう良翔に言われ、ノアは驚いた顔をするが、直ぐに満面の笑顔に変わる。
『うん!お土産を芽衣に買って行きたい!』
そんな反応のノアを見て、良翔は思わずクスリと笑う。
先程の子供も、確かこんな感じで喜んでいただろうか。
ノアは良翔が笑った事など気付いていない。
遠目からでも、品定めをしているのだろう。
視線は既に菓子屋に向き、一生懸命、菓子屋の店先に並ぶ商品を見つめている。
菓子屋に着き、ノアはその色取り取りな世界に魅了されていた。
良翔の目から見ても、その景色は虹色に輝く世界の様に見える。
菓子に対しては、さほど興味もない良翔だったが、この世界の菓子ということもあり、目をあちらこちらへと向ける。
良翔が、しばらく彩られた菓子を興味深げに眺めていると、ノアが大きな星の形をした菓子を持ってきた。
『私、芽衣にあげるのはこれがいい!』
恐らく綿飴の様な物なのだろう。
大きな星の形をした、透明な袋の様なものに、フワリとした綿状の菓子が詰められている。
良翔は思わずクスリと笑う。
すると、芽衣は少し不安そうな顔をし
『お、大き過ぎるかな?芽衣は喜ばないかな…。もっと小さい方が良いのかな?』
「いや、それで良いんじゃないかな?きっと芽衣も喜ぶと思うよ」
良翔にそう言われ、ノアは顔を輝かせる。
きっとノアは無意識に、芽衣に対する思いを自然と大きさに表してしまったのだろう。
そう、素直に受け取れる、ノアの気持ちの表れだと良翔は思う。
「じゃぁ、それにしようか」
良翔はノアと一緒に支払いを済ませる。
良翔も一緒に金平糖の様な菓子を買った。
良翔はノアが選んでるうちに、試食が出来るようになっていたその菓子を、試しに1つ摘んで食べてみたのだった。
これなら、芽衣も食べれるな、と確認して、その菓子に決めたのだった。
支払いを終えると、先程までは無かった銅貨が小銭入れの中に増えた。
銅貨には、大きさが複数あり、日本円で表せば、500円球、100円球、10円球といった具合だった。
これも馴染みがあり、分かりやすい。
ただ、この世界には消費税というものは存在しないらしく、それ以上細かい単位は無い様だった。
それはそれで、羨ましい限りだ。
ノアは芽衣へのお土産が袋に入れられ、菓子屋から手渡されると、とても大事そうに胸の前で抱えて持つ。
荷物を持とうかと、思ったが、それはこの場合は余計なお世話だな、と感じた良翔はノアに持たせる事にする。
2人はその足で、目的の宿屋である柳亭へ向けて歩き出す。