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サラリーマン、異世界へチート通勤する  作者: 縞熊模様
第1章
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「この街が冒険者を必要としている理由は良くわかりました。でも…、何でそんな事になってるんですかね。何か原因があるのでしょうか?」

「それがな、まだ、原因が特定出来ておらんのだ。クエストを失敗する冒険者に話を聞いてみたりもするのだが、何故か失敗するクエストは大概、そのクエストでは遭遇しないランクが上のモンスターと偶然、遭遇するらしい。その為冒険者は命からがら、逃げ帰ってくるという有様だ。しかし、実態を調査しようと部隊を派遣すると、何故か毎度空振りに終わるというのが続いていてな。まだ、明確な手掛かりが無いのだ」

良翔は腕を組み、少し考える。

「強いモンスターが出現するから、クエストが失敗するのに、いざ調べてみようとすると、何も出てこない…。何とも不思議な話ですね?因みに、現れてはクエストを邪魔する強いモンスターというのは、何のモンスターなのかご存知なのですか?」

「ああ。…アースワイバーンだ」

カシナの返事を聞き、良翔は、ハッとする。

またしても、アースワイバーンだ。

どうやら、縁があるらしい。

だが、良翔達が倒したのは数百キロ離れた森の中だ。

偶然の一致だろう。

だが、ギルドボードに貼られていた、あの古くなった貼紙も気になる。

良翔はふと思った疑問を口にする。

「ひょっとして、失敗するクエストってこの街から東の方面ばかりだったりしますか?」

良翔に言われ、カシナが、ん?、といった顔をする。

「いや、分からん…。何か心当たりでもあるのか?とりあえずは確認してみる価値はありそうだな…」

そう言い、カシナはデスクから地図を引っ張り出し、良翔達のテーブルに広げる。

そして、更にデスクから失敗したクエストの一覧を出す。

どうやら、失敗した際には、反省を生かし、次の攻略につなげる為の情報をまとめているらしい。

それこそ、ランクの低いものから、高いものまで様々だ。

その一覧から、カシナは地図上に、ここ最近数ヶ月の失敗したクエストの発生箇所をバツ印で記入していく。


当初、地図に書かれていくバツ印は全く規則性を見せず、東西南北、不規則に記されていく。

やがて、バツ印の数が20を超えたあたりから、偏りが出始める。


やはり、良翔の言う通り、街の東から北にかけて、多くバツ印が書き込まれていくのだ。

時折、タリスの街の南、西と書き足されるものもあるが、恐らくこれは、今回の異変とは関係なく、純粋な失敗なのだろう。


30分程、カシナが書き込んでいく印を3人で顔を寄せ合って見ていた。

やがて、カシナが最後の1ページに記載されている、クエストの発生箇所に印を書き込み、筆を置く。


しばらく印の書き込まれた地図を見つめていた、カシナが呟く。

「東にいったい何があると言うのだ…」

そう言うと、カシナは先程の良翔の話が気になるのだろう、椅子を良翔達の前に移動させ、腰を降ろし、良翔を見つめる。


良翔はカシナの意図を汲み取り、話し出す。

「ギルドボードに、この古の湖畔での、アースワイバーンの討伐クエストが出ているのを先程見かけました」

良翔は、そう言いながら、街の東に描かれた湖の所を指差す。

「あぁ、そのクエストは私も認識している。クエストの達成は未だ誰もしておらず、発行されてからもうすぐ一年になるだろうか。何でも、クエストを受注した冒険者が言うには、行ったは良いが、アースワイバーンとまるで会えぬそうだ。仕方なく諦めて帰るが、しばらくして後、その近隣の村で、アースワイバーンの目撃が相次ぎ、時には村が襲われた事例もあるそうだ。当然、襲われた村は、壊滅的な打撃を受けていると聞く。…確かに今回のアースワイバーンという、モンスターでは繋がりがあるが、そのクエストと今回の不可解な事件は関係があるのか?」

良翔は、なんとも言えない顔をしながら答える。

「それは、分かりません。ただ、私達は、その古の湖を通ってここに来たのです。カウンターで買い取って頂いたアースワイバーンの戦利品はそこで倒したアースワイバーンの物です」


カシナは良翔の話を聞き、目を見開く。

「なんだと!お前達はあそこでアースワイバーンと遭遇したのか!」

良翔の代わりにノアが頷く。

『私達がアースワイバーンに出会ったのは、湖から少し東に入った森の中よ』


ううむ、と、唸り声にも似た声を上げながら、カシナは腕を組み、考え込む。

そして、考えがまとまったのだろう、カシナが再び口を開く。

「確かに、お前達の言う通り、この地図からも見て取れるように、街の東側に何やら異変が起きているのは間違いなさそうだな。そして、古の湖のアースワイバーン達が、無関係だと決めつけるには、証拠が何もない。逆にお前達が遭遇したと言うことは、以前よりも活発になっていると考えた方が良いだろう。つまり今回の事件との関連が薄いとは考えづらい…」

良翔とノアもカシナの話に頷く。

少し間を置き、カシナが良翔とノアを真剣な眼差しで見つめてくる。

そして、少し憂いた顔をして、話し出す。

「そこで、だ。冒険者に成り立てのお前らには申し訳ないが、ギルドマスターとして、依頼したい。この地を訪れ、状況を調査してきてほしい。当然報酬は支払う。理由としては、お前らは、この古の湖に行ったことがある。そして、誰もあの土地でアースワイバーンには遭遇していないのに対して、お前らは遭遇する事が出来た。最後に、お前らならアースワイバーンでさえも倒せる、という事だ」

暫しの沈黙の後、良翔は、黙って静かに頷く。

ノアは良翔に従う、といった表情でカシナに返す。


「すまない。冒険者になってそうそうのお前達に、こんな危険な依頼をしてしまい、誠に申し訳ないが、お前達以上に適任がいるとも思えないのだ。だが、もちろん依頼は調査であって、討伐ではない。決して無理をするな。あの土地で異変が起きてないか、何でもいい、何か掴んでさえくれれば、後はこちらでなんとかする。これがハッキリとすれば、自ずと冒険者達がこの街を離れて行く理由も分かる気がするのだ」

良翔は、真剣な顔つきだが、不安な表情を混ぜているカシナに、優しく微笑みかけ、安心させようとする。

「カシナさん、気にしないで下さい。私達もこれについては、いずれランクが上がれば、このクエストを受けようと話していたのです。だから、遅かれ早かれの話です。なので、そんなに申し訳なさそうにしなくても平気ですよ。それに、そんな顔をしていては、美人が勿体ないですよ?カシナさんはとても美人なんですから、もっと笑っていた方が、素敵だと思います。私達も、早くカシナさんが素敵に笑えるようにしっかりと調べてきますので、どうか安心してください」

突然、良翔にそう言われ、カシナは目を点にする。

そして、徐々に顔を真っ赤にする。

「な、な、な、何を突然言っている!」

カシナはあまりにも慌てた為、椅子から転げ落ちそうになる。

ノアは、何故か隣でニコニコしながら、青筋を額に浮かべ、拳を力強く握っている。

良翔は、ん?、といった顔をし、カシナを見る。

カシナは慌てて、姿勢を正し、顔を赤らめて下を向いてしまった。

「そ、そんな事を言われても…、困ってしまう…」

小さくポソリとカシナは囁いた。


良翔はカシナが何と言ったか聞き取れず、思わず聞き返す。

「え?カシナさん、申し訳ありません。よく聞き取れませんでした」

すると、カシナは、顔を赤くしたまま、先程と同じ様な振る舞いを心掛けようと、無理に笑顔を作り、良翔を見る。

「あ、ああ、頼もしい限りだな!宜しく頼むぞ、良翔!」

良翔は、作り笑いとは言え、カシナの笑顔を見て、カシナが安心したと勘違いし

「ええ、最大限努めます。やはり、今の笑った表情の方が素敵ですよ」

と、トドメを刺す。

カシナは、無理に作った笑顔は保ったままだが、更に顔を赤らめ、耐え切れず、両手で顔を覆ってしまう。

そのまま、凄い勢いで立ち上がったかと思うと、顔を覆ったまま、あっという間に奥の部屋へと走り去ってしまった。

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