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サラリーマン、異世界へチート通勤する  作者: 縞熊模様
第1章
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1-38

そのまま、建物内の案内に従い、ギルドマスターの部屋、つまりカシナの部屋を目指し、歩き出す。

ノアも遅れず付いてくる。

だが、何故かあまり機嫌が良さそうに見えない。

するとノアをふくれっ面のまま口を開く。

『良翔は、誰かれ構わず、優しくし過ぎよ!あのミレナって受付嬢だって、良翔の素晴らしさに酔いしれちゃって、色気使ってきてるんだから、油断したらダメよ?!』

いったいノアはなんの話をしているのだろうと、良翔は思いつつも、適当に相槌を打つ。

「ああ、気をつけるよ」

まったく、といった顔をしたままのノアだったが、カシナの部屋の前に着く頃には、平常の顔に戻っていた。


コッ、コッ。

良翔は重厚そうな扉をノックする。

少しの間を開け、内側で扉に近づいてくる足音がする。

扉が少し開き、眼鏡をかけた、少し背が高く、背筋をまっすぐ伸ばした、綺麗な姿勢の女性が出てきた。

「失礼ですが、どちら様でしょうか」

「私は橘良翔と申します。こちらはノアと申します。カシナさんから、カウンターでの冒険者登録を済ませた後に、こちらへ来るようにと言われましたので、伺いました」

すると

「あぁ、あなたが良翔様ですね。お話は伺っております。どうぞ中へお入り下さい」

そう言うと、女性は扉を大きく開き、良翔達を部屋の中へ案内する。

女性は部屋へ入ると、静かに扉を閉め、

「カシナ様。良翔様とノア様がお見えになりました」

すると部屋の奥にある重厚なデスクから、声が返ってくる。

「ああ、分かった。通してくれ」


良翔とノアが中へ進むと、年季の入ったソファーへ促される。

高級そうな応接ソファーらしく、革が程よく痛み、絶妙な柔らかさを醸し出していた。

沈むような感覚にとらわれながら、良翔は案内されたソファーへと腰掛ける。


目の前の大きな木製デスクの向こうから、カシナが書類から顔を上げ、こちらを見ている。


少しすると、眼鏡の女性が良翔達の前のローテーブルに紅茶を音を立てずに置いていく。

続けて、カシナのデスクへも置いていく。

流れるような動作で、紅茶を置くと、頭を一度下げ、奥の部屋へと下がっていった。


「ご苦労だったな。無事手続きは終わったか?」

カシナが眼鏡の女性が去った後、声を掛けてくる。

「ええ、無事にミレナさんが手続きを滞りなく済ませてくれましたよ」

ノアは返事もせず、紅茶を楽しんでいた。

そんなノアの事は気にも止めず、カシナは話を続ける。

「そうか、それは良かった。それにしても、まずは先程の非礼を詫びさせてもらう。私の部下がお前達に迷惑を掛けてしまい、すまなかった」

カシナは立ち上がり、頭を下げる。

良翔も慌てて立ち上がり、カシナに頭を上げるように言う。

その様子を見たカシナは、下げていた頭を上げ、また椅子に腰掛ける。

そして、短くため息をついた後口を開く。

「…ガザルは優秀な男ではあるが、単純な所もある。今回は見事にその良くない一面が強く出てしまったな…。本来ならガザルは国を危機に陥れかねなかった罪により、重い罰を受けねばならない。だが、一番の被害を被った者であるお前達の配慮のお陰で、ガザルは罪を背負わずに済んだ。礼を言う。お前の言う通り、ここタリスにおいて、現在、冒険者の数が足りていないのは事実なのだ。ここで、ガザルを失うのは正直痛い」

カシナが話を切ったので、良翔は質問する。

「いえ、ガザルさんの事は気になさらないで下さい。しかし…、少し気になるのですが、冒険者が足りない、というのは何か事情があるのですか?」

「うむ…」

とカシナは、答える前に紅茶に一度手を伸ばし、口に運ぶ。

滑らかに、紅茶が口元へ運ばれていき、唇が小さく開き、カップの端へ添えられる。

コクリと紅茶がカシナの喉を伝わり体の中へ落ちていくのが分かる。

静かに行うその洗練された動きは、目を惹きつけるものかある。

口調は少しぶっきらぼうだが、カシナもまた、ノアとは違う凛とした美しさを持っていた。


唇からカップを離し、音を立てずに元の位置へ置く。

下を少し向いた際に、サラサラと前に降りてきた横髪を一度フワリとかきあげ、カシナは口を開く。

だが、先程と少し様子が違い、困った表情を一瞬浮かべる。


「実はな…」

カシナが話だし、ノアもいつのまにか、紅茶を置き、カシナを見つめている。

「ここ数ヶ月の話だが、急にクエストの成功率が下がってな。そして、微増だが、クエストの依頼数が増えている。更に奇妙な事に、この街を去っていく冒険者が多いのだ。中にはこの街に家族を残し、去っていく冒険者すらいる始末だ。冒険者は本来、街から街へ転々とするもので、別に珍しい事ではないのだが、ここ最近は急激に増えてな。ギルドとしては残ってクエストをこなして欲しいのだが、無理に引き留めるのも出来んのでな。街を出て行く理由を問い詰めても、皆、口をつぐむのだ。…正直、こんな自体はこの支部始まって以来の出来事でな。具体的な策もなく、対策が遅れている。そんな中、お前らのような優秀な人材がこの街に現れてくれたのは非常に大きい」

すると、話を聞いていたノアがニヤリと笑い、ボソリと呟く。

『イベント発生ね』

ノアの呟きはカシナには聞こえていないらしい。

良翔はそんなノアをチラリと見て、カシナに視線を戻す。

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